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「鶏をブロイラーの鶏のように弄ぶが如く妾を弄ぶ」っていう慣用句? の使い方は本当にこれであっているのだろうか?

「そろそろ妾のことも紹介してくれぬか?」


 真由美と幸成の掛け合いを居心地悪そうに聞いていた少女(・・)が遂に口を開いた。

 そう、フィーネリアが少女と評するのが適切だと思うほど、彼女は背丈は小さく体も小柄である。トランジスタグラマーという訳でもなく、胸部装甲は控えめ……とお世辞にも言えない断崖絶壁だ。


 茶色から橙色へと変化する特徴的な髪は腰まで到達するほど長く、その髪と一体化するように二つの狐の耳がもふもふと生えている。

 日焼けを知らぬ白磁のような滑らかな白肌。紫紺の瞳はつぶらで、キラキラと輝いている。しかし、その可愛らしい見た目とは裏腹にその化粧は花魁を彷彿とさせる古風かつ妖艶なもので、少女の美と妖艶な女性の美が調和する怪しげな雰囲気を醸し出している。


 その身に纏うのは、巫女のような衣装……だが、花魁の衣装みたくかなりの魔改造がなされているようだ。後ろからは九尾の妖狐を象徴する狐のもふもふとした尻尾が九つ生えており……そのうちの一つに制服姿の少女が抱きついてもふもふしていた。


 一方、その少女の方はというと大和撫子を絵に描いたような濡羽色の長髪に漆黒の瞳、九尾の少女に勝るとも劣らない深雪のような白肌を持つ可憐な容姿の女性であった。

 キリッとした切れ長の目を持ち、顔を引き締めれば見るものをゾッとさせるような美女になりそうだが、狐尾をもふもふするその表情は完全にほわほわと解かされており、ただの可愛い少女と成り果てていた。


 ちなみに、妖狐の女性よりも大和撫子風の少女の方が明らかに年下なのだが、見た目は完全に大和撫子の方がお姉さんに見える。その理由は、黒いセーラー服の上からでも分かるグラマラスな体付きか、将又、綺麗系の容貌故か。


「稲荷宮神社の御神体で伝説の九尾の狐で玉藻前の子孫に当たる玉藻(たまも)(ゆずりは)さんと、稲荷宮神社で巫女の纏め役――宮司をしている三栖丸(みすまる)雪芽(ゆきめ)さんだ。呼んだのは楪さんだけの筈だけど、何故か雪芽さんまでついてきた」


「あらあらぁ? あらら? 無縫さん、ご存知ないのかしらぁ? 楪さんあるところに私ありよぉ〜! っていうか、楪さんだけ呼ぶなんて酷いわぁ。――まさかぁ、私と楪さんの仲を引き裂こうなんて思ってないわよねぇ? ……わよねぇ??」


「うむ? 妾と雪芽、主の間には祀られる者と祀る者以上の関係はない筈だが?」


「そんなことないわよぉ! というか、楪さんまで酷いわぁ。毎晩一緒に寝て、食事をしている仲だというのにぃ〜」


「それは勝手にお主が布団に潜り込んでくるからじゃろ!!」


「……まあ、見た目こそ近づき難い感じの美少女だけど、中身は完全にアレな人だ。一言で言い表すなら、楪さん公認の楪さんのストーカーって感じだな」


「わっ、妾は公認しておらんぞ!!」


「フィーネリアさんだったわねぇ? とても美しい方だと思うわぁ。でも、ごめんなさい。私には楪さんがいるのぉ」


「そういう関係ではないからな! 断じて!! 好意の裏返しとかでもないからな!!」


「……よく分からないけど、なんとなく負けた気分だわ」


 楪と雪芽のイチャイチャに(といっても、楪の方は一定の距離を置こうとしているのだが)巻き込まれたフィーネリアは溜息を吐いた。


「じゃあ、挨拶も終わったしそこの脳筋馬鹿ぶん殴って説明をさせてもらうよ」


 無縫は容赦なくドルグエスの頭をかち割る勢いで殴る。


「ふぁぁぁ……うむ! 爽やかな目覚めである!」


「……本当にこの人、どうなっているのかしら?」


「まあ、ドルグエスは馬鹿だし、名前なんて覚えられないから挨拶とかいらないだろ。ってことで、迷宮について解説していく。これから五人にはログニス大迷宮に挑戦してもらう。分かっているのは全部で一千層あることのみ。別の迷宮を探索した体感だと強さは一部を除いてそこそこという感じだ。取り分け、百層ごとに出現するエリアボスは強敵だが、決して倒せない敵ではないと思う。まあ、各々自分達のペースで攻略を進めてもらいたい。後は、百層ごとに転送装置が使用可能になるけど、今から五人に空間魔法のデバイスを渡すから、転送装置に関しては気にしなくてもいいんじゃないかな? 空間魔法のデバイスで自由に元の世界と迷宮の行き来は可能だから、困ることはないと思う。それと、万が一行き詰まった時のために異世界でも使えるように改良を加えたスマートフォンを五台渡しておくよ。何かあったら俺に電話をしてくれれば対処するよ」


「……まあ、でも無縫君にはあんまり頼りたくないわね。それは最後の手段だもの……なんだか負けた気分になるわ」


「同感ですね。できる限り我々の力だけで攻略しましょう」


「うむ、妾も賛成じゃ。無縫がいるとゲームバランスが崩壊するからのぉ」


「おい、楪さん。そいつはどういうことだ?」


「そのままの意味じゃが? うむ! 実は最近少し運動不足でな。そろそろ、身体を動かさないとまずいと思っていたんじゃ」


「そういえば、以前よりも心なしかふっくり……まさか、生贄を食べていたりしてないでしょうね?」


 妖怪が生贄の人間を喰らうというのはよくある話だ。かつての楪も人を喰らっていたことがある。

 現在は人間に危害を加えないことから鬼斬達に黙認されているが、まさか、また人を喰らっているのではないかと真由美が訝しむ。


「たわけが! 人間などいうほど美味しくない。美味しいものがない昔とは違うのじゃ! ……実は、テレビで特集していたミシュランガイドのビブグルマンに選ばれた名店の稲荷寿司が気になって、ふと『食べてみたいのぉ』と言ったんじゃが、それを聞いていた我が神社の巫女達が全員絶品稲荷を買ってきてしまってな。流石に巫女達の貢物を食べないのも申し訳ないし、稲荷寿司にも申し訳ない。だから、美味しく召し上がったんじゃが……心なしかお腹がぷっくりしてきてな」


「でもぉ? いっぱい食べないと成長できないわよぉ?」


「やっぱりお主、鶏をブロイラーの鶏のように弄ぶが如く妾を弄ぶ気なのか!?」


「……それって、何かの慣用句なのか? ……というか、本当にその使い所そこであっている?」


「うーん、私ねぇ、思うのよぉ。やっぱり女の子ってふかふかな抱き心地の方がいいじゃない? お胸もふっくらしていた方が気持ちいいし、だからいっぱい食べていっぱい大きくなりましょうねぇ」


「……その前に、妾がデブになりそうなんじゃが」


「まあ、必ずしも胸に栄養がいく訳でもないからな」


「……その割には魔法少女の姿のお主も含めて妾の周りには巨乳美女が多いような気がするがな。だが、妾は思うのだ。貧乳はステータスだと! 胸はいくらでも盛れるが、減らすことはできぬからな!」


「……まあ、サラシを巻くっていう手段もあるけどな」


「その回答がナチュラルに男である無縫、お主から出てくるのは異質だぞ」


「まあ、貧乳とか巨乳とか別として、楪さんのその耳と尻尾。後、ドルグエスの全てがアウトだ」


「無縫! 吾輩を全否定するとは、どういうことだ!?」


「……この世界には人間以外を迫害する文化がある。流石に高が異世界人如きに遅れを取るようなメンバーじゃないことは分かっているが、トラブルは少ないに越したことがないだろう? だから、先に真由美さんと幸成さん、雪芽さんに先行してもらい、その後、迷宮内部で二人と合流してもらう。まあ、合流場所は五十層辺りでいいだろう? そこまで現地民に到達できるとは思えないからな」


「でも、そういうことなら戦装束の私や狩衣姿の幸成さんも浮くわよね」


「セーラー服もやっぱり駄目かしらぁ?」


「まあ、安牌を考えれば着替えてもらった方が良さそうだね。一応、過去に異世界に行った時にいくつか買った服があるから、その中に着れそうなものがあったらそれに着替えてもらえるかな? ああ、勿論新品だよ。内務省の関係者が異世界で活動する場合に備えて調達していたものだからね」


 無縫が用意した簡易更衣室で真由美、幸成、雪芽の三人が異世界で購入したという服に着替える。

 いずれもシンプルなデザインの服で、おしゃれ好きの雪芽は不服だったようだ。……ファンタジーにありがちな際どい装備とかを期待していたのだろうか?


「それじゃあ、行ってくるわ。五十層に到達したら連絡するわね」


「【言語理解】のスキルもあるし、関所の通過は問題ないと思う。ああっ……忘れていた。三人ともちょっと待ってくれ」


 迷宮方面に向かおうとする真由美達だったが、無縫から制止を受けて足を止めた。


「肝心要のものを忘れていた。この世界では身分証となるステータスプレートが必要となる。これがないと手続きが厄介だ。冒険者ギルドで発行もできるらしいが、履歴が残るしお金も掛かる」


「……つまり、怪しまれる要因の一つになりかねないということね」


「そこで、三人には偽造したステータスプレートを渡す。俺がもらったステータスプレートを元に作った絶対に偽造品(カンタフェイト)だって気づかれない代物だ。……ステータスも本物だし、気づかれる余地はない」


「でも、発行されていないステータスプレートを使っても大丈夫なのかしら? ……ああ、流石にコンピュータもないのに全てのステータスプレートを照合するのは現実的ではないということね」


「真由美さんの仰る通りだよ。じゃあ改めて、皆様、迷宮の探索よろしくお願いしますね」

◆ネタ等解説・四十話

トランジスタグラマー

 小柄だがグラマーな女性を表す和製英語である。トラ・グラとも言う。

 一九五九年の流行語。


ミシュランガイド

 フランスのミシュランにより出版される、様々なガイドブックの総称。代表的なものは、レストランの評価を星の数で表すレストラン・ホテルガイド。

 パリ万博が行われた一九〇〇年、自動車運転者向けのガイドブックとしてフランスで発行されたのが始まりである。発行者であるミシュラン社はタイヤ会社であり、これにより自動車旅行が活発化し、タイヤの売れ行きが上がることが目論みだったと言われている。


ミシュランガイドのビブグルマン

 グルメ情報のガイドブックとして知られる「ミシュランガイド」に導入された評価指標。従来の星(三つ星、二つ星、一つ星)の評価からは外れるものの、安くてオススメできる店舗に与えられる印である。

 一九九七年に「価格以上の満足感が得られる料理」として登場した。


鶏をブロイラーの鶏のように弄ぶが如く

 元ネタはYouTubeの「ナゾトキラボ【IQ & 謎解きチャンネル】」が投稿した「世界最高峰の数学パズルが激ムズ過ぎた」に登場する親鳥さんの台詞より。

 ちなみに原文は「クソ、相変わらず鶏をブロイラーの鶏のように弄びやがって…!」である。その後、ヒヨコイに「それってなんかの慣用句ですか?」と返されていた。


貧乳はステータスだ!

 月刊ゲーム雑誌「コンプティーク」で二〇〇四年一月号から連載されている美水かがみ氏原作の漫画『らき☆すた』の泉こなたの台詞として有名だが、元ネタはゲーム「SHUFFLE!」の登場人物、麻弓=タイムが放った「小さい胸は貴重なのよっ、ステータスなのよっ!?」という言葉らしい。


カンタフェイト

 スペルはcounterfeit。偽造、偽、偽物、偽物、贋、贋作などを表す英単語。

 読み方のカタカナはかつてドリコムが開発・運営し、アニプレックスが配信していたスマートフォン専用基本無料ゲーム『きららファンタジア』に登場する七賢者のフェンネルが使用する技の一つから。


◆キャラクタープロフィール

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玉藻(たまも)(ゆずりは)

性別、女。

年齢、八十三歳。

種族、九尾の狐(妖怪)

誕生日、五月十日。

血液型、A型Rh+。

出生地、京都府。

一人称、私。

好きなもの、油揚げ、稲荷寿司。

嫌いなもの、辛いもの全般。

座右の銘、小さな胸には愛と希望が詰まっている。

尊敬する人、玉藻前。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、貧乳はステータスだ!

嫌いな言葉、特に無し。

好きなゲーム、箱庭ゲーム全般、富籤。

職業、稲荷宮神社の御神体。

主格因子、無し。


「伝説の九尾の狐、玉藻前の子孫に当たる九尾の狐。スレンダーな体型をコンプレックスだとは考えず、『貧乳はステータスである』と誇っている。かつては生贄を求めて厄災を振り撒き人を喰らっていたが、ある鬼斬との出会いを経て生き方を変えた。現在は神社の御神体をしつつ神社の巫女達と暮らしている。身寄りのない子供や捨てられた子供を引き取って面倒を見ることも多く、意外と世話好き。雪芽に恋愛的な意味で好意を寄せられているが、本人は鈍感なため気づいていない」

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三栖丸(みすまる)雪芽(ゆきめ)

性別、女。

年齢、二十一歳。

種族、雪女(半妖)

誕生日、十二月三十日。

血液型、B型Rh-。

出生地、奥羽山脈の永久吹雪地帯(どの県の管轄でもない雪女の集落)。

一人称、私。

好きなもの、玉藻楪、可愛いもの。

嫌いなもの、孤独。

座右の銘、恋はいつでも燃え盛るブリザード!

尊敬する人、三栖丸(みすまる)雪菜(ゆきな)(母親)。

嫌いな人、自分と母親を見捨てて研究に没頭する父親。

好きな言葉、愛。

嫌いな言葉、愛。

好きなゲーム、『めがみめぐり』。

職業、稲荷宮神社宮司。

主格因子、無し。


「稲荷宮神社で巫女達の纏め役と宮司をしている。楪のことは恋愛的な意味で好きで分かりやすいアタックを仕掛けているが、楪には気づかれていない。ふわっとした喋り方をしている。繊細で寂しがりやな性格。父親が『シンギュラリティ』の研究に取り憑かれて地下研究所に籠ってしまったため、父親と会った記憶がない。父の背中だけを追いかけて自分にはあまり愛情を向けてくれない母親や閉鎖的な雪女のコミュニティを嫌って集落を飛び出したが、人一倍愛に飢えており、いざ飛び出したもののどこにも行く当てがなかった自分を拾ってくれた楪に執着するようになった」

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