表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/238

懐かしき二人のマフィアの首魁に語る、庚澤無縫のクリフォート魔族王国旅行譚。

 無法都市の地下――通称、黄金郷ダルニカと呼ばれる巨大地下都市の一角にある『黄金の塔(トーレ・ド・オーロ)』の本拠地にある応接室にて。

 オスカーは緊張の面持ちで、ミル=フィオーレ・ファミリアのボスであるベアトリンクスと共に客人二名を出迎えた。


 一人はワンピースを纏った絶世の美少女――瑠璃。

 もう一人は前回のようなドレス姿ではなく普段着のブラウスにロングのフレアスカートを合わせた姿のフィーネリアだ。


「お久しぶりです。まさか、こうして再びお目に掛かれるとは。……その様子だと、クリフォート魔族王国でやるべきことを終えられたようですね」


「えぇ……その通りです。ただ、出発した当初とは大きく予定が変わりまして、今回はお二人に俺達がクリフォート魔族王国でどのようなことをしてきたかをお伝えすると共に、今後この世界で起きることをお伝えするべく参りました。……先に事情を伝えるべきだと思いましてね」


「……それは……恐ろしそうな話でありんすね」


 瑠璃は魔法少女への変身を解き、庚澤無縫の姿に戻った。

 その身に纏うのはパリッとしたスーツだ。

 カジノの客というよりも政府組織の一員としてのフォーマルな姿や、無縫の言葉から嫌な予感がしつつ、それぞれ用意されている紅茶で口を潤す。


「まず、元奴隷達ですが、その後新生活が送れるように手配しました。……まあ、若干二名、別の異世界に行きましたが、それ以外の方々は地球か異世界ジェッソで新たな生活を送っている筈です」


「……本当に一体何があったのですか?」


「まず前提として、我々大日本皇国とフィーネリアさんの故郷であるロードガオンは戦争状態にあります。その理由は、故郷である星が崩壊の危機にあるからです。ワーブルと呼ばれる力……まあ、魔力みたいなものだと思ってもらうと分かりやすいと思いますが、星はそのエネルギーで動いています。そのエネルギーが枯渇すれば星の大地は崩壊して、そこに住む生命は死んでしまうため、彼らは侵略活動を続けて星を維持するための生贄を探しました。それは、時に侵略活動で、時にそれぞれの派閥から生贄となる存在を出すことで。フィーネリアさんも四大領主に数えられる名家の生まれで、かつては四つの家が国を分割統治しつつ互いに勢力を伸ばそうとしていました。現在は植民地の国の人間が下剋上を果たして『神童』ヴァッドルード=エドワリオが天下を取り、更に侵略活動に力を入れるようになっています。彼らは星の維持のためのワーブルや植民地を求めています……が、彼らが本来求めているのはワーブルを必要としない安定した土地です。特に地球はワーブルがなくとも成立している星ですから、ロードガオンも特に興味を示しているようでした。……が、別に地球でなくても問題はありません。要は余程のことがなければ滅ぶことがない安定した大地があればいいのです」


「……例えば、このジェッソも条件に当てはまりますね」


「まあ、でもジェッソを差し出すというようなことは言いませんよ。……異世界召喚されても流石にそこまではブチ切れませんって。というか、ルーグラン王国と白花神聖教会以外の方々にはいい迷惑じゃありませんか。ですが、代わりに移住できる場所があればいいというのは良い考えだと俺も思います。そこで、力を借りようとしたのが異世界アルマニオスと呼ばれる世界です。その世界もかつては人間と魔族が争いを繰り広げていました……が、その戦争は多くの先人達の努力によって終戦を迎えました。その後、技術の発展が進み、星は豊かになりましたが……その代償として自然が破壊され、地上ではとても暮らせないような世界になってしまいました。そこで、その異世界では総力を上げて他の星を生み出して移住をしようという計画が進められていたのです。俺達はロードガオンの持つ技術の提供を対価として、移住先の星を作ってもらえるようにと交渉に行ったのですが、そこで、エアリスさんとミゼルカさんは衝撃を受けたようで、異世界ジェッソをそのような世界にしてはならないとその地で学ぶことを決めたようです。正直、環境が破壊されつつある地球の人間としては耳が痛い話ですよ。ちなみに、その世界の問題は俺の魔法で解決して、その対価として移住先の星を譲り受ける形で落ち着きました」


「それは……なんともまあ、凄い旅でありんすね。……ミゼルカさんに、エアリスさん……本当にこの世界のことを思って、尊敬しんす」


「話が大きく逸れましたが、本題ですね。まあ、無策で砦まで行きましたので当然ながら砦を守っていた対人間族魔国防衛部隊と交戦寸前まで行きました」


「……助けた奴隷の方々は連れて行かなかったのですか? 彼らからも説得して貰えば」


「奴隷を無理矢理従えさせていると思われても逆効果ですし、俺達二人だけでどうにかなると思ったんですよ。……ギリギリのところで偶然視察に来ていた宰相閣下がいなければどうなっていたことやら」


「……計画性皆無……恐ろしゅうござりんすね」


「そう褒めないでくださいよ!」


「……褒めてないわよ、無縫君」


「その宰相閣下は話が通じる方でして……多分、あの感じは異世界転生者っぽいなぁ、と思いましたが……そういや聞いてなかったなぁ」


「まあ、そうね。言われてみたらこの世界にはない筈の珈琲を躊躇いなく飲んでいたし、かなり地球の色々な文化が流入して、そのほとんどにシトラス宰相の影響がある感じだったし、もしかしたら転生者かもしれないわね」


「俺達にそれをカミングアウトしなかったのですから、それは触れなくていい話題なのかと思ってスルーしていました。それに、地球といっても無数の並行世界が存在していて、似たような文化を持つだけで別の地球や、それに類似する星から転生した可能性も……ってこんがらがるような話をしてすみません」


 オスカーとベアトリンクスが混乱しているの見て、この話はこれ以上続けるべきではないと話を中断した無縫は、話を本筋に戻すことにした。


「ただ、宰相閣下もただで魔王への謁見を許可してくれた訳ではなく、そのために力を示すことを求められました。四代目魔王テオドア陛下によって作られた新しい魔王選定の祭典――『頂点への挑戦(サタン・カップ)』です。まず、予選として魔王軍幹部が治める十個の領地を巡ることになります。八つの資格を集めれば合格ですが……」


「まさか、十個全て?」


「当然ですよね。そっちの方が楽しそうですし。その旅を通じて多くの出会いに恵まれました。ここに一緒に来たレフィーナさんとレイヴンさんもこの幹部巡りを通じて得られたかけがえのない友人です。それと、俺がいない隙に天空カジノに赴いて多額の負債を抱えて逃げまくっていた魔王の娘と妖精を連行したり、と色々なことをしながら十個全ての資格を揃え、いよいよ本戦に出場することになったのですが……その道中で想定外の妨害を受けまして、初代魔王と一戦交えることになってしまいました」


「……どうしてそうなるんですか!?」


「初代魔王? 伝説の存在ではのうて、本当に実在しているのでありんすか?」


「そうですね。……というより、初代から四代目まで全員存命でした。流石は長命種が多い種族ですね。それで、初代魔王がそんな闇討ち紛いなことをしたかというと、古い友人のために俺の実力を見極めるためだったみたいです。その友人の力になれる存在かどうか見極めるためだったと。その友人というのがですね、ベンタスカビオサっていう神だったんですよ」


 その名前を聞き、オスカーもベアトリンクスも衝撃を受けて固まってしまった。

 特にベアトリンクスは魔族である。その名前は特別な意味を持つのだろう。


「まあ、ご存知の通りエーデルワイスを崇める二つの宗教においては長らく邪神として扱われてきた神ですね。創世に携わった存在で、魔族の生みの親でもあります。……彼や、彼を含む神々は基本的に地上に対して不干渉な立場を取っていました。人間と魔族の争いも、魔族にとっての試練であり、成長の場である。それ故に神である自分が手を出してはならないという立場ですね。……まあ、人間も魔族も等しく世界を作った彼らにとっては我が子も同然。そんな子供達の喧嘩に大人が混ざるべきではないという考えは分からないでもありません。ですが、流石に異世界召喚は許容できなかったようです。ベンタスカビオサは俺にエーデルワイスを懲らしめるように求めてきました。確かに、内務省の人間としては、自国民を拉致された挙句、勇者として祭り上げられて戦場に放り込まれ、更に仮に戦果を上げても元の世界に戻れないなんていう不平等にも程がある状況を押し付けられたのですから、到底彼らを許すことはできません。俺は当初、エーデルワイスを奴らの目の前で殺害して、それをルーグラン王国並びに白花神聖教会への報復とするつもりでした」


「……神にも当然のように喧嘩を売るのですね」


「国だろうと神だろうと、俺は敵と判断した相手は殺してきましたからね。今更です」


「……それなら、マフィアの一つ潰すのも容易いでありんしょうね」


「ただ、ベンタスカビオサはエーデルワイスを決して殺すな、という条件を出してきました。……では、その対価に何かを差し出すのかと尋ねても初代魔王ジュドゥワード共々良い返答は返ってこない。本人にはその気はないのでしょうが、神という立場を振り翳して自分の意向を貫こうとする行いはエーデルワイスとどれだけ違うでしょうか?」


「……まあ、確かに不平等ですが、大抵の人は神に言われればノーなんて言えないんですよ」


「既に本戦出場の権利も獲得し、それに勝てば四代目魔王との交渉もできますから、正直ポッと出の神様にあーだこーだ横槍入れられても困ります。まあ、ただ、女神の良い使い道を思いつきましてね」


「……使い道って……腐っても神に使う言葉ではありんせんと思いんす」


「ということで、『命だけは』助けるという妥協点で、交渉成立としました。要するに命以外、基本的人権の全ては俺が貰い受ける、それに対して文句は言わせないってことですね」


 その言葉になんともいえない顔になる二人。エーデルワイスの行いが行いだとはいえ、当人の知らぬ間にそのような密約が結ばれてしまっているという点には流石に同情してしまったのだろう。


「それで、魔王との戦いに勝利した俺はテオドア陛下と交渉して、大日本皇国との間で二つの条約を結ぶことになりました。通商と、戦力的な協力の二つですね。複数の異世界とも同様の条約を結んでいるので、クリフォート魔族王国は所謂異世界同盟に加盟したということになります。クリフォート魔族王国はこれまで先代勇者との約束を守り、人間側から攻められても決して報復はしませんでした。そして、そのスタンスは今後も変わりません……変わりませんが、大日本皇国はルーグラン王国並びに白花神聖教会の行いを大日本皇国への宣戦布告と捉え、戦争を仕掛けるつもりです。そこには、ロードガオンや大日本皇国の各戦力が参戦することになります。そして、大日本皇国が参戦する以上、その同盟国であるクリフォート魔族王国もこの戦争に参加せざるを得なくなる状態になるということです」


「……つまり、お二人が私達の元に挨拶に来た理由は、近い未来に起こる戦争について知らせるためですか」


「その通りです。その期間、ルーグラン王国には近づかないようにお願いします。……まず、間違いなく全面戦争になりますからね」


「……まさか、このような事態になるなんてね……魔族と敵対ではのう、寧ろ魔族と組んで人間と戦うなんて、驚きんした」


「ルーグラン王国と白花神聖教会には元々報復するつもりでしたからね。見極めるべき対象は魔族だけでした。……まあ、召喚した勇者の中で使えないと思っていた奴が実は国を滅ぼす厄災だったという訳です。恨むべきは、召喚なんてものを実行した己でしょうね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ