大量の戦力を揃えて大迷宮攻略を目指す場合、基本的に浅い層での戦いは理不尽な暴力に晒された哀れな魔物達という構図になりがちだよね、って話。
世界屈指の危険地帯――ロズワード大火山。
その地下に堅牢な魔法に守られてひっそりと存在する、普段は静寂に包まれたスコールド大迷宮は今、激しい喧騒に包まれていた。
「過重力圏域! 【魔王の一斬】じゃ!!」
「妖精の天嵐!!」
魔法少女ヴァイオレット=レイに変身したヴィオレットが固有魔法の『重力操作』を発動して緑小鬼の動きを止め、完全に身動きが取れなくなったところに容赦無く魔王技を叩き込む。
一方、魔法少女シルフィー=エアリアルに変身したシルフィアも固有魔法の『風魔法』を発動し、無数の竜巻をぶつけて緑小鬼を殲滅していた。
「流石にこのレベルでは特殊技能【獅子修羅道】を使うまでもないか。……少しだけ遊ぶとしようか? 『獅子刀・百獣護国』」
惣之助は新生最上大業物二十四工の一つ『獅子刀・百獣護国』を抜き払う。
その瞬間、爆発的な覇霊氣力が嵐の如く吹き荒れて無数の黒い稲妻を迸らせる。
所持者の覇霊氣力を吸収して精錬し、神霊覇気の段階へとその力を高める力を持つ『獅子刀・百獣護国』は間違いなく緑小鬼程度の相手に抜くべきではないものだが、これ以外の刀を今の惣之助は持ち合わせていないので致し方ないことである。
流石に惣之助は異世界で獲得した「武器の性能を一倍から最大で一万倍まで強化する」特殊技能【獅子修羅道】の発動は必要ないと僅かながら手心を加えていたが、必要以上の力で蹂躙撃を繰り広げている者がいた。
「手加減」という言葉を知らない傍若無人の防衛大臣――逢坂詠である。
「『絶界切断』」
彼が軍人になる以前から愛用している『雷切丸』とは違い、彼が抜き払った刀は『神刀・虚空御前』である。
元天皇家所有の刀で、時空と空間を司る空虚の神の触手の一片を玉鋼に練り込んで精錬したなどと言われている時空の神の力を宿したとされるこの刀には空間移動は数十糎、時間移動は過去未来共に十秒という制限があるが、時間や空間を超越して刃を飛ばす能力を有しているという。……無縫も真偽不明の噂程度でしか聞いたことがないレベルのものなので詳細は不明だが。
そこに、逢坂詠は「あらゆる耐性を貫通して過去・未来・現在・全世界線・全並行世界の対象を現在の対象を媒介に斬り捨てる」という超異能『絶界切断』を組み合わせ、その力を緑小鬼に向けていた。
飛ぶ斬撃を容赦なく放ち、緑小鬼だけでなく迷宮そのものを切り捨てかねない詠に無縫は冷たい視線を向けていた。
「【魔弾の悪魔】!!」
「【太極・円環の蛇剣】!!」
惣之助と詠に続くように、龍吾が指向性音響共振銃で鼠人間の群れを次々と撃ち抜いていき、リリスは『聖魔混沌槍ケイオス・ハウリング』に勇者と魔王の力を込めて鼠人間の一つの群れを丸ごと消し飛ばす一撃を放っていた。
「打爆音!!」
「蒼雷飛拳」
龍吾やリリスに比べて討伐数こそ少ないが、琢三と彦斎の『雷霆』コンビも着実に魔物達を討伐している。
普段愛用している指向性音響共振銃やワーブウェポンを封印し、琢三は獲得した天職――蒼雷拳士の力を、彦斎は獲得した天職――音響術師の力を試しているので使い慣れない力に振り回されている感がしないでもないが、それでもレベルが低いとはいえ魔物相手に戦えている時点で『雷霆』に選ばれているだけのことはあるということなのだろう。
「桃源天剣流・北斗ノ太刀・禄存 !」
「桃源天剣流・北斗ノ太刀・武曲!」
真由美と日和――桃沢家の鬼斬二人も負けていない。
桃源天剣流の鬼斬の技を駆使して次々と魔物の群れを討伐していく。銃の引き金を引くだけで敵を撃破する龍吾に比べれば倒す速度は確かに遅いが、それでも惣之助に比肩するなかなかの速度だ。
「さて……迷宮に来てしまった以上はサボってはいられませんね。前一騰虵火神家在巳主驚恐怖畏凶将――急急如律令。適当に遊んで差し上げなさい」
「魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス様――無縫様が見ておられる今! ここで活躍せずしていつ活躍するでござる!! 九字格子」
一方、やる気の温度差で風邪をひきそうな幸成と芳房の陰陽師コンビも緑小鬼の群れを壊滅させていた。
幸成は十二神将の一体である騰虵を召喚して暴れさせて当の本人はその光景をぼうっと眺めており、芳房の方は九字格子の書かれた呪符を放って魔物の群れに攻撃を浴びせている。
式神に任せるか、自身が前線に出て戦うか――二人のやる気がそのまま反映されたような対照的な戦闘スタイルである。
◆
「……久々に使わないと鈍ってしまうわね。ワーブリングシステム起動! 白ワーブウェポン・赫霆剣」
ヴィオレットとシルフィア、大日本皇国の面々が着実に討伐数を増やしていく中、今回の大迷宮挑戦で最も利益を得ることが確定しているフィーネリア達ロードガオン組も負けじと競うように魔物の討伐を進めていた。
フィーネリアはここに来て、奥の手である白ワーブウェポンを解禁する。
国宝級の白ワーブウェポンである「赫霆剣」――その能力は斬撃を振るうと雷鳴が轟く範囲に赫雷の斬撃を降らせることができるというものである。
音速で放たれる斬撃に対処するのであれば、音速に対応するか赫雷の斬撃に耐える耐久力を得る必要があるが、後者はワーブルの性質上ダメージを抑えることはなかなか難しい。
前者の方も人間離れした動体視力が必要となる。
当然、百層以下の魔物に対応できる攻撃ではなく次々と魔物達が黒焦げにされていった。
「『空の門』。……ワーブウェポン・流星降弾」
一方、フィーネリアの相棒にして同じく国宝級の白ワーブウェポンを保有するミリアラは無数の門を展開し、その中にワーブルの弾丸を打ち込むことで次々と奇襲攻撃を仕掛けて魔物の群れを全滅に追い込んでいった。
宛ら流星群の如く放たれるワーブルの弾丸は縦横無尽な弾道を設定できる立方弾や生物の如き軌道を描く飛燕弾に比べると単純だが、その分威力はなかなかのものである。
「ふむ、では吾輩も久々に本気を出そうではないか!」
ロードガオンにおける怪人の歴史は比較的新しい。
ワーブルという力がロードガオンを含む虚界で一般的な戦闘手段となる中、そのような力に頼らず身体能力の底上げや強力な生物の力を取り込むことで虚界人の能力を高めることを目標としていた研究所にて、最初の怪人達が作り上げられた。
ドルグエスはそんな研究所出身者の子孫……ということになる。
そんなドルグエスの怪人能力は『鎧』だ。身体に目に見えないエネルギーの鎧を纏うことができる。
この不可視の鎧は、自身を守る鎧であると同時に自身の物理攻撃の威力を高める武器にもなる。また、その力は変幻自在に形を変えることが可能であり、例えばその形状を針状に変化させて不可視の槍で敵を刺し貫くこともできる。
生まれ持った様々な武器を操る才能や、怪人特有の脅威的な身体能力が目立つドルグエスだが、その本来の力はこの自らの身体そのものを武器と変えるこの怪人能力である。
普段はその力をセーブして日常生活を送っているドルグエスだが、今回はその力を存分に振るうつもりになったらしく怪人能力を解放し、その身一つで魔物の群れに飛び込んでいった。
そんな脳筋戦法により、魔物の群れの攻撃を全て弾き返しつつ魔物達を物理的に粉砕しまくっており、ドルグエスの討伐速度も銃撃には届かないもののかなり速い部類に属する。
「さあ、いってらっしゃい! 長尾驢鎧!」
一方、幸成と同様にマリンアクアは自らが戦場に立つことなくワーブリス兵を送り込んで戦わせるという戦法を取っていた。
基本的にマリンアクアはワーブリス兵の管理や修理などのエンジニア的な業務を担っているため、彼女らしい戦い方と言えるだろう。
問題はその送り込んだワーブリス兵器あった。
蒼とコンスタンスの攻撃が通用しなかった対ワーブウェポン使い捕獲用ワーブリス兵――徒手拳兎。
そのデータを元にマリンアクアが秘密裏に開発していた改良版対ワーブウェポン使い捕獲用ワーブリス兵――長尾驢鎧を戦場に投入したのである。
フィーネリアだけでなく、ドルグエスやガラウスもその存在を把握していない(ミリアラだけは知っていたのか、それとも本当に知らなかったのか表情からは何も読み取れなかった) 長尾驢鎧は、ロードガオン製のワーブリス兵の中では基本的に最強の存在である白滅龍翼に比肩する力を持つ。
『神童』ヴァッドルード=エドワリオやレーネ家以外の四大領主が秘密裏にそれ以上のワーブリス兵を開発している可能性もあるが、少なくとも表向きは最強とされている白滅龍翼に比肩するということはロードガオンの中で最強のワーブリス兵の一体に数えられるということを意味する。
実際、理不尽なまでの強度と圧倒的戦闘力に魔物達は手も足も出ず、ただただ理不尽な暴力に晒されている。
その蹂躙劇を目の当たりにした徒手拳兎に少しトラウマがある蒼とコンスタンスの顔が少し引き攣っていた。
◆ネタ解説・百四十五話
神霊覇気
名称の由来は「大作、傑作」を意味するラテン語マグヌス・オプス。
本来の意味はある芸術家の作品のうちで最大の、そしてことによると最高の、最も優れた、最も人気を博した、あるいは最も名高い業績を指す。類義語に大いなる業やアルス・マグナがある。
着想元はあわむら赤光氏のライトノベル『聖剣使いの禁呪詠唱』に登場する通力と呼ばれる力を濾過して生成することができる神通力。
なお、本作の覇霊氣力は『ONE PIECE』の覇王色の霸気や、『必勝の聖眼の神殺しと戦女神』の霊力、『六畳間の侵略者!?』の霊子力、『聖剣使いの禁呪詠唱』の通力など様々な力の要素を混ぜ合わせたような性質を持っているため、神霊覇気に覇霊氣力の上位互換の力という以外の定義はできない。
空虚の神
クトゥルフ神話に登場する架空の神性で旧支配者の一柱。
外なる神の一柱。『時空そのもの』ともされる存在。
「門にして鍵」、「全にして一、一にして全なる者」、「原初の言葉の外的表れ」、「外なる知性」、「混沌の媒介」などの異名を持つ。
虹色に輝く球体の塊の姿をしており、現在では『全てに繋がり、どこにも繋がっていない場所』に追放されているという。
但し、前述の外観は仮面であり、本性は「無数の触手と恐ろしい口を備えた怪物」という、クトゥルフ神話の邪神では王道の外観とされることもある。