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客観的な視点で話さなければならない三人称視点が饒舌に語り出したら、それはもう三人称を装った一人称小説なんだよなぁ……って話。

 サクラ聖皇国とウコン聖帝国は無縫の活躍で戦争が終結したこともあって、第三陣営である瑠璃聖女教団の信徒数が異世界アムズガルドで最も多い地域である。

 イシュメーア王国王都フィオーレにあるブルーベル商会本店に次ぐ異世界アムズガルドで第二位と第三位の売り上げを誇るブルーベル商会サクラ聖皇国支店とウコン聖帝国支店も存在し、この二つの支店を起点として様々な異世界との交流が図られている。


 中でも無縫の故郷である地球――特に大日本皇国の文化を神聖視して積極的に取り入れようという動きが活発で、両国の国境付近に作られた事実上の瑠璃聖女教団の支配地域、ソーダライト自治区には大日本皇国街まで存在していたりする。

 このソーダライト地域は事実上、瑠璃聖女教団によって支配されており、サクラ聖皇国とウコン聖帝国も巨大な第三勢力である瑠璃聖女教団の存在を恐れ、或いは両国の戦争を圧倒的武力で止めた『英雄』無縫と敵対することを恐れて、地域の自治を黙認しており、ソーダライト地域は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを事実上の君主とする宗教国家として扱われることになる。

 勝手に自分のことを神や君主として神輿のように担ぎ上げる者達には無縫も辟易としていた。


 ……まあ、その厄介極まりない瑠璃聖女教団も無縫が暴走する度に教団上層部をボコボコにしたため、現在は過度な干渉はせず「魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス様とそのご友人達の邪魔をしないように静かに見守ろう」というスタンスに落ち着いている。

 無縫による瑠璃聖女教団への相次ぐ制裁で教団のトップが何度も入れ替わり、現在は穏健派の話の分かる人物が教団長を務めていることも瑠璃聖女教団の活動が鎮静化していることに大きな影響を及ぼしているのだろう。


 そんなソーダライト自治地域の大日本皇国街を無縫、ヴィオレット、シルフィア、スノウ、タタラ、サクラの六人は歩いていた。


 異世界には存在しない出店で売っていたソフトクリームに興味を持ったスノウが食べたそうにしているのを無縫が素早く察知して「食べてみないか?」と提案。

 スノウが遠慮したところを「じゃあ、タタラさんと二人で食べるならいいんじゃないかな?」と更に提案し、空気を読んだタタラが「……ん、私も食べたい」と言ってくれたため、スノウとタタラは二人仲良く出店で買ったソフトクリームを片手に街を歩いている。


 なお、ヴィオレットとシルフィアはお金も持たずに勝手に出店に突撃し、無縫が致し方なく後からお金を払って解決していた。なお、無縫が払ってくれるとタカを括って無銭飲食を行おうとしたヴィオレットとシルフィアの頭には拳骨が落とされて小さくないタンコブを作っている。


 ≪随分変わったのですね……サクラ聖皇国とウコン聖帝国も≫


「……この辺りの地域がかなり特殊なのだと思うわ。サクラ聖皇国は普通の異世界の国って感じだったし」


「フィーネリアの言う通り、この辺りの地域が特殊なだけじゃな」


「確か、大日本皇国街の中には大日本皇国の転移者や転生者達が作った日本人町もあったよね? こういう町って色々な異世界にあるみたいだけど、強固なネットワークを築いているとかいないとか……」


「瑠璃聖女教団とブルーベル商会が連携して、転移者や転生者が異世界間を移動して別の日本人町に移民するということもさほど珍しいことでもないみたいですね、最近だと。他の都道府県に引っ越しをするみたいなノリで異世界転移をするとか……」


 ≪……少し前までは考えられないことですね。昔は異世界間の移動は黙認されていましたが、魔力のない世界と異世界の移動は禁止されていましたから≫


 ほんの少し前までは、地球のようなスキルや魔力の存在しないとされている世界と、異世界の移動は不可逆なものとなっていた。

 これは、世界が魔力やスキルによって大きな影響を受けることを危惧していたからであるが、『形成の書セーフェル・イェツィラー』と呼ばれる神界ですら制御できない超高次システムによって「歴史に少し差異がある並行世界」や「創作作品を基にした世界」が大量に生み出されるようになり、そうした世界で相互に異世界間移動が可能になると、神界でもそれら全ての世界での移動を監視することが不可能になり、「世界間の移動を黙認する方針」へとシフトしていったようである。


 基本的に不可逆とされていた魔力のない世界と魔力のある世界の移動だが、『形成の書セーフェル・イェツィラー』によって無数の異世界や並行世界が機械的に、そして爆発的に生み出されて、その存在を神界が危険視するようになる以前にも異世界から地球への帰還を果たしたという前例がない訳ではない。


 その最たる例は自称本好きを拗らせた変態、或いは事象モブキャラとされる文学研究者の卵による異世界カオスから地球への帰還であると言われている。

 世界改変系スキルである【永劫回帰】と地球への転生を組み合わせたバグ技によって果たされた前代未聞の事例だが、これについては異世界転移に関わったヴォーダンという神界の神が、「自分が女神コスモスという古き女神である」という事実を隠して、異世界カオスを停滞させないために祈りによって女神を生み出した始まりの一族オリジン・オブ・ケイオスと呼ばれる存在と共謀してクトゥルフ神話で語られる神々や、因果を超越した魔法少女、時をかける少女を筆頭に多くの者達を世界に強制召喚をしていたという神界としても黙認できない問題があったが故の特別措置だったが……。


 ちなみに、始まりの一族オリジン・オブ・ケイオスが関わらなかったとしても“叡慧”のマルドゥークの名で呼ばれるマルドゥーク文明を筆頭に、“電脳”のフリズスキャールヴの名で呼ばれる魔法少女を生み出す力を持つ存在である情報思念体フリズスキャールヴ、“即死”のテトラ=カルタの名で呼ばれる五度の転生を経て六度目の転生で無双即死(即死チート)異理の力(イミュテーション)を手に入れた自宅警備神(ニート神)のテトラ=カルタ、概念を捻じ曲げる世界の勘違いを訂正することであらゆる因果・概念に干渉し、望むままに改変することができる概念干渉系異能、或いは異理の力(イミュテーション)と呼ばれる力を持つ上位転生者(ハイ・リンカーネータ)であるリュート=オルゲルトの転生者――インディーズ=ヴァパリアや、魂の記憶データを現在生きていると仮定した状態に書き換えて貼り付ける《真の蘇生魔法ベリディカル・リザレクション》と呼ばれる異理の力(イミュテーション)を持つ上位転生者ハイ・リンカーネーターのグリフィス=インビィーツトといった並の異世界では頂点に立てていたであろう化け物達が数多く出現しているため、元々異世界カオスはそうした化け物達を寄せ集める魔境であったと言えなくもない。


 しかし、もう一つ考えられる可能性がある。


 異世界カオスはある時期、停滞していた。

 複数の組織が乱立し、互いに競い合うことで、丁度激流の中で水が澱まないように新鮮で常に変化する世界を維持する――停滞による腐敗を何よりも嫌う始まりの一族オリジン・オブ・ケイオスが望む異世界カオスの北半球では、しかし、ヴァパリア黎明結社と呼ばれる組織を中心とした複数の勢力による長期的な支配が続いていた。

 そんな時、女神コスモスは一人の文学者の卵に目をつけて異世界カオスに召喚した。


 彼は残り物のアイテムやスキルを押し付けられて最果ての迷宮へと転移させられたが、その類い稀な先行テクストに関する知識を最大限利用して迷宮を生き抜いた。

 一見すればハズレであるスキルを本当にハズレなスキルや旅の中で獲得したスキルと統合して戦いの中で尋常ならざる成長を遂げていった彼だが、何よりも恐ろしいのはUnmeasurableなステータスでも、強大なスキルでも、限界を超越した領域――超越者(デスペラード)に至ったことでも、超越者(デスペラード)に至ったことで発現した超越技と呼ばれる力でも無かったのかもしれない。


 同郷のクラスメイト達も異世界で出会った者達も含めて周りの人間を巻き込んで圧倒的な速度でコミュニティを構築してしまう求心力、常に最短で倒すべきと遭遇する引きの強さ。

 もし、彼を取り巻く現実が物語としたら、その中心にいる存在――主人公と呼ぶのが相応しいような補正のようなものが、間違いなくあの文学者の卵にはあった。


 ――彼だけではない。

 三十個のゲームを創り上げた百合を愛する男の娘も彼のような補正を持っていた。

 自分達が創り上げた三十のゲームが融合した異世界ユーニファイドに召喚され、後に悪役令嬢として転生を果たした彼女の周りには過去や未来だけに留まらず、異世界の並行世界や召喚前の世界、果ては召喚前の世界の並行世界などを巻き込んだ運命と呼ぶべき出会いの数々があった。

 彼女にも、同じような補正が働いていると言えなくもない。それほどまでに、運命に愛された存在であった。


 法曹一家である両親や推理小説や刑事ドラマの影響もあって捜査官になりたいと願った、あの悪役令嬢に転生した少女にも、そんな少女の存在に惹かれ、世界を蝕む三毒と戦うことを決意した聖女(ヒロイン)に転生した少女にも――。


 あまりにも心優しいが故にどちらの選択も選ぶことができず、婚約者の王子がヒロインに『魅了』されて自身を断罪したことを機に、それを自分の『運命』であると受け入れ、マフィアの二台目ボスに就任することを決めたあの子爵令嬢にも……。


 そういった存在は、時に悪役令嬢と呼ばれる存在の姿で、時にハズレスキルを押し付けられた無能と罵られる存在の姿で、時にパーティを追放された隠れた才能を持つ存在の姿で……実に様々な姿で世界に現れる。

 時に語り手の立ち位置で、時に俯瞰される者として、世界の中心に立ち、周囲を巻き込んで世界を動かしていく彼らは、まるで物語の『主人公』のようだ。


 しかし、彼らをそのようにたらしめるものは何なのだろうか? 彼らとそれ以外を区別するものがあるとすれば、それは一体どのようなものなのだろうか?

 ……もし、そのようなものがあるとすれば、こう呼称するのが良いのかもしれない。


 主人公を主人公たらしめる因子――『主格因子』と。


 ……少々、第三者の語り手の領分を踏み越えて饒舌に語り過ぎてしまった。

 三人称なのか、三人称を装った一人称なのかよく分からなくなったところで、今回の話はここで一区切りとしよう。

 次回こそは、しっかりと無縫達の話を記していくのでお許し願いたい。

◆ネタ解説・百六十九話

形成の書セーフェル・イェツィラー

 初出は『百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜』で、本格の根幹を成す概念。

 まず、作中の舞台が『形成の書セーフェル・イェツィラー』によって生み出された虚像の地球という世界であり、『百合好き悪役令嬢の異世界激闘記』における異世界も『形成の書セーフェル・イェツィラー』が主人公である百合薗圓達が生み出した三十のゲームを融合させる形で生み出した異世界ユーニファイドとなっている。

 その最終目標並びに正体は不明。

 名称そのものは前作である『文学少年召喚』から使われている。

 着想元は佐崎 一路氏のネット小説『吸血姫は薔薇色の夢をみる』に登場する同名の概念。

 なあ、現実世界においては創造の書とも呼ばれ、ユダヤ教神秘主義思想カバラの基本教典の一つとなっている。


『主格因子』

 『文学少年召喚』に関する振り返りの最後にポッと現れた謎の概念。初出なんてものはない。……えっ、この概念は重要なのかって? さあ、どうなんでしょうね。

 色々とだらだら話してしまいました。あんまり全知視点の語り手が前に出て話すのは良くないですね。それぞれの元ネタ解説とかやっていたらキリがないので丸々カットします。詳しく知りたい方は『文学少年召喚』にレッツゴー。宣伝ジャナイヨ? ナイヨ?

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