幕間! 頂点への挑戦一日目を終えて。
Aブロックを突破した無縫は、レフィーナとレイヴンと共にヴィオレット、シルフィア、惣之助、龍悟、リリス、肇、翼冴、詠、リリィシアのいる観客席に向かい、合流を果たした。
ちなみに、オズワルドとミリアは対人間族魔国防衛部隊の面々が集まっている反対側の観客席に向かっております、シエルもミリアに促されるまま対人間族魔国防衛部隊のグループと合流したようだ。
そこには、魔王軍即応騎士団の団長を務めている魔王軍幹部のエスクードも駆けつけて「無縫相手によく奮戦した!」と健闘を讃える言葉を掛けていた。
ミリアとシエルは敗退してしまった……が、この戦いでの経験はきっと二人の糧になってくれるだろう。
クロムロッテとイクスは教務主任のミッシェールと実技科目教科統括教官のクォールトの両名が引率を務めるルキフグス=ロフォカレ学園の応援団が集まっている客席に向かい、学園の応援団から温かい拍手で迎えられていた。
学園長であるアルシーヴも合流し、二人と剣闘を讃えている。
そんなクロムロッテとイクスから「一緒に学園の応援団の方に合流しなくていいのかしら?」と尋ねられたレイヴンだが、「師匠に感謝を伝えないといけないでござるから」と合流を断って無縫達についてきていた。
「行ってもどうせ嫌味を言われるだけだし、あの防衛大臣のところにお礼を言いに行くより学園の仲間達と楽しい時間を過ごした方がいいんじゃないか?」と内心思っていた無縫だが、レイヴンは義理堅く詠へのお礼を選んだようだ。
カーリッツ、スグリ、マルセラ、ガルド、シャルロット、ギミード、ワナーリもそれぞれ確保していた席に座って大会を楽しむ気満々のようで、無縫達とは別行動を取っている。
「ふん……雑魚相手に随分と時間が掛かったようだな」
「難敵ばかりで何度もヒヤリとしましたよ。やっぱり、クリフォート魔族王国はレベルが高いですね」
到着早々投げかけられた詠の嫌味に無縫が微笑を浮かべて決戦の舞台で鎬を削ったライバル達を称賛する。
「師匠、ご指導ご鞭撻感謝するでござる!! この舞台に立てたのも師匠のおかげでござる!」
「……ふん、俺はただ俺の利益になることをしただけだ。レイヴン、貴様には約束を守ってもらうぞ。学園を卒業したら三年間自衛陸軍でたっぷりとこき使ってやるからな。……それと、俺のおかげというが、全ては血が滲むような努力したお前の頑張りだ。この戦いで得られたものをよく覚えておくといい。……よく頑張った」
「あら、防衛大臣殿は素直に褒めることもできるのね」
「……小娘、そんなに叩き切られたいなら今すぐ真っ二つにしてやろうか?」
「まあまあ……レフィーナ嬢、そう詠の奴を煽らないでくれ。――無縫、素晴らしい戦いだった。といっても、まだ戦いはここからだ。魔王軍四天王や魔王にたっぷりと無縫の強さを見せつけてくるといい!」
「ありがとうございます、大田原さん」
「無縫さん、Aブロックでの勝利おめでとうございます。レフィーナさんとレイヴンさんもお疲れ様でした」
「うむ、三人とも素晴らしい試合だった。私も魔王を継ぐものとして負けていられないと思ったよ」
「無縫さん、レフィーナさん、レイヴンさん、お疲れ様でした。ゆっくりと体を休めてください」
「……肇さん、そんな風に気を遣えたんですね」
「――ッ!? 無縫さん、私を何だと思っているんですか!?」
「自分が良ければ全て良いって思っている悪童がそのまま大人になったようなタチの悪いクラッカーでしょう? 無縫さん、レフィーナさん、レイヴンさん、お疲れ様でした」
「藤牧さん、ありがとうございます」
「藤牧さんと私の扱い違い過ぎません!?」
「そりゃねぇ、仕方ありませんよね。……で、どこ行くんですか?」
「ミリアさんとシエルさんに『素晴らしい試合でした』って伝えてこようと思いまして。私も二人と一緒に旅をしてきましたからね」
「では、私も一緒にお供しましょう」
肇と翼冴が立ち上がり、対人間族魔国防衛部隊のグループの方へと向かう。
その後ろ姿を見送ってから無縫はヴィオレットとシルフィアの隣の席に座った。
「無縫、お疲れ様なのじゃ。レフィーナ殿とレイヴン殿も素晴らしい試合じゃった」
「レフィーナさん、レイヴンさん、お疲れ様。二人とも無縫君をあそこまで追い詰めたんだから凄いよ! 無縫君もお疲れ様」
「……おい、シルフィア。何いい感じに終わらせようとしていやがるんだ? お前、さっき言ったこと忘れてねぇよな?」
「ナ、ナンノコトカナ?」
「シルフィアさんには感謝しかないけど……半分くらいはあの賭けのせいで負けたような気がするわ」
ジトーとした目をレフィーナと無縫から向けられ、ブルブルと震えるシルフィア。
「……ち、ちなみに今の無縫君の全財産って?」
「大日本皇国の円だけで兆に到達しているね。まあ、二倍くらいで勘弁してあげるよ」
「む……無理だよ! ただでさえ無縫君には凄まじい額の借金をしているのに」
「最早ここまで来たら誤差じゃろ。今更兆の桁が増えたところで何も変わらん」
「……二人とも反省した方がいいと思うわ」
天文学的な借金を抱えてなおギャンブルをやめられない二人に生暖かい視線を向けるレフィーナだった。
「ご歓談中失礼致します」
唐突に声を掛けられ、無縫が振り返るとそこにはレインの姿があった。
「お疲れ様でした、無縫殿、レフィーナ殿。楽しい時間を過ごせたこと、心よりお礼申し上げます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「……私は戦うことすらできなかったけどね。レイン様もお疲れ様でした」
「それでは、私はこれにて失礼致します。四天王は後三人、いずれも強敵だと思いますが、無縫殿であれば突破できると信じています」
レインは観客席にいる面々も含めた全員に会釈をするとそのまま去っていった。
◆
その後、Bブロック、Cブロック、Dブロックの試合がインターバルを挟みつつ行われた。
Bブロックは四天王のアルルーナが、Cブロックは四天王の緋月が、Dブロックでは四天王のゼクレインが、それぞれ四天王の貫禄を見せつけて魔王軍幹部や挑戦者達を撃破して次の試合に駒を進めた。
初日はDブロックの終了後に幕を閉じることとなった。
二日目は各ブロックの勝者との試合、そして魔王との戦いが行われるというスケジュールになっている。
観客達は基本的に魔都の宿泊施設で一夜を過ごすことになる……のだが、時空の門穴を使える無縫達には空間的な制約がないため、一度バチカルの宿屋『鳩の止まり木亭』に戻ることにした。
ちなみに、リリスを除く惣之助、龍悟、詠の三人は一度地球に帰還してまた明日、大会の会場に戻ってくることになっている。
肇と翼冴は対人間族魔国防衛部隊とルキフグス=ロフォカレ学園が合同で開催することになった「残念会」あるいは「お疲れ様でした会」と呼ぶべき飲み会に出席することになり、レイヴンもその飲み会に参加することになったため宿屋『鳩の止まり木亭』には戻ってきていない。
今頃は魔都のどこかのお店を貸し切って宴会をしているのだろう。
「無縫さん! レフィーナさん! お疲れ様でした!!」
宿の扉を開けた瞬間、スノウが無縫達の方に走ってきた。
無縫とレフィーナは二人でスノウを優しく抱き留める。
「……ん、二人ともお疲れ様」
ほんの少し遅れてタタラも姿を見せた。その隣には微笑ましそうにスノウ達を見つめるビアンカの姿もある。
「戦い拝見させてもらったわ。二人とも凄かったわね。無縫さん、明日が本番よ! 今日は沢山ご馳走を用意するわ!!」
「ありがとうございます。……と、フィーネリアさん達にも声を掛けてこないといけませんね。……それと、フィーネリアさん達への食事のお届け、ありがとうございます。助かりました」
「私達のことを頑張って守ってくださっているんですもの、これくらい当然のことよ」
その後、無縫は片付けを終えたフィーネリア達と【悪魔の橋】で合流し、ワーブリス兵だけ残して全員で宿屋『鳩の止まり木亭』に戻った。
ビアンカの用意してくれたご馳走に舌鼓を打ちつつ、幸せな時間を過ごす。
その夜は、無縫達の記憶に刻まれる最高の夜になった。
そして――。
◆
『頂点への挑戦』の本戦――大会二日目。
無縫の姿は円形闘技場の中央にあった。
基本的には魔王軍四天王の四人が相見えるこの舞台に、今年は一人だけ四天王ではない者が立っている。
それも、魔族ではなく人間だ。しかし、その突如彗星の如く現れた挑戦者達に対し、敵意が向けられることはない。
「アルルーナ様! 応援しています!! 頑張ってください!!」
「緋月様! 今年こそ優勝を掴んでください!! 緋月様以外の魔王はあり得ません!!」
「ゼクレイン様! 里に帰ってきて来てください!!」
アルルーナの強火ファンが絶叫するように応援し、三代目魔王の時代からの緋月のファンが応援の言葉を叫び、ゼグレインの妹であるティナ=ニーズヘッグが里に帰ってくるように叫び……あれ? 応援してなくない?
様々な応援の声が響く中、会場の人気を四分するように無縫への応援の言葉も響く。
「――無縫さん、頑張って!!」
「無縫君! 私が悪かったから! 昨日の借金は無かったことにして!!」
「無縫、楽しんでくるのじゃ!!」
……あれ? シルフィアさん、応援してなくない?
まあ、それは置いておいてレフィーナやヴィオレットを筆頭にこれまで無縫と出会った多くの者達が声を張り上げて応援する。
その手にはポップコーンやチュロス――軽食とソフトドリンクがあった。昨日と同様に戦いを肴にジャンクフードを満喫する気満々のようだ。
ちなみに、これもシトラスが導入したもののようである。ポップコーンやチュロスといった軽食やソフトドリンクやビールなどの酒類も販売されており、売り子の魔族達が席を回って販売している。無縫も自前の珈琲を飲みつつチュロスを食べながら三つのブロックの観戦をしていたので特に言うことはない。
「……ああ、今すぐ帰りたいですわ。昨日の夜、怖くて眠れませんでしたわ! 一睡もできませんでしたわ!!」
「アルルーナ、お前なぁ……。庚澤無縫殿、エーイーリー区画以来だな! あの日初めて会った時からこの舞台で相見えることになると確信していた! 魔王軍四天王の総大将として相見える時を楽しみにしている! ってことで、ここからはバトルロイヤルではなく連戦になる。魔王軍四天王の先発、レインを倒した無縫殿が次に相手をするのは次鋒のアルルーナだ。アルルーナを倒したら三番手の緋月さん、その次が一応四天王の総大将を務めている俺との戦いになる。途中休憩は無しで、戦闘への乱入も無し。まあ、うちの魔王様に挑むんならそれくらいやってもらわなくちゃな!」
「勿論です」
「では、まずは一戦目だ! アルルーナ、行ってこい!!」