頂点への挑戦での混戦! ライバル達との連戦に次ぐ連戦! 弍
「魔を導く剣よ! 【劫焔爆裂】!!」
「雷流星拳!」
爆裂魔法【劫焔爆裂】を込めた剣で斬りかかってくるクロムロッテと雷撃を乗せた拳で渾身の右ストレートを放ってくるイクスに対し、無縫は【万物創造】を駆使して一瞬にして背丈ほどの大剣を創り上げると、右手で剣を構え、左の拳を強く握った。
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に。形あるものはいずれ全て崩れ去る。それが世の理ならば、せめてその最期を爆焔にて彩ろう。審判の喇叭は吹き鳴らされた。終わる世界に鎮魂歌の代わりに鳴り響くのは、地を揺らす轟音。爆裂の音なり!! 【灰燼爆裂・斬】!!」
ルーツは違えど、込められし効果は全く同じ。
爆裂魔法を大剣に乗せ、迫り来るクロムロッテの剣に向かって斬撃を放った。
と、同時に左手の拳に雷属性の魔力を収束し、イクスの拳目掛けて渾身の左ストレートを放つ。
「雷霆拳!!」
クロムロッテと無縫の爆裂魔法が剣同士がぶつかった瞬間に起爆し、激しい爆炎を巻き起こす。
至近距離にいたクロムロッテは爆炎に巻き込まれて身体の大部分が消し飛び、残った体も無数のポリゴンと化して消滅していく……が、無縫の身体はほとんど無傷に近い状態で涼しい顔でイクスの拳を真っ向から受け止めていた。
「【大いなる護り】で爆炎から体を保護しました。……少し危なかったですね」
「あれだけの大魔法を放ちつつ、二つの魔法まで発動していたなんて……流石に壁が高過ぎるッ!!」
「さて、このまま拮抗させていても仕方ありませんし……一気に仕掛けさせてもらいますよ」
拳を握り締めてイクスの拳に真っ向からぶつけていた無縫は一瞬にして手を大きく広げると、掌でイクスの拳を包み込み――圧倒的な握力でイクスの拳を粉砕した。
肉片の代わりに無数のポリゴンが舞い散り、血液の代わりに大量の小さなポリゴンが宙を舞う。
自分の利き手が呆気なく破壊され、驚愕のあまり固まるイクスだったが、無縫が投擲した爆発によって刃が砕かれた大剣だったものが投擲されると、慌てて後方に飛んで距離を取った。
……が。
「【灰燼爆裂】」
無縫が容赦なく放った爆裂魔法がイクスを巻き込んで大爆発を引き起こし、イクスを跡形もなく吹き飛ばしてしまう。
「――マルセラさん、ガルドさん、シャルロットさん! 協力してください!! 一気に仕掛けますよ!!」
二人同時でも無縫の撃破は不可能だと確定した。ならば、更なる数の暴力で攻めるしかないと判断したスグリがマルセラ、ガルド、シャルロットに共闘を申し込み、四人ほぼ同時に無縫に攻撃を仕掛けた。
「【水奔瀑】よ!!」
「得意魔法かもしれないけど、流石にそんなに見せられたら対策の一つや二つ用意もするよ。【熱蒸爆】!!」
先制攻撃と言わんばかりに得意魔法の【水奔瀑】を無縫目掛けて放ったマルセラだったが、突如として自身の放った激流が気化し、大規模な水蒸気爆発を巻き起こした。
スグリ、ガルド、シャルロットの三人は咄嗟にスグリが放った風魔法で吹き飛ばされて水蒸気爆発の範囲から離脱することができたが、至近距離で水蒸気爆発に巻き込まれたマルセラは激しい衝撃と灼熱に晒されてしまう。
水蒸気爆発が無縫の展開した結界魔法によって抑え込まれ、結界の内部に掛けた魔法によって沈静化させられた頃にはマルセラは跡形もなく消し飛ばされ、『夢幻の半球』の外で復活していた。
本人も突然爆発に巻き込まれたため、何が起きたのか分からず困惑を隠しきれないようだ。
「水が液体から気体に変化すると体積が約千七百倍になる。高温の熱源と多量の水が接触することで、水の瞬間的な蒸発による体積の増大が起こり、それが爆発となるのが水蒸気爆発だ。火山が爆発する原理だと言った方が分かりやすいかな? 水魔法を使うことが分かっていたから、戦いを観戦している間にマルセラさんはこれで仕留めるって決めていたんだ」
「無縫さん相手に一度見せた技を使うべきではなかったということですね」
「……と言っても、オレの得意技の大喰らいの斧槍を使わないとすれば土魔法くらいしか打つ手がないのだが」
「ボクも短剣と風魔法を使った戦闘スタイルだけでここまで勝ち上がってきたし、それ以外の技なんて持ち合わせていないよ。大体、無縫さんみたいに一人一人全く違う戦闘方法で戦う縛りをして魔王軍幹部を突破する方がおかしいんだよ! 手札が多過ぎじゃない!?」
「まあ、色々な世界を渡り歩いてきたし、色々な戦闘技術を学べる環境にあったからね」
「スグリさん、関係ないよ! 技を見切られていたって三人一気に仕掛ければ、一人くらいはダメージを通せるかもしれない」
「……なかなか難しいとオレは思う」
「だとしても、やるしかないんだよ!! 行くよ! 嵐刃乱舞!!」
「疾風刺槍!!」
「大喰らいの斧槍!!」
風を纏わせた槍を構えたスグリが無縫に向けて刺突を放ち、ガルドが腐食効果のある特殊な魔力を纏わせた斧槍を無縫目掛けて容赦なく振り下ろし、シャルロットの変幻自在の双短剣から繰り出される斬撃が無縫へと迫る。
三方位から放たれるスグリ、ガルド、シャルロットの総攻撃を、無縫は時空の門穴から取り出した聖剣オクタヴィアテインと魔剣デモンズゲヘナで捌いていく。
「天より降り注げ! 【流星光条】!」
完全に攻撃を受け止められ、あまりもの力量の差に歯噛みしていたスグリ、ガルド、シャルロットの三人だったが……次の瞬間、三人の顔が絶望に染まる。
――光が降り注いだのだ。
それは、無数の光の線だった。スグリ、ガルド、シャルロットの体を貫くように放たれた光条は光が貫通する前にスグリ達の身体に穴を空けてしまう。
物質の有機・無機や硬度、可塑性、弾力性、耐熱性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つ聖属性魔法――【流星光条】。
見かけ上は光の分布を偏らせて光の筋を放つ――まるで流星が降り注ぐような光景の魔法だが、実際には「物に穴を開けて、そこに光を通す」という順序で魔法が影響を及ぼしており、結果を元に原因を設定する、ある種の因果干渉系魔法の性質を有している。
この魔法に貫けないものは存在しない。そして、魔法が発動する速度も光条を上回る速度という性質上、光の速度を上回るため回避も不可能に近い。
三人は抗うことすらできずに光条に貫かれた。
攻撃範囲自体は狭かったものの脳や心臓など的確に急所を打ち抜いていたため、スグリ、ガルド、シャルロットは一瞬にして絶命し、頽れた死体は無数のポリゴンと化して消滅していく。
「……まずいな。残り三人になっちまった」
「無縫さんの攻撃は理不尽なものばかりだけど……あれは本当に無理」
「スグリさん達には申し訳ないけど、他に面白そうな手札がないみたいだったからサクッと倒させてもらったよ。……この魔法はなかなか魔力の消費が激しいし、その上、緻密な魔力操作が求められるから広範囲攻撃には向かないんだ。やっぱり、普通に光魔法で極太光条ぶっ放すか、戦略兵器を使うかどっちかの方がいいかな? ……さて、残るはオズワルドさん、レフィーナさん、レイヴンさんか。いずれも楽しそうな対戦カードだね。ワクワクするよ」
「……あんまり期待しないでもらいたいけどなぁ。……じゃあ、さっきの続きといきますか! 【鵷鶵方陣】ッ!!」
無縫の足元に一瞬にして金色に輝く魔法陣が形成された。魔法陣は黄金の焔へと変化し、無数の鳥の形へと変化して無縫へと殺到する。
「――ッ! 【水顎龍】!」
咄嗟に無縫は水魔法で無数の龍の顔を顕現してオズワルドの攻撃を跳ね除ける……が、オズワルドは攻撃を無力化されることを読んでいたのか既に無縫との距離を詰めていた。
「【鸞蒼宴】ッ!!」
オズワルドは瞬時に無数の青い魔法陣を自分の周囲に展開する。
魔法陣は青い焔へと変化し、焔は鳥の形へと変化して弾丸の雨の如く無縫へと殺到する。
「鸑鷟飛斬!!」
「【被害の逸避】!」
ニヤリと笑った無縫が右手を前へと突き出す。
あらゆる被害を逸らす魔法が発動し、蒼焔の鳥は次々と無縫を避けてあらぬ方向へと逸れていく。
更にはオズワルドの紫色の鳥の形をした飛ぶ斬撃までもが無縫を避けるように左に逸れて行ってしまう。
「……本当に厄介な魔法だよな」
「魔力が尽きない限り、どんな攻撃でも逸らすことができるから、まあまあぶっ壊れな性能をしていると思うよ。それじゃあ、お返しだ。【火焔弾雨】!」
無縫は無数の拳大の火球を生成――その火球を圧縮することによって無数の炎の弾丸を生成して、マシンガンの如く連射する。
鎧を纏ったオズワルドの体でも確実に貫通して焼き尽くすほどの威力を秘めた攻撃だった筈だが……。
「【鴻鵠の盾護】!!」
オズワルドの前に現れた炎の鳥を彷彿とさせる巨大な白い盾がオズワルドへの攻撃を全て防いでしまった。
オズワルドほどの実力者ならば何かしらの手段で抗ってくるだろうとは思っていた無縫だが、その魔法に付与された性質の一つに気づき、無縫は少し想定外だったのか驚きのあまり目を見開く。
「オズワルドさん、回復魔法も使えたんですね」
「ああ、こいつは攻撃を防ぎつつ守った対象を回復させる回復系障壁魔法だ。まあ、無縫の攻撃が相手じゃ命中したら即死だから回復効果は意味がないんだけどな……」
「紫、黄、青、白……ときたら、最後の一つがあるんですよね? 見せてくださいよ、オズワルドさんの最後の手札――赤の魔法を」
「なんで分かったのか知らないが、いつまで戦っていても仕方ないからな! 俺の奥の手で賭けに出るぜ!!」
オズワルドを真っ赤な炎が包みこむ。その炎はまるで巨大な焔の鳥だ。
基本的に青い炎の方が温度が勝る筈だが、その温度は【鸞蒼宴】のそれを遥かに超えているようである。
「――鳳凰爆斬ッ!!」
まるで鳳凰が飛翔するかのように、灼熱の鳥が無縫へと殺到する。
「こういうのは真っ向から打ち破った方が楽しいよなッ!! お前達もそう思うだろッ! 聖剣オクタヴィアテイン! 魔剣デモンズゲヘナ!」
無縫の言葉に呼応するように聖剣オクタヴィアテインから眩い光が、魔剣デモンズゲヘナから漆黒の闇が溢れ出す。
「――【太極・聖魔十字星】!!」
聖剣を振るって十字斬りを放つ【聖南十字斬】と魔剣を振るって十字斬りを放つ【魔北十字斬】から着想を得た、聖剣と魔剣による真一文字の斬撃を重ねる十字斬りを、無縫は迫り来る灼熱の鳥へと放った。
炎の鳥と十字斬りは僅かな時間拮抗し、無縫が間近に迫った高温に顔を顰める。
……が、拮抗したのはほんの僅かな時間だ。すぐに均衡は崩れ去り、灼熱の鳥を構成していた炎が弾け飛ぶ。
真一文字の斬撃を浴びたオズワルドは頽れ、無数のポリゴンと化して戦場から消滅した。
◆ネタ解説・百八十八話
【灰燼爆裂】
【劫焔爆裂】と同じく暁なつめ氏のライトノベル『この素晴らしい世界に祝福を!』に登場する爆裂魔法と、蛙田アメコ氏のネット小説『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました!』に登場する【灰燼裂罪】。詠唱はこの二つに加えて『聖剣使いの禁呪詠唱』の火の闇術の要素も踏まえつつそれらしいものを作り上げたつもりである。
【大いなる護り】
元ネタは『クトゥルフ神話TRPG』に登場する魔術「肉体の保護」。
1D4正気度とマジックポイントを消費して、そのマジックポイント分だけ非魔術的攻撃に対する1D6ポイントの装甲を獲得することができる。
本作においては魔力を消費してその分だけ魔術的な装甲を得ることができる魔法となっている。
【流星光条】
着想元は『魔法科高校の劣等生』に登場する四葉真夜の魔法「流星群」。
カオスファンタジーシリーズにおいては『百合好き悪役令嬢の異世界激闘記』から似た性質を持つ光属性系統の魔法が登場しており、「穿光条の流星群」とその派生が挙げられる。
また、本作においては「物に穴を開けて、そこに光を通す魔法」という性質から因果干渉系魔法という性質が付与されている。
【鵷鶵方陣】
中国神話に登場している伝説の霊鳥である鳳凰の姿の一つ。
鵷鶵は黄色いものを指すとされる。なお、色で分ける説は『毛詩陸疏広要』に由来するもので、別の霊鳥とされることもある。
【鸞蒼宴】
中国神話に登場している伝説の霊鳥である鳳凰の姿の一つ。
鸞は青いものを指すとされる。なお、色で分ける説は『毛詩陸疏広要』に由来するもので、別の霊鳥とされることもある。
【火焔弾雨】
着想元は五示正司氏のライトノベル『ひとりぼっちの異世界攻略』より主人公の遥が使ったファイアバレットを並べて放つ戦法。
『百合好き悪役令嬢の異世界激闘記』においてクソ陛下ことラインヴェルドが「焔王の破壊狙連撃」という魔術を生み出しており、【火焔弾雨】はそれをオマージュしたものである。
【鴻鵠の盾護】
中国神話に登場している伝説の霊鳥である鳳凰の姿の一つ。
鴻鵠は白いものを指すとされる。なお、色で分ける説は『毛詩陸疏広要』に由来するもので、別の霊鳥とされることもある。
鳳凰爆斬
中国神話に登場している伝説の霊鳥である鳳凰のこと。
鳳はオス、凰はメスを指すという説もある。
カーマイン(carmine)は赤系統の色であり、洋紅色と訳されることもある。
【太極・聖魔十字星】
【聖南十字斬】と魔剣を振るって十字斬りを放つ【魔北十字斬】はどちらもはくちょう座の北十字星とみなみじゅうじ座の南十字星という実在する星座から。
宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』においては北十字から始まり、南十字までを旅する(実際はカムパネルラが降りた石炭袋、更にはその先まで存在していると思われる)物語であり、その離れた位置にある二つの星座を技名とした。
ダイアモンドクロスは南天の星座であるりゅうこつ座にあるアステリズムのことで、二つの要素を持つクロスと名のつく星座を探す際に丁度良さそうなので選んだという安易なネーミングである。