ライバルとか犬猿の仲と言いつつ、結局互いに互いのことを認め合っている庚澤無縫と朝比奈茉莉華みたいな関係っていいよね?
「【百合之吸血姫神】!」
圓は己が持つ二つ目の極神技能の力を発動し、黒髪と真紅の瞳が特徴的な美しい吸血姫へと姿を変える。
圓が自身の「自身の創作物の登場人物を三次元世界に召喚したり、付与した設定を現実の人物に与えることができる力」によって再現した、自身が開発に携わったMMORPG『Eternal Fantasy Horizon On-line』において使用していたアカウント――ゲーム内ランキング一位である『吸血姫』リーリエ=ブラッドリリーの力を、異世界で獲得した究極技能と融合する形で誕生したこの極神技能は職業特技、血液創造、血液掌握、吸血姫翼、日光無効、百合増幅、百合空間の七つの能力を包括している。
技能の発動によって最強の吸血姫リーリエへと姿を変えた圓は吸血姫翼で翼を形成し、百合空間によって戦場を包み込み、百合増幅の能力を発動して空間内にいる女性同士の能力を増幅していく。
これによりただでさえ強力なリーリエと月紫の戦闘力が更に高まったが、リーリエはここで歩みを止めない。
「――刀殺殲戮!」
「レーザー銃で蜂の巣にして差し上げましょう」
月紫と化野學――幹部二人が暴れに暴れている中、リーリエは三つ目の極神技能を発動する。
「――【虚空ト異界之神】!」
その極神技能は能因草子の持つ【窮極之神】と同じ技能の一つの終着点である。
技能も虚無崩壊、虚無掌握、万象喰、時空間掌握、多重次元結界、無限房室とほとんど共通しているのだが……ただ一つだけ、決定的な違いがあった。
それは、技能に世界の理を超越した異界の力を取り込んでいるということである。
例えば、それは炎を燃やす焔、炎を凍らせる焔……明らかに物理法則を超越した力である。
破壊と混沌を司る窮極の神であるクトゥルフ神話の主神アザトースの力に世界の理を超越した異界の力を融合したことで誕生したこの技能には新たに異界之力と呼ばれる能力が追加されていた。
……だが、ここまで長々と説明してきたが、リーリエはこの異界之力を使うつもりはないようだ。
リーリエは【虚空ト異界之神】の虚無崩壊を発動して究極的破壊エネルギーを発動する。
そして、同じく【虚空ト異界之神】に内包している虚無掌握の能力を発動してエネルギーを自在に操り、次々とネガティブノイズ達を殲滅していった。
能因草子であれば、【窮極之神】と【創世之神】の併用が必須だが、【虚空ト異界之神】であれば一つの技能で完結している。
この点も、草子と圓の大きな違いと言えるだろう。
「……ふぅ、案外呆気ないものだったねぇ」
「お疲れ様でした、圓様」
「……全く歯応えがありませんでしたね。……私は不完全燃焼なので他も助けに行きませんか?」
「化野學! なんてことを言うのですか!! ――圓様にこれ以上戦え、というのですか!? いくら貴方でもここで真っ二つにしますわよ!!」
「まあまあ……化野さんも珍しいこと言うよねぇ。……ただ、その必要はないんじゃないかな?」
無数の時空の門穴が次々と展開されていく光景を眺めながら、リーリエから圓の姿に戻った圓が小さく首を振る。
「まあ、最近気になっていることはいくつかあるけど、最も興味があるのは内務省の彼なんだ。果たして、どこまで羽搏けるのか、楽しみで仕方ないんだ。折角の彼の出番を奪っちゃ駄目だと思う。ボクらは異世界を巡って一つの頂点にまで辿り着いちゃったんだからさぁ、後は彼らの頑張りを見守りつつ、楽しもうじゃないか」
「すっかり隠遁気分ですね、圓様。……まあ、それはそれでいいのかもしれませんね。……余生というものも」
かつて因縁ある魔女の転生者と戦い、長きに渡る輪廻の因縁に終止符を打ったかつての主人とその仲間達の姿を思い出し、化野學は穏やかな顔でレーザー銃を亜空間へと仕舞った。
◆
【スターライト・トゥインクル】の西京都のツアー……本来であれば、それは 【スターライト・トゥインクル】にとっても彼女達のファンにとっても最高の舞台になる筈、だった。
しかし、幕開けと同時に最高潮の熱気に包まれていた会場に、突如として冷や水をぶっ掛けるようにネガティブノイズ達が出現する。
「――瑞稀! 霞! 安全なところに! 安永さん、二人のことお願いします!」
「――茉莉華さん! 必ず無事に戻ってきてくれ! 危なくなったら逃げるんだ!」
「そうよぉー。三人揃って 【スターライト・トゥインクル】なんだからー。それに、茉莉華さんの犠牲で助かったって全然嬉しくないわぁ……本当は私も一緒に戦いたいくらいだものー」
「気持ちは嬉しいけど、二人とも戦う力がないじゃない。……私はアイドルだけど、それと同時に内務省所属の魔法少女、大日本皇国の人々を守る義務がある。それに、折角私達のことを応援するために集まってくれた人達ですもの! 絶対に守ってみせるわ!!」
「スタッフが避難誘導を進めていますし、二人も安全な場所に連れて行きます。茉莉華さん、ご武運を」
マネージャーの安永彰が二人をステージ袖から連れていく後ろ姿を一瞥してから茉莉華は空に視線を向ける。
「あら? 待ってくれるなんて優しいのね」
透き通りキラキラと輝く硬質な髪、真紅に輝く宝石のような瞳。
筋肉質の身体をそのままクリスタルに加工したような透明な身体。その身を全身、半透明の武装で覆い、その手には巨大な剣が握られている。
「――支配主【七皇】、伝説の存在がまさか出張ってくるとはね」
『我は【七皇】が一人、アリオト。……匂う、あの忌々しいフェアリマナの力を。……魔法少女だな』
「えぇ……でも、予想はしていたでしょ?」
『まぁな。だが、この世界の守護者――あのラピスラズリの魔法少女ではない。気配がまるで違う。……やはり、このタイミングでの襲撃で正しかったようだな』
「あらあら、【七皇】ともあろうお方が、魔法少女一人を恐れて不在のタイミングを狙ったということかしら? 名前が泣いているんじゃないかしら?」
『我を挑発するつもりなのであれば、愚かなことだ。我々に慢心はない。少しでも勝機があるのであれば、卑怯な手も使う。我々はフェアリマナへの復讐心を糧にしてきた。あの眩い世界、貴様らの光に溢れる世界も我は許さない。況してや、お前達はあのフェアリマナの力を借りているのだ。……しかし、愚かだな。あの世界は不浄を嫌う。少しでも陰りがあるからと、奴らは我々を切り離したのだ。あの潔癖な連中がお前達に力を与えているのは利用するため……道具としての価値が無くなれば、奴らはお前達を裏切るぞ?』
「あら? 私達の心配かしら? それとも、滅びたくなければネガティブノイズに協力しろ……って? ははっ、面白いこと言うじゃない! いい機会だから教えてあげるわ。大日本皇国政府はね、邪悪心界ノイズワールドを滅ぼした暁には魔法の世界フェアリマナを滅ぼすつもりよ。既に魔法の世界フェアリマナは仮想敵に定めているわ」
『……なるほど、互いに利用するだけの関係ということか? だが、魔法少女の力は連中によってもたらされたもの。奴らが力を与えたように力を奪うこともできる。魔法少女の力を抜きにどうやって奴らを倒すというのだ?』
「これから倒す奴にあんまりぺらぺらと喋っても意味がないけど……魔法少女の力だけが大日本皇国の力じゃないってことよ! それに、もう一つ。私や魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスに力を与えた妖精のシルフィアも国を裏切る気満々みたいよ。魔法少女に力を与えた妖精にしか、魔法少女の力は剥奪できない……のよね」
『だが、その妖精の言葉を本当に信じるのか? 愚かだ! フェアリマナの連中は一切信用できない……あんな奴らの言葉だ、耳を貸す必要などありはしない』
「少なくとも私は信じるわ。……というか、信じざるを得ないわよ。あのシルフィアっていう妖精、この世界に来てギャンブルにどハマりして国庫のお金をギャンブルに使ってしまったそうよ。魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスもそのお金を踏み倒す気満々みたいだし」
『何故だ……何故、そんなポンコツがフェアリマナの妖精でいられるのに、我々は不要なものとして切り捨てられたのだ!!』
「まあ、同情はするわよ。……ということで、私は私の大切なもののために戦う! 例え、相手が魔法の世界フェアリマナでも、邪悪心界ノイズワールドでもね!! 女の底力見せるわよ! 朝比奈茉莉華!」
魔法少女プリンセス・カレントディーヴァの姿へと変身し、茉莉華は空へと一気に駆け上がる。
『――荷電粒子砲と絶望の奔流の装填開始!!』
身体全身が分厚い装甲に覆われている赤色の伝説上の巨人を彷彿とさせる上級種Red Giant、身体全身が分厚い装甲に覆われている橙色の異形の五つの頭を持つドラゴンを彷彿とさせる上級種Orange FiveHeadDragon、身体全身が分厚い装甲に覆われている黄色の二角獣バイコーンを彷彿とさせる上級種Yellow Bicorn――多くの上級種達が攻撃準備を開始する中、支配主アリオトは剣を構えて一気に肉薄する。
『荷電粒子砲!』
「水槍の流星群! からの! 激洌の奔流!!」
無数の氷の槍を降らして上級種達を牽制しつつ、魔法少女の杖『静かなる歌姫の杖』から激流を収束して解き放つ。
とはいえ、流石に魔法少女プリンセス・カレントディーヴァの最高火力の一撃といえど荷電粒子砲を抑え込めるほどの力はない。
……だが。拮抗させることはできなくても、ほんの僅かな猶予を稼ぐくらいなら可能だ。
そして、その余裕があれば――。
「こういう無骨な武器は優雅な私には似合わないけど、選んでいるほど余裕はないのよ! これが異世界で手に入れた私の新たな力よ!! 【収束波動砲】!!」
攻撃の軌道から外れた魔法少女プリンセス・カレントディーヴァは天職の波動砲使いの技能【波動砲】を行使して波動砲を生み出す。
そして、銃口を支配主アリオトに引き金を引いた。
『――なんだその力は!! 絶望の守護!!』
支配主アリオトは咄嗟にネガティブエネルギーを収束したバリアを生成して波動エネルギーの奔流を防ごうとするが、僅かな拮抗の末力が上回った波動砲が支配主アリオトの肩を消し飛ばす。
だが、この一撃で支配主アリオトを撃破できずとも魔法少女プリンセス・カレントディーヴァは問題ないと考えていた。
競い合うライバルであり、犬猿の仲である庚澤無縫が生み出した『空駆翔』をやめて『静かなる歌姫の杖』の上に乗って滑るように空中を飛びつつ、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァは電話を掛ける。その相手は勿論――。
『はいもしもし庚澤無縫。なんだよ、今、ルーグラン王国と戦争中だよ!』
「そんなこと知らないわよ! というか、どうでもいいわよ!! そんなこと!! このタイミングで主力が出払っているせいで、こっちは大迷惑なのよ!! 大規模侵攻よ! 大規模侵攻!」
『そうみたいだな。今、ニュースサイト確認したら、大日本皇国、ステイツ、ロシア、ブリテン、フランス、イタリア、中国への同時侵攻。それも、かなりの規模みたいだな』
「その中には支配主【七皇】も一体確認されているわ。恐らく、他の国も同様の状況なのでしょうね。ブリテンとイタリアを除いた各国は大日本皇国への、というか、貴方への応援要請を出しているけど」
『――そんなもん無視だ、無視。大日本皇国が襲われているのに外国優先できる訳ないだろ!』
「アンタ、思いっきり別の国優先しているわよね! こっちは、アンタ抜きでも一部地域に関しては何とかなっているわ。具体的には東京帝国大学周辺と中京都の西側ね」
『恐らく能因草子教授と、百合薗グループだな。……百合薗圓殿が強いのは知っていたが、草子殿が強いという噂は本当だったんだな。流石は異世界帰りというべきか。――茉莉華、今から俺が空間転送するものを空に打ち上げろ』
「命令するんじゃないわよ! 私とアンタは同格よ! 同格!!」
軽快な掛け合いをしつつ、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァは会場を見下ろす。
トークで時間を稼ぎ、更に戦闘で時間を引き延ばしたことで既にコンサート会場に集まっていた人々は避難し終えていた。
小さな時空の門穴から球体のようなものが飛び出す。電話を左腕と頭で上手く挟みつつ、茉莉華は左手でその球体をキャッチした。
『そいつを思いっきり空に投げてくれ。それと、時空の門穴を開くから、茉莉華、お前もこっちに来い!!』
「……やることは分かったけど、本当に腹が立つわね!! まあいいわ! 今回の件は貸しにしてあげる! 勇者召喚の鬱憤晴らしに付き合ってあげること、せいぜい感謝しなさい!」
『うぜぇ!!』
「こっちのセリフよ!!」
そういいつつ魔法少女プリンセス・カレントディーヴァは左手で球体を放り投げる。すると、球体に翼とロケットモータのような機構が動き出し、超高速で空へと球体が打ち上げられた。
『……何をした、いや何をするつもりだ』
「さあ? 何をするつもりなのかしらね?」
怪訝な顔をする支配主アリオトに魔法少女プリンセス・カレントディーヴァは不適な笑みを向ける。
『映像確認した。茉莉華、ありがとう』
「……そうやって普通にお礼を言われると調子狂うわね。すぐにそっちに飛ぶわ」
電話を切り、スマートフォンを起用に懐に仕舞うと、一斉攻撃の準備を整えた上級種達に支配主アリオトが命令を下す。
『何かされる前にこっちが畳んで仕舞えばいいだけだ!! 一斉攻撃!!』
「残念、一手遅かったみたいよ」
荷電粒子砲と絶望の奔流が一斉に魔法少女プリンセス・カレントディーヴァへと放たれる……が、その前に魔法少女プリンセス・カレントディーヴァの姿は戦場から消失していた。
彼女の通過した時空の門穴が攻撃着弾前に消え去る。
『――あの魔法少女、どこへ消えて……』
だが、その先の言葉は続かなかった支配主アリオト達は突如として出現した時空の門穴の中に吸い込まれるように消えてしまったのである。
◆ネタ解説・二百二十話(ep.221)
・【百合之吸血姫神】
職業特技、血液創造、血液掌握、吸血姫翼、日光無効、百合増幅、百合空間の七つの能力を包括しているスキル。
由来は並行世界の百合薗圓及び、彼女のアカウントであるリーリエ。
なお、本作でのMMORPG『Eternal Fantasy Horizon On-line』にあたる作品として、「百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜」にはMMORPG『Eternal Fairytale On-line』が存在し、リーリエとはそのゲームでの百合薗圓が使用しているキャラの名前である。
・【虚空ト異界之神】
【窮極之神】と同様に名前の由来はクトゥルフ神話に登場する原初の外なる神アザトース。更にここに『旧約聖書』の生命の樹セフィロトを組み合わせている。
元ネタは「文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜」における能因草子の技能【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】。
こちらは異界の力を取り込んでいる。この異界の力の着想元は志瑞祐氏のライトノベル『精霊使いの剣舞』に登場した異界の天使である。
◆キャラクタープロフィール
-----------------------------------------------
・安永彰
性別、男。
年齢、二十三歳。
誕生日、八月七日。
血液型、O型RH+。
出生地、静岡県。
一人称、私。
好きなもの、アイドル。
嫌いなもの、特に無し。
座右の銘、特に無し。
尊敬する人、特に無し。
嫌いな人、特に無し。
職業、アイドルのマネージャー。
主格因子、無し。
「人気アイドルグループ【スターライト・トゥインクル】のマネージャー。誠実な性格で【スターライト・トゥインクル】のメンバーの三人からも信頼されている。メンバーの茉莉華が魔法少女プリンセス・カレントディーヴァであることを知っており、両方の活動に不自由がないように腐心している影の立役者である」
-----------------------------------------------




