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「再戦! 侵略種デモニック・ネメシス!」前篇。

 翌日、モールコンサーバター・リーダー一匹、モール・マッパー二匹、モール・コンサーバター五匹からなる小部隊と合流した無縫達は約二時間を掛けて八百層の巨大な門の前に到達した。

 全長十メートルほどの両開きの扉には、無数の歯車と思われる紋章が左右非対称(アンシンメトリー)な配置で彫られている。中央部には扉の両方に跨る四角い表札のような彫刻の中には「迷宮八百階層 ボスの間」と古代語と思われる文字で書かれていた。


「この先がエリアボスの間です。それでは参りましょうか?」


 魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスが代表して扉を押し開けると、龍吾、リリス、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァ、フィーネリア、ドルグエス、廉、紬、遊大が突入する。

 最後にシャベルや鶴嘴(ツルハシ)を装備したモール達が部屋に突入し……その瞬間、独りでに扉が閉まった。


 真っ暗な部屋を照らすように松明が順に灯っていき、それに合わせて部屋の全貌が明らかになっていく。


「デモニック・ネメシスが……四体!?」


 そこには百層のエリアボス戦など生温い、文字通りの地獄が待ち構えていた。

 前方に二体、左右にそれぞれ一体ずつ……あの凶悪なエリアボスが槍の石突を地面に突き刺して座り、静かに挑戦者達が訪れるのを待ち続けていたのである。


 戦闘の舞台となる部屋はかなり広めの円形状のドーム型で、百層のような地下へと落下できる奈落はない。つまり、落下を心配して戦う必要はないという訳だが、同時にデモニック・ネメシスを倒さずに次のエリアに進むという抜け道も存在しないということも意味している。

 それでも、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス一人であれば問題はないだろう。魔法少女プリンセス・カレントディーヴァであれば、立ち回りさえミスらなければ突破できるかもしれない。

 ワーブル体を盾にできるフィーネリアとドルグエスであれば一度だけ攻撃を無効化できるため、勝ち目は薄くても立ち回り次第では勝機がある。


 だが、装備は強力でも基本的には生身の人間と変わらない龍吾、リリス、廉、紬、遊大の四人を守りながら……となれば流石に突破は厳しくなる。

 更に今回はモール達という護衛対象もいる。守らなければならない対象が多いということは、それだけ戦闘中に意識を割かなければならない対象が増えるということだ。当然、その分難易度も跳ね上がる。


「無縫君! 茉莉華さん! 前衛は任せます! 流石に私達が前に出ても足手纏いになりそうですからね。……大魔導防衛結界!!」


 かつて無縫が時空の門穴ウルトラ・ワープゲートで渡った異世界の一つで、魔王が魔王城を守るために張っていた物理と魔法による攻撃を遮断する結界――そのメカニズムを解析して誰もが使用できる形にした「大魔導防衛結界発生装置」を起動し、龍吾は自分達を守るように結界を展開する。

 魔王が使っていたものほどの出力がなく、結界を広げればそれだけ防御力は低下してしまう。流石に魔王城一つを覆うほどの広さにして十全な防御力は発揮できないものの、範囲を狭めれば魔王城を防衛していた結界の防御力を再現することは可能である。


 更にこの結界には外部からの攻撃は遮断できるものの、内部からの攻撃は擦り抜けるという特徴があった。結界の耐久力に完全に身を任せるため、結界を破壊できるほどの攻撃を前にすれば無力だが、結界を破壊できない相手に対してはダメージを受けずに一方的に攻撃することが可能な状況を作り出すことができる。


 まあ、今回のデモニック・ネメシスではどこまで結界が保つか微妙なため部の悪い賭けにはなるが、それでもないよりはマシである。


 龍吾が指輪型デバイスを使って大魔導防衛結界を貼り終えたのとほぼ同時に、デモニック・ネメシスが一斉に立ち上がった。

 それと同時に猛烈な重力がデモニック・ネメシス達の目の前――つまり四ヶ所に同時に発生し、巨大な暗黒天体が誕生する。


 四つの暗黒天体は一斉に門の前に集まっていた魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス達目掛けて放たれた。


「初手ブラックホール!? 百層のデモニック・ネメシスとは攻撃パターンが違うということか! ……というか、強化されていると考えた方が良さそうですね」


 暗黒天体の圧縮された質量によって発生していた光すら逃さず全てを押し潰す超重力を固有魔法で無効化した魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは天使の賽子(エンジェル・ダイス)を三回振ってステータスを上昇させると高速で地を蹴り上げ、そのまま空中を駆けて飛翔したデモニック・ネメシスのうちの一体に肉薄する。

 「瞬閃走」の派生で空中を走る「空駆翔」と呼ばれる体術だ。


「無縫君と茉莉華さんだけに全て任せて保身に走るのなんて、大人としてダメだわ! 行くわよ! ドルグエス!」


「おう! そろそろ仕掛けるとしよう! 吾輩の全力、あの神々しい化け物に見せてやろうぞ!!」


「「ワーブリンクシステム起動!」」


「光を纏え! 聖なる輝き、飛翔して天を切り裂け! 【天翔光閃斬】!!」


 ワーブル体へと換装し、ドルグエスが戦線に出ると同時に聖剣を構え、光の斬撃を無縫と戦っているデモニック・ネメシスとはまた別の個体目掛けて放つ。

 だが、デモニック・ネメシスは瞬時に短距離瞬間移動(ショートワープ)を発動し、一切無駄のない動きで勇者固有技を回避する。


 しかし、ダメージはなくともデモニック・ネメシスはドルグエスを危険と判断したのだろう。

 槍を連続で振って半月状の斬撃をドルグエス達目掛けて放ってきた。


 半月状の斬撃は全て槍へと変化し、宛ら豪雨の如く降り注ぐ。

 技こそガルフォールですら回避できないと判断した「半月降槍(ハーフムーン)」と同じだが、あちらよりも遥かに攻撃の密度も威力も勝る。


 絶体絶命の状況――しかし、フィーネリアは余裕な表情を崩さない。


「いくわよ! 禁鞭」


 刹那、フィーネリアの持つ真っ赤な鞭が縦横無尽に振るわれて嵐を巻き起こした。

 無数の槍は全て鞭に打たれて粉々に破壊され、フィーネリア達に届くことなく消滅する。


 無縫のチートスキルと呼ぶべき万能創造スキル――【万物創造】によって生成されたこの武器は大陸の仙人達の秘宝の一つだ。真宝具(スーパー・パオペイ)の一つに数えられる禁鞭は使用することで周囲数キロメートルを一瞬にして打ち据えることができる。

 本来、真宝具(スーパー・パオペイ)はそれぞれが一点ものなのだが、無縫の【万物創造】はその構造さえ理解していればどんな一点ものの品であっても複製することが可能という規格外の力を有していた。……まあ、あまりにもゲームバランスを崩壊させるスキルのため、無縫が使用するのは本当に稀なことなのだが。


「……頭上がお留守ですよ。大気による圧死(ハイ・エンチャート)!」


紫電の矢パープルライトニング・アロー!!」


電離の奔流プラズマティック・バースト!!」


 流石に「半月降槍(ハーフムーン)」の連発を全て打ち砕かれるとは想定していなかったのか、デモニック・ネメシスの動きが僅かに鈍った。

 その隙を逃さず遊大が大気に「高位付与魔法(ハイ・エンチャート)」を付与して局所的に大気の圧力を上昇させた。


 しかし、流石はデモニック・ネメシス。人間なら一瞬で押し潰されても致し方ないほどの大気圧にも抗っていた……が、本当に抗うので精一杯だったようで、廉と紬の同時攻撃を浴びると流石に耐え切れずに命を落とした。



魔弾狙撃手(デア・フライシュッツ)と指向性音響共振銃の相性は最高の筈……なんですけどね」


 一方、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスが引き受けた個体と、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァが引き受けた個体、フィーネリア達が相手取ることになった個体とは別の個体……つまり、残った最後の個体を必然的に引き受けることになった龍吾とリリス、モール達はというと四つのグループの中で最も苦戦を強いられていた。


 龍吾の銃撃は魔弾狙撃手(デア・フライシュッツ)のスキルによって必中となる。そのため、当たれば相手の防御力関係なく脳を焼いて確実に仕留めることができる指向性音響共振銃相性は最高で、四つのチームで最も早くデモニック・ネメシスを仕留められると考えていたのだが……。

 確かに、龍吾の攻撃は決して命中していない訳ではない。確実に被弾はしている……のだが、デモニック・ネメシスにはまるで音の弾丸が見えているのか、的確に降り注がせた流星群や太陽を彷彿とさせる火球を盾にして無効化してしまうのである。


 龍吾のスキルには直線で進む筈の弾道を無理矢理曲げて物理法則を無視した軌道で弾丸を当てることも可能ではあるのだが、因果干渉スキルの効果が発揮されて微調整が行える範囲をギリギリで避け、操作ができない厭らしい間合いでデモニック・ネメシスは盾になる攻撃を仕掛けてきている。

 あまりにもタイミングが良過ぎる攻撃が連続で続いているため、龍吾のコンボは全て読まれていると考えた方が良いかもしれない。


『もっふもふふふふふ!』


『もきゅもきゅきゅ!!』


『もっひゅひゅきゅ!!』


 ちなみにモール達は持っていたシャベルや鶴嘴(ツルハシ)を投げつけて攻撃していた……が、デモニック・ネメシスは彼らの心を折るつもりだったのか防御すらせず生身で攻撃を受け、傷一つつかなかったことをアピールしていた。

 この戦い、モール達に期待するのはなかなか厳しそうである。


挑発(タウンティング)で引き受けるのは厳しそうだな。シールド系のスキルもどこまで通用するか分からない。となると、魔槍術師か女夢魔(サキュバス)のドレイン系スキルだが……どちらも接近戦で効果を発揮するもの……この状況、私達に向かい風な要素ばかりが揃っているな。……内藤殿、どうする? 必要であれば、私が囮に……」


「それは最終手段です。……無縫君やヴィオレットさんに恨まれてしまいますからね。……さて、この圧倒的不利な状況、どう覆しましょうか?」

◆ネタ等解説・三十一話目

半月降槍(ハーフムーン)

 元ネタは『星のカービィ ディスカバリー』のボスラッシュのハードモードである「TheアルティメットカップZ」に登場するフェクト・エフィリスの強化形態、魂沌新種カオス・エフィリスが使用する技の一つ「ハーフムーン」。

 斬撃が槍へと変化して降り注ぐ技のイメージはスマートフォン用アプリゲーム『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』を元にしたアニメ版に登場する七海やちよが無数の槍を大量に出してミサイルのように撃ち込む描写から着想を得ている。


禁鞭

 元ネタは藤崎竜氏の漫画『封神演義』に登場する宝貝(パオペエ)の中でも特に強力な宝貝を指すスーパー宝貝の一種。

 長い鞭の形状をしており、使用することで周囲数kmを一瞬で打ち据えるほどの速さで振るうことができる。しかし極めて気位が高く、未熟なものが扱うと暴走し使用者を含めた辺りを無差別に打ってしまう。

 聞仲が現れるまで使いこなせる者がいなかった。

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