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黒崎波菜とは密会以来連絡を取り合っていないのにさりげなく王女が波菜に強迫されていることを言い当てる無縫。無縫の洞察力が凄いのか? 波菜に対する理解力が高過ぎるのか? 波菜の考えが分かり易いだけか?

「あらあら、随分と賑やかになったわね」


 宿屋『鳩の止まり木亭』の食堂にて、夕食の配膳をしながらビアンカはふと呟く。

 今は疲れて部屋で眠っているタタラに、レフィーナとレイヴンの幹部巡りコンビと、たった一日で三人も宿泊客が増えていた。


 まさか、無縫の幹部巡りについていったらこれだけの客を連れて帰ってくるとは、もしかしてスノウには才能があるんじゃないかと少しばかり思ってしまうビアンカである。


「でも、本当に良かったでござるか? 無縫殿?」


「流石に申し訳ないし、お支払いしたいのだけど」


「このくらい気にしないでください。まあ、タタラさんの分も支払ったのでついでですよ」


 無縫達が宿に着いたレフィーナとレイヴンはスノウと共にタタラを部屋に運んで介抱しており、とても宿代を支払える状態ではなかった。

 どうやらその隙に宿に辿り着いた無縫がビアンカに三人分の宿代を支払っていたらしい。


 タタラが寝たことを確認し、一階に戻ってビアンカに宿代を支払おうと思っていたレフィーナとレイヴンはビアンカから部屋の鍵を手渡されつつ「お代は頂いているから気にしなくていいわよ」と言われて驚いたものである。

 なお、支払った当人は優雅に珈琲を飲みつつ寛いでいた。タタラの様子を見にいく素振りが無かったのはレイヴンとレフィーナとスノウを信頼していた故だろうか?


「しかし、タタラさんには悪いことをしちゃったなぁ。なかなか難しい仕事内容みたいだったし、もっとじっくり時間を掛けて仕事をしてくれると思ってたんだが……できる限り早くみたいな雰囲気が出ていたのが拙かったか」


「まあ、父上は存命だからすぐに後継者に困る訳ではないが、未来は誰にも分からぬ。安心材料を増やしておくためにある程度父上が元気なうちに後継者を決めておきたいという思惑があるのじゃ。とはいえ、猶予はまだまだある筈。反人類派、所謂過激派連中も今の魔王を倒してどうこうということは考えない者達ばかりじゃしな。父上、魔王ノワール陛下には皆、敬意を持っておるのじゃ」


「敬意を払わないのは無縫君くらいだよね?」


「いや、魔王としてのノワール陛下は素晴らしい人だと思うよ。あんまり褒めると図に乗るから言わないけど。……だけど、親としては終わっているだろ。娘を駄目にした駄目男扱いしてくるし、娘のことになると途端に親莫迦に成り下がるし」


「あらあら……でも、仕方ないことだと思うわ。いくつになっても親は子供が可愛いものですから」


「あの人の場合は度が過ぎているんですよ。それと、ヴィオレットもシルフィアも勝手に自分達で堕落していっただけで俺は被害者なんですって」


「それで、どうするの? 無縫君がこれまで巡ってきた国の話とかするにしても、かなりの量でしょ? 流石に全部話すとしたら一日あっても全然足りないでしょ? かといって、地球での外交と異世界での外交じゃ全然スタンスが違うし、両方話そうとすると流石に散らかり過ぎるんじゃないかな?」


「流石に話すとしても掻い摘んで話すよ。でも、正直全く勉強にならないと思うんだよね、俺のやり方って」


「あの……どんな風に違うのでしょうか?」


 ギミードやワナーリ、常連達が抱いていた問いをスノウが代わりに言語化した。

 無縫、ヴィオレット、シルフィア、無縫の近くにいて当たり前になっているが故に三人がわざわざ言語化しないところを質問することで明らかにしてくれる質問上手のスノウさんである。


「地球での外交は内務省職員兼ボディガードとして同行する形ですね。大田原さん、総理大臣や国の高官が基本的には矢面に立つのであんまり仕事はありません。……基本的には魔法少女の姿で華を添えるくらい、まあ、俺を指名して話し掛けてくることも稀にあるのでそういう時には対応する形ですね」


「……その魔法少女っていうのは一体なんなんだ?」


「そういえば、魔族王国入ってからお見せしたのってアヴァランチ山の山頂で白雪さんとの勝負の時くらいだったっけ?」


 無縫が魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスに変身すると、同性であるビアンカすら息を呑んだ。当然、男性客達はその美しいプロポーションに目を奪われ、僅かな女性客達も分かりやすい反応を示す助兵衛な男性客達に非難の目を向ける余裕をすっかり無くしてしまったようである。


「絶世の美少女でござる!!」


「なんか色々と負けた気分だわ……まさか、こんなに美しい人がいるなんて」


「フッフッフ! もっとこのシルフィアちゃんを崇め奉るのです! 私は魔法少女に変身させる妖精なのです!!」


「……でも、それってシルフィアの手柄じゃないからな? フェアリマナの技術を住人だから使えるってだけだし。それに、魔法少女の契約は本来、その美しい容姿と引き換えにネガティブノイズとの戦いを主に少女達に押し付ける邪悪な契約だからな。もうほとんど呪いだろ……」


「やっぱり無縫君、その姿で男言葉だと頭バグるわ」


「まあ、ただ難点があって……この容姿が目を引いて金と地位を持っている勘違い野郎……ゲフンゲフン、変な輩に絡まれるんですよ。まあ、大田原さん達が防波堤になってくださるので事なきを得ていますし、一線を超えてくる輩は大体非合法な手段使ってくるので、こちらも手段を選ばずに然るべき措置を取っています」


 純粋なスノウは特に思い当たらなかったが、ビアンカ達は無縫の言葉の意味を察したらしい。

 当然、藪蛇になることを察してそれ以上のことを追及することは無かった。


「まあ、でも、本当に厄介なのは魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの力を純粋に求めてくるタイプですね。魔法少女には基本的に固有魔法と呼ばれる特殊な魔法が一種類あります。俺は基本的にその固有魔法を使わないのですが、固有魔法抜きでも国防の戦力として活躍している魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの戦闘力に目をつけている人間は多いみたいです。一応、ネガティブノイズをはじめとする戦力に対抗する戦力として大日本皇国から派遣され、それなりの活躍はしていますが、それ以上のことを求めてくる強欲な国々もあります。そもそも大日本皇国は世界規模の戦争、第二次世界大戦で敗戦しています。ステイツをはじめとする西側諸国の核の傘の中にいる国……まあ、小判鮫みたいな立場の国ですが、そんな国が力を持つことでもう一度西側諸国に歯向かってくるのではないかと危惧する国、力を持つことを快く思わない国、色々と各国思うところがあるのです。……この世界みたいに魔族だ人間だと種族はなく、人間……ホモ・サピエンス・サピエンス種が実質一強の存在として君臨しているのが地球ですが、そこでも人種、カラーパレットや信教、国など様々なバッグボーンが理由で争いは絶えません。まあ、そんなのはただの方便で、実際にはただ他人を貶めて上に立ちたいってだけの場合もありますが。ただ、一つだけ確かなのは、そういう野心と利己心だけの人間ばかりではないということです。相手の考えに共感して無償の奉仕をする……なんてそこまで行き過ぎた方は少ないですが、誰だって少なくとも一欠片の善性は持っています。人間も、実は魔族も色々な世界を見てきて思いますが、一面だけで判断できるものではなく、多面的で様々な顔を持ち合わせているものです。話が長くなりましたが、大日本皇国の内務省職員として活動する場合はできる限り国家間の関係を悪化させない、穏便な活動を心掛けています」


「あの……無縫さん? その言い方だと私達のような異世界人に対しては穏便な対応を取らないという風に聞こえますが」


 恐る恐るといった様子で尋ねるスノウに、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスはにっこりと微笑む。

 同姓であっても思わず惚れてしまいそうな魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの笑顔が、スノウにはとても恐ろしく悍ましいものに思えてならなかった。


「これでもかなり穏健派になってきた方なんだよ? 初期の頃なんて相当酷かったって証言だってあるし」


「具体的に述べると、ミシャエリーナ王女殿下と大黒壬殿の証言じゃな。まあ、どちらも無縫やその周囲に迫害を行ったり、兵を差し向けてきたりと無縫の怒りを買うだけの行為をしているのでどちらが悪いとは言えないのだが」


「異世界アムズガルドのイシュメーア王国国王は私達を召喚した挙句、勇者を使い捨ての駒くらいにしか考えていない典型的な召喚国ムーブをかましたから致し方ないけど、異世界ハルモニアは突然得体の知れない奴らが現れたってことだし警戒するのも致し方ないんじゃないかな? 大量の騎士を派遣するってのは流石にやり過ぎかもしれないけど、もしやってきたのが悪意ある侵略者だったら後手に回って取り返しのつかない事態になる可能性もあるでしょ? まあ、無縫君も敵意向けられている状態で穏便に交渉をするような図太いタイプじゃないし、寧ろ好戦的だから状況が生んだ悲劇としか表現のしようがないんだけど。……でも、逢坂詠防衛大臣に比べたらマシだよね? あの人、一度敵認定から即斬り捨てるっていう短絡的なところがあるし」


「流石に逢坂さんほど見切りは早くないよ。あの人の戦っているところは見たことないけど、大田原さんと同じ道場で腕を磨いて更に独自に剣術を極めた凄腕の剣士らしいし、防衛大臣っていう立場でありながら大田原さんと同じ自ら前線に出張って戦う現場主義者だから実力も高いだろうし、あの人がどこかの世界に召喚されたなら地獄絵図になりそうだね。……それと、異世界アムズガルドと異世界ハルモニアの件は時空災害に慣れていない頃だからってのもある。最近だと時空災害で意図せず異世界転移が起こった場合や時空の門穴ウルトラ・ワープゲートの調査で異世界に訪問した場合は礼儀を尽くして対話するようにしているよ。まあ、それでも話が通じないパターンってのは多いんだけど。逆に異世界召喚の類の場合は武力をチラつかせる場合が多いかな? ただでさえ召喚した側が主導権(イニシアチブ)を握っているからね。まあ、でも、できる限り為人は把握して、色々と情報を集めてから行動に移したいとは思っている。最近は状況判断に重きを置く場合が多いかな? 召喚された国のいずれかの勢力と交流を結ぶことで大日本皇国の国益に繋がる可能性もある訳だし。今回はルーグラン王国の調査を信頼できる人間に任せているし、勇者の希望である聖武具もルーグラン王国と白花神聖教会が把握している範囲は回収済みだから、これまで見つからなかった迷宮を発見するミラクルが起こるか、どこかの迷宮が攻略されるくらいのことが起きなければ問題ない。まあ、だから俺もこうやってクリフォート魔族王国であんまり時間を気にせず実地調査できているんだよ」


「その協力者の方は大丈夫なのですか? ルーグラン王国と白花神聖教会に酷い目に遭わされたり……」


「スノウさん、心配ありがとう。でも、その可能性は皆無かな? あっちに残っている協力者、黒崎波菜さんも勇者だから」


「勇者? 無縫さんといい、その波菜さんっていう人といい、勇者が多過ぎるんじゃねぇか? 普通、召喚されても一人が相場だろう?」


「ワナーリさんのご意見ももっともだけど、今回勇者として召喚されたのは獅子王春翔のみ。俺達は勇者判定じゃないからね」


「なんじゃそりゃ……」


「まあ、でも波菜さんなら教会だろうと国だろうとクラスメイトの中でも最強格の獅子王春翔であっても負けることはないと思うよ。流石に神みたいな存在が出てきたら厳しいかもしれないけど。彼女は幼少の頃から修羅場を経験させられてきた人間だ、微温湯で生きてきて少し前にチートを手にした餓鬼共に遅れは取らないだろう。……ただ、気掛かりなことがあってね。彼女は異世界人、特に異世界召喚を実行する存在を強く憎んでいるんだ。情報収集が終わって合流するまでは派手に動くなと釘は刺しておいたけど……彼女なら秘密裏に召喚に加担した王女を脅していたりしそうだよね」


 大したことでもないと言わんばかりに爆弾発言を口にする無縫に絶句するビアンカ達であった。

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