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傲慢無礼、傲岸不遜にして、唯我独尊な防衛大臣様は異世界に足を踏み入れると同時に何の恨みもないのにバチカル区画を現地民の魔族達共々切り捨てようと『究極挙動』の斬撃を放つという理不尽ムーブをしてきた。

 翌日、宿屋『鳩の止まり木亭』の食堂でビアンカの作ってくれた朝食に舌鼓を打っているとスマートフォンに一件の通知がきた。

 バナーからメッセージアプリを開く。メッセージを送ってきたのはリリスで、「鬼斬機関と陰陽寮、ロードガオン組以外のメンバーが揃ったので無縫の希望するタイミングでバチカル区画に時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開きたい」という内容だった。


「……なんか引っかかる気がするのじゃ」


「内務省組って言えばいいのに、なんだろうね? 奇妙な言い回しだな」


 スマートフォンを覗き込み、リリスのメッセージを盗み見たヴィオレットとシルフィアもリリスの妙な説明の仕方に疑問を持ったようだ。


「なんか、凄い嫌な予感がするなぁ。とりあえず、朝ご飯食べ終えたし向かいに行きますか。ビアンカさん、ご馳走様でした」


 嫌な予感を覚えつつも食べ終えた食器を流し台まで運んでからヴィオレット、シルフィア、フィーネリア、レフィーナ、レイヴンと共にバチカル区画の中央広場に向かう。

 その道中、リリスに希望時間と場所を伝えておくのも忘れない。最悪の事態に備えていつでも戦闘態勢に入れるように準備を整え、愛刀である「冥斬刀・夜叉黒雨」を帯刀している。


 無縫が発する物々しい雰囲気を感じたのか、中央広場に集まっていた魔族達やフィーネリア、レフィーナ、レイヴンにも緊張が走る。


 そして、指定した時間になった。

 宙空に時空の門穴ウルトラ・ワープゲートが出現し、内務省とバチカル区画が繋がる。


 ――と、次の瞬間、無縫の背筋に冷たいものが走った。咄嗟に刀を鞘から抜き去って覇霊氣力を込める。


 現れた人影は時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを出た瞬間に抜刀する。しかし、彼が抜刀したことに気づけたのは無縫だけだ。

 ヴィオレットやシルフィアを含め、その場にいる誰も彼が抜刀したことに気づくことはできない。――そのあまりの速さ故に。


 本来、斬撃の初速は遅い。切っ先が最高速に至るにはある程度の加速を必要とするものだ。

 それは、剣の扱いに長けている無縫も例外ではない。


 しかし、その男の斬撃は剣を鞘から抜き払った瞬間にはトップスピードになっている。

 静止(0)から最高速(100)への極限の静動――本来動かせない心臓の筋肉を含む全身の筋肉を完璧に制御することによって、また踏み込みや斬撃から一切の音を取り除くことによってほんの僅かなエネルギーの分散(ロス)すらも生じさせない究極の制御技術によって、例え優れた動体視力を持っている剣士であっても剣が大気を擦過することによって生じる白熱する大気の輝きを捉えるのがせいぜいの規格外な神速の斬撃を成立させてしまう。


 その斬撃――俗に『究極挙動』や『比翼の剣技』と称される技術を習得しているのは、無縫の知る限り二人しかいない。

 一人は、百合薗グループ総帥――百合薗圓。そして、もう一人は――。


「……流石に腕は鈍っていないか。この程度の攻撃は止めてもらわねば話にならん」


 その男の態度はまさに傲慢無礼、傲岸不遜にして、唯我独尊。

 小柄な体躯に不釣り合いな存在感を有した、黒髪黒目の男は冷たい声音で言葉を発した。


「……逢坂(おうさか)(よみ)防衛大臣、会う度に試すように斬撃を放ってくるのはやめてもらえませんか? もし、少しでも対応が遅れていたらバチカル区画が半壊して人口の半数が切り捨てられていましたよ」


 無縫の言葉にフィーネリア、レイヴン、レフィーナ、そして広場に集まっていた魔族達の背筋が凍る。

 通常の『究極挙動』は速度こそ以上だが攻撃範囲は普通の剣士の剣技の範囲に収まっている。だが、詠は無縫の編み出した技術で言うところの『肢体剣』――飛ぶ斬撃と呼ぶべき技術を併用していた。


 理不尽なほど速く鋭い斬撃に飛ぶ斬撃が加わる。これほど凶悪なコンボを上回るものは剣術の中には存在しないのではないだろうか。

 詠の斬撃の軌道はバチカル区画の建物を真っ二つにするようなものだった。当然、その軌道にある者は例外なく切り捨てられる。当然、広場にいた魔族達も建物の中にいた魔族達も命を落としていただろう。


 更に、無縫の背後の方向には宿屋『鳩の止まり木亭』があった。

 ビアンカやスノウ、常連客達――この世界で出会った大切な人達が一歩間違えれば殺されてしまっていたかもしれないと思うとゾッとする。


 無縫には恐怖こそあったが、詠に対する怒りは無かった。例え、怒りを露わにしたところで詠が自らの行いを改めることなどあり得ないことを無縫はそこそこ長い付き合いの中で把握していたからである。


「くだらんな。大切なものは命に変えても守るべきものだろう。それを守れなかったのは偏に弱い者の責任だ。世界は理不尽に満ち溢れている。その理不尽に対して文句を言ったところで何も変わらない。俺にとやかく言う前に、理不尽に抗う強さを持て」


「……相変わらずの狂犬ですまない。そして、皆様を命の危険に晒したこと、こいつの幼馴染として謝罪させて頂きたい。本当に申し訳なかった」


 詠に続いて時空の門穴ウルトラ・ワープゲートから出てきた男は、広場に降り立つなり頭を下げた。

 そんな幼馴染を、詠は冷たい眼差しで睥睨する。


「大田原さん……いえ、大田原総理。なんでコイツの動向を許可したんですか?」


 自分が蒔いた種で一国の首相が頭を下げる事態になったにも拘らず、詠は一切の申し訳なさも感じていないようだ。

 寧ろ、軽々しく頭を下げている幼馴染に苛立ちを覚えているらしい。

 とはいえ、詠の性格からして彼が来た時点で今回のような状況になることは想定の範囲内のこと。そのため、無縫は狂犬の動向を許可した惣之助の判断に物申すことにしたようだ。


「……当初は連れてくるつもりは無かったんだが、どっかから話が漏れていたみたいで、断ったがついてきた。まあ、一度決めたら絶対に曲げない頑固者だし、止めようとすれば建物の半壊を覚悟しなければならない。人が多いところで詠と戦うなんて選択肢、選べる訳ないだろ。だったら、無縫がなんとか止めてくれるだろうし、その後に頭を下げて責任を取るしかないと思って」


「一国の首相ともあろう者が軽々しく頭を下げるな、惣之助」


「軽々しく下げてない! 全く関係ない魔族の皆様を命の危険に晒したんだ。国の代表として、一応の上司として頭を下げるのは当然だ。まあ、頭を下げても許されることではないけどな」


 詠は惣之助の行動に納得がいっていないようだが、惣之助には詠の納得などどうでもいいことだ。

 あまりの急展開に脳の処理が追いついていない魔族達に頭を下げて誠心誠意謝罪する惣之助に、同情する視線を向ける人物が二人――時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを通ってやってきた龍悟とリリスも惣之助と共に頭を下げた。


「ちょっと待って欲しいでござる! 無縫殿の故郷の首相、トップの方でござるよね! 流石に頭を下げられると恐れ多くて困ってしまうでござる」


「……それに、ここで頭を下げてもらうのは筋違いだと思うわ。私達を殺そうとしたのはそこの大臣殿なのでしょう? 謝罪はその方から受けるのが筋だと思うわ。……もっとも、自分の行いが間違っていないと思っている彼から謝罪があるとは思えないけど」


 それに、彼の行いは確かに理不尽だったが、全く筋が通っていない訳でもない。

 世の中にはいくらでも理不尽で不条理なことがある。そこに一々文句をつけたところで何も変わらない。

 必要なのは、理不尽を跳ね除ける強さだ。その強さがあれば、詠の攻撃を躱すことも対応することもできたかもしれない。


 特に理由もなくバチカル区画を半壊させて多くの死者を出そうとした詠の行動をレフィーナは許せない。

 しかし、一歩間違えればレフィーナは理不尽に命を奪い去られていた側だ。

 殺されていたら文句を言うこともできない。無縫に助けられただけでこの場にいることを、生きていることを許されているレフィーナに果たして詠の行為を罵り、罰を与えるだけの権利があるだろうか? 詠を屈服させるだけの力がないというのに?


「当然だ。小娘、俺に意見するのならば俺を倒せるくらいになってからにするがいい。その時は思う存分相手をしてやろう。この世の唯一絶対の真理は弱肉強食だ。弱い者に何かを宣う権利はないからな。負ければ望むだけ頭を下げてやる」


 傲慢でも許されるのは詠が強いからだ。彼を糾弾するためにはそれ以上の力を手に入れるしかない。

 詠という強者を前に今の自分では何も変えられないことを悟ったレフィーナは口を噤み、これ以上この件に何かを言うことはなかった。


「まあ、正直無茶苦茶な人ですけど、大日本皇国として彼の横暴を止めることは難しいんですよね。【英雄】、【大将軍】、【ラスト・サムライ】、【異次元の狙撃手】――それだけの異名で呼ばれるだけの実績を積み重ねてきた叩き上げですから。自衛陸軍の出身で自衛軍統合幕僚長まで出世……それが第二次大戦後の比較的平和な時代の話ですからね。もし、第二次大戦の頃に生きていたら大田原さんと二人だけで諸外国を全滅に追い込み、唯一の覇権国家になれたのではないかと言われるくらいには猛者ですから……本当にタチが悪いですよね」


 それに、傲慢な性格で他人を見下したような口調で話すが、高い実力故かなんだかんだで面倒見が良い故かファンや賛同者が防衛省や軍関係者を中心にかなりいるのだ。……非常に厄介なことに。

 恩人である大田原惣之助の幼馴染で、大日本皇国政府の大臣で、軍関係者にファンが多い人物――傲慢な性格や理不尽なところは嫌いだが、その立場から尊重せざるを得ない厄介な存在であると無縫は考えていた。

◆ネタ解説・百三十八話

逢坂(おうさか)(よみ)

 初出は『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』で、草子の最終的なパーティメンバーの一人。

 作中には転生した姿である超帝国マハーシュバラの大将軍インフィニット=ショットシェルとして登場。主人公である能因草子と本来交戦するべき敵をそっちのけで幾度となく戦闘を繰り広げた。長くなるため、インフィニットの活躍及び彼の前世である逢坂詠について、インフィニットの戦闘スタイルなどについては『文学少年召喚』をご確認頂きたい。なお、『文学少年召喚』には逢坂詠の前世であるギルガメッシュ=フェニュゴリュウェも登場している。

 『文学少年召喚』の逢坂詠ことインフィニットに関しては元々は真面目な性格で、大切な教え子二人を失ったことから傲慢な性格になってしまったのだが、本作における逢坂詠は元々の性格が傲慢不遜である。救いようがない。

 本作では大田原惣之助と幼少期に同じ道場で剣を学んだ幼馴染として登場。

 自衛陸軍の出身で自衛軍統合幕僚長まで出世後、友人である大田原惣之助の求めに応じで軍を辞めて政界入りを果たし、大田原内閣の防衛大臣となった。『世界最強の剣士』の異名を持つ剣士であると同時に優れた狙撃手でもある。傲慢な性格で他人を見下したような口調で話すが、高い実力故かなんだかんだで面倒見が良い故かファンや賛同者は防衛省を中心に多い模様。

 武器は対宇宙船アンチ・スペースシップライフルの『PGMウルティマラティオ・ヘカートⅢ』が開発されていないため対物ライフルの『PGM ウルティマ・ラティオ ヘカートⅡ』を使用する。愛刀が立花道雪の雷切丸である点は変わらないが、『神刀(しんとう)虚空御前(こくうごぜん)』を使用することもある。

 究極挙動と呼ばれる剣技を使用することが可能で、本作では飛ぶ斬撃と組み合わせてより凶悪な戦法を編み出している。

 本作では超越者(デスペラード)にはなっていないものの、超人(ウィーバーメンシュ)に至り、超異能(ツァラトゥストラ)と呼ばれる能力を獲得している。これは、『文学少年召喚』における超越技と似たようなもので、その効果は「あらゆる耐性を貫通して過去・未来・現在・全世界線・全並行世界の対象を現在の対象を媒介に斬り捨てる」効果を持つ『絶界切断』。その効果はインフィニットの超越技である『絶対切断』と全く同じである。


◆キャラクタープロフィール

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逢坂(おうさか)(よみ)(並行世界/大日本皇国)

性別、男。

年齢、四十九歳。

誕生日、十二月三十一日。

血液型、A型Rh+。

出生地、東京都。

一人称、俺。

好きなもの、刀の手入れ、雷切丸(愛刀)、PGM ウルティマ・ラティオ ヘカートII(対物ライフル)。

嫌いなもの、話を聞かない輩。

座右の銘、特に無し

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、自衛軍統合幕僚長→防衛大臣。

主格因子、無し。


「異名は【英雄】、【大将軍】、【ラスト・サムライ】、【異次元の狙撃手】など。自衛陸軍の出身で自衛軍統合幕僚長まで出世後、友人である大田原惣之助の求めに応じで軍を辞めて政界入りを果たし、大田原内閣の防衛大臣となった。『世界最強の剣士』の異名を持つ剣士であると同時に優れた狙撃手でもある。傲慢な性格で他人を見下したような口調で話すが、高い実力故かなんだかんだで面倒見が良い故かファンや賛同者は防衛省を中心に多い模様。大田原惣之助とは幼少期に同じ道場で剣を学んだ仲である」

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