正体が男だって分かっている魔法少女に「お前、俺の側室になれ! 気が強くて澄ましている女が、俺への慕情で赤く染まるのが好きなんだよ!」って言うのは絶対にドン引き案件だよ!
「先日のクリフォート魔族王国への侵攻……丁度その頃、クリフォート魔族王国では『頂点への挑戦』が行われていました」
「……次代の魔王を決める祭典だったか?」
「通常であれば、対人間族魔国防衛部隊という精鋭部隊が【漆黒の闇の森】の先にある国境の長城――【悪魔の橋】にて、防衛を行っていますが、今年の『頂点への挑戦』では司令のオズワルド=トーファスさんが『頂点への挑戦』に出場することになり、他の部隊の方々も応援のために魔王城のある魔都に向かうことになりました」
「……ってことは、その間は【悪魔の橋】に魔族の防衛戦力は不在だったってことだよな? なら、なんで俺の国の騎士が消息を絶っているんだ?」
「当然、その間に対人間族魔国防衛部隊の代わりに防衛を引き受けてくれる戦力が必要です。そこで俺は独立国家ロードガオン地球担当第一部隊に防衛を依頼しました。つまり、騎士団の面々は独立国家ロードガオン地球担当第一部隊との交戦の末に敗北……いえ、正確に言えばワーブルのキューブへと変化されて資源化されたということです」
「……その立方体が、帝国の騎士だと? 面白い冗談を言うじゃねぇか。ジョークのセンスもあるってことか?」
「それがジョークかどうかはご自身の目で確かめてみればいいのではないでしょうか? ワーブリングシステム起動!」
無縫は隠し持っていたワーブウェポンを起動する。
姿は特に変化していないが、その手にはいつの間にが銃のような形をしたものが握られていた。
無縫はそれを立方体の一つの方へと向けて引き金を引く。すると、眩い光が光線となって立方体へと射出された。
光線を浴びた立方体は眩い光に包まれ、その中で溶けるように消えていった。その形は少しずつ人間の男のような姿へと変化していく。
光が消えると、そこにはボロボロの鎧を纏った騎士風の男の姿があった。
「――ッ!! へい……か……危険、で、す。魔族の、国に、化け物……が、みんな、白い塊に、変えられて……うわァ!!」
真っ先にガフェイルの姿を見つけ、刻みつけられたトラウマに恐怖しながらも報告をしようとしていた騎士の男は、視界に入ってしまった立方体を目の当たりにして発狂して精神崩壊を起こしてしまった。
「これはエネルギーとして利用することもできるのでそのまま消費しちゃっても良かったんですけどね。交渉の材料に使えるのではないかということで、クリフォート魔族王国のシトラス宰相閣下と相談の末、全てこちらにお持ちすることにしました。お望みとあれば、全ての騎士を元に戻して差し上げましょう」
「……それを対価に、戦争への介入をやめろって話か?」
「まさか? ここで口約束を結んだところで戦争に介入する選択肢が消える訳じゃないでしょう? やるなら徹底的に、不安要素は潰すに限ると思うのです。ということで、俺の求めることはただ一つ。俺はラーシュガルド帝国に対し恭順を求めます。これで分かったでしょう? 貴方達帝国程度の力では俺達に勝ち目がないのですよ」
「……言ってくれるじゃねぇか。じゃあ逆に聞くが、簡単に踏み潰せる相手のためにわざわざこんな脅しまでして恭順を求める理由はなんだ?」
「簡単ですよ。容易に潰せるとしても、人の顔の前に蠅がぶんぶん飛び回っていたら腹が立つじゃないですか」
あっけらかんとした顔で答える無縫に、ガフェイルは呵呵大笑した。
「はははっ! 面白ぇ! いい度胸だ! ラーシュガルド帝国は実力主義だ。俺が皇帝やれているのも、この国で一番強いからだ! そんなに言うなら戦いで決着をつけようぜ! 俺が負けたら恭順でもなんでもしてやろう! なんなら植民地にでもなってやるぜ?」
「生憎と、大日本皇国の領土は弧状列島一つで足りているので大丈夫です。領地多くても反乱起こされて面倒なことになるのは世の常ですからね。大東亜共栄圏なんて愚かな夢想だったんですよ。……どうぞこの国はお好きなように。今後二度とクリフォート魔族王国に攻め込まず、大日本皇国とも敵対せず、その他の加盟国とも敵対せず、戦争にもちょっかいをかけないと誓ってくれればそれで十分ですからね」
「ああ、その条件で構わないぜ。……ただし、それはお前が勝てたらの話だ。もし俺が勝ったら、俺は庚澤無縫、お前が欲しい。俺は強い奴は大好きだからな! 負けたら俺に絶対一生服従、それが条件だ」
「……なかなかにエグいことを言っておるのじゃ。だが、力を見誤ったのぉ。無縫に勝てる奴がいる訳ないだろう? 誰よりも負けを求めて、決して勝ち以外を与えられない人生を送ってきた哀れな男じゃからな」
「ずっと負けしかないヴィオレットとシルフィアには言われたくないなぁ」
「なんで私まで巻き添え!? シルフィアちゃんは何も言っていないのです! ……で、どうする? 口約束なんて簡単に破られるでしょう? それなら約束を後からひっくり返されないようにいっそ全世界放送しちゃわない?」
「シルフィア、エグいことを言っておるのぉ。ってことで、皇帝ガフェイル。無縫との戦いは全世界に放映させてもらう。悪く思うでないぞ」
「ヴィオレットだったか? 純魔族の女よ。その放送とやらは、以前クリフォート魔族王国のことを映し出していた例のあれ、か?」
「我は貴様らと敵対する純魔族とは本質的に無関係、くだらぬ差別的な視線を向けるのであれば無縫の前に我がお前を殺すぞ? これでも、我は異世界の魔王の娘じゃ」
「ギャンブル欲に負けて税金着服して支持率が地に落ちたが、実力的には魔王を継げるような奴だ。俺の代わりに戦ってもらっても別にいいが……自分の命運がかかっている戦いをこの莫迦に任せたくはないんだよな」
「……流石に、そいつは色々とアウトだと思うぜ」
ヴィオレットに救いの届かぬものに向けるような視線を向けるガフェイル。
しかし、すぐに無縫の方に視線を向けると「いいぜ。ただし、無様を晒すのは庚澤無縫! お前だけどな!!」と叫ぶように宣言した。
◆
ヴィオレットが放送用のテレビカメラを設置し、シルフィアが自分の身体の何倍もあるマイクを翅を高速で羽搏かせながら持ち上げ、放送の準備は完了した。
騎士達は中庭の端まで移動し、中庭の中心には無縫とガフェイル、そして、首を落とされた無惨な騎士の死体だけが残されていた。
無縫は『夢幻の半球』を展開して戦闘の準備を整える。
ガフェイルも使い慣れた騎士剣を構え、戦闘態勢を整えた。
「それでは、戦闘を開始する前に改めて状況を説明しましょう。これから行う戦闘は、俺とラーシュガルド帝国皇帝ガフェイルが互いに己が望むものをかけて戦う決闘となります。ガフェイルが勝利した場合は俺はラーシュガルド帝国の軍門に降ります。俺が勝利した場合、ラーシュガルド帝国は大日本皇国に恭順を示し、今後二度とクリフォート魔族王国に攻め込まず、大日本皇国とも敵対せず、その他の加盟国とも敵対せず、戦争にもちょっかいをかけないと誓うことになります。なお、この決闘で互いに誓ったものは絶対的なものです。もし、ラーシュガルド帝国がこの契約を破った場合はお望み通り、ラーシュガルド帝国を異世界ジェッソから消滅させますのでご安心ください。……まあ、『ラーシュガルド帝国? ――そんな国は、元々...…ないではないか』という状況になるってだけの話ですね」
「なかなか物騒なことを言う。帝国は実力主義、力を示した強者に逆らうことはない。……さて、俺の方は既に戦闘準備を整えているが、そっちは手ぶらでいいのか?」
「ああ、戦闘準備はこれからですよ」
無縫の体が一瞬にして眩い光に包まれる。そして、光が消えると同時に一人の美少女が姿を見せた。
群青の海の如き腰まで届く青い髪と蒼玉の如き澄んだ青の瞳を持つその絶世の美少女。
魔法少女らしい可憐な衣装を身に纏った、あまりにも無縫とかけ離れた存在の登場に、流石のガフェイルも困惑する。
「お前は、本当に庚澤無縫か?」
「えぇ、俺の多少なり本気の姿というべきでしょうか? 魔法少女となることで身体能力が人外のレベルまで向上します。後は固有魔法も使えるようになりますが、まあ、今回は使わないので関係ないですね。今回の戦闘では別のものを使いますので。ああ、この姿の時は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスと言いますので、どうぞそのようにお呼びください」
「――長ったらしいから庚澤無縫と引き続き呼ばせてもらうぜ。今更ながら一つ条件を追加したい」
「ええ、いいでしょう。どんな条件ですか?」
「もし、俺が勝ったら庚澤無縫。お前、俺の側室になれ」
「……はっ?」
「な、何を言っておる!」
「うわぁ、ドン引きだよ……」
ガフェイルの言葉に魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは「おい、こいつ何言ってんの?」という顔になり、ヴィオレットとシルフィアも揃ってドン引きしていた。
「俺は気が強くて澄ましている女が、俺への慕情で赤く染まるのが好きなんだよ。あっ、側室が不満か? 正妻にするとなると色々面倒があるんだけどなぁ……」
「いやぁ、いい趣味してますなぁ」
「京都人っぽい嫌味じゃな」
「……そうかな? 普通にどストレートな嫌味じゃない? 分かりやすいし」
「……まあ、俺に勝てたら従順な女にでもなんでもなってあげましょう。……そういう男達はみんな心を折ってきましたからね。――聖剣オクタヴィアテイン! 魔剣デモンズゲヘナ!」
時空の門穴から聖剣オクタヴィアテインと魔剣デモンズゲヘナを取り出し、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスは双剣の構えを取った。
◆ネタ解説・二百十話(ep.211)
・「俺は気が強くて澄ましている女が、俺への慕情で赤く染まるのが好きなんだよ。あっ、側室が不満か? 正妻にするとなると色々面倒があるんだけどなぁ……」
白米良氏のライトノベル『ありふれた職業で世界最強』のヘルシャー帝国皇帝ガハルドのセリフが元ネタ。というより、ガフェイルの着想元が彼である。




