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異世界旅行は女神様とともに。 〜どこぞのエセ関西弁を話す雷神様とは違ってちゃんと女神をしている女神サクラ様との地上探訪〜

 無縫とヴィオレット、シルフィアの二人はそれから二日間、イシュメーア王国の各地を駆け回った。

 そして、三日目の夕刻――最後の指名依頼を終えてイシュメーア王国王都の冒険者ギルドに戻る。


 依頼された素材を冒険者ギルドに提出し、その対価として大量の報酬が無縫に支払われた。


「なかなかの金貨の山じゃな! 我も手伝ったんだしおこぼれをもらえないだろうか?」


「そのお金でギャンブルに――」


「だ、駄目ですよ!! ヴィオレットさん! シルフィアさん!!」


「本当にお前ら……学習能力皆無だな」


 本来であればヴィオレットとシルフィアも依頼を手伝ったので分け前を渡すべきなのだろうが、既にヴィオレットとシルフィアはカジノで多額の借金を作っている。

 そのお金を無縫に立て替えてもらっているため、今回の借金は指名依頼の手伝いで帳消しすることになった。……まあ、ヴィオレットとシルフィアの拵えた借金の方が遥かに多いので明らかに釣り合いが取れていないのだが。


 ヴィオレットとシルフィアに分け前を分配して、その上でそこから負債分の支払いをさせても良かったが、二人は基本的になんだかんだ言い訳をして借金を踏み倒すのでどちらの選択肢を選んでもあんまり変わらなかったりする。


「フランチェスカさんもヴァトンさんも本当にありがとうございました」


「いえいえ……本当にただ付き添っただけで、スノウさんはしっかりしていますから、本当にこれで依頼料をもらっていいのかと不安になりましたよ。スノウさんと王都を歩くと、私だけでは気付けないような色々な発見がありましたら、お礼を言いたいのは私の方です」


「フランチェスカさん、ヴァトンさん、ありがとうございました! とても楽しかったです!!」


 スノウの可愛さにすっかり冒険者ギルドの面々(冒険者達だけでなくギルドの職員を含めて全員)は骨抜きにされてしまったらしい。

 なお、ヴァトンの方はというとスノウの笑顔に少し癒された……ものの、フランチェスカと二人きりのデートでもないかつ、子供のスノウがいるところで告白する訳にもいかず、いい雰囲気も作れないまま周りの冒険者達からは羨望の視線に晒されてかなりの精神ダメージを負ったらしい。


 なお、スノウは空気を読んで二人が良い雰囲気になれるようにこの一日、色々と試行錯誤していたりする。

 小さな女の子にお膳立てされながら、全く機会をものにできなかったため、結局のところヴァトンがただのヘタレだったというオチなのだが、それは言わぬが花だろう。



 そして四日目、無縫、ヴィオレット、シルフィア、スノウ……そこに、スノウから要望を受けて交渉し、今月分の仕事を終えていたということもあって急遽参加することになったタタラを加えた五人はイシュメーア王国の隣国であるサクラ聖皇国へと向かった。


 総人口は五千万人程度で、この国ではサクラ聖法教会と呼ばれる宗教が国教に指定されている。

 サクラ聖武教会の教皇が代々国を治めている宗教国家で、同じくウコン聖雷教会を国教に指定するウコン聖武教会と呼ばれる宗教を国教に指定し、ウコン聖雷教会の教帝が国を治める宗教国家――ウコン聖帝国とは長年険悪な関係にあった。


 サクラ聖武教会の唯一神の名は左近(さこんの)紗倉(さくら)

 ウコン聖雷教会の唯一神の名は右近衛(うこのえ)(たちばな)鬱金(うこん)


 後に二つの宗教の神として崇め奉られる二人は昔、それぞれの国の前身となるソメイ王国とターメリ王国の武将であった。

 互いに軍を率いて、数多の戦で鎬を削った二人は多くの伝説を残し、二人の死後は英霊として祀られた。その英霊信仰が強まり、遂には両国の王族よりも宗教の力が強まったことで二つの国は教国へと変化したのである。


 両国の規模は互角だが、ウコン聖雷教会、サクラ聖武教会共に国外でも積極的に布教を進めており、世界を二分する勢いで信徒を獲得している。

 つい最近は魔王国ネヴィロアスにも布教の手を伸ばしており、彼らの毒牙に掛かっている魔族もいるとか……ゲフンゲフン。


 そんなウコンとサクラは生前、互いに好意を寄せており、祖国と自分達の気持ちの間で板挟みになり、最後は二人揃って互いの放った一撃で討ち死にするというなんとも湿度の高い最後を迎えていたりするのだが、そういった恋物語はウコン聖雷教会とサクラ聖武教会によって徹底的に秘匿され、ほんの少し前まではウコン聖雷教会とサクラ聖武教会の教皇すらも全く把握していない情報になっていた。


 無縫が召喚された年に偶然発掘されたウコンとサクラ両名の日記からその事実が判明した際には、ウコン聖雷教会とサクラ聖武教会が全力に隠蔽し掛かったり、ウコンとサクラの真実を伝えるべきだと奮起してプロテスタントを立ち上げる教団の有力者が現れたり、更にはサクラ聖皇国とウコン聖帝国が全面戦争に突入したりと散々な状況になっていた。

 異世界召喚に巻き込まれた無縫が介入しなければ周辺国を巻き込んだ大惨事になっていただろう。無縫の介入で両国の首都が吹き飛んだが、それでもまだマシというレベルである。


 ……まあ、そのせいで今度は無縫……というより魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを崇める瑠璃聖女教団なる第三勢力が誕生してしまったが。

 ちなみにこの宗教――無縫が英雄譚を残した異世界の各所とネットワークを創り上げて勝手に信者を増やしており、ウコン聖雷教会とサクラ聖武教会とは別ベクトルで厄介さを増していたりする。

 ……タチの悪いファンクラブである。


「さて……約束の場所はここだった筈だけどな」


 サクラ聖皇国の首都――聖都サクラ・ファミリア。

 その中心に位置するサクラ広場に向かった無縫は約束していた人物を探していた。


 今回、サクラ聖皇国で観光をすると決めた際に、是非彼女(・・)も誘いたいと思い立ち、急遽連絡を入れていた。

 立場上、かなり多忙な筈だが……今回は仕事の合間を縫って時間を作ってくれたらしい。

 もしかしたら、久しぶりに地上(・・)――故郷の地(・・・・)を満喫したいと思っていたのかもしれない。そうであればいいな、と思いつつ、無縫は目的の人物を見つけて駆け寄る。少し遅れてヴィオレット、シルフィア、スノウ、タタラの四人も無縫の後を追った。


「お待たせしたようですね」


 ≪いえ、私も今来たばかりですから。今回はお誘いくださりありがとうございます。こういう機会でもないとなかなか地上に降りませんから、お誘い頂けて嬉しかったです≫


 腰まで届く桃色の髪をポニーテールに結え、真っ白なワンピースを着こなし、白い帽子を被った姿はどこかの貴族令嬢を思わせる優美さだ。

 美しい桃色の瞳は澄み渡って澱みの一つも感じさせない。まるで宗教画から飛び出してきたかのような絶世の美貌は、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスと並んでも見劣りしないほど美しい。


 どこぞのエセ関西弁を話す浅黒い肌の戦闘狂な雷神――神器『天雷霆劔アマノライテイノツルギ』だけを持ち、地上に降りては武者修行などと言いつつ強者と認めた相手に決闘を申し込みまくったいるという武神ウコンとは違いしっかりと女神の神々しさ……というか、オーラを持っている女性だ。

 まあ、そのせいで「女神の降臨」だと叫び出す狂信者達も現れていたりするが……。


 そう、彼女こそサクラ聖武教会の唯一神にして、転生システムと呼ばれる魂の機構を守護する神々の世界――神界において二つある最高位の肩書きである左近衛大将の座に着く左近(さこんの)紗倉(さくら)その人である。

 なお、もう一つの最高位である右近衛大将の座には武神ウコンがついているが……まあ、どうでもいいことなので詳細は割愛する。


 ちなみに、サクラとの出会いは異世界アムズガルドとも異世界ハルモニアとも異世界アルマニオスともまた異なる世界での出来事である。

 無縫達を召喚したローズマリー教団と呼ばれる宗教団体の教皇が更なる権力を求めてあろうことか禁断の魔術である『神格召喚』に手を出して、女神ローズマリーを地上に召喚した挙句黒魔術で洗脳を施し、神格兵器として運用しようとした。


 本来であれば地上には極力干渉しない(ウコンは例外である。普通はあんなにポンポン地上に降りて暴れたりしない。あの神は少しは最高位の神としての自覚を持つべきだろう)神界の神だが、流石に神界の神を兵器として運用するなどという事態を見過ごすことはできず、彼女の上司であるサクラが地上に降り立つことになったのである。

 その後紆余曲折を経て無縫一行とサクラは共闘関係を結ぶことになった。


 女神ローズマリーを救い出し、教皇の討伐までは無事に完了したが、肝心の元凶である『神格召喚』の載っていた魔導書『逆五芒の智慧』はその後捜索したものの見つからず、なんとも後味の悪い結果に終わっている。

 その後、遠く離れた異世界カオスという世界で魔導書『逆五芒の智慧』の『神格召喚』を使ったと思われる事件で女神ミントが闇堕ちさせられる事態に陥っているが、その際も魔導書『逆五芒の智慧』を回収することができず消息不明となっており、今後も同様の事件が起きるのではないかという不安が拭えない状況だ。


 タタラとスノウはサクラの正体が女神であることを知らないので、「特にスノウが知ったら恐れ慄いて恐縮しそうだなぁ……」と思いつつ、とりあえず広場が少しずつ騒がしくなってきたので一先ずこの場を離れようと提案した。

 了承も得たところで、無縫達は今回の観光の最初の目的地である市場へと向かった。

◆ネタ解説・百六十八話

左近(さこんの)紗倉(さくら)

 初出は……まさかの本作。後述の右近衛(うこのえ)(たちばな)鬱金(うこん)と対を成す左近衛大将としてデザインしていたものの本作が初登場となった。

 名前は平安宮内裏の紫宸殿の前庭に植えられている桜と橘に由来する。

 鬱金と並んで神界における最上位の立場にあり、天使と悪魔を指揮する総指揮官の権限を有する。


右近衛(うこのえ)(たちばな)鬱金(うこん)

 初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』で第七章「四陣営戦争編」の序盤において突如として現れた野生の神様。

 その後も主人公である能因草子に何度も戦いを挑んでおり、ライバルという位置付けにあった。現在は、能因草子が従えた天使と悪魔の指揮権を託される形で(なお、元々神界の神々には天使を使役する権限があったため、実質的には悪魔の指揮権を得たようなものである)、右近衛大将として天使達と悪魔達を指揮することもある。……が、基本的には独断専行タイプなので勝手に地上に降りて武者修行と称して自分が猛者と認めた者を相手に暴れていることが多い。

 関西弁と浅黒い肌は青山剛昌氏の漫画『名探偵コナン』より西の高校生探偵の服部平次。

 また、設定するにあたり「うたわれるもの 偽りの仮面」の右近衛大将オシュトルから影響を受けたような気がしないでもない。……本当に受けたのか?

 ちなみに、『文学少年召喚』においてはウコンとカタカナ表記。神器、天雷霆劔アマノライテイノツルギは天叢雲剣より着想を得たもの。


ソメイ王国

 もしかしなくても名前の元ネタは桜の種類の一つソメイヨシノから。


ターメリ王国

 もしかしなくても名前の元ネタはウコンの別名であるターメリック。


『神格召喚』

 初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』で、神が本格的に関わってくる第五章「古代遺跡と魔法少女」において初登場した概念。

 後に能因草子が別の方法で神々を召喚したが、本来は逆五芒星の魔法陣を展開して召喚を行う。

 作中では、ミンティス教団の枢機卿(カーディナル)であるマジェルダ=ホーリーが手にしたこの魔法を使って女神ミントを召喚して洗脳し、神格兵器として運用した。

 実はこの魔法は女神ローズマリーを召喚したとのと同じ魔導書『逆五芒の智慧』によりもたらされたものであり、異世界アムズガルドから消えた魔導書が縁もゆかりもない異世界カオスに召喚されて再び厄災を振り撒いたということになる。……まあ、でもあの世界では良くある話なんだよなぁ。

 今は誰が持っているんでしょうね?


神界の神々

 これまでカオスファンタジーシリーズにおいて登場している神はオレガノ、ミント、ウコン、トリカブト、バジル、サクラ、ローズマリー、と名前が全て植物から取られている。

 『文学少年召喚』においてはヴォーダン=ヴァルファズル=ハーヴィという老害神が登場していたが、その正体は古き女神である秋桜(コスモス)という名前の神であり、この命名条件は今のところ破られていない。


◆キャラクタープロフィール

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左近(さこんの)紗倉(さくら)

性別、女。

年齢、一億四千万三歳(享年二十七歳)。

誕生日、三月二十七日。

血液型、O型RH+。

出生地、ソメイ王国辺境。

一人称、私。

好きなもの、桜餅。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、「明鏡止水」。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、神界左近衛大将。

主格因子、無し。


「ターメリ王国と不倶戴天の関係にあったソメイ王国の武将。桃色の髪と桃色の瞳が特徴的な清楚な女神様。どこぞの色物雷神とは同じ神でも月とスッポンである。ターメリ王国の武将である鬱金と幾度となく戦った。鬱金とは両思いの関係にあったが祖国と自分達の気持ちの間で板挟みになり、最後は二人揃って互いの放った一撃で討ち死にするというなんとも湿度の高い最後を迎えている。神界の神として転生を果たした(神として再誕した)後は神界の左近衛大将に任じられ、武神として活躍することとなる。今でも鬱金に対して恋心を持っているものの、既に人間の生に区切りをつけており、鬱金にその気持ちを伝えるつもりはないらしい。右近衛大将の鬱金が仕事を放棄して武者修行に明け暮れているため、天使達や悪魔達の統率は基本的に彼女が行っている。天使達や悪魔達からは真面目で的確な指示を飛ばすことから指揮官として高い信頼を勝ち得ているようだ」

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右近衛(うこのえ)(たちばな)鬱金(うこん)

性別、男。

年齢、一億四千万三歳(享年二十八歳)。

誕生日、十一月二十五日。

血液型、AB型RH-。

出生地、ターメリ王国辺境。

一人称、ワイ。

好きなもの、戦い、スパイス料理。

嫌いなもの、暇。

座右の銘、「雷霆の如く」。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、神界右近衛大将。

主格因子、無し。


「ソメイ王国と不倶戴天の関係にあったターメリ王国の武将。浅黒い肌と関西弁が特徴。ソメイ王国の武将である紗倉と幾度となく戦った。紗倉とは両思いの関係にあったが祖国と自分達の気持ちの間で板挟みになり、最後は二人揃って互いの放った一撃で討ち死にするというなんとも湿度の高い最後を迎えている。神界の神として転生を果たした(神として再誕した)後は神界の右近衛大将に任じられ、武神として活躍することとなる。今でも紗倉に対して恋心を持っているものの、既に人間の生に区切りをつけており、紗倉にその気持ちを伝えるつもりはないらしい。好戦的な性格で自らを鍛えることに余念がない。最近ではかなりの頻度で地上に降りては武闘大会などに乱入しており、神界にいない時間の方が多いため、彼が能因草子から指揮権を与えられた統率する天使達や悪魔達からは『指揮官(仮)』だと思われている」

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