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アディシェス区画担当魔王軍幹部ラピス=アネモネvs銀ワーブウェポン使い・庚澤無縫〜幹部巡り八戦目〜

 アルラが舞台袖に下がっていき、きらきらと輝くランウェイは無縫の独擅場と化した。

 しかし、スポットライトの光が無縫ただ一人に集中したかと思うとランウェイ全体を照らしていた光が消え、舞台袖に無数のスポットライトが向けられる。


 そして、満を持して光の中から現れたのはラピス=アネモネだった。

 彼女の纏う水色のスパンコールを無数にあしらったマーメイドラインドレスが光に照らされてキラキラと輝く。


 蜘蛛の足を美しく操り、舞台の中央――無縫の前までやってきたラピスはにっこりと無謀に微笑んだ。


「改めまして、ファッションの街アディシェス区画へようこそ。ランウェイでの試合は楽しんで頂けたでしょうか?」


「えぇ、なかなか面白い趣向でした。……デバフ相殺魔法を使うなどという不粋なことはせず真正面から戦えば良かったと少し後悔しています」


 正面から戦っても無縫とモデル達の実力差であればデバフを打ち破って勝利を捥ぎ取ることもできただろうが、無縫は念には念を入れてデバフを相殺する「能力平衡(クリア・バランサー)」という魔法を自分に掛けていた。

 無縫がデバフの中でも平然と戦えていた理由はこの魔法にあると言っても過言ではない。


「……なるほど、そういうことでしたのですね。ですが、挑戦者の皆様の中にはそういったデバフを無効化する方法を利用して堅実に勝利した方もいらっしゃいます。押し付けられた試練のルールをただ受け入れるのではなく知恵を絞って超えていくことも一つの方法だと思いますわ。己を着飾り、戦いを美しく魅せて試練に勝利する……そういった正攻法での突破は確かに素晴らしいものだと思いますが、その一方で知恵を絞って試練のルールの外で勝利を貪欲に求めていくという戦い方も好きです。――『頂点への挑戦(サタン・カップ)』本戦での戦いはランウェイの上のものとは違います。魔王になるような方にはきっと後者のような資質が求められるのでしょう。――さて、庚澤無縫様。私は魔王軍幹部ですが、同時に『頂点への挑戦(サタン・カップ)』という舞台に立つ一人の挑戦者でもあります。折角宰相様が用意してくださった機会です――私が『頂点への挑戦(サタン・カップ)』で勝ち上がるために糧にさせて頂きます!!」


「イッツショータイム! 魔王軍幹部ラピス=アネモネvs庚澤無縫の魔王軍幹部戦、開始です!!」


「先攻は頂きますわ! 雷撃の粘糸網(エレキ・ネッイト)!」


 ラピスの手から糸が放たれる。

 糸は瞬く間に蜘蛛の巣のような形を形成し、更には雷属性の魔力を纏った。

 もし舞台が暗ければ闇に雷撃の蜘蛛の巣が映えて高い評価を得ていただろうが、舞台の明るいためあまり美しくは見えない。


 とはいえ、ラピスはステージにいる観客達の評価ではなく無縫への牽制とあわよくば行動不能を狙って「雷撃の粘糸網(エレキ・ネッイト)」を放っている。

 幸運なことに何人かの観客から青いライトの応援をもらえたが、それよりも重要なのは「雷撃の粘糸網(エレキ・ネッイト)」が無縫にどの程度のダメージを与えるかである。


 無縫は咄嗟に後方に跳躍して「雷撃の粘糸網(エレキ・ネッイト)」を回避、続いてラピスが放った第二第三の「雷撃の粘糸網(エレキ・ネッイト)」も「紙舞一重」の一切無駄のない動きで回避した。


燃える糸槍(オーバーヒイト)!」


 「雷撃の粘糸網(エレキ・ネッイト)」は無縫に全く有効打を与えられなかったものの、ラピスは全く動じた様子を見せずに次の行動に移る。

 手から糸を出して束ねて槍を形成――そこに火属性魔法で炎を灯して無縫に次々と投擲したのである。


雪の蝶(スノウ・パピオン)


 対する無縫は真っ白な蝶のエネルギー体を無数に放って槍に着弾させて槍を炎ごと凍結させていく。

 「(シルヴァー)ワーブウェポン・氷雅(アイス・ローヴ)」の氷の力で凍結した槍は粉々に粉砕され、無縫に着弾する前に崩れ落ちた。


 「雪の蝶(スノウ・パピオン)」の美しさに魅せられた観客達が無縫を応援して桃色のサイリウムを掲げる。

 今のところ、ラピスを応援する者達が四割、無縫を応援する者達が六割といったところだろうか。


蜘蛛の巣大回転テーブル・サプライトズ!」


 ラピスは無数の糸を足から伸ばして巨大な蜘蛛の巣を形成、その蜘蛛の巣を一気に動かすことで無縫を転倒させに掛かった。

 無縫は跳躍して回避を狙うが……。


捕獲し操る糸(マリオネイト)


 空中に跳躍して地上よりも身動きが取り辛くなった無縫にラピスが容赦なく両手から糸を射出して無縫の身体を拘束する。

 ラピスの手から放たれた糸は極めて細くなかなか肉眼では捉えづらいというステルス性に優れたものである。更に細い糸でありながら鋼鉄のように硬いという厄介な性質まで兼ね備えていた。

 この頑丈な意図で敵を拘束し、自在に操って同士討ちをさせたり自傷させたりとなかなか悪趣味な使い方もできるのがこの「捕獲し操る糸(マリオネイト)」である。

 ……まあ、ラピスはそういう使い方があまり好みではないため専ら敵を拘束するだけに留めてトドメは自らの手で下すことがほとんどだが。


 「空駆翔」の力を使って回避することもできたが、無縫はあえて「捕獲し操る糸(マリオネイト)」をその身に受けた。

 そして、「(シルヴァー)ワーブウェポン・氷雅(アイス・ローヴ)」の力で糸を凍らせて破壊する。


燃える糸槍(オーバーヒイト)! 殺斬戯曲(グラン・ギニョール)!!」


 「燃える糸槍(オーバーヒイト)」でトドメを刺すつもりでいたラピスは「捕獲し操る糸(マリオネイト)」が無効化された瞬間に「燃える糸槍(オーバーヒイト)」を無縫目掛けて投擲し、奥の手として隠し持っていた必殺技を解禁した。


 両手から無数の糸を瞬時に張り巡らせ、その全ての糸を無縫一人に向けて一斉に襲い掛からせる。

 並の魔族であれば簡単にバラバラにするこもができるラピスの奥の手だが、絶対の自信がある筈のこの技を放ってなお、ラピスにはここまでしても無縫を倒せないのではないかという不安があった。


氷河世界スノーボールアース・エイジ


 無縫の周囲が青白い輝きを放ったかと思うと、無縫に向けて放たれた槍が、無縫の周囲まで伸ばされていた糸が、全て真っ白に凍結していた。

 しかし、それも一瞬の出来事だ。すぐに槍も糸も氷の力に付与された「崩壊」という恐ろしい力で自壊していく。


 ラピスの奥義が破られてなお、ラピスは冷静さを保っていた。

 とにかく無縫との距離を維持して攻撃を仕掛け続けて時間を稼ぎ、様々な手を試して突破口を見つける。


 自分の攻撃が破られて呆然と立ち尽くしていたモデル達とは違い、瞬時に切り替えを行えるのは流石は魔王軍幹部というべきだろうか?

 だが、現実は非情なものだ――。


凍結大気(ダイアモンドダスト)


 柄の部分の青白い輝きが消え去ったのと同時にラピスの身体が周囲の大気ごと凍り付けにされてしまう。

 アイネを一瞬にして追い詰めた「凍結大気(ダイアモンドダスト)」だ。


 対象の周辺にある水分にワーブウェポンで干渉し、大量のワーブルと引き換えに周囲の大気諸共対象を凍り付かせる回避不能の凍結攻撃。

 身動きが取れない内部から氷を破壊する方法は限られている。

 仲間に助けを求める他に、覇霊氣力を漲らせるといった凍り付いて身動きが取れない状況下でも氷を破壊できるような方法が対処方法として挙げられるが……残念ながらラピスは内部から氷を破壊する方法を持ち合わせていなかった。


「瞬閃走! 蒼氷双剣(アイスダブル)


 そして、身動きが取れないラピスの至近距離まで肉薄すると、無縫は双剣を宛ら両翼の如く広げ――怒涛の斬撃をラピスに浴びせ、氷諸共ラピスの身体を粉々に砕いた。



 無縫に続いてレフィーナも魔法少女エルフィン=ブラダマンテの姿で試練に挑んで危なげなく勝利を収めた。

 その後、領主公館に移動して手帳に「ミシン作業をしているラピス」の姿を模したスタンプとサインをしてもらう。


 これで、無縫は八つのスタンプを集めて『頂点への挑戦(サタン・カップ)』挑戦の最低ラインを突破し、レフィーナは残り一つのスタンプを手に入れれば本戦に出場できるという状態になった。


「次はどこの試練に挑戦されるのですか?」


「ケムダー区画ですね。既に試練の方は終えているので、後は魔王軍幹部のベークシュタインさんとの戦いを残すのみです。その後はキムラヌート区画に挑戦しようと思っています」


「無縫さんは全ての魔王軍幹部に勝利するつもりだそうですね。これまで魔王になった方も含めて誰一人として成し遂げたことのない偉業です。その偉業を成し遂げて『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の本戦に参加される日を楽しみにさせて頂きます。……私も鍛え直さなければなりませんね。本戦ではよろしくお願いします。……レフィーナさんは次で出場条件を満たすようですが、十箇所の試練全てに挑戦されるのですか?」


「一応、キムラヌート区画も挑戦させてもらうつもりではいるけど、八個が限界な気がしているわ。アィーアツブス区画はそもそも試練に失敗して挑戦まで辿り着けなかったのよね」


「白雪さんの試練は難易度が高いですからね。雪山育ちか才能がないと厳しいと思っています。……そういえば、ケムダー区画の領主が戻ってきたのでしたね。あのベークシュタインさんは優秀な方ですけど、始まりの大穴(ホール・ゼロ)と呼ばれるクリフォート魔族王国最後の秘境の研究のために魔王軍幹部をしているという変わった方で、魔王軍幹部の仕事も側近のカトレアさんに丸投げしてほとんどケムダー区画にいません。……一ヶ月に数日間地上に滞在するので最も試練を受けるのが大変な幹部ですが、このタイミングでちゃんと戻ってきてくださるのだけは救いですね。まあ、始まりの大穴(ホール・ゼロ)はケムダー区画の管轄で、ケムダー区画の魔王軍幹部はともかく他の調査希望者は魔王軍幹部の試練を七箇所以上攻略したことがあるという実績に加えて煩雑な手続きをして、その上で審査を受けて……という形ですから、好きな時に始まりの大穴(ホール・ゼロ)に挑めるその立場を手放したくないのでしょう。……個人的には、魔王軍幹部はその街の顔役であると同時に最後の砦ですから、外敵などが攻め込んできた時に対処できなければ意味がないと思うのですが」


 どうやら、ラピスはあまりベークシュタインのことをよく思っていないようだ。

 ラピスはファッションデザイナーやアラクネ服飾店店長として店の経営をしながら領主としてもしっかり働いている。

 そんな仕事と公務を両立しているラピスからすれば、魔王軍幹部でありながら魔王軍幹部の職務を全うしないベークシュタインは度し難い存在なのだろう。


 ……まあ、だが魔王軍幹部は実力主義である。

 ベークシュタインが八番目の区画を任されるほどの実力を持っているため、彼を魔王軍幹部の椅子から引き摺り下ろすことはできないのだ。


 テオドアの治世になり、魔王軍幹部や魔王軍四天王、魔王の地位は明瞭な方法で奪えるようになった……が、あくまで実力主義なのでこうした魔王軍幹部の仕事を全うしない存在を排除できないという点は大きな欠点なのかもしれない。

◆ネタ解説・百五十八話

殺斬戯曲(グラン・ギニョール)

 参考にしたのは『落第騎士の英雄譚』に登場するオル=ゴールの技「殺人戯曲(グラン・ギ・ニョル)」。

 なお、糸系の技はオル=ゴールか『ONE PIECE』の元王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴの技からの影響が色濃くあり、本作でも両者の技を参考にした技が多数登場している。


◆キャラクタープロフィール

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・ラピス=アネモネ

性別、女。

年齢、二十八歳。

種族、蜘蛛脚族の女王(クイーン・アラクネ)

誕生日、九月六日。

血液型、A型Rh+。

出生地、クリフォート魔族王国アディシェス区画。

一人称、私。

好きなもの、服作り。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、「人は好きな服を着ると幸せになる」。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、クリフォート魔族王国魔王軍幹部、アディシェス区画の領主、アラクネ服飾店の店長。

主格因子、無し。


「魔王軍幹部の一人でアディシェス区画の領主。蜘蛛脚族の女王(クイーン・アラクネ)の女性で、【変幻自在の糸の魔術師】の二つ名で知られる。魔国の服飾ブームを牽引するアラクネ服飾店の店長としての顔も持ち、自身も服を作る現役の職人でもあるが、そのあまりの人気故に彼女へのオーダーメイドの服の注文は年単位の待ち時間となってしまっている」

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