「一応、白ワーブルを使った技術の筈なのに、呆気なく対処方法を生み出すなんて、やっぱり大日本皇国の技術は恐ろしいわね」by.フィーネリア
人工惑星セルメトについての簡単な説明が終わったところで、無縫、ヴィオレット、シルフィア、フィーネリア、ミリアラ、マリンアクア、オズワルド、ヴィクターの八人はセントラル・シティにある四つの中枢管理棟の一つへと向かった。
かつてルインズ大迷宮の地下に存在していた古代都市アヴァロニアの西地区の中枢と呼べる場所に入り、リエスフィアの出迎えを受ける。
リエスフィアに挨拶をしてからエレベーターに乗り込んで中枢管理棟の上層階へと移動――目的地はフィーネリアから「古代都市アヴァロニアを譲ってもらえないかしら?」という提案をされたのが記憶に新しいラウンジだ。
無縫は到着早々、全員に丸テーブルの近くに座るように促してからボタンを押せば自動で飲み物を提供してくれる地球でいうところの自動販売機のような装置を使って珈琲や紅茶を淹れ、フィーネリア、ミリアラ、マリンアクア、オズワルド、ヴィクターの前にサーブする。
勿論、自分の分の珈琲も忘れない。自動販売機のような機械から出てきた珈琲は五月蠅い無縫も納得の味だ。喫茶店で出せる珈琲と遜色のないものが出てきた時には思わず感動したものである。
ちなみに、ヴィオレットとシルフィアの分は用意していない。二人はそれぞれ勝手に自動販売機のような機械を操作して飲み物を選んでいるようだ。
紅茶や珈琲以外にもジュース系、アルコール系など様々なバリエーションがある。
中にはなんとメロンソーダやコーラのような炭酸飲料も存在していた。
ヴィオレットがシルフィアの目を盗んでメロンソーダの中にコーラのような炭酸飲料を入れようとしていたり、シルフィアがヴィオレットの目を盗んでメロンソーダの中にコーラのような炭酸飲料を入れようとしていたり、結果として二人ともメロンソーダにコーラのような炭酸飲料を入れたお世辞にも美味しいとはいえない炭酸飲料を前にして何とも言えない顔になっていたり……といったちょっとした騒動もあったが、無縫達に特に害があった訳でもないので二人のことは放置していた。
流石に作った物をそのまま捨てるような勿体ないことを平気でするようなほど腐ってはいないのか、二人とも我慢して誰得な飲み物を飲んでいた。勿論、自業自得なので二人を憐れむ者はいない。
「とりあえず、情報交換しないといけないのは……フィーネリアさん達が配置してくれる戦力がどんなものなのかって話だな。フィーネリアさん達のことは信じているが、やっぱりどんな戦力がどの程度配置されるかは対人間族魔国防衛部隊の責任者として知っておきたい」
「一応、私達の方は独立国家ロードガオン地球担当第一部隊のメンバーにマリンアクアさんを加えたメンバーに、ワーブリス兵を加えた戦力で防衛しようと思っているわ。ただ、【悪魔の橋】がどれくらいの頻度で、どのくらいの戦力で攻撃されているのか分からないから具体的な戦力については現時点では決められないわね。後、こちらとしては仮に攻め込んできた場合に倒した人間の勢力をどのように扱うのかについても決めておきたいと思うわ」
ワーブリス兵の卵を大量に持ち込むことは可能で、その卵にワーブルを込めることで【悪魔の橋】に戦力を配備してからでもワーブリス兵の大量動員は可能である……が、それはあくまで最終手段だ。
フィーネリア達としては最低限の消耗で防衛線を切り抜けたい。
そのためにも敵の襲撃の傾向に関する情報は重要だ。……まあ、それ以前に敵の情報がなければ作戦立案も何もあったものではないので今回の防衛作戦を遂行するためにも必ず提供してもらわなければならない情報なのだが。
「そうだな……バラツキはあるが、襲撃は月に一回か、二か月に一回か……まあ、そんなところかな? 主な襲撃国はマールファス連邦とラーシュガルド帝国、比率はマールファス連邦が三、ラーシュガルド帝国が七って感じだ。後は、つい最近だと二人で【悪魔の橋】を突破して国内に入ろうとする剛の者がいたなぁ。具体的に言うと、俺達の目の前に……」
「以前はルーグラン王国も襲撃を仕掛けてきましたが、勇者召喚が行われた時期から襲撃はめっきり減りましたね。恐らく、白花神聖教会とルーグラン王国は勇者一行が育つのを待っているのでしょう」
「マールファス連邦の国教である東方白花正統教会としては、白花神聖教会とクリフォート魔族王国に共倒れをして欲しいでしょうから今は襲撃を控えているんでしょうね」
オズワルドの回答にヴィクターが補足を付け加える。
白花神聖教会とルーグラン王国としては聖武具を揃えて勇者を強化し、万全の状態で全戦力をクリフォート魔族王国にぶつけたいのだろう……まあ、その聖武具は既にドルグエスというよく分からない第三勢力に回収されてしまっている訳だが。
無縫が指摘したように、マールファス連邦は白花神聖教会とクリフォート魔族王国の共倒れを狙い、両者が弱ったところに襲撃を掛けて漁夫の利を得るために戦力を温存している可能性が高い。
実際、マールファス連邦はここ最近、更に襲撃の回数を減らしている。せいぜいクリフォート魔族王国への牽制程度のもので、本気でクリフォート魔族王国を落とそうという気概の感じられる派兵は無かった。
となると、可能性が高いのは消去法でラーシュガルド帝国ということになる。
特に勇者一行がほとんど成果を挙げられていない今は絶好のタイミングだ。
覇権拡大を狙うラーシュガルド帝国は、ここで領土拡大を狙うと共に魔族を忌み嫌う白花神聖教会と東方白花正統教会、双方に恩を売るべく大規模侵攻を仕掛けてくることは十分に考えられる。
「……まあ、マールファス連邦は攻めてきても牽制程度だろうか、仮想敵はラーシュガルド帝国にしておくべきだろうな。後は倒した人間をどのように扱うかだな……。流石に不殺を貫ける訳じゃないから戦闘の途中で殺しちまうことはある。それ以外は人間側の情報収集のために拷問とか、後は捕虜とか……そういう使い道はあるんだろうが、そういうのを考えるのは中央――魔王軍の仕事だ。対人間族魔国防衛部隊の出る幕じゃない……だが、参考までに何をするつもりなのか聞いておきたいな」
「可能であれば、資源として運用したいと思っているわ。基本的に誰もが大なり小なり保有しているワーブルだけど、その保有量にはかなり個人差があるわ。ロードガオンの方針としては星を支えられるだけの存在……星の神なんて呼ぶこともあるけど、それほどのワーブルを持つ存在は生け捕りに、そうでないものは基本的に殺してワーブルを生み出す身体の器官だけを取り出している。……まあ、私は交渉で土地を分けてもらえるならそれに越したことはないから、なるべく殺害してワーブルを生み出す器官を取り出したり、ワーブルの保有量が多い人間を生捕りにしたりといった方法は使用せず、とにかく戦力を並べて暴れて、力を示して交渉を有利に進めるスタンスを取っていたのだけど。勿論、住民への被害は最小限にしていたわ」
「……本当にロードガオンって恐ろしいなぁ。だが、フィーネリアさんのやり方はフィーネリアさんらしいと思うぜ。まあ、侵略者としては色々と甘いと思うけどな」
「ただ、生け捕りといっても船のスペースは限られていて大量の人間なんて運べないのよ。そこで、人間の身体をワーブルのキューブへと変える技術が開発されたわ」
「独立国家ロードガオン地球担当第二部隊が何度か使ってきたので、内務省の方で解析してキューブから人間に戻す技術は確立しています。……なかなか面倒な作業でした」
「……あれって、一応白ワーブウェポンの力がベースになっている筈なんだけど……本当に大日本皇国の技術力には脱帽だわ。で、ええっと、どこまで話したかしら? そう、ワーブルのキューブ化の件ね。ロードガオンの技術でもキューブから元の人間の姿に戻すことはできるし、そのままキューブをエネルギー源にすることもできるわ。私達としては貴重な資源だから譲って欲しいのだけど、魔王軍にも考えはあるでしょうし、その辺りは交渉になるのかしら?」
「まあ、俺の一存では決められない話だな。捕まえた奴を捕虜にするのか、拷問に使うのか、殺すくらいならエネルギー資源として有効に活用してもらうって話になるのから分からないが、キューブ化が不可逆って訳じゃないならキューブ化してもらっていいと思うぜ。まあ、その辺りも魔王軍に確認を取ってからにはなるが」
「……それなら、キューブ化できるシステムが組み込まれている徒手拳兎を中心に据えた構成にした方が良さそうね」
「長尾驢鎧の量産進めておきますわ」
マリンアクアが開発した長尾驢鎧と、捕獲用のワーブリス兵の中では最強クラスの徒手拳兎を戦力の中心に据えるということで会議は一区切りを迎えることになった。
ミリアラが徒手拳兎の在庫確認と必要であれば量産を、マリンアクアが長尾驢鎧の量産を請け負うことが決まり、魔王軍からの返答が来たところでフィーネリアか無縫に結果を伝えるとオズワルドが約束したところで会議はお開きとなり、オズワルドとヴィクターは異世界ジェッソに戻り、フィーネリア達は独立国家ロードガオン地球担当第一部隊のメンバーと合流するべく中枢管理棟の外へと向かったのだった。
◆ネタ解説・百七十二話
メロンソーダの中にコーラのような炭酸飲料を入れる
元ネタ? は紅白TRPG動画合戦のオフ会レポより。
なお、作者は炭酸が飲めません。寧ろ炭酸を親の仇の如く嫌悪しています(シャンメリーで喉焼かれて以来、あれは悪魔の飲み物だと感じている)。