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どうやら魔族の娘さんも妖精さんも学習能力が皆無のようです。〜〜ヴィオレットとシルフィアの釜茹で、無縫の激怒を添えて〜〜

「……古世竜エンシェント・ドラゴンの討伐完了。これで三分の一か……」


 古世竜エンシェント・ドラゴンに従っていた多くのドラゴン達が恐れをなして蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 無縫はそんなドラゴン達に一瞥すら与えずに悪魔の賽子(デーモン・ダイス)を放り投げ、発動した『敵全体即死』で取り巻きのドラゴン達を全滅に追い込んだ。


 無縫に届いた指名依頼は「素材採集」と「討伐依頼」に偏っている。

 高ランクの冒険者の指名依頼といえば「護衛依頼」などがメインになるが、無縫はそもそもこの世界にいることの方が稀なため、適切なタイミングで依頼を受注してもらえることの方が稀だ。

 そのため、期間限定の場合が多い「護衛依頼」はしても無駄になるためされないのである。


 対して「討伐依頼」は大襲来(スタンピード)のような緊急のものでなければある程度の余裕がある。「素材採取」も同様だ。

 無縫の気が変わって受けてもらえるという一握の可能性に縋った指名依頼のため制限時間はないに等しい……が、当然ならば無縫クラスでなければこなすことが難しいか、不可能な高難易度依頼が揃い踏みしている。


 更に、ここぞとばかりに冒険者ギルドは抱えていた塩漬けクエストを大放流した。

 折角の機会だからと指名依頼の上に数々の塩漬けクエストが重ねられたため、依頼の全体量は全ての指名依頼を受けたタイミングから更に増えている。

 無縫が持っていた素材で二割ほど減った指名依頼が、一気に元の三倍の量に膨れ上がった時には流石の無縫も頭を抱えた。


 ……まあ、そこから保有する素材を放流して素材採取系のクエストは消化したが、最終的に元の指名依頼の量とほとんど変わらない量の膨大な「討伐依頼」が残されることになったため、実際には全ての指名依頼をそのまま引き受けるのと大差のない労力である。


「さて……今日の分はここまでにしよう。時間はあるし、明日と明後日の二日で依頼を片付ければいいか。四日目は……あの二人に任せっきりっていうのもアレだし、ちゃんと俺も観光案内をしないとな。回るところ見繕っておくか」


 古世竜エンシェント・ドラゴンの死体を時空の門穴ウルトラ・ワープゲートに放り込み、イシュメーア王国王都フィオーレの冒険者ギルドに時空の門穴ウルトラ・ワープゲート経由で帰還する。

 一先ず、今日の成果を報告して換金してもらうために冒険者ギルドの受付に並ぼうとした無縫だったが……。


「――ッ!? 無縫さん! 大変です!!」


 受付のカウンターが少しざわついたかと思うと無縫を姿を見つけた受付嬢が無縫の方へと駆け寄ってくる。

 可哀想なくらい蒼白になっている受付嬢と周囲の冒険者達が受付嬢に向ける同情の視線から嫌な予感がした無縫は小さな溜息を吐いた。


「……何かありましたか? 俺はただ指名依頼の三分の一を終わらせて帰ってきただけですが……」


「ギルドマスターから話は伺っていますが、本当に三分の一も終わらせたのですか!? じゃなくて、大変です!! 王都のカジノでヴィオレット様とシルフィア様の姿が目撃されました!!」


「……まあ、なんとなく貴方の慌てっぷりや冒険者達の同情的な視線から察していましたけど……本当にアイツら何やってんだよ!? スノウさんのこと任せたって俺確かに言ったよな!? アイツらマジ巫山戯るなよ!!」


 黒い稲妻と化した覇霊氣力がバリバリと発散され、間近で圧倒的な覇霊氣力に当てられた受付嬢は耐え切れずに気絶した。

 冒険者達も一握りの実力者を残して気絶しており、阿鼻叫喚の様相を呈している。


「……無縫殿、気持ちは分かりますが抑えてください」


 ギルドの奥から慌てた様子のウルスラがすっ飛んでくる。

 我を忘れていた無縫もウルスラに声を掛けられて慌てて周囲の被害に気づいたのだろう。慌てて精神安定の聖属性魔法をばら撒いた。


「とりあえず、アヴロアの街の冒険者ギルドに行ってきます」


「ラヴィリス辺境伯領の冒険者ギルドでしたね。何故、あそこに? ヴィオレット様とシルフィア様とはこの冒険者ギルドで分かれた筈ですが……」


「流石にアイツらもスノウさんを連れて行くとは思いませんし、スノウさんは良識がありますから二人を止めた筈です。それに、この世界に連れてきたのだから観光をさせたいという気持ちもある筈。……なので、以前スノウさんの観光を引き受けたゲラップさん辺りに依頼をして役目を押し付けた可能性があるんじゃないかと」


「なるほど……そういうことですね。分かりました、冒険者ギルドのことは私の方でなんとかしておきます。カジノの場所もこちらで情報を集めておきますから、まずはアヴロアの街の冒険者ギルドに行って憂いを晴らしてきてください」


「ありがとうございます、助かります」


 時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを経由してアヴロアの街の冒険者ギルドに転移した無縫を待っていたのは全力で土下座をするゲラップと申し訳なさそうな顔をしているスノウだった。


「申し訳ございません、無縫さん!」


「……その依頼は引き受けちゃダメでしょ、ゲラップさん。スノウさん、申し訳ないと思う必要はないからね。寧ろこっちが申し訳ないよ。アイツらに頼んだばっかりに……ちなみに観光は楽しめた?」


「はい、ゲラップさんのおかげで楽しめました!」


「……まあ、スノウさんもこう仰ってくれているし、今回の件は不問にする。アイツら報酬もどうせ俺に丸投げしたんだろ? 依頼料は払うが、次からはアイツらの依頼を受けないように……分かったね?」


「は、はい! 心得ております!!」


 ゲラップと共に受付に向かい依頼の報酬を支払った後、冒険者ギルドの一角でゲラップに奢ってもらったのだろうオレンジジュースを飲んでいるスノウのところに戻ってくる。


「指名依頼なんだが、塩漬けクエストも足されて流石に一日じゃ終わらなかった。後二日掛かりそうなんだが、その間、スノウさんのガイドは冒険者ギルドにお願いしてもいいかな? できれば、ゲラップさん以外の人で。ほら、色々な人と歩いた方が別の角度から楽しめて新しい発見があるかもしれないし」


「まあ、確かに一理ありますね。正直、俺はネタ切れだったので助かります!」


「その代わり、四日目にはあの莫迦二人も加えた四人で王都の観光をするってのはどうかな? 折角、こっちの世界に来たのに冒険者達に任せっぱなしってのもね」


「わ、私は十分楽しいですよ! それに、無縫さんもお忙しいのに……」


「スノウさんは賢いからかな? 同世代の子達ならきっと我慢しない場面でも、相手のことを考えて我慢してしまうきらいがある。たまには我慢せずに自分の気持ちを押し付けてもいいと思うけどね。……あんまり子供扱いするのは良くないとは思うけど、まだ小さいんだし、我儘を言う時は言ってもいいと思うし、甘えたい時は甘えればいいと思うよ」


 宿屋の看板娘として、母と二人でずっと頑張ってきたスノウ。

 宿屋を守るため、母を守るために……スノウは沢山のことを我慢してきた。

 同世代の子供達が楽しく遊んでいる姿を横目に仕事をして……自分の時間を削って。

 そんなスノウはビアンカにとっては頼りになったが、同時に子供らしく自由に過ごして欲しいという気持ちもあった筈だ。


 スノウが興味を持てばできる限り宿の外へ連れ出しているのも、できる限りスノウが我儘を言える環境を作りたいという思惑があってのことだが、折角連れ出してもやりたいことを我慢しているようでは意味がない。


「あの二人は流石に放置しておけないからね。今回のことで目を離すとやらかすことを再確認した……もう少し良識があると思ったんだが。二人は指名依頼で連れ回すから四日目だけになっちゃうけど……スノウさんが楽しめるプランを練っておくよ」


「そ、それじゃあお言葉に甘えて……よろしくお願いします! 無縫さん!」


「と、いうことで……一人はフランチェスカさんに指名依頼をお願いしたいのですが」


「分かりました! それで、あの……流石にアヴロアの街だけで三日間は大変なので、明後日は王都にしませんか? 無縫さんに時空の門穴ウルトラ・ワープゲートで送って頂けたら案内できます」


「でしたら、王都にいる冒険者にヴァトンっていう銀ランク冒険者がいまして……アイツは王都での活動が長くて名所とかも知っていますからアイツに頼んでみるのはどうでしょうか?」


「では、二日目はフランチェスカさんに、三日目はフランチェスカさんとヴァトンさんにお願いするという形にしましょうか? これから王都の冒険者ギルドに戻るので、ヴァトンさんには俺の方から話をしておきますね。それじゃあ、スノウさん、飲み終わったみたいだし行きましょうか?」


「はい!」



 幸い、ヴァトンへの依頼は引き受けてもらうことができた。

 辺境の美人受付嬢とデートできると解釈したのだろう、テンション爆上がりになる現金な男ヴァトンにジト目を向けつつ、スノウのことをウルスラに任せて無縫は一人カジノへと向かった。

 ……そして。


 阿鼻叫喚の声が響くカジノを後にし(ちなみにかなり新参のカジノだったようでヴィオレットとシルフィアの悪名は知らなかったらしい)、ギルドに戻ってきた無縫は外に【万物創造】で創り出した大鍋を置いて、燃え盛る炎でグラグラと煮立たせてヴィオレットとシルフィアを放り投げる。


 そんな様子を通り掛かった純魔族の青年が目撃した。

 同胞である魔族の少女が釜茹でにされている事態に憤りを覚えるのか……と思いきや。


「あの魔王陛下の御息女、またやらかしたのかよ!? あれが次期魔王ってのは……だが、交戦論者達に投票したら折角人間と魔族が和解できたのにあの地獄の時代に逆戻りだし、ああ、もうどうしたらいいんだ!?」


 と、今後の魔王国ネヴィロアスの未来を憂いて叫んでいた。

 どうやらヴィオレットの名誉はすっかり地に堕ちているらしい。


 かくいうヴィオレットとシルフィアはというと……。


「うむ、かなり熱いが、まあこれはこれでありじゃな。だが、着衣だと気持ち悪い……脱いでもいいか?」


「やっぱり服脱ぎたくなるよね? でも、ここで裸になるのは乙女としていかがなものかと思うよ?」


「本当にこの莫迦共は……お前らみっともないもの見せんなよ」


「何を言ってある! 眼福であってもみっともないはないじゃろ! 我はナイスバディの美少女なのじゃ!!」


「はいはい……じゃあ今回のお仕置きも終わりということで。はあ、もういい加減学習してくれよ」


 見物人の男達がかなり残念そうな顔をしてエロいことしか頭にない男性陣に女性達がジト目を向けていたが、無縫は全く気にした様子もなく釜を片付けて魔法で水分を飛ばし、宿屋『鳩の止まり木亭』に繋がる時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開いた。

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