あ……ありのまま、今、起こった事を話すぜ! 迷宮に居た筈の無縫が次の瞬間には地球に戻っていたんだ。召喚されたのにすぐに元の世界に戻れるって意味不明以外の何者でもないぜ。
「あれ? なんでいるんです? ガラウスさん」
「いや、寧ろ貴方がフィーネリア様とドルグエス様を呼び出しているこの状況の方がおかしいですよ! 我々は敵同士なんですよ!!」
「……相変わらず、貴方の部下は現実を直視できていないわね。勝てる訳ないでしょう? 無縫君に」
「貴女は貴女でなんで敵と内通しているんですか!? それに、あっさりと負けを認めるなんてロードガオン人の風上にも置けませんよ!!」
「ねぇ、プライドで命守れると思っているの!? というか、勝てると思っているの!? 正気なの? 精神科行く? お薬いっぱい出してくれるいいお医者さん紹介してあげるわよ! 無縫君の恐ろしさは散々理解させられたじゃない! 私は本国よりも私の命が優先よ! 当然じゃない!!」
「だったら正攻法じゃなくて搦め手を使えばいいじゃないですか!!」
「……いや、それ、当の本人がいる前で言うべきことじゃないでしょう?」
「……寧ろ、無縫君は搦め手の方が得意なタイプでしょう。幸運の化け物みたいな人と戦うなら不確定要素の少ない正攻法の方がまだマシだわ!」
「はははっ! ガラウス、無縫は強いぞ! 吾輩もあらゆる手を使って戦ったが一度も惜しいところまで行ったことがないからな!!」
「ドルグエス様、それ、誇ることじゃありませんよ!!」
二人の非常識人に振り回される苦労人みたいな雰囲気を醸し出しているガラウスだが、実際に現実を直視せず無茶を言っているのはガラウスの方である。
「……マリンアクアさんとチェンジで」
「申し訳ないわね。私達のことを追って勝手についてきただけみたいなの。私にとっては本当に不本意な状況なのよ。……この人、私達と違ってなぁなぁじゃないから、本国に報告しそうだし。……やっぱり平穏のためにも任務中に殉死したってことにしておこうかしら? 三階級特進良かったわね」
「本当に怖いこと言いますね!! この非国民」
「……うーん、別に報告してくれてもいいんだけどね。こっちは手一杯で侵略するメリットもないから攻撃されない限りはこっちから攻めるつもりはないんだけど、そちらが全面戦争をお望みならロードガオンを壊滅させるのも吝かではないし」
「貴方なら余裕でできそうで怖いわ。あっ、私と私の可愛い部下達と領民とマリンアクアさんのことは亡命させてね」
「――ッ!? フィーネリア殿、まさか吾輩を見殺しにする気ですか!?」
「……はいはい、もしもの話はここまでにしましょうか? で、どうします? 俺も戻って来れるようになったので休戦協定を解除しても構いませんが」
「私はまだ休戦協定を続けたいわ。こっちにも戦わなくて済む言い訳ができるし」
「吾輩はどっちでも良いぞ!! ……だが、異世界を旅する件はどうなるんだ?」
「……ちっ、覚えていたか。とりあえず、今は迷宮を攻略中。その後、無法都市経由で魔族領のある南部に南下する予定。今の俺は単独行動しているから、いつからでも構わないけど。ただ、迷宮に関しては内務省側から新人訓練に使わせて欲しいという要望が出ている」
「折角だし、迷宮にも挑戦したいわね。無縫君がいれば問題ないし。それに、内務省とも協定を結んでいるから問題はないわ」
「世話になるぞ! 無縫!!」
「では、フィーネリアさんには今のうちにお礼を。これが直近で買った宝くじですね」
「ありがとう! 有効活用させてもらうわ!」
「では無縫! 行こう! すぐ行こう! 今すぐに行こう異世界へ!!」
手の中の宝くじを見て目をキラキラと輝かせているフィーネリアと「迷宮にすぐに行こう」と催促するドルグエスに無縫が囲まれていると、ガラウスが「こうなったら私もついていきますよ! 二人を監視するのが私の役目ですからね!!」とよく分からないことを言い出した。
「回れ右してお帰りください」
「そうよ! とっとと持ち場に帰りなさい!」
「……案ずることはない。ただ友人と楽しいところに数日行くだけだからな!」
「いい訳ないでしょ! とにかく私もついていきますからね! 分かりましたね!!」
その後、ガラウスの圧に屈した無縫は心底嫌そうな顔をしながらガラウスに同行許可を出した。
◆
時空の門穴を使って迷宮に戻ってすぐに内務省異界特異能力特務課の面々が時空の門穴を使って迷宮にやってきた。
「内藤さん、お早い到着ですね。ああ、新人というのは滝ノ瀬さん、松嶌さん、旗幟さんの三人でしたか」
滝ノ瀬廉、松嶌紬、旗幟遊大――いずれも、今年内務省異界特異能力特務課に配属された者達だ。
廉と紬は内務省の他部署からの異動組で、遊大は昨年、東京帝国大学大学院を卒業したばかりの一年目である。
キャリアは違うが、いずれも実戦から縁遠い暮らしを送っていたという点では共通しており、大なり小なり戦闘能力が必要となる内務省異界特異能力特務課では他の新人達と共に武器の扱いなどを学んでいる。
同じ内務省でも他の部署で働いてきた廉と紬は揃って「他の部署とは全く求められる力が違う」という感想を無縫との雑談で話していた。……まあ、だからといって書類作成能力などが不要という訳ではなく、他の部署で求められる力に加えて戦闘能力が求められるという方が正しいのだが。
「――無縫様、申し訳ございません! ヴィオレット様とシルフィア様ですが、依然として行方不明です! ここまで探して見つからないということは天空カジノにいる可能性が高いと思われます」
開口一番、謝罪の言葉を口にしたのはリリス=マイノーグラだ。
元異世界アムズガルド魔王軍四天王の一人でヴィオレット付き侍女でもあった女夢魔のリリスとの出会いは最悪の一言に尽き、異世界アムズガルドの魔族と人間の和解に貢献し、ヴィオレッタが無縫達の世界に行くと言い出した時にも無縫のことが信用できないからとヴィオレッタの世話係として無理矢理押し掛けてきた。
しかし、ヴィオレッタとシルフィアがギャンブルに出掛ける無縫に同行して悉く沼に嵌り、生活費に手を付けたり勝手にクレジットカードを盗んだりといった軽犯罪に手を染め始めると流石にヴィオレッタ達を庇えなくなり、一転してヴィオレッタ達に振り回される(?)無縫に同情的になった。
無縫達に無理矢理同行して地球に来てからは大日本皇国と異世界アムズガルドの橋渡し役となるべく内務省入庁のために邁進して見事入庁。その後は、アルバイトという身分のために還元できない無縫の手柄を貰い受ける形で順当に出世し、現在は内務省異界特異能力特務課参事官補佐となっている。
まあ、これには惣之助が内務省異界特異能力特務課の立場を優位にするために内閣総理大臣になるべく国政に打って出る決断をし、内務省異界特異能力特務課を退職したことで役職が繰り上がり、龍吾が当時座っていた内務省異界特異能力特務課参事官補佐の椅子が運良く空いたことも決して無関係ではないのだが。
ちなみに女夢魔ではあるが、種族の本分である異性への誘惑が苦手どころか、不純異性交遊を嫌う潔癖委員長タイプというあまりにも女夢魔と噛み合わなさ過ぎる性格をしているため、男性の職員とはあまり仲が良くはなく、逆に紬達のような女性職員達と良好な関係を築いているようだ。
肝心の龍吾との関係は、龍吾自身が基本的にビジネスライクな人間なため、ビジネスパートナーとしては良好という状況である。龍吾は先を見据えて準備ができるリリスの手際を賞賛しており、リリスの方も冷静に状況を分析できる目を持っている龍吾に信頼を置いているようだ。
「リリスさん、気にしなくていいよ。とりあえず、アイツらの捜索はここで一旦打ち切りで。ここで回収するとこの先に動こうとしているルートに不都合が生じるから、後で回収に向かうよ」
「……大丈夫でしょうか?」
「ん? 大丈夫じゃない。アイツら普通に強いし」
「まあ、そうですよね。分かりました。こちらでのお二方の捜索はここで打ち切ります」
「さて、揃いましたし早速迷宮探索に向かいましょうか?」
「――待ちなさいよ! 貴方また私のこといないものとして扱う気なの!? ホント、貴方はつくづく嫌な性格をしているわね」
龍吾、リリス、廉、紬、遊大の五人を一通りに話題に出したところで迷宮探索の開始を促す無縫に怒りを露わにして突っ掛かったのは朝比奈茉莉華だ。
濡羽色の髪を肩まで伸ばしたいかにも大和撫子といった見た目の美少女である。
彼女はアイドルとして活動すれば人気になりそうな容姿をしており、その姿に違わず人気アイドルグループ【スターライト・トゥインクル】のリーダーとして活躍している。東京でドームツアーを開催すれば百万人以上動員し、国営放送の年末の歌番組にはグループで三年連続出場という実績を作っている。動画投稿サイトでは平均一億回以上の再生を記録し、アイドル活動以外では朝ドラ出演をはじめとした女優業の分野でも少しずつ実績を作っている。
その手の人気アイドルグループにありがちな、実はメンバーの関係が最悪ということもなく、メンバーの藤宮瑞稀と天音霞との関係も極めて良好。二人からはグループのリーダーとして頼りにされており、グループ全体の精神的な支柱となっている。
こんな完璧美少女と呼ぶべき茉莉華だが、実は唯一欠点と呼ぶべき点があった。それは、無縫と全く反りが合わないということである。
茉莉華が魔法少女プリンセス・カレントディーヴァに選ばれ、その後、龍吾のスカウトを経て内務省を訪れたその日、無縫と初めて顔を合わせた瞬間から無縫と茉莉華は互いにコイツとは一生分かり合えないだろうという実感を持った。
決して何か二人の関係を破綻させるような致命的な出来事があった訳ではない。そうであればまだ関係を改善できたかもしれないが、切っ掛けは本能が訴えかけてきたというような最早どうしようもないものである。
そして二人の第一印象は見事に的中した。無縫の――魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの実力をまざまざと見せつけられ、いつしか茉莉華は永遠の二番手と呼ばれるようになった。学生の頃から基本的に一番にならなければ気が済まない向上心の塊のような側面があった茉莉華にとって無縫という大きな壁の存在は許し難いものであったのだろう。また、無縫の彼女から見て自堕落の一言に尽きる生き方も茉莉華には許せなかったようだ。
一方、無縫の方も一々張り合ってくる茉莉華のことを内心面倒くさがっていた。
それに、心赴くままにギャンブルをして自由に生きたい無縫にとっては、「真人間として生きなさい」といかにも優等生然とした言葉を掛けてくる茉莉華の存在は目の上のたん瘤であった。
何より、自分が幼少の頃から抱いている渇きを理解できない、恵まれた家庭に生まれて恵まれた家庭に育ち、優しい家族と自分を慕うファンに囲まれた茉莉華という存在が無縫にとっては地雷に等しかったのである。
……まあ、この二人はなんだかんだで互いの強さと持ち味を理解しており、顔を合わせれば喧嘩ばかりだが、いざ共闘するとなればこれほど恐ろしいコンビもいないというほど息のあったコンビネーションを見せる訳だが。
◆キャラクタープロフィール
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・マリンアクア=ルネ
性別、女。
年齢、二十一歳。
種族、ロードガオン人。
誕生日、七月七日。
血液型、D型Rh+。(ロードガオン人の血液型はL型、K型、D型、LK型のいずれかである)。
出生地、独立国家ロードガオン。
一人称、私。
好きなもの、水茄子の漬物、精進料理、チョコレート、クッキー、フィナンシェ。
嫌いなもの、食べると胸焼けしそうなハイカロリーフード、小籠包、酒、タバコ、騒音。
座右の銘、静かなる侵攻。
尊敬する人、フィーネリア=レーネ(直属ではない上司)、庚澤無縫(宿敵?)。
嫌いな人、ガラウス=ルノヴィア(同僚)。
好きな言葉、「堅実な積み重ねこそが、希望溢れる未来へと繋がる(亡き父の言葉)」。
嫌いな言葉、特に無し。
好きなゲーム、牧場物語シリーズ。
趣味、映画鑑賞。
職業、独立国家ロードガオン地球担当第二部隊隊長補佐、マンション管理人。
主格因子、無し。
「ドルグエスの側近の一人。極めて温和な性格で滅多に怒らないが、怒るとかなり怖いらしい。経理と科学技術の担当で怪人や無人兵器のワーブリス兵の制作も手掛ける。ドルグエスよりもフィーネリアと仲が良く、フィーネリアからマンションの管理人を頼まれた際にはマンション管理士の資格まで取りに行った。よく、仲の良いフィーネリアやロードガオンの女性陣とショッピングに行く姿が目撃されている」
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・リリス=マイノーグラ
性別、女
年齢、二十一歳。
種族、女夢魔。
誕生日、六月十日。
血液型、AB型Rh+。
出生地、異世界アムズガルド魔王国ネヴィロアス四天王領。
一人称、私。
好きなもの、ヴィオレット=ノルヴァヌス。
嫌いなもの、ヴィオレット=ノルヴァヌスを害する者総て。
座右の銘、清く正しく誠実に。
尊敬する人、ノワール=ノルヴァヌス(魔王国国王/魔王)、庚澤無縫(同僚)。
嫌いな人、特に無し。
好きな言葉、特に無し。
嫌いな言葉、特に無し。
職業、元魔王国ネヴィロアス魔王軍四天王、ヴィオレット付き侍女、内務省異界特異能力特務課参事官補佐。
主格因子、無し。
「元異世界アムズガルドの魔王国ネヴィロアス魔王軍四天王でヴィオレットの専属侍女。ベリアル四天王領を治める魔王軍四天王の六男七女の長女で父の急逝後に四天王の座を受け継いだ。異世界に召喚された勇者の無縫とは敵として抗戦するも呆気なく敗北。ヴィオレットが異世界に行く際も無縫を信用できないからと無理矢理同行した。ヴィオレッタとシルフィアがギャンブルに出掛ける無縫に同行して悉く沼に嵌り、生活費に手を付けたり勝手にクレジットカードを盗んだりといった軽犯罪に手を染め始めていることを知ると流石にヴィオレッタ達を庇えなくなり、一転してヴィオレッタ達に振り回される無縫に同情的になった。無縫達に無理矢理同行して地球に来てからは大日本皇国と異世界アムズガルドの橋渡し役となるべく内務省入庁のために邁進して見事入庁。その後は、アルバイトという身分のために還元できない無縫の手柄を貰い受ける形で順当に出世し、現在は内務省異界特異能力特務課参事官補佐となっている」
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