クリフォート魔族王国での激闘を終えて……。後篇
メープル、エスクード、アルシーヴ、ラピスの四人についてのアンケートが終わり、魔王軍幹部は残り六人である。
順当にいけば次はヴィトニルだが……。
「本戦で再戦したお三方は最後に回しましょう。次にカイツール区画のイリアについての感想をお願いします」
ヴィトニルを飛ばしてイリアについての感想をシトラスは求めてきた。無縫としても、ヴィトニルは後の方で話したいと考えていたのでこの提案はありがたいものであった。
「第一印象もその後の印象も最悪ですね。まあ、俺が腐女子という存在を、主に『びしょっぷサークル』のまふゆみのせいで嫌悪していたということもありますが、それを抜きにしても天空騎士団に伝えなかったりと杜撰なところが多々あります。魔王軍幹部の皆様は副業持ちの方ばかりですが、本業も副業もどちらもしっかりとこなしておられますが、イリアさんと、もう一人ベークシュタインさんについては魔王軍幹部の仕事を蔑ろにしているところがあり、その点も印象の悪さに繋がっています。ただ厄介なことになかなか強いんですよね。【フレスベルグの有翼の乙女】であるが故に霊的な力を自在に操ることができるのは単純に言って強いです。鬼斬の技術がなければ分の悪い戦いを強いられることになります。……ソトヅラも清楚で強い魔王軍幹部の女性を演じていますし、同人作家の立場を優先して魔王軍幹部の仕事を蔑ろにしていることと腐女子であることを除けば魔王軍幹部であることも納得できる人材だと感じました。試練もカイツール区画らしい空中戦を強いられるもので、総合的に見れば満足度が高い内容でした」
「……イリアらしさを全否定しているような回答ですが、私も思うところがない訳ではありません。まあ、最低限の仕事はしてくれているのでこちらもあまり強くは言えませんが。次はイリア以上の問題児、ケムダー区画のベークシュタインについての感想をお願いします」
「あの方は領主としては論外ですね。側近のカトレアさんが領主の仕事を完全に代行していますから。始まりの大穴の管理が重要な役目であることは分かりますが、本人がその特権を最大限利用して始まりの大穴に潜り続け、幹部戦を行える機会が少ないのは、挑戦者にとってはいい迷惑です。……十人中八人を選択できるので、彼を選ばないと選択ができるからこそ許されているところがありそうだなぁ、と感じました。強さに関してはよく分からないというのが本音ですね。異界の結晶を纏った剣を使った戦闘しか経験していませんから、遺物と呼ばれる強力な武器を使ったらどれほどの強さだったのかについては興味があります」
「……まあ、彼は強いからこそ許されているところがありますからね。八人目の順番を任せられるくらいには。では、話の流れで飛ばしてしまいましたが、ツァーカブ区画のマラコーダについての感想をお願いします」
「そうですね。一言で言えば模範的な領主でしょうか? 特産の薔薇を使った商品開発をして、その利益をツァーカブ区画に還元しようとしたり、目安箱を設置して民の声を治世に反映させようとするなど、領民のことを第一に思っていることが伝わってきました。色々とアイデアをお伝えできたので、それどう活かすか今後が楽しみですね。試練も迷路に仕掛けを施して難易度を高めていますし、なかなかの歯応えだったと思います。戦闘力の方はというと、やはりベテランというだけあって状況判断能力や適応能力がかなり高いように感じました。薔薇を彷彿とさせる魔法も実に見事でしたが、マレブランケの種族特性を活かした攻撃はあまり見られなかったので再戦の機会があれば、更なる技の引き出しを見てみたいところです」
「マラコーダはやはり安定していますね……流石はベテランというべきか、今後も末永く魔王軍幹部を続けてもらいたいものです。では……続いてアィーアツブス区画の白雪についての感想をお願いします」
「まず、試練そのものは全体的に難しい印象ですね。これはジェイドさんにも言えますが、九番目、十番目ということでかなりの難易度に仕上がっていると思います。とはいえ、クリアできないこともないので塩梅はいいと思いますよ。肝心の白雪さんですが、雪女の種族特性を完璧に引き出した理想の雪女と呼ぶべき存在だと感じました。基本的には氷属性の大魔法を駆使して無類の制圧力を誇りますが、接近戦もできたりと遠近共に隙がないのも魅力的です。……まあ、『操力の支配者』との相性が悪過ぎてその強さを感じにくかったのが少し残念だったかもしれません。それは、四天王のレインさんも同様ですね」
「なるほどなるほど……では、続いてアクゼリュス区画のヴィトニルはどうでしょうか?」
「個人的には嫌な奴だと思います……麻婆豆腐の件で突っかかってきますし、目の敵にしてきますし。まあ、だけど俺の体術を見様見真似で瞬時に習得した適応力、本戦では覇霊氣力を習得してきたりと、想像の遥か上をいく適応能力を持っていると感じました。成長速度も尋常ではない……間違いなく、クリフォート魔族王国最強の体術使いは彼女でしょう。認めたくないですけどね」
「なるほど、なるほど……それでは魔王軍幹部の中では最後となるキムラヌート区画のジェイドはどうでしょう」
「キムラヌート区画で戦った時は確かに強いと思っていました……かなりの上澄ではあったと感じてはいましたが、『頂点への挑戦』の本戦でそれがあまりにも低い評価であったことを痛感し、評価を大きく上方修正することになりました。間違いなく、ジェイドさんは魔王軍の中で最強の存在です。魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを完全再現した前例はありません……間違いなく俺の人生で一番追い詰められた場面でした。本当は、今後色々な異世界と交易し、様々なことを知って再現できるものが増えてもっと強くなると言いたいところですが、もう既に最強クラスですからね。アドバイスも不要でしょう。再び合作できる時を楽しみにしています」
「確かにジェイドは頭ひとつ抜きん出た実力の持ち主ですね。……今回の大会を機に四天王への昇格を提案してもいいかもしれませんが、彼の性格からしてキムラヌート区画で自由気ままにやっているのがいいのでしょう」
「あー、それとキムラヌート区画の試練は満足できるものでしたが、受付については他の区画よりも明らかに質が低かったです。試練がほとんど行われないからだと思いますが」
「それはご迷惑をお掛けしました。後ほど、改善するように通達をしておきますね」
◆
十人の魔王軍幹部の感想を語り終え、残るは四天王と魔王のみ。
ここまでの旅を振り返るいい機会となり、無縫もこのアンケートを楽しんでいた。
リリィシアも楽しそうに話を聞いている。
「まずは四天王一番手のレインさん。魔王軍四天王の一番手といえば、順番的に最初ということで弱いイメージを持たれやすいですが、レインさんに関しては瞬間火力においては魔王軍一かもしれない実力者だと俺も感じています。魔王軍四天王と魔王軍外交部門、魔王軍兵站部門部門長の兼任による疲れを利用して空元気球を強化するのは見事としか言いようがありません。残念な点は回避できるということですが、使い方によってはその火力を完璧に活かすこともできるでしょう。個人的にはスライムの力を見てみたかったですが、空元気玉を見れただけで十分です」
「あの力を真正面から打ち破ったのは無縫殿が初めてです。やはり、魔王軍最強の矛は伊達ではないと思います」
「二番手はアルルーナ=ドリュアデスさんですね。勤勉な人が多い魔王軍の中でニートに洒落込むなかなかの駄目人間ですが、一度腹を括ったら流石は魔王軍四天王と思わせる強さを見せてくれました。剣を捨てて渾身の『向日葵大光砲』を放つ胆力も実に見事。まあ、でも次鋒らしく四天王最弱かもしれませんね」
「強さだけが取り柄のような方ですからね。彼女から戦いを取ったら自堕落なニートしか残りません」
「……それは流石に言い過ぎじゃありませんか?」
辛辣な物言いをする無縫とシトラスに思わずリリィシアがツッコミを入れてしまう。
「三番手は緋月さんですね。本戦での戦いにしてこれが良かったとか、あれが良かったとか、そういう感想は全くありません……ただ、本気の緋月さんと戦いたかった。ヴィトニルが好きな麻婆豆腐が【満月食堂】の看板メニューだと聞いているので後で食べに行きたいと思っています」
「確かにお腹が空いてきましたね。後で一緒にいきましょうか? アンケートにも答えて頂けていますし、私が奢りますよ」
「流石にそういう訳にはいきませんよ。稼いでいるのでお金については大丈夫です。……さて、四天王も残すは一人。ゼクレインさんはやはり魔王軍四天王総大将は伊達ではない強さをしていますね。龍人族の力を十全に活かし、騎士剣術と組み合わせた戦闘スタイルは実に見事だと思います。近衛騎士達からも慕われている良き隊長のようですし、魔王軍になくてはならない存在なんだろうなぁと感じました」
「魔王軍四天王の四番手を安心して任せられるのは彼くらいしかいません。龍の里との関係が良くなればいいとは思うのですが、あれだけの実力者ですから族長にしたいという里側の希望も分からないでもありません」
「最後はテオドア陛下ですね。これまで、ジュドゥワードさん、ベンマーカさんと二人の魔王軍幹部と戦ってきました。このうちジュドゥワードさんはこれまで戦った魔王の中でもかなりの上澄であると思いましたが、魔剣術・魔法共に一切の隙なく鍛えられ、特に【限界突破・波旬】まで重ね掛けした状態ではジュドゥワードさんすら上回る強さを感じました。三代目魔王については会ったことがありませんが、クリフォート魔族王国の魔王の中では最強だと思いますよ」
「ありがとうございました。今回のアンケートは今後の大会運営に活かさせて頂きます。それでは、丁度お昼時ですし【満月食堂】に参りましょうか?」