清楚系、幼女系ときて、三人目のギア・マスターのフランメの性格は〇〇系のようだ。
理事長でのお茶会後、無縫達はレイヴンと合流して時空の門穴で宿屋『鳩の止まり木亭』へと戻ってきた。
「ん……おかえり」
「タタラさん!? だ、大丈夫なのですか!?」
「……ゆっくりと休ませてもらったから、大丈夫。心配をかけた」
無縫達を出迎えたのはタタラだった。どうやら、昼頃に目を覚ましたらしくゆっくり寝たおかげか身体のどこにも不調はないらしい。
「さっきリリスさんからメールが返ってきて、明日から早朝と夜、仕事終わりに修行をすることになった」
「分かった。……その修行、見学させてもらっても良い?」
「元々その予定だからね。ただ、無理は禁物だ。無茶をせずにしっかりと休むこと、いいね」
「……うん、分かった」
「じゃあ、フィーネリアさん。俺は【悪魔の橋】に行ってオズワルドさんに訓練用に場所を借りれないか聞いてからドルグエス達を回収してくるよ。ついでに移住先の星への古代都市の転送もしてくるから、ちょっと時間かかりそうかな」
「了解したわ。私はヴィオレットさんとシルフィアさんが変なことをしないか見張っておけばいいってことね」
「ちょっと! それだと私達が何か良からぬことをするみたいじゃない!!」
「まあ、嬢ちゃん達がやってきたことがやってきたことだし致し方ないんじゃないか?」
ワナーリの言葉に「失敬だよ!!」みたいな反応をするヴィオレットとシルフィアだが、すでに二人の信用は地に堕ちているため誰も二人の味方になってはくれない。
「今から出掛けるってことは夕ご飯はどうするのかしら? 作り置きで良ければ用意しておくこともできるけど……冷めた料理を出すのは申し訳ないのよね」
「夕食はどこかで食べてこようと思います。行き先からしてミトラシスコロニーのお店が無難かな?」
「では、拙者も途中まで同行するでござる。バチカルの試験のアポイントメントを取っておきたいので」
フィーネリアにヴィオレット達のことを任せて、無縫はレイヴンと共に宿を後にした。
◆
魔王軍幹部巡り総合事務局でレイヴンと分かれた無縫は一人【悪魔の橋】へと向かった。
ちなみに大会の受付をしている魔王軍幹部巡り総合事務局は全ての幹部巡り挑戦者にとってのスタート地点だが、学園の生徒は学園側が取りまとめて必要な手続きをしてくれるため必ずしも総合事務局を訪れる訳ではないらしい。……まあ、それでもバチカルを出発地点にする生徒の方が圧倒的に多数派なのだが。
【悪魔の橋】に近づき、近くにいた対人間族魔国防衛部隊所属の兵士に要件を伝える。
兵士が長城の中へと入っていき、長城内の応接室に通されたのはそれから十五分後のことだった。
「遅れてすまない」
「アポイントもなく突然訪問したのはこちらですから謝る必要はありませんよ。寧ろ、先触れもなく訪問して申し訳ございません。あっ、待っている間に別の仕事をしていたので待ち時間は有効活用させてもらいました」
無縫は待っている時間を内務省、鬼斬機関、陰陽寮、地底人対策機関へのメール執筆と送信に宛てていた。
その具体的な内容は最後の迷宮への挑戦の参加希望調査である。
「それで、幹部巡りの進捗はどうだ?」
「現在、バチカル、アィーアツブス、シェリダーの三つが攻略済み、次はケムダー区画に挑戦しようと思っています」
「おっ、白雪様に勝ったのか!? いや、愚問だな。無縫殿の強さなら幹部巡りで遅れを取る訳がないか。それで、今日はどういった要件だ? 俺に幹部巡りで協力できることは無さそうだが」
「本日は別件でお伺いしました。実は色々あって大日本皇国と同盟関係にある異世界アムズガルドで本来魔王を継ぐ筈だった魔王の娘の支持率が大幅に下がり、それに伴って反人間派、交戦論派に追い風が吹いています。現状を打破するためにこちら側も支持率が地に堕ちた魔王の娘、ヴィオレットに代わる魔王候補を擁立することになったのですが、彼女が魔王軍四天王に数えられる実力者だったとはいえ魔王の椅子に相応しい存在として認められた訳ではありません。そこで、魔王に相応しい実力があることを認めさせるために現魔王と魔王候補の二人で模擬戦を行うことになったのですが、その前にその魔王候補を鍛えたいと思いまして、【悪魔の橋】の訓練場をお借りすることはできませんか?」
「そいつは構わないが……なんだか大変なことになっているみたいだなぁ。……ん? いや、一つだけ交換条件を提示したい。対人間族魔国防衛部隊と魔王軍即応騎士団の合同訓練が月一回行われているんだが、そこに特別教官として参加してもらいたい。俺達にとっても魔王軍即応騎士団にとっても良い刺激になると思うんだ」
「大した力にはなれないと思いますが、快くお引き受けします」
「協力感謝する。ちなみにいつから使う予定だ?」
「明日から朝晩二回、休日は一回普段よりも長時間行う予定です。彼女は内務省勤務で内務省での仕事もあるので、仕事の合間を縫って修行を進める形になります」
「普通の仕事もあって、その上で修行とは本当に頭が下がるぜ。とりあえず、今日中に通達は出しておく。空間魔法で長城の上には既に入れると思うから自由に使ってくれ!」
「ありがとうございます」
「おうよ! じゃあ、またな! 対人間族魔国防衛部隊と魔王軍即応騎士団の合同訓練については魔王軍即応騎士団と話をしてから通達させてもらう。訓練の時にタイミングが合えば通達するかもしれないし、宿屋『鳩の止まり木亭』に連絡を入れるかもしれないが、その時はよろしくな!」
◆
無縫が日和と連絡を取り合ってレイゼン大迷宮の入り口に最奥部へと続く時空の門穴を開いてもらうと人の気配がほとんど感じられない近未来都市へと足を踏み入れた。
「お疲れ様です、日和さん。他の皆様は」
「中枢管理棟で休んでいます。強行軍でしたから、みんな疲れていまして……」
「ドルグエスが本当にご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません」
待っていた日和と共に中枢管理棟へと向かうと、中枢管理棟の一階の広間には椅子に座って息も絶え絶えという様子の春臣、愛莉、芳房、美遊、藤翔、飯綱、賢一、颯斗、琥太郎、大作、惠の姿があった。
どうやら美遊に普段の強気な発言ができるほど体力がないらしく、どこかしおらしい姿は不覚にも庇護欲を掻き立てられそうになる。……まあ、そんな気持ちが湧いてくるほどの余裕はヘトヘトな他の面々にもない訳だが。
「お前か? 庚澤無縫っていうのは?」
元気いっぱいのドルグエスとヘトヘトな日和達を交互に見ていると、一人の女性が無縫へと近づいてくる。
水色の髪が僅かに混ざった紺色の髪をツインテールにし、紫色と黄色のオッドアイを持つ漆黒のミニ丈のドレスを身に纏ったその女性は、纏う服の素材こそリエスフィアやシエールのものと似ているが、二人よりもボーイッシュでほんの少しガサツそうな性格か顔立ちや表情にも現れていた。
纏うドレスも身体のラインを強調するマーメイドラインドレスをベースとしたものだが、より動きやすいように調整が加えられているようである。
「アタシは迷宮の自律式統括者のフランメだ! 迷宮を攻略したコイツらのことは認めたが、アタシはアンタのことを認めてない!! 迷宮の中に転移するなんて反則だ!! 正々堂々迷宮を突破してきな!!」
「……迷宮を突破できるほどの実力があることを証明すればいいんですよね?」
「まあ、それで認めてやらないでもない……ッ!?」
次の瞬間、余裕綽々で強気な態度を取っていたフランメの顔が真っ青に染まった。
可哀想なくらいガタガタと震え出し、足が縺れて尻餅を作る。
たった一人に圧倒的な覇霊氣力が向けられたのだ。寧ろ気絶せずに済んだだけでも大金星だ。
「……ッ! 分かった!! アンタのこと認めてやるよ!!」
「では、ご納得頂けたようですし本題に入りましょう。事情は聞いていますか?」
「ドルグエスって奴の言っていることは分からなかったが、日和から大体の事情は聞いた。現在攻略済みの二つの都市の破片と共に星を改造して住めるようにすればいいんだろ? それで、具体的にいつ着手する気なんだ?」
「残る迷宮も一つなので、今日から着手しようかと。移住先の星の権利そのものは既に貰い受けているので、後は実際に星に向かって座標を取得してから空間魔法で転移させようと思っています。この都市がある空間は魔法で埋め立てて、一千一層の地下都市へと通じる部屋から地下へ移動する機構を取り除いた後に、それっぽい品を置いておこうかと」
「ん? 偽物の聖武具を置いておくってことか?」
「まあ、そういうところですね。見た目だけ聖武具に似せた武器をそれっぽく祭壇みたいなものを作って置いておこうと思います」
「なかなかいい性格しているみたいだなぁ! そういうの、嫌いじゃないぜ!」
「その前に迷宮攻略を頑張った皆様を労いたいと思っています。迷宮の秘宝も聖武具もなく実質タダ働きですし、理解して参加して頂いているとはいえ何らかの補填はするべきだと思いますし」
「あら、分かっているじゃない!! やっぱり疲れを吹き飛ばすのはお酒だって相場が決まっているわ! ということで、最高の酒場に案内しなさい! 勿論、奢ってくれるのよね!!」
「美遊殿、無縫様に失礼でござるよ!!」
「えぇ、勿論、今回の食事代は全て俺が持ちますよ」
「ならば、儂は揚げドーナツを所望する!!」
「飯綱さん、流石に無茶を言ってはダメでしょ……申し訳ございません」
「流石に居酒屋にドーナツはありませんが、まだドーナツ屋は開いているので皆様をお店まで案内した後に買ってきますね」
「……何から何まで本当にありがとうございます」
話が纏まったところで無縫は時空の門穴を開き、フランメに戻ってきたから古代都市アヴァロニアの転移計画を実行に移す旨を伝えた後、日和達と共に地球へと帰還した。