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頂点への挑戦での対決! 魔王・テオドア=レーヴァテイン!

「魔王とは魔を統べる者! 様々な魔法に精通し、魔剣を自在に操るものである……と俺は考えている。剣術と魔法、両方扱えてこそ魔王だ! 真紅の新星(スカーレット・ノヴァ)!!」


 戦闘開始早々、テオドアが放ったのは太陽にも匹敵する超高温の巨大火球を放つ高位魔法だ。


極寒の青巨星(アフーム=ザー)!!」


 一方、真っ向勝負の魔法戦を選んだ無縫は瞬時に魔法を組み上げ、「真紅の新星(スカーレット・ノヴァ)」に匹敵する巨大な冷気の塊を生み出す高位魔法を巨大火球へと放つ。

 両者の正と負のエネルギーがぶつかり、互いに相殺されたタイミングを見極め、無縫が「瞬閃走」を使って一気にテオドアに迫る。


「【魔王の一斬サタナキア・ダークネスラッシュ】!!」


「【勇者の一撃ブレイブ・セイントスラッシュ】!!」


 迫り来る無縫にテオドアは魔剣を振るって闇の斬撃を放つも、斬撃は無縫の聖剣オクタヴィアテインから放たれた勇者の一撃により相殺されてしまう。


「【魔王の一斬サタナキア・ダークネスラッシュ】!!」


「――ッ!? やはり、二刀流である分手数が一手多いか!?」


 更に無縫は間髪入れずに魔剣デモンズゲヘナを振るって魔王の一撃を放った。

 テオドアは辛うじて回避に成功して素早く距離を取るも、勇者と魔王の力を同時に使える二刀流の剣士の恐ろしさを実感することとなった。


「【闇堕魔翔刃サタナキア・ブレイドストーム】!!」


「――遅いッ!」


 テオドアは無数の闇の斬撃を飛ばす魔王技を放つ……が、無縫はなんと聖剣オクタヴィアテインと魔剣デモンズゲヘナを中空に放り投げてしまった。

 そして突き出される左手――テオドアは次の瞬間、発動される魔法が「【被害の逸避(ディフレクターム)】」であることを確信した。


「【被害の逸避(ディフレクターム)】……そして」


 いつの間にか無縫の手には三つのダイスが握られていた。

 それを無縫は無造作に右手で放り投げる。


天使の賽子(エンジェル・ダイス)……出目は『身体強化・攻』、『身体強化・防』、『身体強化・速』!!」


 ただでさえ強い無縫の力が天使の賽子(エンジェル・ダイス)によって更に強化される。


「――ッ! この上強化までするのかよ!?」


「まあ、ギャンブルですから望まない出目が出る可能性もありますけどね」


「無縫殿がダイスを振ったら百パーセント狙った出目が出るだろッ!! ならば、こっちも全力だ! 【限界突破】! 【限界突破・重式】! 【限界突破・覇潰】! 【限界突破・天魔】! 【限界突破・奈落】! 【限界突破・波旬】!!!!」


 一握りの者のみに与えられる人類の限界を越える技能――【限界突破】。

 それをあろうことかテオドアは次々と重ねがけをしていく。

 その紫色の輝きは、青色、緑色、黄色、橙色、赤色へと変化した。


 激しい稲妻のように膨大なエネルギーを放ちながらテオドアは地を蹴って加速する。

 踏み込むと同時に地面には巨大なクレーターが生じ、膨大な赤い稲妻が迸る。


「そういや、【限界突破】の技能は持っていたけど使ったことなかったなぁ……こんなに重ね掛けするとはたまげたよ」


「三代目魔王ロズワール殿を倒した時以来だよ。これが、俺の全力だ!!」


「そうか……じゃあ、俺も全力(・・)で相手をしなければならないな!」


 テオドアは己ができる最大級の強化をした。

 それでもなお無縫は聳え立つ高い壁であったが、しかし、それでも無縫に痛手を与えることができるのではないかという淡い幻想があったのだ。


 それが、たった一瞬にして吹き飛んだ。


「覇霊氣力の真髄を見せてやろう。――その力を濾過し、新たな段階、神霊覇気(マグヌム・オプス)へと進化を遂げる!」


 黒稲妻と化していた覇霊氣力が、全て純白に染まる。真っ白な稲妻――白稲妻と呼ぶべきものは大地を、天を、あらゆる方向に発散され、稲妻に打たれた地面は砕け散り、空は白い稲妻が迸ると同時に雲が裂かれ、天が二つに割られてしまう。


 その力は無縫の全身を包み込み、巨大な一つの像を成す。

 その形は神々しい女神の姿をしていた。無数のダイスのようなものを弄ぶ大いなる神の幻影を目の当たりにしたテオドアは、それが無縫の正体(・・・・・)である(・・・)と本能的に察した。


「――だからって、負けられるかよ!! 俺は四代目魔王! クリフォート魔族王国の頂点なんだ!! 信じてくれた国民に、無様な姿は見せられないんだよ!!」


 テオドアを突き動かすもの、それは意地だ。魔王として、クリフォート魔族王国の長として負けられないという強い意志。

 もし、テオドアが魔王でなければ、この場からの逃走を選んでいただろう。


 ――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いッ!!


 押し寄せる不安をテオドアは粉砕し、魔剣ダークネスディアマンテを強く握り締めた。


「――【魔王技奥義・魔闇大破斬サタナキア・スラッシュバースト】!!」


 構えこそ【魔王の一斬サタナキア・ダークネスラッシュ】と同じだが、全ての魔力を焚べる勢いで魔力を注ぎ込み、膨大な闇の力を乗せた斬撃を砲撃の如く放つ魔王技の究極技。

 それを、テオドアは【限界突破・波旬】を発動した状態で放った。


 これこそが、テオドアの全力――限界である。


「【限界突破】! ――【勇者技奥義・勇聖大破斬セイクリッド・スラッシュバースト】!! 【魔王技奥義・魔闇大破斬サタナキア・スラッシュバースト】!!」


 その全力を無縫は容易く超えていく。

 賽子を投げた後に回収していた聖剣オクタヴィアテインと魔剣デモンズゲヘナに膨大な聖属性と闇属性の力を収束し、無縫は二つの奥義を同時に放つ――膨大な神魂覇氣(マグヌム・オプス)を乗せて。


 それは、まるで女神が双剣を振るうような光景だった。


「【太極(インヤン)混沌御中(アザトーストテプ)】!!」


 二つの力が混ざり合い、混沌としたエネルギーが解き放たれる。

 エネルギーはテオドアの放った魔王技の奥義諸共テオドアを飲み込み、一瞬にして戦場から消し去ってしまった。



 『夢幻の半球(ドリーム・フィールド)』が解除され、崩壊した戦場が元の円形闘技場(コロッセオ)に戻る。

 ただ一人無縫だけが立つ円形闘技場(コロッセオ)の舞台を……否、円形闘技場(コロッセオ)全体を静寂が包み込んだ。


「『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の本戦、庚澤無縫vsテオドア=レーヴァテイン。勝者ッ! 庚澤無縫!!」


 シトラスが勝者の名を呼んだ瞬間、会場を「うぉー!!」と歓声が包んだ。


「凄ぇ! 凄ぇよ! 二人とも!!」


「あの無敗のテオドア陛下にも、遂に敗北が……」


「この戦いを見届けられて本当に良かった!! いい勝負だったぜ!!」


 庚澤無縫は挑戦者の中でも例外の立場であり、魔王の座が交代になる訳ではない……が、歴代最強の魔王などと呼ばれ、無敗記録を重ねてきたテオドアが敗北したという事実は大きな意味を持つ。

 この戦いは、間違いなく次の時代の風というものを感じる戦いだった。


「……まあ、魔王としての責務は果たせた、ってことでいいかな?」


 『夢幻の半球(ドリーム・フィールド)』の外で復活したテオドアが舞台上に歩みを進める。

 そして、無縫の近くまでやってくると円形闘技場(コロッセオ)を見渡した。


「我が国の宰相シトラスは、【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】において庚澤無縫と一つの約束を結んだ! 俺との謁見の機会を掴み取りたければ『頂点への挑戦(サタン・カップ)』で優勝せよ! と。庚澤無縫はその約束を果たしてみせた。俺は王座を譲る代わりに、庚澤無縫と……否、彼の故郷である大日本皇国との会談の機会を求めたいと思う! 今年の『頂点への挑戦(サタン・カップ)』はイレギュラーな形となった。そのため、魔王を目指していた者達には申し訳ないことをしたと思う。だが、庚澤無縫を中心として今年は多くの猛者が集った。今年、『頂点への挑戦(サタン・カップ)』で負けてしまった者達も形が違えば魔王の座を掴める可能性があっただろう! 私は魔王としてこれからも君達の目指す壁でありたい! 来年の『頂点への挑戦(サタン・カップ)』で相見えることを楽しみに待っている!!」


 テオドアはそう宣言し、円形闘技場(コロッセオ)を去っていく。

 そして、テオドアと入れ替わるようにシトラスが姿を見せた。金色に輝くトロフィーを抱え、現れたシトラスは無縫にトロフィーを手渡した。


「今年の優勝記念のトロフィーとなります。お受け取りください。……テオドア陛下との謁見改めて大日本皇国とクリフォート魔族王国の二国会談ですが、この後すぐにでも行えるように準備は整えてあります。別日が良い場合は改めて希望日時をお伝えください。……それと、私個人として無縫殿に一つお願いしたいことがあります」


「丁度俺もシトラスさんにお願いしたいお話がありましたので、また会談後が終わったところで」


「それがいいでしょう。こちらも予定を調整しておきます。……庚澤無縫さん」


 トロフィーを手渡し、役目を終えたシトラスは円形闘技場(コロッセオ)の舞台から去ろうとしていた……が、ふと何かを思ったのか無縫の方へと振り返った。

 その顔は相変わらず無表情だが、その顔がいつもより少し嬉しそうなように無縫は感じだ。


「私の提案を受け入れてくれてありがとうございました。貴方と出会い、多くの者達が良い刺激を受けることができました。きっとこれから、クリフォート魔族王国は更に良い国になっていくでしょう」


「本当にシトラスさんはクリフォート魔族王国が好きですね」


「えぇ、私はこの人生をテオドア陛下とクリフォート魔族王国に全て捧げるつもりで生きていますから。――それでは私はこれにて失礼致します」



 客席の方へと戻った無縫はヴィオレット、シルフィア、惣之助、龍悟、リリス、肇、翼冴、リリィシア、レフィーナ、カーリッツ、ギミード、ワナーリ、スグリ、マルセラ、ガルド、シャルロット、シエル、オズワルド、ヴィクター、ミリア、対人間族魔国防衛部隊の面々、レイヴン、クロムロッテ、イクス、ルキフグス=ロフォカレ学園の応援団、そしてメープル、エスクード、アルシーヴ、ラピス、マラコーダ、白雪といった魔王軍幹部に、レイン、アルルーナ、緋月、ゼグレインの魔王軍四天王といった面々に温かく迎えられた。

 ちなみに、ヴィトニル、イリア、ベークシュタイン、ジェイド、詠の五人は既に会場から去っており、この場にはいない。


「お帰りなさい、無縫さん。優勝おめでとうございます」


「ありがとうございます、リリィシアさん」


「無縫が魔王陛下に勝利したお祝いに祝勝会でもやろうか……と思っていたんだが、もう一仕事あるんだよな?」


「ギミードさん、ありがとうございます。……そうですね、寧ろここからが本番かもしれません。大田原さん、シトラス宰相閣下は今からでも会談を始められると仰っていました」


「分かった。折角無縫が作ってきた機会だ。龍悟、リリス、俺達も行くとするか!」


 かくして、無縫、ヴィオレット、シルフィア、惣之助、龍悟、リリス、リリィシアの七人はレフィーナ達と別れ、魔王城へと向かった。

◆ネタ解説・百九十四話

真紅の新星(スカーレット・ノヴァ)

 着想元は丸山くがね氏のライトノベル『オーバーロード』に登場する第九位階魔法「朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)」。

 アニメ『遊☆戯☆王5D's』に登場し、後にANIMATION CHRONICLE 2024でOCG化された地縛神スカーレッド・ノヴァからもネーミング面で影響を受けている。


極寒の青巨星(アフーム=ザー)

 『クトゥルフ神話』に登場する旧支配者で冷気の炎を纏う神。

 リン・カーターによって創造された。

 炎の旧支配者クトゥグアの子でクトゥグアが旧神によってフォーマルハウトに封印された後に産まれたとされている。


【限界突破・覇潰】

 元ネタは『ありふれた職業で世界最強』に登場するスキル〝限界突破〟の派生〝覇潰〟。


【限界突破・奈落】

 仏教における地獄。

 梵語のナラカ/narakaを漢字に音写した「奈落迦」が転じたものである。

 ちなみに、奈落を限界突破の派生として選んだ理由は、漫画『銀魂』に登場する、天導衆配下の暗殺部隊「天照院奈落」が思い浮かんだからである。


【限界突破・天魔】と【限界突破・波旬】

 天魔とは第六天魔王波旬を指す言葉である。

 即ち仏道修行を妨げている悪魔のことであり、天子魔・他化自在天・第六天魔王ともいう。

 戦国武将の織田信長が第六天魔王が自称したという伝承も残されている他、室町幕府の第六代征夷大将軍で「くじ引き将軍」の異名で知られる足利義教も第六天魔王と呼ばれて恐れられたと言われているようだ。

 なお、決定打となったのはそのどちらでもなく正田崇氏の神座万象シリーズに区分される『神咒神威神楽』のラスボスである波旬大欲界天狗道ことマーラ・パーピーヤスだったりする。


太極(インヤン)混沌御中(アザトーストテプ)

 『クトゥルフ神話』の主神・原初にして最強の外なる神である盲目白痴の創造神アザトースと、アザトースの息子にして外なる神達のメッセンジャーとして活動する邪神ニャルラトホテプを組み合わせた造語。


◆キャラクタープロフィール

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・テオドア=レーヴァテイン

性別、男。

年齢、三十一歳。

種族、純魔族。

誕生日、九月八日。

血液型、A型Rh+。

出生地、クリフォート魔族王国辺境。

一人称、俺。

好きなもの、特に無し。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、アーネスティア。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、クリフォート魔族王国魔王。

主格因子、無し。


「魔族を統べる魔王。種族は純魔族。様々な魔族に分類される者達の戦争を終結に導き、魔国を建国した初代魔王から数えて四代目。これまで不透明だった魔王襲名の手順、通称「頂点への挑戦(サタン・カップ)」のルールを制定すると共に魔王軍四天王や魔王軍幹部に明確な立ち位置を与えた中興の祖。かつては力を思う存分振える戦いを求めて暴れ回り魔族の頂点に立つことを目指していた。なお、若い頃の自身のことは黒歴史だと考えている模様。後にピジョンブラット公爵夫人となるアーネスティアと幼少の頃に出会っており、初対面の時点で一目惚れしていた。高い戦闘力を持ち令嬢騎士として名を轟かせていた彼女の提唱する「武力を戦争の道具にしない」方法に共感し、人間と魔族が歪み合わない平和な世界を作るために尽力していくことを決意する」

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