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三頭騎士団合同訓練 その弍

 時刻は二時頃、一通りのメニューを終えた対人間族魔国防衛部隊、魔王軍即応騎士団、魔導近衛騎士団の面々と無縫、ヴィオレット、シルフィア、フィーネリア、レフィーナ、レイヴンは闘技場(コロッセオ)の観覧席で休息を取っていた。


「よっ、お疲れさん!」


 無縫、ヴィオレット、シルフィア、フィーネリア、レフィーナ、レイヴンが近くに固まって休息を取っていると、エスクード、オズワルド、ヴィクターの三人が近づいてきた。


「はぁはぁ……疲れたでござる」


「想像していた以上にキツイものね、騎士団の訓練」


「いや、今回は明らかに掻き回されたからなぁ……正直俺達も疲れた」


 エスクードから言外に「お前達のせいだぞ」と言われても当の本人達――無縫、ヴィオレット、シルフィアの三人は気づいていないようだ。

 「もう少し手心を加えてくれてもいいんじゃないか」というオズワルドとヴィクターの視線に「私も心から同意するわ」なんて思っていたフィーネリアだが、自身も掻き回す側に回っていた場面があったことには全く欠片も気づいていないようである。


「しかし疲れていないみたいだなぁ……お前ら化け物かよ? ってか、どんな鍛え方しているんだよ?」


「最近は特にこれといって鍛えている訳でもないですね。異世界アムズガルドで勇者やっていた頃は流石に鍛えましたが。ああ、内務省の訓練には参加しています」


「お前がアルバイトだったか? 非正規で働いている政府機関だろ?」


「より正確には内務省異界特異能力特務課の中でも精鋭とされる異界勢力制圧特殊部隊『雷霆』の訓練ですね。上司で恩人の内藤さん率いる彼の部隊は『瞬閃走』、『空駆翔』、『紙舞一重』、『指突貫』、『指弾』、『肢体剣』といった俺が開発した戦闘技能を一通り習得、更には覇霊氣力の基礎を習得して応用技も持ち、独自のワーブウェポンや指向性音響共振銃を装備した内務省内の唯一にして最強の部隊です。これ以上の戦力となると圧倒的な力を持つ個人となってしまいます」


「えっ、ちょっと待って!? 独自のワーブウェポン!? 聞いていないんだけど!!!」


「そりゃ一応敵だからね、教える訳ないでしょ。フィーネリアさん達と交戦して回収したワーブルウェポンを解析して独自にワーブルウェポンを開発したんだよ。ってか、『雷霆』と交戦経験ないのか。良かったね、特に内藤さんに率いられた『雷霆』は恐ろしいから」


「でも、無縫君の方が恐ろしいでしょ?」


「そうに決まっておる! 何を言っているのだ、フィーネリア?」


 真顔で「何を言っているんだ?」と言いたげなヴィオレットにほんの少し精神ダメージを受けるフィーネリアだった。


「ちなみに、その『雷霆』はどんな訓練を行っているんだ?」


「あっ、オズワルドさん、興味ありますか? 基本的にはこの訓練と同じですよ。基礎体力を鍛える訓練、無手での組み手、武器やワーブルウェポンを使った戦闘訓練、対人の模擬戦……後、変わり種だとミッション型の訓練ってのもありますね」


「なんだそりゃ?」


「特定の条件を想定し、複数のメンバーで組んだ小隊(パーティ)で任務を遂行するというより実際の形に近い訓練です。例えば、市街地にロードガオンの戦力が出現したから市民を守りながらロードガオンの戦力を制圧する訓練とか、政府の重要拠点にネガティブノイズが攻め込んできたことを想定して政府機関の非戦闘員を守りながらネガティブノイズと戦う訓練とか、まあ、色々ですね。舞台の設定、敵の設定、武装の設定などを空間魔法などを組み合わせて簡単に行えるようなシステムを組んでいるのでお手軽に望んだシチュエーションでの戦闘訓練が可能です。『雷霆』に所属する隊員が状況判断能力と対応能力に長けているのはこの訓練の賜物と言ってもいいかもしれないですね」


「実戦形式の訓練ということね。……上手くワーブルを使えば空間構築だったりその他諸々できそうだし、私達の訓練にも導入してみようかしら?」


「なかなか面白い訓練をしているみたいだな! ……しかし、困ったな。これだけ疲れている状態で訓練しても実りはなさそうだが、明日は顔合わせがあるだろ? 幹部戦もあるし、折角の訓練だが試させてもらうのは色々と無理がありそうだな?」


「体力は少し休んでもらって、残りは回復魔法でどうにかできると思いますし、制限時間を一時間より短く設定すれば三人分幹部戦をする時間くらいは作れますが……どうしますか?」


「まあ、折角の機会だしな。流石にここまでの訓練がキツ過ぎたから希望者のみって形になるが……。ってことで、俺とオズワルドとヴィクターの三人で参加希望者を募ってくるぜ」


「では、その間に準備しておきますね。参加者が決まってから小隊(パーティ)を編成するのでその旨も伝えて頂けると助かります」


「おう! 任せておけ!!」



 オズワルド達が希望者を募った結果、参加希望者は合計十二人となった。

 そこに、無縫、ヴィオレット、シルフィア、フィーネリア、レフィーナ、レイヴン、エスクード、オズワルド、ヴィクターを加えて二十一人。メンバーを均等に三分割して七人小隊(パーティ)が三つ完成した。


 ちなみに、幹部戦前にできる限り挑戦者に情報を与えないためにエスクードと無縫達は別の小隊(パーティ)に振り分けられている。

 更にメンバーの中に運良く大迷宮への挑戦希望者が全員揃っていたため、挑戦希望者六人は全員無縫と組むことになった。


 結果として、無縫と大迷宮挑戦者六人で一小隊(パーティ)、ヴィオレット、シルフィア、フィーネリア、レフィーナ、レイヴンの五人に二人を加えた一小隊(パーティ)、エスクード、オズワルド、ヴィクターに四人を加えた一小隊(パーティ)という小隊(パーティ)編成に分けられた。


「このキューブ型の装置のボタンを押せば訓練施設ってのが構築されるんだな?」


 無縫から受け取ったルービックキューブほどの黒い球体を掌で転がしながらエスクードがほんの少し訝しむように尋ねる。


「既に仮想訓練施設を構築するために必要なエネルギーは一回分充填してあります。ボタンを押せば待機室に転送されるので、そこで詳細な設定を選んでください。設定終了から十秒でバトルフィールドに飛ばされるので、それまでに作戦会議や武器の選択をしておくことをお勧めします」


「……武器の選択ってなんだ? 俺達の武器は持ち込めないのか?」


「基本的に今俺達が装備している武器を含めた持ち物、空間魔法などで召喚できる装備、変身能力によって顕現できる武器は問題なく使用できます。ただ、仮想訓練施設には『雷霆』の標準装備などが配置されているので、余裕があれば使ってみるといいかもしれません。大日本皇国とクリフォート魔族王国が同盟を組むような未来が来れば、もしかしたら『雷霆』の標準装備のような武器を供給できるかもしれません」


「……なるほど、武器の性能をアピールして、大日本皇国と同盟を組むことの利点を我々に印象付ける作戦ですね。我々が魔王陛下説得の際に味方になってくれるように根回しをしたいという魂胆でしょうか?」


 オズワルドの問いに答えた無縫の言葉から、その意図を察したヴィクターが眼鏡を輝かせながら問い掛ける……が、無縫は微笑を浮かべるだけで言葉を返すことは無かった。


「ヴィオレット、シルフィア、お前ら迷惑掛けるなよ! フィーネリアさん、レイヴンさん、レフィーナさん、何か問題があれば後で俺にお伝えください。ちゃんと後でしばきますので」


「我らに対する信用がなさ過ぎるではないか! 断固として抗議するのじゃ!!」


「私達はやる時はやるんだよ! ただ欲望に忠実なだけで!!」


「勿論、何かあれば無縫君にしっかりと伝えるわ。私では手綱握れる自信がないもの」


「同意見でござる! 無縫殿に頼むのが一番でござるからな!!」


「そうね。一番二人の扱いが慣れているし、少しでも変なことをする兆候があれば後でしっかり報告させてもらうわ」


「味方が……味方がいないよぉ……」


 フィーネリア、レフィーナ、レイヴンの三人に敵に回られてしまい、目にいっぱいの涙を浮かべる(勿論、嘘泣き)シルフィアだった。



 最初にキューブ型の装置を起動し、出現した扉に入っていったのはヴィオレット達二班だった。

 ヴィオレットがキューブを起動してから二分後、エスクードがキューブを起動し、同じようにエスクード達三班も扉の中に消えていく。


 その姿を見送った無縫はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

 そして、対人間族魔国防衛部隊、魔王軍即応騎士団、魔導近衛騎士団の騎士達が休憩している闘技場(コロッセオ)の客席のどこからでも確認できる場所――つまり、闘技場(コロッセオ)の中心まで移動する。無縫の目論見が分からない他の面々も急いでその後を追った。


「改めまして、内務省所属の庚澤無縫と申します。本日は意図せず訓練を掻き回してしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。この度はそのお詫びとして、皆様にとある娯楽を提供させて頂きたいと思いまして参上した次第でございます」


 一体これから何が始まるのかと騎士達が色めき立つ中、無縫はパチンと指を鳴らした。

 その瞬間、それぞれの騎士達の前に空中ディスプレイが出現する。


 どのようなメカニズムで目の前の現象が引き起こされているのか騎士達にはさっぱり分からなかった……が、三つに分かれた画面に何が映し出されているのかは誰の目から見ても明らかだった。

 真ん中の画面はブラックアウトしており、今はまだ何も映していないが、右の画面にはエスクード達の姿が、左の画面にはヴィオレット達の姿が映し出されている。場所は真っ白な部屋で、画面の下には小さく「待機室」と書かれていた。


「この映像は録画せず、直接皆様の前の画面に映しているものになります。ただ休んでいるのも退屈だと思いますので、この映像をお楽しみ頂ければ幸いです。魔術の映像がある部分に一度タッチすれば一つの小隊(パーティ)のみ楽しむことが、もう一度触れることで今の画面に戻すことができます。それでは、俺達も待機室に進みましょうか?」

◆ネタ解説・百三十一話

異界勢力制圧特殊部隊『雷霆』

 元ネタ……というより念頭に置いた組織は、朝霧カフカ氏原作の漫画『文豪ストレイドッグス』に登場する国内最強の対異能者制圧部隊「闇瓦」。

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