追放ものの題名に今更もう遅いって文言が使われることはあったけどこれ以上の危機的状況が果たしてあっただろうか? 〜召喚勇者パーティは追放した珈琲師が引き連れてきた母国のせいで皆殺しエンドになりそうです〜
『ヴィオレット、カメラを外に!』
『分かっておる!』
すぐさまヴィオレットがカメラを移動させ、魔王城の外へと向ける。
惣之助達も立ち上がり、魔王城の外へと向かう。
桜吹雪が舞い散り、雷が降り注ぐ中現れたのは二人の男女だ。
一人は浅黒い肌と雷の意匠が施された和風の戦装束のようなものを纏った長身の男。腰には刀を帯び、その姿はまさに武神のようだ。
もう一人は白衣に桃色の袴という装束の女性で、腰まで届くほどの桃色の髪と美しく澄み渡る桃色の瞳が印象的である。
≪無縫さん、サクラ聖皇国の時以来ですね。あの時はお誘いくださりありがとうございました。久しぶりに生まれ故郷の姿を見れて楽しかったです≫
≪ふーん、地上に降りたんか?≫
≪お誘いを受けまして。あら、貴方を誘わなかったことが不服でしたか? それとも、他の男と一緒にデートをしたことにご不満が?≫
「で、デート!?」
全く関係のないところで美雪が大ダメージを受けていたが、当の本人ならの本神――雷神ウコンはというと全く動じた素振りも見せずにいる。
≪そんな訳あらへんやろ? もう終わったことやねんしなぁ。……そういうことやのうてワイも降りたかったって話や。時代が変わっとるんやから、新たな猛者も生まれとるやろ? そういう奴と一戦交えたかったって話や≫
≪本当にこの方は昔から戦闘馬鹿で朴念仁なんですよ≫
『本当に乙女心というものが分かってないですよね、同情しますよ』
≪オノレも男やろ? こっち側とちゃうんか?≫
『俺は乙女心が分かるタイプの男なので』
『というか、寧ろ男の心を手玉に取る悪女の才能を持っているタイプのタチが悪い男なのじゃ。聖女として活動していたときに一体どれほどの男達が心を折られたことか』
≪話を戻しますが、その戦争に私達も参加させて頂くつもりです。サクラ聖皇国の時のお礼もできていませんし、友人の危機ですから≫
『……危機的なのは、どう考えてもルーグラン王国の方だけどね』
≪ワイは純粋に戦いたいだけや≫
『でしょうね。……魂の輪廻を司る神々の世界、神界の軍勢と共闘するのは、ローズマリー教団の時以来ですか。あの時は教皇一人の討伐が目的でしたが、教国の三分の一が灰燼に帰しましたけど、今回はどうなるんでしょうね?』
『ふむ……出遅れたようですね。神界の神々には劣りますが、我々も参戦を表明させて頂きます』
無縫達が映し出されていた映像にノイズが走ったかと思うと映像が切り替わり、白衣を纏い眼鏡をかけた黒髪の人間の男が映し出される。
その背後には、麦穂の如き豪奢な金髪と澄んだ淡い水色の瞳、尖った耳が特徴的な緑色のドレスを纏った美しいハイエルフの女性、腰まで届く白髪と一体化した長い白髭、濁った赤い目とドワーフ族特有の低身長がトレードマークの大戦時代を生き抜いてきたドワーフ族の英雄、ショートカットの藍色の髪と、紫水晶を彷彿とさせる紫の瞳を持つ黒いパンツスーツ姿の女性、そして、どこか見覚えのある二人の人間の女性の姿もある。
『――妨害電波じゃな。我らの放送通信に割り込んできたのか』
『流石は異世界アルマニオスの技術だね!!』
『――ローヴマルク局長!! まさか、戦艦で乗り込むとか言わないですよね!! この世界、私達の故郷なんですよ!!』
『無縫さんや大日本皇国の皆様のお怒りはもっともですが、手心を加えて頂けないでしょうか? 奴隷だったところを助けて頂いた身でこのようなことを言える立場ではないと思いますが』
『申し訳ないけどねぇ、エアリスさんとミゼルカさん。もう決まったことなんだ』
『いいかい君達! 環境破壊を恐れるのであれば、最も恐れるべきは文明の進歩だよ。ほどほどに文明が破壊された方が結果的に世界のためになるのだ』
『ローヴマルクさん、相変わらず思想強いなぁ。まあ、でも長きにわたる戦乱の時代が終わったことで産業革命が起きて環境破壊で世界が滅び掛けた世界の人間が言うと妙な説得力があるんだよね。……普通は戦時に技術の進歩が起きるものなんだけど』
『兵器やインターネットなどが主な例じゃな。軍用の技術が民間に転用されて広まったものはかなり多いと聞く。まあ、ネットで聞き齧った情報じゃから詳しくはないがな』
『まあ、参戦するというのであれば許可しますよ。好きなように暴れてください』
『言質は取りましたよ。当日は期待してください』
『ああっ……』
『もう終わりだわ……』
『ご愁傷様です……』
『こうなったローヴマルクは止められないわ。私達も復興のお手伝いをするから……きっと大丈夫よ』
『大地が治っても失われた命は戻ってこないがな。……無辜なる民が可哀想じゃ』
エアリスとミゼルカが頭を抱え、そんな二人にミモザ、アルエット、ナガファスの三人が慰めの言葉をかける。
『あの国と教会を打倒しようとせず、そのまま放置している時点で無辜かどうかは微妙ですけどね。……さて、神界の神々やアルマニオスの面々の乱入で大きく予定が崩れましたが、本日最後のビッグサプライズをお見せしましょう』
『もうルーグラン王国も白花神聖教会もボロボロな気がするが、戦争前に更なる衝撃を与えるのじゃな。趣味が良いことこの上ない!』
『じゃあ、ドルグエス。そろそろ入ってきていいよ』
『うむ、吾輩の出番だな!』
フィーネリアがいる時点で察してきた美雪達にとって彼の登場はそれほど驚くべきことではなかった。
だが、明らかに人ならざる異形の如き男に異世界の人々は衝撃を受ける。
しかし、その衝撃は微々たるものだ。特にルーグラン王国や白花神聖教会の者達を驚かせたのは、彼が纏う聖なる力を宿した武具――即ち聖武具であった。
『まあ、既にルインズ大迷宮で殺人未遂に遭って落下したんでここにいる時点で察している方も多かったと思いますが、四箇所の大迷宮にあった聖武具は全て回収済みです。残念でしたねー。実際のところ、聖武具よりも遥かに素晴らしい史跡が残されていて、そっちの方が遥かに価値があったのですが。……で、俺は別に聖剣も聖なる武具も色々世界巡って沢山持っているし、いらないかな? って思っていたら武器マニアのドルグエスが欲しいって言ったんであげちゃいました。ちなみに、勇者の天職も手に入れていますが、脳筋なんで無駄なんですよね。その後、ルインズ大迷宮含め四ヶ所の大迷宮には細工をして、偽物の聖武具を置いておきましたが、調べてみたらあらびっくり。ルインズ大迷宮とログニス大迷宮の偽物の聖武具が無くなっていました。必死に千層もある大迷宮を攻略したのに残念でちゅたねー』
『煽りよる』
「……恐らく、プリュイさんとフレイヤさんが攻略したのでしょうね。あの時はしてやられたと思ったけど……」
「まさか、あの二人すら完全に掌の上で弄ばれていたとはな。……しかし、頼みの綱の聖武具まで奪われてしまったとは」
「テルリン、こういうのなんって表現すればいいのかな?」
「完全に詰んだっていうわね。……五十鈴、そんなことよりも決めないといけないことがあるわ」
「どうしたの? テルリン?」
「私達の身の振り方よ。現状、ルーグラン王国も白花神聖教会も地球への帰還方法を持っていない。その技術を握っているのは大日本皇国よ」
「でも、大田原総理は私達を助けてくれるって言ってたよね?」
「……えぇ、大日本皇国政府には自国民を守る義務があると言っていたわ。でも、思い出して頂戴。それは、義務なのよ。あくまでそれは建前で本音は別にある。私達を救うのであれば、こんな大々的に宣戦布告する必要はないわ。それこそ、私達を巻き込むような全面戦争の形で」
「で、でも……」
「それに、無縫君ははっきりと言ったわ。殺人未遂って。あの大迷宮で起きたものを私達は事故だと思っていた……いや、思い込もうとしていたけど、恐らく誰かが意図的に無縫君を殺そうとしたんだわ。それに、元々無縫君に対して一部の人達がイジメを行い、それを私達は見て見ぬふりをしてきた。美雪さんと花凛さんは無縫君を庇おうとしたり、助けようとしたりしていたけど、それが一部の莫迦共を助長させることに繋がった。トドメは春翔君、あの時の言葉で無縫君と私達の溝が決定的なものになったと思う。……そして、ここは最悪なことに異世界」
それは、果たして誰のものだったのか? ごくりと唾を飲み込む音が無音の訓練場に響き渡る。
「無縫君を消そうとした人間が考えたことと全く同じことをされる可能性がある。ここは、異世界――常に死と隣り合わせの危険な場所。それ故に、頑張ったけど救えなかったという大義名分が許されてしまう。助けるなんて、本当は嘘かもしれない……いえ、その確率の方が高いと、私は思うわ。……ところで、ガルフォールさん。ルーグラン王国は私達に祖国、大日本皇国との戦争を強要するかしら?」
「その可能性は高い。……白花神聖教会が無縫達を神敵認定すれば、ルーグラン王国は彼らとの戦いを求めるだろう」
「その戦争、もし万が一私達が勝ったらどうなるかしら? 私達は大田原総理や政府高官を殺害した犯罪者よ。そんな人間が大日本皇国に帰れると思う? 仮に、帰還方法を見つけたとしても、もう日本人には戻れないわ」
「どうすりゃいいんだよ!! 完全に詰みじゃないか!!」
信輝の絶叫が訓練場に響き渡る……が、本当は誰しもが声を上げて嘆きたかった。
「私達が攻撃をしようとすれば、それこそ無縫君達に大義名分を与えてしまう。……できることがあるとすれば、祈ることしかないわね。無縫君達の慈悲に――」
『さて、ルーグラン王国並びに白花神聖教会の諸君。君達が聡明であることを心より祈っているよ。……俺としてもね、大勢の命を奪うことには心を痛め……なんてことはないね。心底どうでもいいってところかな? 特に思い入れのいる人もいないしね。やっぱり、自分の周りの大切な人さえ無事であれば、それ以外はどうでもいいというくらい人というのは薄情なものなんだと思うよ。実際、戦争のニュースを聞いても悲しいことだと言いつつ、本音は対岸の火事でしょう? それと同じだ。まあ、俺にとっても滅ぼした国の数が人間とか魔族の国とか諸々含めて……えっと八千百七十八から一増えるかどうかの些細な違いでしかない。ああ、俺は一応自分が食べたパンの枚数……ならぬ珈琲の杯数は覚えておくタイプなんでね。では、次は戦場にてお会いしましょう! ばいばーい!』
楽しそうに手を振る無縫を映し出し、映像はプチンと音を立てて消える。
空中に浮かぶディスプレイもその後数秒もしないうちに消え失せた。
「あっ……多分これは無理ね」
皆殺しエンドを迎えることを確信し、花凛は項垂れた。
◆ネタ解説・二百七話(ep.208)
・妨害電波じゃな。我らの放送通信に割り込んできたのか
尾田栄一郎氏の漫画「ワンピース」の1052話「新しい朝」よりCP0と五老星の通信に妨害念波て割り込んできた描写が着想元となっている。




