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【12/1より第二部第五章更新開始】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第三章「クリフォート魔族王国回遊記」

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魔王への修羅道〜ルシフェール山〜 後編

「……あら? 誰も闇討ちをしてこないじゃない。『魔王への修羅道(サタンロード)』には相当な数の妨害者が出るっていう話だった筈だけど……」


 無縫達と別れ、魔王城を目指して一人ルシフェール山を駆け抜けていたレフィーナは、あまりにもここまで順調過ぎたため困惑していた。

 本来であれば、闇討ちを仕掛けてくる者達がいっぱいいる筈だが、ここまで誰とも遭遇していない。


「おう、お主はレフィーナ殿。久しぶりじゃな」


「カーリッツさん!? お久しぶりです。シェリダー区画以来ね」


 登山の途中、一度洞窟から出たタイミングでレフィーナはカーリッツと再会した。

 彼もまたシェリダー区画の試練を終えて別れた後、魔王軍幹部達を倒して資格を集めたのだろう。


「あれから無縫殿やレイヴン殿と行動を共にしていたのでは無かったのか?」


「暫くは一緒だったわ。レイヴンさんに関しては縁あって異世界の強者に弟子入りして修行しながら幹部巡りを進めていると思うわ。間違いなく本戦には出てくるから私もどれだけ強くなったのかとても楽しみなのよ。無縫さん達は途中まで一緒に来たんだけど、最後まで頼りっぱなしって訳にはいかないし、この山は自力で登ると決めたから入り口のところで分かれたわ」


「なるほど……やはり無縫殿も資格を得ていたか」


「……当然のように十人全員に勝利してね」


「なんと!? 本当に成し遂げる者がいるとは!!」


「……ところで、カーリッツさん。この山、おかしくないかしら?」


「闇討ちの件か? 確かにあまりにも静か過ぎる」


「誰かが既に闇討ちを仕掛けている挑戦者達を全滅に追い込んだのかしら?」


「無縫殿が全ての幹部を倒したという情報を入手していなかった儂が言うことではないが、今年の挑戦者も実力者ばかりだが、それほど突出した猛者は居なかった筈じゃ。無縫殿を除いてはな。闇討ちを仕掛ける者達が儂らの前の者達に全滅させられたとは思えん」


「……これはあくまで可能性の話なのだけど、私達って闇討ちにスルーされているんじゃないかしら?」


「まあ、それしか考えられないだろう。……魔族の中で人間に敵意を持っている者達は多い。無縫殿と接して、この世界の人間と無縫殿達は別の括りにすべきだと考える者達も増えてきているが、無縫殿達とこの世界の人間を同じ括りで考える者達の方がまだまだ多い……残念ながらのぉ」


 カーリッツは小さく溜息を吐いた。その溜息は色眼鏡を掛けたままでしか人を見れない同族に対する呆れから来るものだったのだろう。

 レフィーナは同意の意味を込めて小さく首肯した。


「……まあ、でも無縫さんがその程度で倒せるとは思えないのだけどね」


「魔王軍幹部相手に勝利を重ねてきたその実力に偽りはない。……束でかかったところで勝ち目はないじゃろうな」




「人間が『頂点への挑戦(サタン・カップ)』に挑むだと? そんなこと許す訳ねぇだろ!! 無抵抗な俺達に攻撃をし続けてきた人間共に、なんで出場資格を与えるんだ! 異世界人? 関係ないだろっ! 人間は人間だ!!」


 このレフィーナとカーリッツの推測は当たっていたようで、山小屋から出て少し歩くと、すぐに闇討ちを狙う挑戦者達が姿を見せた。


「……文句を言うべきところを履き違えているようじゃな。許可を出したのは魔王軍じゃろう?」


「なんで魔族が人間の味方をしやがる!!」


「無縫とは付き合いが長いからのぅ。……それに、我にとってもここは異世界。少なくとも、どこの馬の骨か分からない、集団で寄って集って袋叩きにすることしか能がないお主達よりも、為人を知っている無縫の側に付くのは当然だ!」


「そうだそうだ!! 卑怯者!!」


「なんだと!! 挑戦者だろうが、挑戦者じゃ無かろうが関係ない!! 纏めて畳んじまえ!!」


「……で、無責任なヴィオレットさんとシルフィアさんや。まさか、煽っておいて後は任せるなんて言わないよな?」


「うむ、流石に殺す訳にもいかないし、半殺し程度で留めておいてやろう。異世界の魔王の娘に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる!!」


「フェアリマナの妖精にもね!! 魔法少女は強いんだよ!」


「……次期魔王の地位を剥奪された奴と、フェアリマナを裏切る気満々の奴がなんか言っている。んじゃ、少し遊んでやろうぜ。君達の運勢は……残念、麻痺ったね」


 悪魔の賽子(デーモン・ダイス)の「敵全体麻痺」の効果で麻痺させた魔族達に無縫、ヴィオレット、シルフィアの三人が総攻撃を仕掛けていく。

 なお、無縫は軽く気絶させる程度に留めていたが、ヴィオレットと魔法少女シルフィー=エアリアルに変身したシルフィアの二人はトラウマになるレベルの攻撃を容赦なく浴びせていた。


 特に襲撃者の一人である狐人族の女性に容赦なく「100tハンマー」と書かれた大量のゴキブリのおもちゃが入った黒い巨鎚を容赦なくヴィオレットが振り下ろした時には思わず無縫も「マジか」と呟いて天を仰いだ。か細い悲鳴をあげて気絶した彼女は間違いなくトラウマになっているだろう。

 ちなみに、ヴィオレットもシルフィアもゴキブリは素手で捕まえられるタイプだ。どこぞの大樹の地下にある大迷宮攻略にこれほどの適任もなかなかいないだろう。なお、無縫は即死させてから消滅魔法で容赦なく消滅させるタイプである。


「……思った以上に相手にならなかったのぅ。……本当に魔王軍幹部の資格を集めたのか?」


「一応集め終えている人が多いみたいだよ。中には集め切っていない人もいるみたいだけど、ここで奪って自分のものにしようって目論んでいたのかな? で、どうする? 無縫君? 手帳奪っておく?」


 倒した襲撃者達の懐を漁って手帳を確認しているヴィオレットとシルフィアに「お前らコソ泥かよ?」と無縫は眉間を揉みほぐしながら溜息を吐いた。


「ここで手帳を奪っていって何になる。荷物もそのままにしておく。……まあ、ここじゃ風邪ひくし近くの山小屋まで運んでおくか」


「そこまでしなくてもいいと思うけどなぁ……」


「後々、クリフォート魔族王国とは国交を結ぶ可能性がある。そのことを考えておくと、できるだけアンチは減らしておいた方がいいと思うんだよ」


「……既に手遅れな気がするのじゃが」


「トラウマになっているよね……あれ」


「お前らのせいだよな? 嬉々としてゴキブリハンマーを振り下ろしやがって! 後、シルフィア! どさくさに紛れてお前もゴキボール投げてただろ!!」


「えへへ! バレちった」


 ヴィオレットとシルフィアと共に被害者達を山小屋に運び込み、その後再び先を目指す一行だったが、またしても闇討ち狙いの襲撃者達に遭遇した。


 撃破した襲撃者達を山小屋に運び入れ、再び登山を再開して、再び襲撃に遭う……その繰り返し。

 まるで『魔王への修羅道(サタンロード)』で待ち構えていた闇討ち狙いの者達が全員敵に回ったような、終わりの見えない戦いが続く。……まあ、実際は本当に闇討ち狙いの者達が全員敵に回っているのだが、まさか本当に全員だとは思ってもみない無縫達だった。


 とはいえ、長く続いた戦いにもいつかは終わりが来る。


「……あれ? 襲撃が止んだね」


 五つ目の山小屋に到達したところで、襲撃がパタリと止んだ。


「……そういえば、道なりって言っていたけど途中で分かれ道があるんだっけ? どこが分かれ道なんだろう?」


「……にしても、嫌な気配じゃな。それに、霧まで出てきよった。……山の洞窟で霧なんて発生するものなのか?」


「山小屋に何軒か寄ったが、そういった話は聞かなかったな。……まあ、できる限り情報はシャットアウトしていたから俺が知らないだけかもしれないが。ついでに言うと、ヴィオレットが言ったように嫌な気配は俺も感じているよ。……恐らく何者かの術中に嵌っているね」


「……やはりか」


「更に言えば、分かれ道はとっくの昔に通過したよ。……術は新魔王城とは反対側のルート、山頂を目指すルートに誘導していたから、術に反発せずに山頂ルートを進んでいる」


「あえて、敵の懐に飛び込んでやろう! って魂胆だね。そういうの嫌いじゃないよ! ああ、だから襲撃者が減ったのか……私達がコースアウトしたから」


「でも、本当に間に合うのか? 本戦開始に間に合わなければ、折角幹部巡りの試練を達成したのに意味が無くなるじゃろう?」


「最悪、山頂から飛び降りて新魔王城に向かうのもありだと思っている。別に空中歩けるし、ルールでも禁止されていないんだからいくらでも間に合わせられるよ」


「間に合うんだったら折角だし見ていこうよ。ここまで巧妙にコースアウトするように誘導した闇討ち狙いの卑怯者って、一体どんな顔をしているんだろうね?」


 霧はどんどん濃くなっていく。その霧の中を突き進んでいくこと数時間、遂に無縫達は洞窟を抜けた。

 そこは無縫が予想していた通り山の山頂だった。


 目の前には居城が聳え立ち、存在感を放っている。

 敵を寄せ付けない堅牢な作りは、流石は魔王城と呼ぶべきだろうか。


「……旧魔王城。やっぱり山頂に誘導されていたってことだな?」


「ほう、気づいていたか。……まあ、それくらいでなくては困るのだが。……魔王軍幹部達を十人全員倒した猛者と聞いている。だが、実力はやはりこの目で確かめなければ気が済まないのだ。我が友人の頼み、託すに値する者なのか……私が見極めさせてもらう。不本意だろうが、一戦付き合ってもらうぞ」


 てっきり大量の闇討ち狙いの者達が待ち構えていると思っていたヴィオレットとシルフィアは、予想外な存在の登場に驚きのあまり目を見開いた。


「ああ、そうそう。ベンマーカが世話になったようだな。奴は強かったか?」


「……初代魔王、ジュドゥワード・サタナキア・ヒュージスですね」


「ほう、この骨董品の名を知っていたのか? なかなか博識じゃな」


 魔王であるヴィオレットは彼の持つ魔王の覇気が父親以上であることを見抜き、恐怖のあまり一歩後ろに後退りしてしまう。

 シルフィアのもほぼ無意識にヴィオレットと共に少し後ろに下がってしまった。


 あの二代目魔王ベンマーカと出会った時でも、このようなことは無かった。

 明らかに格の違う魔王の登場に、場の空気が緊迫感を増していく。


「……父上も魔王としての格は上位じゃが、まさかこれほどの者がいるとは」


「……まあ、無縫君なら負けないと思うけど……少し怖いね」


「怖がって逃げ散らかさないんだから、二人とも上澄みだと思うけどな。それじゃあ、行ってくるよ」


 圧倒的な魔王覇気を放つ大悪魔(サタン)――魔王ジュドゥワードの前に、無縫は時空の門穴ウルトラ・ワープゲートから聖剣オクタヴィアテインと魔剣デモンズゲヘナを取り出しつつ躍り出た。

◆ネタ解説・百七十八話

「100tハンマー」と書かれた大量のゴキブリのおもちゃが入った黒い巨鎚

 元ネタは『ONE PIECE』のスリラーバーク編においてウソップがペローナに対して使用した10tと書かれた風船のハンマー(技名はゴールデン・パウンド)及び黒光り星。シルフィアが投げたゴキボールも含め、どちらも玩具のゴキブリが仕込まれている点が共通している。


魔王覇気

 魔王のみが使えると呼ばれる覇気。膨大なエネルギーを威圧と共に放ち、圧倒的なプレッシャーを与える。その正体は魔力をオーラのように変換したものである。

 着想元は『転生したらスライムだった件』に登場する同名のスキル。

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