表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章執筆のため更新停止】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第三章「クリフォート魔族王国回遊記」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/238

麻婆豆腐の恨みィ!!

 アディシェス区画の魔王軍幹部の試練が予想以上に混んでいたこともあり、予約を取ってからアクゼリュス区画に向かうことになった無縫一行。

 そんな無縫達に領主公館を出ようとしたタイミングで話し掛けてくる者達が居た。


 長槍を背負った革鎧を着ている純魔族の青年、魔女風の三角帽子を被り、黒いローブを纏った金髪碧眼のラミア族の少女、重厚な金属鎧でガチガチに身を固めた豚頭族の王(オーク・キング)の男、銀色のナイフを弄んでいる緑のシャツの上から茶色いマントを羽織った、ミニスカートに黒いタイツを合わせている盗賊(シーフ)らしい軽装備を纏っている茶髪の短髪と澄んだ青い瞳が美しいボーイッシュな有翼の乙女(ハルピュイア)の少女――彼ら四人はどうやら仲間という訳ではなくたまたまこのタイミングでアディシェス区画の試練を受けようとしていた者達のようだ。

 彼らは無縫達よりも更に後ろに並んでおり、今日どころか明日もアディシェス区画の試練を受けられないという状態だった。


 そこで、明後日にアディシェス区画の試練の予約をした上で無縫達のアクゼリュス区画への旅に同行させてもらおうと考えたようだ。


「初めまして、幹部巡りをしているスグリ=レオンナイトと申します。アクゼリュス区画に向かうとのことでしたが、もしよろしければ私も連れて行って頂けないでしょうか?」


「そういうことなら、アタシのこと連れて行ってもらえると嬉しいわ。勿論、それなりの対価は支払わせてもらうわよ。……そういえば名乗っていなかったわね。アタシはマルセラ=ラミアステイル。見ての通り魔女をやっているわ!」


豚頭族の王(オーク・キング)のガルドだ。オレのことも連れて行ってもらえると嬉しい。……タイムリミットが近づいている。後手に回っているのはオレの責任だが、少しでも時間を短縮したい」


「ボクは有翼の乙女(ハルピュイア)のシャルロット=スカイリエル。お噂は聞いているよ。破竹の勢いで魔王軍幹部との戦いに勝利している人間がいるってね。ご存知の通り大会が近づいて急がないといけない状況でね……雪山で手間取ってしまって後三つ急いで回収しないといけないんだ。もしよろしければボクも一緒に連れて行ってもらえないかな?」


 ということで、純魔族のスグリ、ラミア族のマルセラ、豚頭族の王(オーク・キング)のガルド、有翼の乙女(ハルピュイア)のシャルロットが一時的に旅の仲間として加わることになった。


 しかし、流石にこの人数だと【666號(ザ・ビースト)】には全員乗ることができない。

 色々と考えた末に無縫は【万物創造】でもう一台【666號(ザ・ビースト)】を作り出し、内部を空間魔法で拡張――中がちょっとした屋敷の一室程度の広さがある快適な居住君を創り出した。

 勿論、外見は通常の【666號(ザ・ビースト)】と同じで広さも内部を空間魔法で拡張しているだけなので運転の感覚も通常の【666號(ザ・ビースト)】と何ら変わらない。


 空間魔法で拡張されていない助手席にヴィオレット、その隣に特別に誂えた席にシルフィアを座らせ、無縫が運転席に乗ったところで【666號(ザ・ビースト)】は街道をゆっくりと走り始めた。

 【666號(ザ・ビースト)】は徐々にスピードを上げていく。車内ではヴィオレットとシルフィアが動画を垂れ流しにしていたが、今回の【666號(ザ・ビースト)】は二列目以降の席との間に壁が設置されているのでカイツール区画の時のように全く理解できない動画を垂れ流しにされるような状況に陥ることはない。


 【666號(ザ・ビースト)】は一時間ほどでアクゼリュス区画に到着した。

 スグリ、マルセラ、ガルド、シャルロットの四人はアディシェス区画からアクゼリュス区画に移動する際の馬車の費用に少し色をつけた金額を支払った後、無縫とレフィーナの武運を祈ってから街の中へと消えて行った。



 アクゼリュス区画は別名「美食の街」と呼ばれている。

 飲食業が発展しており、多くの人気店が犇きあっている。


 今はお昼時で、どの店も混んでいるようだ。

 そのまま領主公館に向かっても良かったが、お腹が減っている状態で挑むよりも、お昼を食べてから魔王軍幹部の試練に挑んだ方がいいのではないかと考えた無縫達は相談の末に『大衆食堂 食道楽』というお店に入ることになった。


 どうやらジャンルを問わず様々な料理を食べられるお店らしい。

 ヴィオレットは天津飯を、シルフィアは野菜カレーを、フィーネリアは日替わり定食を、レフィーナはナポリタンを彷彿とさせる茹でたスパゲッティをタマネギ、ピーマン、ベーコンなどの具材と共に炒めトマトケチャップで調味したパスタ料理を注文し、無縫は麻婆豆腐と白米のセットを注文した。


 ヴィオレット達がテーブルにつき、無縫が麻婆豆腐セットを受け取ろうと待っていると、一人の狼人間(ワーウルフ)()が入ってきた。


「オバちゃん、いつもの一つ頼む!」


「申し訳ないね。麻婆豆腐は前の人で売り切れちゃったんだ。別のものにしてくれないかい?」


 『大衆食堂 食道楽』の店主を務める純魔族の中年女性が申し訳なさそうに狼人間(ワーウルフ)の男に麻婆豆腐が売り切れていることを伝える。

 すると、狼人間(ワーウルフ)の男は歯軋りをしながら無縫の方を睨め付けた。


「おい、そこの人間! 貴様、俺様がどれだけ麻婆豆腐を楽しみにしていたのか分かっているのか! 俺様はな! 麻婆豆腐が好きなんだよ!! 唐辛子の辛さ! 山椒の痺れ! 至福の味だ! 『大衆食堂 食道楽』の麻婆豆腐は魔王城の食堂【満月食堂】の緋月(ひづき)さんから教えを受けた正統派の味! これを食べるために頑張って仕事をしてきたんだよ! 貴様、分かっているのか! 俺様は麻婆豆腐を楽しみにしていたんだ!! それを貴様は目の前で!! 絶対に許さないぞ!!」


 どうやら狼人間(ワーウルフ)の男は大好きな麻婆豆腐が目の前で売り切れてしまってご立腹らしい。

 別に無縫が独り占めしたという訳ではなく人気メニュー故に飛ぶように売れていき、最後の一つをたまたま無縫が選んだだけなのだが、狼人間(ワーウルフ)の男の頭からは「他の客が麻婆豆腐を注文しているから自分の分が残っていなかった」という至極当たり前のことがすっかり消え失せてしまっているようだ。


 その執着と怒りに満ちた視線はただ無縫だけに向けられている。

 一方、無縫は面倒な状況になったと困っていた。

 人間だからと差別することなく、偏見に満ちた眼差しを向ける訳でもない。

 ただ純粋に麻婆豆腐を目の前で掠め取られたことに怒りを覚える狼人間(ワーウルフ)の男にほんの少しだけ清々しさを感じたが……かといって自分の麻婆豆腐を差し出すかと問われると、その気にはなれなかった。


 まず、第一にこの麻婆豆腐はとても美味しそうなのだ。食欲を掻き立てる匂いが鼻腔をくすぐる。

 この匂いを嗅いでおいて、別のメニューを改めて注文するような気になれる筈がない。


 それに、目の前の狼人間(ワーウルフ)の男はとてもプライドが高そうだ。仮に無縫が「譲る」と言ったところでプライドを逆撫でするだけで余計拗れることになるのが目に見えている。


 では、どのような行動を取るべきか。ほんの少しの逡巡の末、無縫は狼人間(ワーウルフ)の男を無視してヴィオレット達の座る席へと向かう。

 すると、狼人間(ワーウルフ)の男は目にいっぱいの涙を浮かべ……無縫の方に人差し指を突き出して叫んだ。


「――これで勝ったと思うなよ!」


 叫ぶだけ叫ぶと、狼人間(ワーウルフ)の男は店を飛び出していく。

 振り向いた時に小さな涙粒が空中を待った。その泣き顔は同性(・・)である筈の無縫すら不覚にも可愛いと思ってしまうものであった。


「あー、無縫君、泣かせちゃったー」


「……我も流石に酷いと思ったぞ」


「ヴィオレット、シルフィア……揃って加害者みたいな扱いするなよ。俺はしっかりと順番を守って麻婆豆腐を注文しただけだ。加害者扱いされる筋合いはない」


 ここぞとばかりに悪者扱いするヴィオレットとシルフィアにジト目を向ける無縫。


「……まさか、さっきの人って」


「レフィーナさん、知っている人なの?」


 三人がそんなやりとりをする中、レフィーナが何かに気づいたのか小さく呟いたのをフィーネリアは聞き逃さなかった。

 しかし、その時のレフィーナは人違いだと判断したのか「なんでもないわ。きっと勘違いよ」と話を断ち切る。


 この時の無縫達は知る由も無かった。あの狼人間(ワーウルフ)とそう遠くない未来に再会することになろうとは……。



 昼食を食べ終えた後、無縫達はアクゼリュス区画の領主公館へと向かった。

 スグリ達の姿はない。まだ昼食を食べているのだろうか?


「あーくそ、負けた負けた! やっぱり強いな!」


「突出した実力者じゃなければ学生だと五番目が鬼門だろ? まあ、ここまで辿り着けただけでも十分だと思う。また来年、もっと強くなって帰ってこればいいって」


 学園の生徒と思われる二人の純魔族の少年達が建物の奥の方から歩いてきた。

 二人は無縫達の姿を見つけると礼儀正しく頭を下げた。そして、無縫達の横を擦り抜けて領主公館から去っていく。


 学生の幹部巡りは基本的に五番目の試練で脱落すると言われている。

 五番目の試練を学生の身で攻略できれば一目置かれる存在になる……が、五番目の試練に到達できるだけでも十分な評価は得られる。

 彼らはまだ最終学年ではない。学生として来年以降も幹部巡りに挑むことができるのだろう。


 彼らの今年の幹部巡りは今日終わってしまった……が、少し悔しそうな顔はしているもののその顔は明るい。また来年、強くなって今度こそ勝利を掴もうという希望に溢れている。


「幹部巡りに挑戦される方ですね? こちらで受付をお願いします」


 受付の純魔族の女性に促され、無縫とレフィーナは手帳を手渡す。

 ヴィオレットとシルフィア、フィーネリアが見学をすることも伝え、幹部巡りの手続きをしてもらった。


「アディシェス区画の魔王軍幹部の試練はこの屋敷の奥に進んで頂き、中庭に向かって頂くと左手に見えます武道場で行います。そこでアディシェス区画の魔王軍幹部であるヴィトニル=ヴァナルガンド様の弟子である四人と戦ってください。その後、ヴィトニル様との試合になります。四人との戦いは魔王軍幹部の試練、ヴィトニル様との戦いは幹部戦という扱いですが、一試合一試合に休憩時間はなく、五連戦となっていますのでご承知おきくださいませ」


「分かりました」


 受付嬢にお礼を言ってから、無縫達は領主公館を奥へと進んでいく。

 外に出られる扉を見つけると中庭に出て、武道場と思われる日本家屋風の建物へと向かう。


 そこに待ち受けていたのは――。


「貴様は! あの時の麻婆豆腐泥棒ッ!!」


 その顔を見た瞬間、無縫は思わず不機嫌が滲んだ顔になった。

◆ネタ解説・百五十話

「これで勝ったと思うなよ!」

 元ネタは伊藤いづも氏の漫画『まちカドまぞく』の主人公シャドウミストレス優子こと吉田優子のセリフ。


◆キャラクタープロフィール

-----------------------------------------------

・スグリ=レオンナイト

性別、男。

年齢、二十四歳。

種族、純魔族。

誕生日、五月十四日。

血液型、AB型RH+。

出生地、クリフォート魔族王国アクゼリュス区画。

一人称、私。

好きなもの、グロゼイユ、カシス、ラズベリー、ブルーベリー。

嫌いなもの、グルートビール(ホップを使用せずに作ったニガヨモギのビール)。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、ロズワール=マーノード(三代目魔王)。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、傭兵。

主格因子、無し。


「『頂点への挑戦(サタン・カップ)』挑戦者の一人。長槍を得物としている純魔族の青年。長槍と風魔法を組み合わせた戦法を得意としている」

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

・マルセラ=ラミアステイル

性別、女。

年齢、十八歳。

種族、ラミア族。

誕生日、十月十七日。

血液型、AB型RH+。

出生地、クリフォート魔族王国シェリダー区画。

一人称、アタシ。

好きなもの、白蛇の紙張子。

嫌いなもの、猛禽類。

座右の銘、「優雅なる魔道」。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、傭兵。

主格因子、無し。


「魔女風の三角帽子を被り、黒いローブを纏った金髪碧眼のラミア族の少女。水魔法を得意としており、得意魔法の【水奔瀑(カレント・カノン)】に絶対の自信を持っている」

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

・ガルド

性別、男。

年齢、三十三歳。

種族、豚頭族の王(オーク・キング)

誕生日、十月二日。

血液型、A型RH+。

出生地、クリフォート魔族王国ツァーカブ区画。

一人称、オレ。

好きなもの、豚骨ラーメン。

嫌いなもの、伸びたラーメン。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、傭兵、ラーメン屋台『豚骨大魔王』経営。

主格因子、無し。


「重厚な金属鎧でガチガチに身を固めた豚頭族の王(オーク・キング)の男。豚骨ラーメンをこよなく愛しており、傭兵業で資金を集めながら五年前から独学で研究を始めて三年前に遂にラーメン屋台『豚骨大魔王』をオープンするに至った。幹部巡りの期間は不定期で屋台を開いている」

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

・シャルロット=スカイリエル

性別、女。

年齢、二十六歳。

種族、有翼の乙女(ハルピュイア)

誕生日、十月二十七日。

血液型、B型RH+。

出生地、クリフォート魔族王国カイツール区画。

一人称、ボク。

好きなもの、かき氷。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、傭兵。

主格因子、無し。


「緑のシャツの上から茶色いマントを羽織った、ミニスカートに黒いタイツを合わせている盗賊(シーフ)らしい軽装備を纏っている茶髪の短髪と澄んだ青い瞳が美しいボーイッシュな有翼の乙女(ハルピュイア)の少女。短剣を駆使した怒涛の攻撃を得意とする。ウィンタースポーツが得意だが、今年のアィーアツブス区画の試練では苦戦を強いられてしまった模様」

-----------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ