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迷宮挑戦前、様々な陣営の者達が一堂に会する伏魔殿の如き懇親会。 その伍

「まず初歩的なところから話を始めますが、大迷宮とはこのジェッソに四つ存在している四つの巨大な迷宮のことを指します。他にも迷宮……所謂ダンジョンのような場所は存在しますが、大迷宮はその中でも一線を画する難易度を誇ると言われています。実際、大迷宮の攻略者は俺達が攻略を始めるまでは歴史上たった一人だったので、この世界の人間達の水準では最高難易度の迷宮と言っても過言ではないでしょう。……まあ、他の異世界なんかと比較を始めればもっと難易度が高い場所も多いですが、迷宮の広さと主に終盤の層や領域守護者(エリアボス)の難易度を考えれば中の上くらいに位置するかもしれませんね」


 人間達が魔族を滅ぼすために必要な聖武具を集めるために挑んでは返り討ちにあってきた魔窟に対して無縫の評価は少し辛口なように感じた者達が主に魔族達を中心に多くいたが、他の世界と比較されてしまえば閉口せざるを得ない。

 無数の異世界の中にはこの世界よりも遥かに危険な世界もあるだろう。そうした数多ある世界の中で異世界ジェッソが最も過酷な世界だと言える者はいないだろう。……そうした批評は生まれ育った世界の枠を飛び出して多くの世界を渡り歩いた者だけの特権だ。


「そうですね……誰でもいいですが、ジュラキュールさんにしましょうか? 大迷宮というものについてどのような印象を持っていますか?」


「そうだな……大迷宮は勇者の聖武具が封印された場所だ。白花神聖教会や東方白花正統教会が魔王を倒す力を秘めた聖武具を血眼になって探していて、これが人間達の手に渡れば魔族が今まで以上に人間によって脅かされる可能性がある。なので、魔族としては平穏を守るために聖武具が人間の手に渡るのを阻止したい。……ただ、いずれも大迷宮は人間側の領土に存在する。安易に侵入すれば人間側から危害を加えられかねない。それに、魔族が人間側の領域に侵攻した人間側に大義名分を与える可能性もある。そうなっては本末転倒だ。なので、歯痒さを感じているというのが実情だな」


「えぇ、ご指摘の通り大迷宮には聖武具が封印されている場所という側面もあります。今から百年前、聖武具を最後に振るった勇者がいたようです。彼はエーデルワイスという女神より加護を受け、人間側に立って魔族と戦っていたようですが、魔族との戦いの中で彼らにも守るべき正義があることを、自分達人間と何一つ変わらないことを悟り、秘密裏に魔王と休戦協定を結びました。そして、二度と勇者が祭り上げられないように、その力を最大限引き出すことができる聖なる武具を封印しようと目論んだのです。そして、目をつけたのが四つ存在する大迷宮でした。……まあ、正確に言えば、その時点でも二つの大迷宮の場所は不明でしたので、恐らく現在判明している大迷宮のいずれかに挑んだのだと思います。そして、勇者は長きに渡る挑戦の果てに大迷宮を攻略し、大迷宮の主――自律式統括者(ギア・マスター)に聖武具の封印を頼みました。自律式統括者(ギア・マスター)……否、自律式統括者(ギア・マスター)達は攻略者である勇者の願いを叶え、大迷宮の最奥部を四つに分けて、それぞれの地に聖武具を封印しました」


「……ちょっと待ってくれないかしら? それだとまるで大迷宮の最奥部が繋がっていたということになるのだけど……」


「えぇ、コンスタンスさんのご指摘の通りです。かつて、大迷宮の地下は繋がっていました。空間と空間を繋ぐ力、今の時代においては伝説となっている魔法――空間魔法によって」


 無縫の言葉に大迷宮の秘密を知らなかった者達が衝撃を受ける。

 それぞれの大迷宮にはそれぞれのゴールがあって、そこにそれぞれの聖武具が眠っていると考えていた真実を知らない魔族達にとっては既に二度も常識を破壊されている状況だ。


「つまり、結論を申し上げますと大迷宮が聖武具の封印の役目を担ったのはここ百年の話、それ以前から大迷宮は存在していたということです。では、そうなると気になってきますよね。大迷宮とは一体何なのか? ここから先は考古学的な話になります。興味がある方はしっかりと聞いて頂ければと思いますが、それ以外の方々は程々に流しておいてください。このジェッソにはかつて巨大な文明がありました。その文明は今よりも魔法が発展しており、更にこの世界では失われてしまった科学技術も高い水準で有していました。その文明では人間も魔族も手を取り合っていました。その文明は次第にジェッソを支配していき、中期にはジェッソ全土を支配下に置くまでになりました。都市は日を追うごとに科学と魔法によって発展を重ねていきます。そして、彼ら自身が人間や魔族が自我を持つが故に必ず生じてしまう欲により完璧な治世ができないと悟ったからか、それとも都市を管理することに限界を感じたのか、都市を管理するための存在を創り上げました。それが現在、大迷宮の主としてその管理を行っている自律式統括者(ギア・マスター)ということになります」


「……まさか、このジェッソを全て支配下に置くような文明が存在していたなんて。それに、魔族と人間が……信じられない」


 果たして、そのような感想を溢したのは誰だったか。しかし、大迷宮の真実を知らない者達の感想は全て似通ったものだったのだろう。


「しかし、そのまま際限なく発展していくと思われたバビロヌス文明にも終わりがやってきます。遥か外宇宙より侵略生命体が現れたのです。侵略生命体デモニック・ネメシス、彼は強大な力を持ち、世界を文字通り蹂躙していきました。多くの都市を破壊し、現在の地上では神代魔法と呼ばれて半ば伝説扱いされている強大な魔法や様々な科学兵器を対抗手段として使っても討伐は困難を極めました。多くの都市が破壊される中、古代都市アヴァロニアと呼ばれるバビロヌス文明の都市の一つはデモニック・ネメシスの攻撃の手が伸びない地下へと都市を移すことを決定し、神代魔法を用いて古代都市アヴァロニアを四つの区画へと分けて地下へと移転したのです。その際に大規模な地殻変動が生じ、四つの大迷宮が誕生しました。それが、現在、ルインズ大迷宮、ログニス大迷宮、レイゼン大迷宮、スコールド大迷宮と呼ばれている大迷宮ということになります。より正確には地上と地下都市を繋ぐ通路として改良を加えられたものということになるようですが。古代都市アヴァロニアの民達は安全圏を得ると、デモニック・ネメシスに長きに亘る戦いを挑むことになります。そして三十年後、遂に古代都市アヴァロニアの民達はデモニック・ネメシスを討伐することに成功したのです。地上は再び平和を取り戻しました」


「……それほどの文明を相手に三十年も戦った宇宙の果てからやってきた魔物か。どれほど恐ろしい存在だったのか……是非一度お目に掛かって見たかったものだ」


 好奇心を刺激されたのだろうアルシーヴに「おいおいマジかよ」と言いたげな視線が集中する。


「アルシーヴさん、そのご期待には添えるかもしれませんね」


「いや、待ってくれ無縫! デモニック・ネメシスは遥か昔に倒された魔物だろ? 流石に戦う機会なんてないだろ?」


「エスクードさんの問いに答えるためにも話を続けますね。バビロヌス文明は無力化して捕らえたデモニック・ネメシスを解析し、その力の一端を引き出すことに成功します。空間魔法……時間魔法と対を成し、空間へと干渉する究極の魔法の一つです。この力は現在の迷宮に実装されている転送装置の基礎となったようです。より正確には時空魔法という俺にとっても俄かに信じがたいものでしたが。彼らはデモニック・ネメシスの複製(クローン)を作りつつその力を研究し、その果てで空間魔法の獲得に成功します。バビロヌス文明が有する空間魔法とは時空魔法の劣化に過ぎなかった。もしかしたら彼らにとっては満足できない結果だったのかもしれません。しかし、それでもバビロヌス文明には十分過ぎるものでした。荒れ果てた大地と暗い地下都市に見切りをつけた古代都市アヴァロニアの民達は科学と魔法の技術を総動員して空を飛び、空間を渡る巨大な戦艦を創り上げ、遥かなる空へと――まだ見ぬ世界へと旅立って行きました。古き土地と文明の名を捨て、彼らが信仰していた唯一絶対なる神マルドゥークの名を冠して。以上は、ルインズ大迷宮の自律式統括者(ギア・マスター)、リエスフィアさんより聞いた話です。ここまでの話は序章ですので、ここから具体的にバビロヌス文明……いえ、マルドゥーク文明と呼ぶべきでしょうか? 彼らについてより深い話をしていこうと思います」


「……まだ続けるのですか?」


 既にお腹いっぱいという様子のヴィクターだが、無縫にとってはここまでの話は基本的なものである。

 ここから先は大迷宮の真実を知る者達にとっても初耳の情報であり、その情報にこそ価値があると無縫は考えていた。


「古代都市アヴァロニアの晩期、デモニック・ネメシスの従来から宇宙に飛び立つ頃までの歴史を少し振り返ろうと思います。これは、大迷宮攻略後に俺がリエスフィアさん達と共に集めていた情報で、フィーネリアさん達にとっても初耳の情報となります。古代都市アヴァロニアは四つの都市に分かれたと言われていましたが、その都市にはそれぞれ四人の実質的な指導者がいました。ギルガメッシュ=フェニュゴリュウェ、ウルシャナビ=ジラシュスェムト、シャムハト=アウィールシュゴルツ、グガランナ=エリュへパァオスの四人です。彼らが治める四つの都市は協力しながら異世界間を移動する彼らの新たなる拠点――終焉戦艦マルドゥークを完成させることになりますが、彼らはそれぞれ兵器を保有していました。機動要塞エレシュキガル、飛空戦艦エンリル、海洋母艦ナンム、戦滅巨兵ニヌルタ――そして、それぞれの兵器の中枢を担うAI、エレシ、エンリ、ナン、ニヌル。そして、今まで攻略した大迷宮の最下層にあった都市の中枢管理棟アドミニストレータ・タワーのアーカイブを調査すると、それぞれの都市の指導者が保有していた兵器やAIの設計図が出てきました。終焉戦艦マルドゥークについては分割されていたため、現在四分の三を獲得したところです。……つまり」


「大迷宮を攻略すれば、その兵器やAIの設計図が手に入るというのか!?」


「世界のバランスを崩してしまうほどの兵器であること、そもそもこの時代の技術では極めて再現が難しいものではありますが、大迷宮を攻略しても何も得られないのではやる気も出ないでしょうし、大迷宮を攻略した暁には今回挑戦するロズワード大火山にあるスコールド大迷宮の最奥部にある中枢管理棟アドミニストレータ・タワーのアーカイブを閲覧する権利をお譲りする……ということでどうでしょうか?」


「……そこが妥協点ということだな。クォールト、筆記具を大量に持ち込むことにしよう。そうと決まれば、懇親会が終わったら準備だ!」


「承知しました」


「……やる気満々ですね。……大迷宮挑戦は明日から開始したいと思います。幹部巡りも進めていかないといけないですし、他の皆様も予定があるでしょうから、それぞれ予定を擦り合わせつつ、クリフォート魔族王国とスコールド大迷宮を往復する形で攻略するということでよろしくお願いします」

◆ネタ解説・百四十三話

ギルガメッシュ=フェニュゴリュウェ、ウルシャナビ=ジラシュスェムト、シャムハト=アウィールシュゴルツ、グガランナ=エリュへパァオス

 ギルガメッシュ、ウルシャナビ、シャムハトの三名の初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』、グガランナのみ『文学少年召喚』に未登場。

 いずれもマルドゥーク文明(バビロヌス文明)の支配者達。

 ギルガメッシュはジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国にあるマルドゥーク文明が残したエパドゥン遺跡において本人の残したデータと戦闘を行い、その後ウルシャナビ、シャムハトのデータが残されていたギシュヌムンアブ遺跡で再戦した。いずれも草子達の時代には故人になっていたため為人は不明。作中ではエリシ、エンリ、ナンから僅かだが為人についての言及がある。詳細を知りたい場合は『文学少年召喚』をご覧ください。

 グガランナは恐らく戦滅巨兵ニヌルタの支配権を持つ人物だったと思われるが、『文学少年召喚』には未登場でそもそも存在に触れられてすらいない。


終焉戦艦マルドゥーク

 初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』。

 マルドゥーク文明が宇宙を渡るのに使っていた最終兵器。空飛ぶ戦艦。

 機動要塞エレシュキガル、飛空戦艦エンリル、海洋母艦ナンム、戦滅巨兵ニヌルタの四つの兵器はこの終焉戦艦マルドゥークのシステムを流用する形で生み出されている。

 作中では、能因草子の【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】によって生み出され、移動手段として運用された。


機動要塞エレシュキガル、飛空戦艦エンリル、海洋母艦ナンム、戦滅巨兵ニヌルタ

 機動要塞エレシュキガル、飛空戦艦エンリル、海洋母艦ナンムの三機の初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』、戦滅巨兵ニヌルタのみ『文学少年召喚』に未登場。

 いずれもマルドゥーク文明によって作られた兵器で機動要塞エレシュキガルは世界各地をオートモードで巡りながら破壊活動を続けており、飛空戦艦エンリルは新ルルイエの周辺の海域に沈んでおり、飛空戦艦エンリルはミンティス教国の神殿宮の地下に存在する地下迷宮に隠されていた。


エレシ、エンリ、ナン、ニヌル

 エレシ、エンリ、ナンの三体の初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』、ニヌルに未登場。

 機動要塞エレシュキガル、飛空戦艦エンリル、海洋母艦ナンムの三機に搭載されていたAI。エレシはぶりっ子、ナンは熱血、エンリはインテリタイプの性格をしている。

 三体のAIは対応する迷宮の情報を守護する役割を担っていた。

 ニヌルは恐らく戦滅巨兵ニヌルタのAIだったと思われるが、『文学少年召喚』には未登場でそもそも存在に触れられてすらいない。

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