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最後の大迷宮攻略と、迷い子レイヴンの選択。

 異世界ジェッソにおける迷宮は深くても二桁前半で終わるものが大半である。

 三桁に到達するほどのものは一握りで、百回層を超えるものは存在しないとされている。


 世界に存在する四つの大迷宮もルインズ大迷宮の百層に勇者パーティが到達する以前は百層程度であると予想されていたくらいだ。

 ……まあ、蓋を開けてみれば全千階層+αという攻略させる気皆無の構造をしていた訳だが。それでも先代勇者という踏破者は存在する訳で決して攻略できない場所という訳ではない。


 ……その勇者も九百層レベルの魔物達に歯が立たず、終盤は逃げに極振りしていたりした訳だが。


 無縫が大迷宮攻略に着手するようになってから一千層に到達する者達が少しずつ増えてきている。

 ドルグエス率いるパーティもその一つであり、プリュイやブリュンヒルダとフレイヤのコンビも彼らと共に大迷宮踏破者となっている。……まあ、プリュイ達は大迷宮の宝を得ることもできず、次に繋がる情報も得られず、完全に詰んだ状態になってしまっている訳だが。


 先代勇者とプリュイ達――彼らと無縫やドルグエス達には決定的な違いがある。

 それは大迷宮攻略のスピードだ。プリュイ達が実力者であるにも拘らず休憩を頻繁に挟み、入念な探索をしつつ慎重に迷宮を攻略しているのに対し、無縫達の攻略は強行軍のそれである。


 まさか、たった一日で第百層のボス戦まで到達することになるなど、今回のスコールド大迷宮で初めて大迷宮直前に挑む面々は想像すらしていなかったのである。


 初日から初心者を顧みない超高速の迷宮攻略(ただ最短距離を走るのではなくしっかりと隅々まで探索した上での結果である)に加え、休憩を挟むことなく未知なる魔物――百階層のエリアボスであるデモニック・ネメシスと戦闘まで繰り広げたエスクード達は転送装置に辿り着く頃にはすっかりとへとへとになっていた。

 ……まあ、デモニック・ネメシスという希少な研究対象を所有する権利を得たアルシーヴに関しては疲労よりもワクワク感が上回っていたようだが。


「皆様お疲れ様でした。本日の攻略はキリがいいのでここまでにしたいと思います」


「うむ? 吾輩はまだ探索できるぞ?」


 「もう終わりなのか」とドルグエスが少しだけつまらなさそうな顔をする。

 エスクード達にとっては「勘弁してくれ!」と言いたくなるようなところだが、全く同じ条件でほとんど休憩を取ることなく大迷宮攻略を強要された者達もいるため、実際にドルグエスの暴走に巻き込まれて一層から千層まで全階層きっちり攻略する羽目になった日和や芳房に言わせれば「まだマシ」のレベルである。


「本日の強行軍で既にお疲れの方もいらっしゃいます。……そりゃ俺だってまだまだ余裕ですけど、これだけ大所帯で動いているんです。無茶はすべきではありません。それに、十日で大迷宮を攻略するプラン自体、既に強行軍という括りなんですよ。他の挑戦者達からすれば、『お前ら阿呆なの? 無茶苦茶するじゃねぇか!』って言われても致し方ないレベルですから」


 ちなみに、基本的に五日探索して二日休み、また五日探索して終了という形を週休二日型で大迷宮攻略を目指している無縫達だが、彼らは同時に幹部巡りのチャレンジャーでもある。

 『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の本戦が近づきつつあるが、十二日間を迷宮攻略に費やしても全然間に合う計算だ。


 なので、強行軍で大迷宮を攻略する必要もない訳だが……無縫も基本的に大迷宮攻略はサクサクと進めたい派なので、この辺りが妥協点なのだろう。


「それでは、皆様をお送り致しますね。また明日お迎えに伺います。何らかの事情があって参加できない場合は、お手数ですがご連絡方法がある方はご連絡を、そうでない方は当日お伝えください」



 その後も大迷宮攻略の強行軍は続いた。

 最初は地獄のような探索にへとへとになっていたエスクード達も七日目に入る頃には疲れをほとんど感じないほどにまで至っていた。これが順応というものなのだろうか?


 そして、遂に百層に到達する。

 全員の総攻撃を浴びたデモニック・ネメシスは呆気なく撃墜され、無縫達は無事に最下層に位置する古代都市アヴァロニアに足を踏み入れることができた。


「初めまして、私はフィレスティア、大迷宮とその秘宝――古代都市アヴァロニアの一角の管理を任された自律式統括者(ギア・マスター)です」


 水色の髪が僅かに混ざった濡羽色の髪を腰近くまで伸ばした、紫色と銀色のオッドアイを持つ漆黒のエンパイアドレスを身に纏ったその女性は無縫達に恭しく頭を下げた。


 無縫はフィレスティアにリエスフィア、シエール、フランメと合流していることと、人工惑星セルメトをテラフォーミングしてロードガオン人の移民達を住まわせるプロジェクトについて説明――フィレスティアも理解を示し、計画に加わることが決まった。


 といっても、最後の古代都市アヴァロニアの区画を転移させるのは迷宮攻略組が解散してからの話である。

 まずは今回の大迷宮攻略の報酬をアルシーヴに支払うのが先だ。


 フィレスティアに案内され、アルシーヴ達が中枢管理棟アドミニストレータ・タワーの深部へと入っていく。

 その後ろ姿を見送り、最後の聖武具を心の底から楽しそうに見ているドルグエスの姿に苦笑していた無縫だったが、ふと視線を向けると奇妙な組み合わせで話している二人の姿が視界に入った。


 その二人というのは詠とレイヴンであった。

 ここまでの探索でほとんど関わりが無かった二人の意外な組み合わせに、思わず注視してしまう。


「……何のようだ?」


「頼みがあるでござる! 拙者を弟子にして欲しいでござる! ……今回の大迷宮、拙者は強くなる方法を求めて参加したでござる。大迷宮に挑戦すれば何か得られると……しかし、拙者は何も掴むことができなかった。……詠殿は剣士として途轍もない強さでござる。その剣技を見た時、拙者はこれだ! と思ったでござる!」


 レイヴンはずっと強さを求めていた。無縫とレフィーナ――二人の猛者と常に比較してしまう環境に置かれ、悔しい思いをしてきた。

 その状況を変えたくて挑んだ大迷宮攻略――しかし、千階層の大迷宮を攻略するに至ってもレイヴンは強くなるための切っ掛けを掴むことはできなかった。


 クロムロッテやイクスからしてみればレイヴンは上澄だ。学園の生徒の中でも上位に入る強者である。

 今後も彼が弛まぬ努力を続けて成長していけば間違いなくクロムロッテを超える強さを獲得するに至るとクロムロッテは確信していた。


 本来では急ぐ必要などないのだ。少しずつ強くなっていけばいい。

 しかし、レイヴンは一足飛びに強くなろうとしている。周りと比較して強くならなければならないというレイヴンの強迫観念に似た気持ちも理解できない訳ではない。


 クロムロッテとイクスが見守る中、詠は「ふん、くだらないな」とレイヴンの気持ちを一刀両断した。


「貴様にとって強さとは何だ? 何のために強くなりたいと思う? 目的がない強さなど無意味なもの……その果てに待っているのは強さにだけ固執する愚か者だ。仮に力を得ても、それでは仮初。真の強者とはなれん。……だが、誰しもが強くなるための理由を持っている訳ではない。強くなろうとするうちに答えを見つけることもあるだろう。……俺には貴様の願いを聞き届ける理由はないが、いいだろう。強くなりたいというのであれば鍛えてやる。最も俺にとっても利益がなければ等価交換にはなり得ない。……支払いは高くつくが構わないな」


 レイヴンのことを鼻で笑ったことから、やはり強さはあっても性格面は最悪の一言に尽きる詠がレイヴンの願いを聞き届ける筈がないと思ったクロムロッテとイクスだったが、意外なことに詠はレイヴンの願いを聞き届けて弟子入りの許可を出した。

 その瞳に、一瞬だけ西村(にしむら)裕司(ゆうじ)坂口(さかぐち)柚月(ゆづき)――自衛陸軍時代に指導をした二人の弟子達の姿が映ったような気がした無縫は、なんだかんだ言ってお人好しなところがある詠に苦笑を浮かべた。


 詠に鍛えられることが決まったため、レイヴンは無縫やレフィーナと共に続けてきた幹部巡りの旅をここで一度終了することにした。

 といっても、今年の幹部巡りを諦めた訳ではない。修行をして『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の舞台で必ず戦う――その約束をレイヴンは無縫とレフィーナと交わした。


 と言ってもあまり時間はないので無縫が全ての区画を巡って十個ある区画を自在に行き来できる空間魔法の魔道具を開発してレイヴンに提供することが決まっている。

 これで移動の時間は短縮できるため、レイヴンが詠との修行に集中できるようになった。後は詠との修行でどれだけ強くなれるかが焦点になってくるのだろう。


 タイムアップを迎えたアルシーヴが不完全燃焼と言いたげな顔でクォールトと共に戻ってきたところで大迷宮攻略は終了となった。

 アルシーヴは時間いっぱいクォールトと共に複写した資料を手にクロムロッテ、イクスと共に学園に帰還し、他の面々は無縫の力を借りてそれぞれの帰路についた。

◆ネタ解説・百四十八話

西村(にしむら)裕司(ゆうじ)坂口(さかぐち)柚月(ゆづき)

 初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』。

 作中において、既に故人になっており、二人の死は真面目でお人好しな性格だった逢坂詠の性格を馴染み深い傲慢不遜へと変えてしまった切っ掛けとなった。

 本作では生存している。元々詠の性格が傲慢不遜だったため、彼の傲慢な性格への大きな影響は当然ながら全く見られない。


◆キャラクタープロフィール

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西村(にしむら)裕司(ゆうじ)

性別、男。

年齢、三十三歳。

誕生日、二月二日。

血液型、A型RH+。

出生地、秋田県秋田市。

一人称、自分、俺。

好きなもの、平和。

嫌いなもの、戦闘、災害。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、逢坂詠。

嫌いな人、特に無し。

職業、自衛陸軍一等陸佐。

主格因子、無し。


「自衛陸軍時代の逢坂詠の教え子の一人。得意武器は89式5.56mm小銃だが、詠の薫陶を受けたため大抵の武器は扱え、素手での戦闘も並以上である。とはいえ、争いごとは好まず、外敵から襲撃されることのない平和な時代が来ることを願っている」

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坂口(さかぐち)柚月(ゆづき)

性別、女。

年齢、三十一歳。

誕生日、七月三日。

血液型、O型RH+。

出生地、鳥取県鳥取市。

一人称、私。

好きなもの、ショッピング。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、「平穏無事」。

尊敬する人、特に無し。

苦手な人、逢坂詠。

職業、自衛陸軍二等陸佐。

主格因子、無し。


「自衛陸軍時代の逢坂詠の教え子の一人。機関銃の扱いに長けているが、自分より筋肉がある西村裕司が89式5.56mm小銃ばかり使い、自分が重い機関銃を使わなければならないことを不服に思っていた模様。教官である逢坂詠には今でも少し苦手意識を感じている」

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