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無縫とレフィーナがケムダー区画の筆記試練を受けに行くようです。……明日まで待てばレイヴンを含めた三人で行けたのになんで待つという選択肢が浮かばないのだろうか?

 【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】の訓練場で朝稽古をしていた対人間族魔国防衛部隊所属の騎士達は訓練の手を止めてこの世の終わりの如き光景を呆然と見ていた。

 魔王と勇者――魔族の頂点のみが扱える力と、その魔王に匹敵する力を持つ勇者の力を同時に扱える存在も十分に恐ろしいが、それ以上に騎士達を震撼させたのはそんな勇者の技と魔王の技、更にはその両方を融合した理解を放棄したくなるほどのエネルギーの奔流を相手に無手で対処する無縫の存在だ。


 あの日、【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】を訪れた無縫一行とオズワルド率いる対人間族魔国防衛部隊が一触即発の状況に陥ってしまった場面に居合わせていた騎士達は「本当に戦いにならなくて良かった」と心の底から安堵した。


「おうおう、朝っぱらから暴れているなぁ!」


 「太極(インヤン)円環の蛇剣(ウロボロス)」を無縫が無効化したところでオズワルドがヴィクターを伴ってやってきた。

 その後ろにはシルフィアを肩に乗せたほんの少しだけ申し訳なさそうな表情をしたヴィオレットの姿もある。


 基本的には己の欲望に忠実で結局のところ省みて改めるような真似はしないヴィオレットだが、今回リリスに多大な迷惑を掛けたことに罪悪感は抱いているらしくリリスに合わせる顔がないと感じているらしい。


「……久しぶりじゃな、リリス。……怒っているか?」


「確かに怒りを覚えましたし、呆れました。……それでも、私にとっての主君がヴィオレット様であることは変わりません。今までも、そしてこれからも変わらず忠誠を尽くします」


「む、無縫! 助けてくれ!! 完全に我が悪者になっているのじゃ!! 幻滅されて口も聞いてもらえないかと思ったのに、リリスが忠臣過ぎて……そんなリリスを悲しませた我ってただのどクズなのでは!?」


「まあ、否定はできないな……今回は完全にお前の身から出た錆だし。それで、生活態度を改める気にはなかったか?」


「それとこれとは話が別なのじゃ!! ギャンブルへの愛は誰にも止められぬ!!」


「……はぁ、本当にお前はなぁ。で、シルフィアも一緒に来たってことは頼んでいた例の件だな?」


「リリスさん、魔法少女になる覚悟はあるかな?」


「既にこの時点でかなり強くなっているとは思うが念には念を。シルフィア殿、よろしく頼む!」


「ふっふっふっ、このシルフィアちゃんにお任せなのです! 『妖精トランスフォーム・イントゥの祝福・ア・マジカル・ガール』」


「……そんな必殺技みたいな名前あったっけ?」


 キラキラとした細かい光の粒がリリスの周囲に出現し、その光がリリスに吸収されていく。

 フィーネリアとレフィーナと同様にこの時点では姿が変化せずいつもの女夢魔(サキュバス)の姿をしている。今はまだ魔法少女になる力を持っているだけなので、ここから魔法少女に変身するためには己の意思で魔法少女に変身しなくてはならない。


「ふむふむ……なるほどね! ミスマッチかもしれないと思ったけどなるほどなるほど……いいんじゃないかな! 私は良いと思うよ!!」


「……嫌な予感がする言い方だな。早速魔法少女に変身したいところだが……」


「そろそろ内務省に向かわないといけない時間だな。キリもいいし、勇者と魔王の力の基礎訓練はここまでとして、今日の夜は魔法少女の修行をしようか?」


「それまではお預けか……悶々としながら内務省で働くことになるのか、憂鬱だ」


「確かにガッカリだよなぁ……俺も噂の魔法少女って奴を一目見たかったんだが」


「オズワルド司令は本当に欲望に忠実ですね」


「お前も似たようなものだろ? ヴィクター」


「オズワルド殿、部屋を一室借りてもいいだろうか? 着替えをしたいのだが……」


「ああ、【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】には更衣室もある。そっちで着替えてもいいし、余っている部屋で着替えてもらってもいいぜ! 女性隊員に案内させるから希望を伝えてくれ」


 朝練に参加していた純魔族の女性にリリスの案内を任せ、二人が階段を降りていくのを見守るとオズワルドは無縫達に話しかけた。


「それで、今日はどうすんだ?」


「実は並行して大迷宮の攻略も進めていますが、四つ目の大迷宮――ロズワード大火山にあるスコールド大迷宮への挑戦メンバーが決まっていないので、とりあえずは各組織、内務省、鬼斬機関、陰陽寮、科学戦隊ライズ=サンレンジャー、その他個人からの連絡待ちですね。今回、参加してもらいたいと考えているロードガオンのお二人からは返事をもらっているので、本当に残るメンバーの選定が終われば挑戦できそうな感じです。うっかりアルシーヴさんに話してしまったら興味を持ってしまったご様子なので、もしかしたら今回の迷宮探索に参加することになるかもしれません。とはいえ、あまり人数が増えても大変ですから他の方からの希望を聞きつつメンバーの厳選をしようと思っています」


「レイヴンとレフィーナの二人も参加希望を出していたようじゃな」


「大迷宮のクリア報酬はないけど、道中との敵との戦いはいい訓練になるだろうし、参加するからには大迷宮攻略祝いを出すって話もしたからね。金貨とか宝石とか、後は異世界の迷宮で手に入れた武具とか」


「面白そうな話になっているなぁ……魔王軍幹部の中にも参加したい奴は多いと思うぜ。だが、希望者が殺到するだろうし俺はやめておくぜ。今、俺達に必要なのは連携だが、流石に対人間族魔国防衛部隊の奴ら全員を連れて行くってことは無理な話だろ? 個人の強さってのも大切だと思うが、俺やヴィクターだけが強くなっても仕方ないしなぁ」


「折角の機会ですが、我々に与えられた僅かなパイを巡って競合することになりますし、参加はやめておいた方が良さそうですね」


「そうして頂けると助かります。……まあ、修行に使いたいというのであれば人間側にも見つかっていない、かつ、既に攻略済みの迷宮が一つあります。通常、大迷宮は一つ攻略すると他の迷宮の場所が分かる仕掛けになっていますが、その機能を軒並み取り払ってきたので少なくとも人間側に見つかることはないと思います。難易度は高めですが、よろしければお教えしましょうか? クラック峡谷にあるレイゼン大迷宮の座標」


「おっ、そいつはありがたい申し出だな!」


「唯一欠点があるとすれば百層ごとにいるエリアボスが全て倒されていることですが、それ以外は魔物もリポップしているので良い修行になると思います」


「ヴィクター、そういうことだから訓練の日程を調整してくれ」


「……はぁ、今回も丸投げですね」


「期待しているぜ、参謀殿!!」


「……承知しました。……というか、司令殿、無縫殿に伝えなくていいのですか?」


「おっ!? そうだったそうだった! 無縫が合同訓練に参加してくれるという話をエスクード殿に伝えた。その返答が今朝帰ってきたんだ。エスクード殿は今回の件を無縫殿の試練にしたいということだ。まあ、合同訓練に変わったとはいえ試練の内容は似たようなものだしな。ただの参加者か教官かの立場の違いもあるが、まあ、それは別にいいだろう。日程だが、明後日、場所はエーイーリー区画にて行う。他に参加希望の奴がいればエーイーリー区画の方に希望を伝えておいてくれ」


「レフィーナさんもレイヴンさんもまだエーイーリー区画を攻略していない筈なので、三人で参加することになりそうですね。二人に希望を聞いてからですが。レイヴンさんは今、バチカルの試練に挑戦中なので、レフィーナさんに先に希望を聞いておこうと思います」


「なんか、チーム無縫で攻略しているって感じだなぁ。最初に会った時にはこんな風に魔族と一緒に幹部巡りする感じになるとは思っていなかったぜ」


「まあ、そもそも敵意バチバチでしたからね」


「仕方ねぇだろ……」


「話が脱線しましたが、とりあえずケムダー区画の試練を受けてこようと思っています。筆記試験の勉強も進みましたし」


「まあ、時間を有効活用するってことはそうなるよな! 頑張ってこいよ、無縫!」



 ヴィオレット、シルフィア、タタラを伴って宿屋『鳩の止まり木亭』に戻った無縫はレフィーナに対人間族魔国防衛部隊と魔王軍即応騎士団の合同訓練について情報を共有して、レフィーナの参加する意思を確認した。

 その後、ケムダー区画に今から無縫が行くつもりであることを伝えるとレフィーナも同行することとなった。


 今回は試練の内容が筆記試験ということでヴィオレット、シルフィア、フィーネリアの三人もお留守番である。


「ああ、ばんえいに行きたくなってきたのじゃ!!」


「カジノ行きたいねー!!」


「だ、ダメですよ!!」


「貴方達、分かっているわよね?」


 「ゴゴゴ!」と背後に擬音を立てるビアンカ、ヴィオレットとシルフィアを真剣な顔をして止めようとしているスノウ、二人に冷たい視線を向けるフィーネリアが他の客達と連携してヴィオレットとシルフィアを見張っているので、流石にヴィオレット達が全員を力尽くで突破してギャンブルに行くということはないだろう。……ないと思いたい。


 時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開き、ケムダー区画へと移動する。

 中心に空いた大きな穴、その穴への道を阻むように巨大な城壁が建てられている。

 唯一、大穴に通じる切れ目が存在し、大穴への(ゲート)の役割も果たしている石造りの建物が大穴への道を塞ぐように存在感を放っていた。


 この建物こそ、始まりの大穴(ホール・ゼロ)研究所兼ケムダー区画の領主公館である。

 扉にノックをしてからゆっくりと扉を開けて屋敷へと入る。


 美しい調度品と赤い絨毯、シャンデリアによって彩られた豪奢なエントランスに足を踏み入れた無縫とレフィーナをダークエルフと思われる女性が出迎えた。


「ようこそ、ケムダー区画の領主公館へ。私はケムダー区画の領主ベークシュタインの側近を務めておりますカトレアと申します」


「庚澤無縫と申します。幹部巡りの試練を受けにきました」


「同じく挑戦希望のレフィーナです」


「無縫様、お噂は伺っております。レフィーナ様も本日はようこそお越しくださいました。……しかし、本日はベークシュタインが不在のため幹部戦を行うことができません。試練のみの受験ということでよろしいでしょうか?」


「そのつもりで参りました」


「ベークシュタイン様との戦いはまた別の日にね」


「そう言って頂けると助かります。それでは早速試験室にご案内致します。どうぞお二人ともついて来てください」

◆ネタ解説・百十六話

ばんえい

 ばんえい競走やばんえい競馬とも。

 競走馬がソリを引きながら力や速さなどを争う競馬の競走である。「曳き馬」と呼ばれることもある。

 ちなみに、「ばんえい」の漢字表記は「輓曳」であるが、現行競技における公式の表記は平仮名とされる。

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