表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/238

『L'Assiette Blanche』にて、三つ分のお祝い会〜幹部巡りと魔王継承の儀、あと一つは……

 魔王継承の儀はリリスの勝利で幕を閉じた。

 約一名、交戦論者の旗印であるルーガノフは「魔王軍四天王と魔王がリリスに手心を加えたんだ! そうに違いない!」と叫び、断固として認めないという方針を取っていた……が、その後、リリスがルーガノフに直接対決を申し入れ、ルーガノフを完膚無きまで叩きのめしたため、交戦論者はみるみるうちに失速し、空中分解した。


 勿論、交戦論者という存在が消え去った訳ではない……が少なくともルーガノフが旗印になることは二度とないだろう。

 魔族とは絶対的強者を尊ぶ種族である。敗者に求心力など生じる筈もない。


 リリスに敗れはしたものの、ノワールは今後も退位するまで魔王を続けることになる。

 しかし、正式に次期魔王になったリリスはいつでも魔王を継げるように準備を進めなくてはならない。今までは内務省異界特異能力特務課参事官補佐として働いていたが、今後は魔王就任に向けた準備を進めていかなくてはならないだろう。


 魔王軍四天王との交渉の末に内務省異界特異能力特務課参事官補佐の後任への引き継ぎが終わるまでは次期魔王になるための準備は進めないということになったため、多少の猶予はあるものいつまでも大日本皇国に留まり続けることは厳しいだろう。


 大日本皇国は同盟国だとはいえ、やはり魔王になるお方には魔王国ネヴィロアスを一番に考えてもらいたいという民意が強い。

 ただでさえ、大日本皇国の中枢にいたためにリリスの魔王就任後は魔王国ネヴィロアスより大日本皇国を優先する政策を打ち出すのではないかという懸念も各所で囁かれているのだ。

 リリスの今後を考えても、大日本皇国政府との距離感には気を配るべきだろう。


 幸い、内務省異界特異能力特務課参事官補佐の後任については内務省異界特異能力特務課には優秀な人材が揃っているため問題ない。

 大田原惣之助が内務省を辞めて政治家に転身した際もところてん方式で一つずつ役職を上げていくことで対応した。

 その際、空いていた椅子の一つに内務省内で優秀だとその実力を買われていたリリスが何人かの候補を飛び越えて椅子に座った形だが、リリスが不在でも後任になり得た人材がいる。その本来、内務省異界特異能力特務課参事官補佐の座に座る筈だった候補から後任を選べばいいだけの話だ。


 だが、それとは別に問題になってくることがある。それが、所謂ヴィオレットとシルフィア係である。

 内務省異界特異能力特務課が誇る最高戦力の庚澤無縫――その厄介な同居人であるヴィオレットとシルフィアを監視して無縫に安心して戦ってもらえるようにするのも内務省異界特異能力特務課の重要な役目だ。

 ……税金を一体何に使っているだ! と思われるかもしれないが、存在しない部署となっている内務省異界特異能力特務課の資金は全て税金を原資にしたという体裁で無縫がギャンブルによって増やしたお金のため問題がないといえば問題はない。


 今までは専任の内務省職員をリリスが統率してヴィオレットとシルフィアを監視していたが、今後はリリスがその役目を担えなくなる。

 あのリリスですら万全とは言えず何度も出し抜かれていた相手だ。リリス以上にその役目を担えるような存在が現状見当たらない以上、後任の選定は困難を極めることが容易に想像がつく。

 実際、リリスの魔王就任の件が持ち上がった際にリリスの修行の裏でアンケートを取ったが、希望者は一人として現れなかった。「流石に私には荷が重すぎます!」という声が関係各所から上がっている。

 なお、その事実をヴィオレットとシルフィアに伝えたら「大変そうじゃな」、「大変そうだね」と他人事のように言っていた。……「主にお前らのせいなんだけどな」と心の中で呟くだけで済ませた自分は偉いと、自分で自分を褒め讃えたくなった無縫だった。



 色々考えなくてはならないことはあるが、それはそれ。

 まずは、リリスが魔王継承の儀を無事に勝ち星で終えられたことと無縫とレフィーナの幹部巡り終了をお祝いしよう! ということで、無縫達は東京都港区麻布にある『L'Assiette Blanche』で開かれた祝勝会に出席していた。


 惣之助が主催するこの会には本日の主役である無縫、レフィーナ、リリスの他に、ヴィオレット、シルフィアのいつものメンバー、会の発起人である大田原惣之助総理と龍吾、鬼斬機関からは桃沢真由美、桃沢日和、鵜木春臣、桜庭愛莉、陰陽連からは賀茂幸成、在原芳房、西嶋美遊、春風藤翔、飯綱ちゃん、ロードガオンからはフィーネリア、ミリアラ、ドルグエス、マリンアクア、魔王国ネヴィロアスからはリアム、エルゼビュート、ヴェノゼラ、ヴァルフレウ、宿屋『鳩の止まり木亭』からはビアンカ、スノウ、ギミードやワナーリ達常連客が何人か、魔王軍幹部からはメープル、エスクード、アルシーヴ、ラピス、ベークシュタイン、白雪、ジェイド、対人間族魔国防衛部隊からはオズワルド、ヴィクター、魔導近衛騎士団からジュラキュールとコンスタンス、魔導近衛騎士団からディージスと蒼、ルキフグス=ロフォカレ学園さらはクォールト教諭、クロムロッテ、イクス、その他にタタラとリリィシアも参加している。

 ちなみに、クロムロッテとイクスも幹部巡りを終えており、今回の会は二人の祝いの席でもあった。二人の近くのテーブルでは、ルキフグス=ロフォカレ学園や対人間族魔国防衛部隊、魔導近衛騎士団の面々が集まって話に華が咲いているようだ。


「……レイヴン君もこの場に来れたら良かったのだが」


 アルシーヴが視線を向けた先にあったのは、本来、レイヴンが座るように用意された椅子だ。

 実際、今回は参加者多数の会になったが、一方で辞退者、欠席者もいない訳ではない。


 まず、レイヴンや逢坂詠――レイヴンとは連絡がつかず、詠は早々に参加を拒否した。詠の方は実に詠らしいが、レイヴンとの連絡がつかなくなっているのは少し心配である。

 欠席者といえば、ヴィオレットの父で魔王であるノワールが欠席を表明、「無縫の勝利を讃える会に出席など天地がひっくり返ってもする訳なかろう!!」とブチギレて参加を拒否した。


 ヴィトニルとイリアについては以前描写した気がしないでもないが……ヴィトニルは無縫に対抗心を燃やして「施しを受けるつもりはない!」と拒否。イリアは「執筆に専念したいからお祝いの席に参加している暇はない」と彼女らしい理由で参加を辞退。

 ミリアとシエルについては対人間族魔国防衛部隊と魔王軍即応騎士団でほぼ同時に長期休暇を申請しており、その後どこで何をしているかは不明である。


 『NEW GASTRONOMY HORIZON』で殿堂入りを果たした至高のフルコースに舌鼓を打つ者、普段はなかなか関わることがない別の世界の人達に声を掛けて人脈を築いたり、得難い知識を得たりしている者、無縫という共通の話題を見つけて「あの人はやっぱり化け物だなぁ」と共感する者、人それぞれこの会を楽しんでいるようだ。

 クロムロッテやイクスの周りに人集りができているように、無縫やレフィーナの周りにも人が集まっていた。次々とやってくる人達に挨拶をしつつ、美味しいコース料理に舌鼓を打ちながら、仲良く談笑しているスノウとタタラのことを微笑ましそうに見ていた無縫だったが、何かに気づいたのだろうか? 席から立ち上がった。


「すみません、ちょっと席を外しますね」


「ん? どうしたんじゃ、無縫?」


「まだ食べ切ってないけどいいの?」


「……ヴィオレット、シルフィア、お前らって今回の会の目的が三つ(・・)あること忘れてないか?」


「無縫とレフィーナさんの幹部巡り達成のお祝いと、リリスさんの魔王継承の儀の達成……他に何があったっけ?」


「高遠敦さんと高遠花鈴さんの結婚記念日だよ。……お前ら聞いて無かったの? 二人の結婚記念日も近いから、お祝いできるタイミングで三つ纏めてやろうって話。二人にはサプライズで、上手く気づかれないように祝井さんが花鈴さんをこの会に参加してもらったんだよ。ほら、お前らも連名にしてあるから行くぞ。――あっ、祝井さんが動き出した」


 高遠敦の妻である高遠花鈴の職場は保険会社だ。普段は『L'Assiette Blanche』に関わっていない花鈴だが、今回、この席に花鈴を招待したのは結婚記念日のお祝いをするためだった。

 敦にも気づかれないように無縫ブレンドのコーヒーを使ったブラック・ルシアンを二人分準備した梟帥は、同じくこの日のために用意したケーキを持って会場に再び姿を見せる。


「おいおい、こんなサプライズ用意していたのかよ!?」


「店に関わっているスタッフじゃなくて、なんで私に来て欲しいって話になったんだろうと思っていたんだけど、こういうことだったのね!? びっくりしたわ! それに、みんなも、本当にありがとう!」


 予め梟帥と無縫が協力してパーティの参加者に声をかけており、予め配っておいたクラッカーを参加メンバー全員が鳴らして敦と花鈴を祝福した。

 まさか、この場で結婚記念日をお祝いされるとは思っていなかったのだろう。花鈴は嬉し涙を流し、敦は嬉しさと呆れがないまぜになった表情を浮かべていた。


「敦さん、花鈴さん。改めて、結婚記念日おめでとうございます。こちら、細やかですがヴィオレットとシルフィアと連名で……どうぞ、お受け取りください」


「まあ、プレゼントまで!? しかも私と敦志さんそれぞれに一つずつ!? 本当にありがとう! ……ただ、お返しが心配よね」


「嬉しいってよりそっちの方が怖いんだよなぁ。……細やかって絶対に細やかじゃねぇだろ。百合薗の嬢ちゃんも、能因先生も、無縫も洒落にならねぇものを渡してくるから毎回怖いんだよ」


 素直に喜べない敦と花鈴に「普通に喜んでくれればいいのになぁ」と思う無縫であった。

◆キャラクタープロフィール

-----------------------------------------------

高遠(たかとう)(あつし)(並行世界/大日本皇国)

性別、男。

年齢、四十八歳。

誕生日、五月七日。

血液型、A型RH+。

出生地、静岡県静岡市。

一人称、俺。

好きなもの、料理、高遠花鈴。

嫌いなもの、冷夏。

座右の銘、「料理は命の源、美味しさは心の栄養」。

尊敬する人、高遠花鈴。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、「L'Assiette Blanche」。

嫌いな言葉、「お残し」。

職業、料理人。

主格因子、無し。


「『美食の巨人』の異名を持つ料理人で『白い皿』を意味する『L'Assiette Blanche』と名付けた料理店を経営している。『究極の美食評議会』が出版する『NEW GASTRONOMY HORIZON』で殿堂入りを果たしている伝説の料理人。酒とタバコと賭博を愛する典型的なダメ人間だが、料理には一切妥協せず繊細な技と豪快な調理法を使い分け、菓子から高級料理に至るまで調理するものなら何でも作ることができる。幼馴染である花鈴のことを大切にしており、愛妻家としても知られている」

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

高遠(たかとう)花鈴(かりん)(並行世界/大日本皇国)

性別、女。

年齢、四十八歳。

誕生日、五月八日。

血液型、AB型RH+。

出生地、静岡県静岡市。

一人称、私。

好きなもの、高遠敦、アップルティー。

嫌いなもの、面倒な客。

座右の銘、特に無し

尊敬する人、高遠敦。

嫌いな人、話がまどろっこしくて長い客。

職業、有名保険会社ライン部長。

主格因子、無し。


「旧姓は小倉。高遠敦とは幼馴染の関係にある。子供の頃に両親に連れられて特別な日に食べに行ったフランス料理が忘れられず料理人を志したものの、『男なのに料理を作るの?』という嘲笑を向けられていた敦を笑うことなく彼に背中を押す言葉をかけた敦にとっては恩人と呼ぶべき存在である。高校卒業後は料理の専門学校に通う敦とは異なり大学に進学を目指す道を進み、一時期敦とは疎遠になる。しかし、彼がスランプに陥っていたところに偶然再会し、紆余曲折を経て互いに思いを伝えることとなった。その後、めでたく結婚、現在も両思いの熱愛が続いている」

-----------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ