迷宮挑戦前、様々な陣営の者達が一堂に会する伏魔殿の如き懇親会。 その弍
「まずは、鬼斬機関の局長にして、桃太郎の血を引くとされる桃沢家出身の桃沢真由美さんです。十三歳の時に桃清浄剣流を修めて次期当主と目されていましたが、自分を神輿として担ぎ上げて甘い汁を啜ろうとすり寄ってくる桃沢家の関係者に愛想を尽かして失踪。その後、紆余曲折を経て当時の鬼斬機関の局長を倒して鬼斬機関の局長の椅子に座ることになったと聞いています。鬼斬の中ではかなり穏健派で、彼女がトップになったことで妖怪や鬼――この世界で言うところの魔族のような立場の存在でしょうか? 彼らに対する対応が大きく変化したと聞いています」
「……無縫君、できれば昔のことは掘り返してもらいたくないのだけど。でも、話してしまったことは消せないし仕方ないわね」
「お望みなら全員分の記憶処理をして丸ごと無かったことにできますよ」
「……本当になんでもありね。初めまして、桃沢真由美よ。今回は姪共々お世話になるわ。鬼斬として戦ってきたから多少は戦えると思うけど、足を引っ張らないように頑張るわね。仲良くして頂けると嬉しいわ」
まさに、仙姿玉質という言葉が似合うほど美しい女性に真由美と初対面の男性陣の視線が釘付けになったのは言うまでもない。
そして、そんな分かりやすい男性陣にミリアとシエルを除く女性陣が「男って莫迦よね」と言いたげな冷淡な視線を向けた。
「続いて、真由美さんの姪の桃沢日和さん。鬼斬一年目ですが、同期の鵜木春臣さん、桜庭愛莉さんとチームを組んで鬼斬の有望株と言われています。日和さん達も既に大迷宮に挑戦済みで、今回は人数が多いことからお二人は辞退なされてお二人の参戦と相成りました」
「桃沢日和と申します。若輩者ですが、よろしくお願いします」
「続いて陰陽寮組に参りましょう。まずは、陰陽寮の陰陽頭を務めている賀茂幸成さん。陰陽師名門の賀茂氏出身で時代が時代なら神童と呼ばれて当然の才覚を持っています。ただ、様々な事情もあって楽な方に流されて現在の適当な性格になってしまい、陰陽頭に就任してこそいますが人望はほとんどありません。糸目のなんだか胡散臭そうな眼鏡キャラっぽい見た目ですが、中身はただの自堕落なのでそこまで警戒することはないと思いますよ」
「――ログニス大迷宮挑戦前の紹介の時もそうですが棘があり過ぎませんか!」
「でも、全部事実だから否定できる余地がないんだよなぁ」
「……まあ、そうなんですよね。今回の大迷宮への挑戦はサボろうとしたんですが、そこの鬼畜な局長殿とか、側近殿――陰陽助に『参加しろ』って圧掛けられて渋々参加しているんですから」
「あら? そんなに三枚に下ろされたいなら早く言ってくれれば良かったのに。そうと決まれば早く外に出ましょう」
「本当に血の気が多過ぎるんですよ。……これだから力で決着をつけようとする輩は。我々には言葉という手段があるのですよ」
幸成の言っていることには一理ある訳だが、本人の自堕落さが災いして誰も彼を助けようとはしなかった。
まあ、真由美の方も本気で三枚に下ろすつもりはないらしく、ここでこの話は終了となった。
「続いて同じく陰陽寮に所属する陰陽師の在原芳房さん。共闘の経験はないのであくまで伝聞のレベルですが、優れた技の持ち主だと聞いております」
「初めまして、拙者、在原芳房と申します! 魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス殿と共闘できる機会を頂けて天へも昇る気持ちです!」
「芳房さんも大迷宮への挑戦経験があります。前回は西嶋美遊さんと春風藤翔さん、式神の飯綱ちゃんさんが参加していましたが、今回は幸成さんと芳房さんの二人での参加と聞いています」
「……『ちゃん』と『さん』を二つ付けて呼ぶのは間違っている気がするが」
「二重尊敬みたいに変な気持ち悪さがあるよね」
分かった上で「ちゃんさん」とネタで言っているだけなのに、それを更に分かった上でここぞとばかりにチクチク口撃を仕掛けてくるヴィオレットとシルフィアに絶対零度の一瞥を与えてから、「ごほん」と咳払いをして話を続ける。
「地球組が終わったので、続いてロードガオン出身の方々ですね。まずは、独立国家ロードガオン地球担当第一部隊隊長のフィーネリア=レーネさん。かつてロードガオンを支配していた四大領主の一角レーネ家の出身であり次期当主と目されています。どことなく育ちの良さと人の良さが垣間見える、本当になんでこの人が侵略者をやっているんだろう? って思うような方です。……ただ、何度か俺のことを出し抜いたことがあるのでなかなか油断ならないところもあります。今回の大迷宮挑戦の目的の一つはロードガオン人の移住先となる星を構築するための材料を集めることで、今回の大迷宮の攻略が完了すればとりあえず敵対関係は解消されることになるようです。……ロードガオン本国が仮に提案を拒否して敵対を継続してきた場合は本国を見限り大日本皇国と同盟を組むという話になっているので、今後も敵対する可能性は皆無です。ご安心ください。
「紹介に預かったフィーネリア=レーネよ。まずは、今回の大迷宮挑戦のためにこれだけの方に協力して頂けることに改めてお礼を述べさせてもらいたいわ。ほとんど利益のない、ロードガオンが一人勝ちするような形の迷宮攻略になってしまっているから不満も多いと思うの。私から差し出せるものはないと思うけど、そんな不平等なものだと分かった上で条件を呑んだ上でこれだけの人が協力してくれること本当に嬉しいわ。一先ず、これから大迷宮攻略までよろしくお願いします」
今回の大迷宮攻略はロードガオンが大迷宮の宝物である古代都市と勇者の聖武具を全て獲得することを予め伝えた上で行われるものだ。
参加希望者達は当然、それでも構わないと了解した上で参加しているのだが、それでも真面目なフィーネリアは罪悪感を抱いているらしい。
「続いて、独立国家ロードガオン地球担当第一部隊隊長補佐――ミリアラ=スキアさん。侵攻当初は必要以外に喋らない寡黙で冷静な性格で任務を遂行することへの従順さと、それを妨げるものは例え味方でも容赦なく排除する冷徹さを併せ持っていた結構怖い人って印象でした。真面目で寡黙な性格は健在だけど、今は少し軟化しているように感じています。少なくとも、昔のミリアラさんなら大日本皇国と同盟を結ぶという話を受け入れてくれなかったでしょうし。個人的には『空の門』と呼ばれる空間同士を繋げる国宝級の白ワーブウェポンの使い手で、この力を使ってワーブリス兵を大量に送り込んでくるという厄介極まりない戦法が印象的ですね」
「紹介に預かったミリアラよ。大迷宮挑戦の間、よろしくお願いするわ」
無縫の紹介後、ミリアラは手短に挨拶を終えた。
ミリアラの紹介が終わったところで無縫が小さな溜息を吐く。その理由は、ミリアラが決してフレンドリーと対極にある挨拶をしたからではない。
「……さて、次は今回の一番の問題児。独立国家ロードガオン地球担当第二部隊隊長にして、ロードガオンの研究所ギリーオンにて改造手術を受けた怪人の血を引く、話を聞かない、常識というものを欠片も持ち合わせていない、無駄に声が大きいの最悪な三拍子が揃ってしまった暴走列車。武器コレクターとしてもその名を知られているドルグエス=バルギマさんです」
「うむ、ドルグエス=バルギマだ。よろしく頼む!」
明らかに貶しているとしか思えない紹介を受けながら、全く怒りの感情を見せることなく、寧ろ素晴らしい評価でも受けたかのように誇らしそうに胸を張るドルグエスに「本当にコイツ大丈夫なのかよ?」と不安になる一同だった。
「ロードガオン組最後の一人は二人いる独立国家ロードガオン地球担当第二部隊隊長補佐の一人で第二部隊の唯一の良識を持ち合わせた女性、マリンアクア=ルネさん。経理と科学技術の担当で怪人や無人兵器のワーブリス兵の製作も手掛けるスペシャリストです。また、第一部隊の面々とも良好な関係を築いていて、フィーネリアさんから頼まれてマンションの管理人も引き受けています」
「マリンアクアと申しますわ。仲良くしてくださると嬉しいです」
「……一応、後マリンアクアさんの同僚にガラウスって奴がいて、第二部隊の補佐役をしています。最初の大迷宮挑戦の時には参加していましたが、あいつとは馬が合わない上に迷宮探索そっちのけで宇宙人狼していたので戦力外通告を出しました。なので、今回は参加致しません」
今回に関してはそもそもガラウスに声を掛けてすらいない。それどころか、ロードガオン地球担当部隊の隊長達と大日本皇国が秘密裏に密約を結ぼうとしていることもガラウスには伝えていなかった。
ロードガオン至上主義者であるガラウスが関わるとややこしくなるからという判断である。
「大日本皇国とロードガオンからの参加者の紹介が終わりましたので、ここからクリフォート魔族王国からの参加者の紹介に入ります……が、正直なところ為人を把握しきれていない方やほとんど初対面に近い方も参加されています。魔王軍即応騎士団、魔導近衛騎士団、ルキフグス=ロフォカレ学園からの参加者の皆様についてはあまり詳細な紹介ができませんのでその点ご容赦ください」