アディシェス区画にて、トップモデル達と競うように魅せるランウェイでのバトル セカンドルック&サードルック
ランウェイの端っこで復活したアイネがランウェイの舞台袖に消えていい、代わりに二人目のモデルが美しいモデルウォークを披露して無縫の目の前までやってくる。
青から緑へと鮮やかに変化する長い髪ときらきらと灰色に輝く瞳を持つその美しい女性の背には孔雀を彷彿とさせる翼が生えていた。
孔雀の有翼の乙女の女性は、孔雀を彷彿とさせる色鮮やかな青から緑へと変化する扇情的なマーメイドラインドレスを身に纏っている。
「まさか、あのデバフの中でアイネを撃破するなんて……流石は本気のイリア様相手に勝利を収めた猛者というところかしら?」
魔王軍幹部の順番を踏まえるのであればアィーアツブス区画の淡空白雪の名前を挙げるべき場面だが、ここでイリアの名を挙げたのは同じ有翼の乙女であるイリアに対して尊敬の念があるからだろうか?
「イッツショータイム! モデルのジェリカ=パヴォーネvs庚澤無縫のセカンドバトル、開始です!!」
「孔雀ノ舞!!」
ジェリカはドレスのスカートの中から二つの扇子のような武器を取り出すと、美しい舞を披露する。
華麗な舞と共に扇から飛ぶ斬撃が放たれ、無縫へと殺到した、
一戦目の終了と共に消えていたペンライトが青色に染まっていく。
ヴィオレット達を除いて観客全員が敵に回るという圧倒的不利な状況下でも一切動じることなく無縫は柄の部分に青白い輝きを収束させて二振りの剣を作り上げた。
「蒼氷双剣」
無縫の双刀から放たれた無数の飛ぶ斬撃がジェリカの放った飛ぶ斬撃に次々と命中して相殺していく。
互いの斬撃がぶつかる度にダイアモンドダストのようにキラキラと輝きが舞い散った。
その正確無比の斬撃コントロールと、ダイアモンドダストを生じさせる無縫の美しい剣技に魅了されたのか、会場を照らすペンライトの色が少しずつ桃色に変化していく。
「星屑閃双斬」
地を蹴って一気に加速した無縫はジェリカが追撃を放つ前にジェリカの至近距離まで肉薄した。
剣先が届く間合いまで一気に詰められたジェリカは身の危険を感じ、一度後退して仕切り直しをしようと後方に跳躍しようとする……が、その前に無縫の双剣から連撃が放たれた。
荒れ狂う竜巻の如く振り抜かれた双剣が烈火の如く荒れ狂い、青白い剣閃が大気に青白い輝きの残像を刻み込んでいく。
一撃一撃の速度や威力こそ詠の剣に遠く及ばないものの、それでも回避が困難なほどの速度の斬撃が全部で十六連撃。
一撃目を躱すことができればこの荒れ狂う斬撃の嵐から逃れることができたかもしれないが、一度でも斬撃の嵐に身を置いてしまえば逃れることは限りなく不可能に近い。
ジェリカは一撃目の左の剣から放たれた斬撃から逃れることはできず、胸元に小さくない傷を負った。
その時に生じた痛みで足が止まってしまったことも相まって残る十五連撃を全てその身に受けることになってしまったのである。
十六連撃の斬撃を全てその身に受けることになったジェリカの身体は十六連撃目がジェリカの身体に深々と斬痕を刻みつけたところで耐え切れずに消滅し、ランウェイの端っこで復活した。
ジェリカが舞台袖に消えていき、代わりに三人目のモデルが美しいモデルウォークを披露して無縫の目の前までやってくる。
種族は植花精女のようだ。瑞々しい新緑を思わせる緑色の髪を型まで伸ばした翠玉色の瞳を持つ可愛らしい少女といった出で立ちである。
緑色の可愛らしいワンピースを纏い、橙色の花をあしらったサンダルを履いた夏風のファッションで揃えている。
ちなみに植花精女はルインズ大迷宮で戦った魔物の人型植物の女王と系統は同じだが、基本的に意思を持っているかどうかで魔物か魔族かどちらに区分されるか決まるらしい。
しかし、植花精女の系統の中には可愛い外見と憐れみを感じさせるカタコトの言葉で人間や魔族の庇護欲に付け込み、栄養価がゼロかつ麻薬成分のようなものが含まれる果実で衰弱死させてその死体から養分を吸収する厄介な種類も存在し、彼らについては知性を持ちながらも厄介な魔物として認知されているようだ。
一部の知性ある植花精女からは「一緒にしないで欲しい」と抗議の声が上がっており、二代目魔王ベンマーカ=ヴァイスハウプトの治世の後半期に「庇護欲を掻き立てる容姿と言葉で魔族を虜にして麻薬成分の含まれる果実で衰弱死させ、その死体から養分を吸い取る魔物のアルラウネを安楽皇女、魔族のアルラウネを植花精女と呼称する」という取り決めがなされている。
しかし、元を辿れば同じアルラウネに行き着く上に、元安楽皇女の中から魔族の植花精女のような振る舞いをして、植花精女に仲間入りする者が現れることもない訳ではないので、安楽皇女と植花精女の境界は非常に曖昧だったりする。
「アディシェス区画の試練はそこまで難しくありません。毎年、学生さんの挑戦者も六割……いえ、七割以上がこの試練を突破しています。ですが、これほどまでに一方的にアイネさんやジェリカさんが撃破される試合は見たことがありません。……魔王軍幹部を数多く撃破してきたという実績もありますし、魔王軍から『手加減をせず本気で戦うように』という指示もありました。アイネさんもジェリカさんも本気だったのに、それでも一方的な試合になってしまった。……これほどの強敵相手に私の力がどれほど通用するかは分かりません。もしかしたら、指一本触れることすらできないかもしれない。――それでも、アディシェス区画の試練を担うモデルの一人として全力でお相手致します!! 例え、どんな手を使ったとしても!!」
「イッツショータイム! モデルのアルラ=マンドラゴラvs庚澤無縫のサードバトル、開始です!!」
「照明さん! お願いします!!」
戦闘開始のアナウンスと同時にアルラが照明係に指示を飛ばす。
今回は先制攻撃を仕掛けなかったこともあってか、無縫とアルラへの応援は拮抗していた。
アイネとジェリカを鮮やかな手際で撃破した銀髪美女に骨抜きにされた観客も多いのだろう。無縫に対する基礎評価が上がり、結果としてアルラのアドバンテージが減っている。
しかし、アルラにとって最早観客の応援から生じる相手へのデバフなど些細なものであった。
あれだけ有利な立場だったアイネとジェリカが何もできずにほとんど一方的に撃破されてしまったのだ。今更効力を発揮するとは思えないデバフを頼るような気にはなれない。
アルラはこれまでの二戦で通用しなかった観客の応援よりも自分の力を信じることにした。
アイネとジェリカの戦いの最中に秘密裏に照明係と接触して交渉し、戦闘開始直後に自身に光を集めてもらえるように依頼したのである。
その甲斐あって、アルラの掌に咲いた向日葵に膨大な光エネルギーが集まった。
アルラはその向日葵を無縫に向け、膨大な光エネルギーを収束して解き放つ。
「向日葵光束砲!!」
光の吸収から発射までおよそ三秒。発射された光条は光の速度で進むため回避には光を超える速度での回避行動が必要となる。
三秒以内に回避行動を取っていれば攻撃を回避することもできたかもしれないが、少なくとも無縫は三秒以内に回避行動を取らなかった。
いくら無縫が強くても光速で放たれる攻撃を躱すことはできない筈だ。
唯一の懸念点は光条に貫かれても倒れないほどの耐久を持っている可能性だが、「向日葵光束砲」は連発できない代わりに並みの魔族の身体なら蒸発させてしまうほどの威力を秘めている。
例え無縫が猛者だとしても身体は生身の人間だ。そのため、着弾すれば仮に運良く生き残っても大きく継戦能力を削って追い詰めることができるとアルラは確信していた……のだが。
「――紙舞一重」
そんなアルラの予想を無縫は最も容易く裏切ってきた。
光速にも迫る逢坂詠の斬撃――その一撃を見切り、的確に対処できるほどの動体視力と判断能力を無縫は持ち合わせている。
そんな無縫にとっては攻撃が放たれた瞬間に回避行動を取っても十二分に間に合う程度の攻撃だったが、アルラはこの一撃で無縫を撃破する腹積りだった。
「向日葵光束砲」が命中して無縫が撃破されるか、大きな負傷を負って継戦能力が大きく削れるかのいずれかの状況になる。
――もし、生き残っていても近接攻撃で確実に撃破すればいい。
……などと考えていたアルラの思考は「向日葵光束砲」を回避されて無傷という想定外の状況を前にして完全に思考が停止した。
回避不能な筈の「向日葵光束砲」が回避されたことによるプチパニックと、「向日葵光束砲」を回避された場合の行動指針を一切決めていなかったことが二重でアルラの足を引っ張り、常に思考し続けなければならない戦場であろうことか大きな隙を晒してしまう。
そんな棒立ちのアルラを無縫が黙って見過ごす筈もなく――。
二つに分かれていた柄を繋ぎ合わせることで、上下に刃が伸びた特徴的な剣へと変化する。
両剣と呼ぶべきものに変化した剣を器用に操り、無縫は一瞬にして無防備を晒しているアルラに肉薄すると無数の斬撃を刻み込んで消滅に追い込んだ。
◆ネタ解説・百五十七話
「星屑閃双斬」
参考にしたのは川原礫氏のライトノベル『ソードアート・オンライン』の二刀流の上位剣技「スターバースト・ストリーム」及び志瑞祐氏のライトノベル『精霊使いの剣舞』に登場する絶剣技・破ノ型〈烈華螺旋剣舞〉。
二刀流はこの二つと『落第騎士の英雄譚』の比翼の剣の影響が強い気がする。