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魔王軍四天王レイン=シュライマンの依頼

 宿屋『鳩の止まり木亭』で昼食を取り終えた無縫達はレインと共に【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】へとやってきた。

 レイン達を応接室へと案内するオズワルドとヴィクターも来訪の意図が分からず困惑しているようである。


 ヴィオレット、シルフィア、フィーネリアの分も含めた紅茶が無縫の分を除いて全員分机の上に用意されたところでレインが徐に口を開いた。

 ちなみに、無縫の目の前には手ずから淹れた【闇よりなお深い暗黒を湛える地獄よりも熱く苦い無縫ブレンド】が置かれている。


「本日はシトラス宰相閣下より依頼を受けて参りました。対人間族魔国防衛部隊司令オズワルド=トーファス殿、貴方が『頂点への挑戦(サタン・カップ)』に出場されるおつもりだとお聞きしましたが、それは本当でしょうか?」


「そのつもりだったが……それは魔王軍として許可できないということですか?」


「いいえ、その逆です。魔王軍はオズワルド殿の参加を心より歓迎します。今回、【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】に足を運んだ理由は、寧ろ歓迎するからこそ発生する問題について無縫殿にご助力頂けないかと打診するためのものです」


「……俺が参加することによって発生する問題か? 俺がいなくても優秀なヴィクターがいるし大丈夫だろ?」


「いえ、そうではありません。対人間族魔国防衛部隊の皆様も現地で応援したいのではないかとシトラス宰相閣下はお考えでして、当日には是非皆様にも魔王城までお越し頂ければと思っています」


「それはとてもありがたいお話です。相棒としてもオズワルドのハレの舞台を是非この目で見たいと思いますし、他の隊員達も同じ気持ちです。ですが、我々は対人間族魔国防衛部隊――クリフォート魔族王国を守護する最初の砦です。我々がここを動く訳にはいきません。とてもありがたいお話ですが、現実的ではないと思います」


「ですので、無縫殿には『頂点への挑戦(サタン・カップ)』本戦の開催期間中に代わりに【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】を守護する戦力を派遣して頂きたいのです」


「なるほど……オズワルド司令をはじめ対人間族魔国防衛部隊の皆様にはお世話になっているので可能であれば協力したいところですが、正直、内務省異界特異能力特務課の職員の派遣は厳しいですね。基本的には大日本皇国の防衛のための戦力ですし、数日程度なら大丈夫かとスコールド大迷宮の挑戦の際に戦力を集めたらネガティブノイズの大規模侵攻に晒されるということもありましたし……【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】の防衛をするとなると人数も必要なので内藤さんに直談判する前にお断りする案件です。ただ、協力してもらえれば動かせる戦力がない訳でもありません。ですよね? フィーネリアさん」


「えぇ、私達には移住先となる人工惑星セルメトを提供してもらえたという恩があるわ。その恩を返す機会があればいいと思っていたから、恩返しとして独立国家ロードガオン地球担当第一部隊を防衛戦力として『頂点への挑戦(サタン・カップ)』本戦期間中、【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】に駐在させるわ。……正直、地球侵略が主目的の組織だから、その任務が立ち消えてしまった今、特にやることもないのよね。それに、オズワルドさん達ともそれなりに長い付き合いがあるし、折角のハレの舞台だもの、協力できることはさせてもらいたいわ」


「ありがとう……こいつは是が非でも本戦出場を勝ち取らないといけねぇな」


「ありがとうございます。当日の【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】の防衛については対人間族魔国防衛部隊と相談の上決めて頂けると助かります。それでは、私は今回の件が纏まったことをシトラス宰相閣下にお伝えしなければなりませんので、これにて失礼致します」


 レインはそう言い残し、紅茶を飲み干すと【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】の応接室の扉を開けて去っていった。



 レインと【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】で分かれ、宿屋『鳩の止まり木亭』に戻ると時刻は十四時を少し過ぎたくらいだった。

 夕食まではまだまだ時間があるので、無縫はヴィオレット、シルフィア、フィーネリア、後は目的地を知って「ついて行きたい」といったスノウを伴って時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを経由して人工惑星セルメトへと転移した。


「わぁ、凄いです! こんなに自然豊かな場所になっているなんて!!」


 見渡す限り花畑が広がり、澄んだ小川のせせらぎが耳朶を打つ長閑な原っぱを目の前にスノウが感嘆の声を上げる。

 人工惑星――作られた星だというのに、そんなことを全く感じさせない美しい景色が広がっていた。


「遠くに建物が見えるわね。あれが、大迷宮の最奥部から発見された古代都市アヴァロニアかしら?」


「今はセントラル・シティっていう仮称で呼んでいるけどね。古代都市アヴァロニアの都市機能は全部あの場所に集中させたけど、既にこの星にはいくつかの都市が作られている。海や森はどの自然環境もしっかりと作ってあるし、地域ごとに寒帯から熱帯まで砂漠気候を除いた各種気候になるように調整を加えているよ。勿論、ロードガオンのように四季の調整や星の維持のためにワーブルは必要ない」


「無縫さん、四季ってどうやって設定したんですか?」


「まあ、その辺りは魔法でね。海も自然も基本的には魔法でなんとかしたよ。環境系は付与魔法(エンチャート)系の上位魔法を使ったっけ。基本的には地球の環境を参考にして構築しているから、地球の循環システムがほとんどそのまま適応されていると思っていいと思う。最初は魔法で環境を整えたけど、一度システムが動き出せば自然とそれぞれの気候が維持される筈だから……まあ、余程の環境破壊活動を行わなければ問題ないと思うよ」


「ロードガオン……いえ、虚界という恵まれない世界で暮らしていたから、自然の有り難みは分かっているつもりよ。かつての異世界アルマニオスの人々のように自然を蔑ろにして技術を発展させることはない……と思いたいけど」


「まあ、後の世代がどんなふうに考えるかはなんとも言えないよな……」


 今のロードガオン人はワーブルを必要としない土地の有り難みを知っている……が、それが当たり前のものになってしまえば有り難みは薄れてしまう。

 自然に感謝していた古代の人々の価値観を受け継ぐことなく技術革新のために自然を蔑ろにしていった地球の歴史や、自然環境破壊を危惧する者がいた中でも技術革新に歯止めを掛けられなかった異世界アルマニオスの歴史を振り返ると、残念ながらそのような未来がないとは言い切れない。


「……この星を、やっぱりみんなにも見せたいわ」


「独立国家ロードガオン地球担当第一部隊と……一先ずはマリンアクアさんを近いうちに呼びましょうか? ドルグエスは興味ないでしょうし、ガラウスの奴は本国に情報提供される恐れがある。独立国家ロードガオン地球担当第二部隊についても、正直、独立国家ロードガオン地球担当第一部隊と違って信用できないメンバーが多いので保留にしておいた方がいいと思います」


「そうね……いずれはこの星を見て、無縫君の提案を受け入れてもらいたいけど、まずは独立国家ロードガオン地球担当第一部隊のみんなにこの星を知ってもらって、移住のこと、納得してもらえるように頑張らないと」


「その時に【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】の防衛についてもお話ししましょうか?」


 無縫とフィーネリアがロードガオンの未来を想像しながら話をしていると、ヴィオレットの持つ携帯電話が鳴った。


「どうした? リリス? 我は何もやましいことはしておらぬぞ!!」


「……その否定から入る時点で色々と終わっているんだよなぁ」


 ヴィオレットの発言に溜息を吐きつつ、ヴィオレットにジェスチャーでスピーカーフォンにするよう指示を飛ばす。


『幹部巡りが終わったそうだな、無縫殿。お疲れ様。……レフィーナ殿は近くにいるのか?』


「いや、今はいないな」


『ならば、「幹部巡りお疲れ様でした」と伝えておいてもらえると助かる。……幹部巡りが終わって休んでいるかと思って暇そうなヴィオレット様に電話をかけたのだ』


「なんじゃと! 暇そうとはなんじゃ!!」


「……リリスさん、ヴィオレットのことを尊敬しているけど、それはそれとしてぞんざいな扱い方もしっかりと心得てきたよね?」


 かつてのヴィオレットが絡むと盲目になっていたリリスの姿からは想像もつかないヴィオレットに対するぞんざいな扱いに苦笑いを浮かべる妖精が一人。

 なお、シルフィアもリリスの中ではヴィオレットと同列の存在として扱われていることについては全く気づいていないようである。


『無縫殿達は大変な幹部巡りをやり遂げた。そんな二人を見て、私も覚悟を決めないといけないと思ったのだ。無縫殿達のおかげで修行は順調に進んでいる。魔王ノワール=ノルヴァヌス陛下に勝てるかどうかは正直分からないが、少なくとも無様に負けを晒すことにはならないと確信している。詳しい日時は決まっていないが、『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の本戦が始まる前に挑みたいと思っている』


「自信があるのはいいことだよ。それじゃあ、日程が決まったら俺の方から異世界アムズガルドの魔王国ネヴィロアスに伝えておきますね。……誰か呼びたい人とかっていますか?」


『そうだな。『聖魔混沌槍ケイオス・ハウリング』を作ってくださったタタラ殿は是非招待したいと思っている』


「分かりました。そっちも打診しておきますね」

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