大迷宮の魔物を討伐し切っても戦えていない人がいるからって大日本皇国からネガティブノイズを転移させておかわり戦闘をするなんて展開に普通はならないんじゃないかな?
「魔導忍法・劫火球でござる!!」
レイヴンの口内に燃え盛る炎が出現し、その炎を吐き出すと同時に炎が巨大化――ボーリングのボールほどの大きさの火球となって緑小鬼に迫る。
仲間が焼き尽くされて動揺した緑小鬼の群れの隙を突き、「魔導忍法・水月の術」と「魔導忍法・夜月の朧」を駆使して緑小鬼を撹乱――装備していた忍刀に「魔導忍法・蒼焔の太刀」を付与して次々と緑小鬼を撃破していく。
「『騎士魔法』・浄罪の聖輝!!」
そんなレイヴンと張り合うようにしてもに変身したレフィーナも魔法少女の姿での自身の得物『妖精魔法少女の細剣』に光属性の魔力を纏わせて次々と緑小鬼を斬り捨てていった。
その剣に宿る聖なる力は勇者や聖女の力に匹敵するほどのものである。
不死の大魔術師であるアルシーヴがその力を本能的に恐れてしまうくらいには強力な浄化の力を宿しているようだ。
魔法少女エルフィン=ブラダマンテの強力な点はその光の力すらも能力の一端に過ぎないという点である。
火、水、風、土、光、闇属性――六属性を自在に操る力は魔法が一般的に存在するジェッソにおいても希少なものである。
魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを筆頭に強力な力を有する魔法少女という存在、そしてそんな魔法少女を量産する力を持つシルフィア達――魔法の世界フェアリマナの存在にアルシーヴ達は畏怖の念を抱いた。
「……皆さんなかなか早いペースですね。ついていくのがやっとですよ」
対人間族魔国防衛部隊の副官であるヴィクターがそう愚痴りながらも、長年愛用している自身の背丈に匹敵するほどの長剣を振り回して薙ぎ払いを放ち、複数の緑小鬼を腹部で両断する。
普段は隊長であるオズワルドが前線に立ち、自身は参謀として後方で作戦を立案して軍を動かすという裏方として活躍しているヴィクターだが、決して作戦立案以外に何もできないという訳ではない。
頭脳労働が得意だから、オズワルドの方が前線に立って自ら仲間を引っ張っていくことが多いから、また、昔から細かいことを考えずにオズワルドが一人で突っ走っていき、頭脳労働を丸投げされる場面が多かったからか……様々な理由からヴィクターが作戦参謀の立ち位置を引き受けることが激増したが、本来はオズワルドの横に立って戦えるだけの戦力である。
得意な身体強化魔法で巨大な剣を持ち、優れた剣捌きで剣に振り回されることなく完璧な動きで敵を制する姿はまさに超絶技巧だ。
「流石はヴィクター殿だな。よし、俺も暴れるとするか! 歯応えはねぇだろうけど、今はまだ我慢の時だ! 呪われし闇」
自らの剣に闇の力を付与する闇属性の魔法を発動し、剛聖剣に闇の力を纏わせるエスクード。
本来は盾で守りつつ攻撃するのがエスクードの戦闘スタイルだが、緑小鬼や鼠人間のような相手に盾を使う必要はないということで防御を捨てたスタイルでの戦闘である。
魔王軍幹部を任されるだけの猛者が緑小鬼や鼠人間に撃破される筈もなく、呆気なく魔物達は大きめの肉塊へと変えられていった。
「ルスヴァン流血刀術・凍血紅華!」
「連刃双細剣嵐」
団長の奮闘に続くようにジュラキュールとコンスタンスも緑小鬼と鼠人間の群れに突撃していく。
ジュラキュールの血刀術によって氷漬けにされた緑小鬼が切り裂かれ、コンスタンスの二刀流の細剣でサイコロ状に切り刻まれた鼠人間が宙を舞う。
「身体強化! 大盾打殴」
「高速錬金術式!」
魔王軍即応騎士団の面々に負けず劣らず魔導近衛騎士団の面々も戦果をあげている。
ディージスは身体強化をした上で大盾をぶつけて鼠人間を吹き飛ばしていき、蒼も【高速錬金術式】で創り出した大剣で次々と緑小鬼を切り裂いていく。
「水晶槍乱舞!!」
騎士団の面々が活躍を見せる中、ルキフグス=ロフォカレ学園組も「負ける訳にはいかない」と張り合うように魔物の群れに攻撃を仕掛けていく。
アルシーヴは無縫との戦いで使用しなかった水晶魔法を発動し、創り出した無数の水晶の槍を次々と緑小鬼と鼠人間の群れに放っていく。
「【雷切一閃】」
そんなアルシーヴに追随するのが【霹閃】や【黒の破壊者】の二つ名を持つクォールトだ。
自身の得物である納刀状態の刀に自身が得意とする雷魔法で高磁場を発生させ、レールガンの原理で射出するその勢いのまま抜き打ちを繰り出す最速の斬撃――クォールトの切り札でまず緑小鬼を一体仕留め、そこからは雷撃を纏わせた刀で次々と緑小鬼達を切り裂いていく。
「魔を導く剣よ! 【劫焔爆裂】!!」
「雷流星拳!」
理事長と教官に少し遅れることクロムロッテとイクスも魔物達に攻撃を仕掛けていく。
クロムロッテは天職である魔導剣士の力で大魔法である【劫焔爆裂】を剣に込めて斬撃に乗せて爆裂魔法を発動させて緑小鬼を一体ずつ確実に消し炭に変えていき、イクスは雷撃を乗せた拳で次々と鼠人間を粉砕していく。
「あー……完全に出遅れてしまったっすね」
「ああっ……ど、どうしましょうぅ!! も、もうほとんど魔物が残っていないですぅ!!」
「……まあ、まだ迷宮攻略は始まったばかりですし、チャンスはありますよ」
大迷宮挑戦者のほとんどが魔物達を討伐していく中、すっかり出遅れてしまった無縫、ミリア、シエルの三人は少し離れたところでそのようなやりとりをしていた。
まるでこの階層の魔物を全て狩り尽くすまで止まれないと言わんばかりに魔物の群れは急速に殲滅されて数を減らされていく。
今回の階層では無縫達が活躍できる場面は無さそうだ。
次の階層では出遅れないようにしよう……などと思っていた時、無縫の持っていたスマートフォンが通知が入ったことを知らせるバイブレーションを鳴らす。
ついで、無縫、惣之助、詠、龍吾、リリス、琢三、彦斎のスマートフォンがけたたましい警告音を響かせた。
◆
バイブレーションの正体は着信を知らせる通知だった。
履歴を確認した無縫は少し顔を顰める。嫌そうな顔をしつつも、ここで放置すれば更に面倒になることを悟っている無縫は渋々といった様子で電話を掛け直した。
『無縫! 一体どこにいるのよ!?』
「いや、どこって……異世界ジェッソだけど?」
『まだ異世界にいるの!? とっとと帰ってきなさいよ!! というか、そっちに内藤さん達まで連れていって本当に何しているのよ!! この大変な時に!!』
開口一番、電話越しに犬猿の仲の茉莉華からアイドルらしからぬ暴言を吐かれた無縫が顳顬に青筋を浮かべる。
「っていっても、事前に通達してあっただろ? 大迷宮攻略に大田原さんとか参加するから多少手薄になるって」
『その話聞いていないわよ!! ここ最近忙しくて内務省に顔出せていないのよ! 悪かったわね!』
「次のツアーは西京都って言っていなかったか? それまで小休止とか言っていたと思うが……」
『アイドルは忙しいものなのよ! 色々はものに縛られない貴方と違ってね!! 西京都のツアーの前に単発で福岡でライブをすることになったのよ。そのタイミングでネガティブノイズが襲撃を仕掛けてきて……観客にはスタッフと同行していた事務所の社員が協力して上手く誘導して避難してもらえたし、瑞稀と霞も安全なところまで避難してくれたけど……流石に私だけじゃ厳しいわ。内務省異界特異能力特務課に連絡を入れたけど到着まで時間が掛かるって話だし……』
「まあ、茉莉華の実力じゃ限界もあるよな……」
『なんですって!? 流石に普通のネガティブノイズなら私でも対応できるわよ! でも、流石に十体以上上級種が出張ってきたらジリ貧になるけど……勿論、私が負けることはないわ!! ただ時間が掛かるってだけよ! そこだけは間違るんじゃないわよ!!』
「……で、大迷宮一層の魔物も大半駆逐したところなんだが、若干三名遅れを取って戦えずに暇しているところなんだ。……こっちで何体引き受ければいい?」
『上級級は同時に二体、そこに中級種が加わってもなんとかなるわ。下級種なんて誤差の範疇だし……そうね、そっちで上級八体、中級種を二十体ほどお願いしてもいいかしら? ……貴方に頼むのはもの凄く不愉快だけど!!』
「じゃあ、貸し一ってことで」
『巫山戯んじゃないわよ!! 私だって、こんな状況じゃなければアンタになんか絶対に頼まないんだから!!』
「……とりあえず、座標とできれば映像を送ってくれ。それと、必要なら誤差修正を頼む」
『まあ、貴方の実力なら不要でしょうけどね。……助けてくれて、ありがとう』
「ん? 何か言ったか? 『助けてくれて、ありがとう』とか聞こえた気がするけどなぁ」
『な、なんでもないわよ! 本当に性格悪いわよね!! さっさとやんなさい!!』
「へぃへぃ……ってことで、今から大日本皇国の福岡を襲撃しているネガティブノイズを引き受けます」
「おいおい怒涛の展開だなぁ」
怒涛の勢いで決まり、事後承諾の形で「ネガティブノイズを転移させて引き受ける」ことになってしまったこの状況にエスクード達は苦笑いを浮かべている。
「だったら、ウチとシエルさん、後無縫さんの三人で引き受ける形がいいと思うっすよ。対魔物戦じゃ全く役立てなかって不完全燃焼なんすよ!! ウチのワーブウェポンのサビにしてやるっすよ!!」
「やっ、やってやるぅですぅ!!」
「じゃあ、早速始めていきますか? 時空の門穴」
次々と時空の門穴を開いていく無縫。
その度に大迷宮のプレッシャーが増していくように感じた。
――そのプレッシャーは大迷宮一層に突入した頃のものを遥かに上回っていき……そして。
◆ネタ解説・百四十六話
【劫焔爆裂】
着想元は暁なつめ氏のライトノベル『この素晴らしい世界に祝福を!』に登場する爆裂魔法と、蛙田アメコ氏のネット小説『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました!』に登場する【灰燼裂罪】。特に爆裂魔法を剣に込めるという発想は『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました!』に由来する。