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無縫君、シェリダー大書架に着いて早々出題者の魔王軍幹部・アルシーヴも予想していない方法で呆気なく試練を突破するのはやめたげてよぉー! だよ!

「……で、無縫君? 図書館長室って見つかった?」


 マーガレットが去っていった直後、シルフィアは唐突に無縫に質問を投げ掛けた。

 まだシェリダー大書架に入ったばかりで、簡単な探索すらできていない状態だ。そのような段階で図書館長室の場所を探し当てるなど本来なら不可能な筈だが……。


 もし、これが無縫自身が「図書館長室を見つけた」と言っていたら「この人間は何を言っているんだ? そんなこと不可能……出鱈目を言っているだけだ。やはり人間は信用ならない」などと思われていただろう。

 だが、その言葉は無縫ではなく取り巻きの妖精――シルフィアから発せられたものだ。


 ということは、シルフィアに無縫が「全く探索していない段階でも図書館長室を特定できる力がある」という確固たる自信があったということになる。

 わざわざ事前に仲間の妖精と口裏を合わせてそのような分かりやすい嘘を吐くメリットが皆無である以上、シルフィアのその言葉は真と考えるべきだろう。


「……ん? まあ、ね。図書館長室の座標は取得済みだよ」


「流石にそれはおかしくないかしら? まだ図書館に入っていたばかりよね。いくら無縫君がチートキャラでも流石に無理だと思うのだけど……」


「フィーネリアさんが俺のことをどう考えているのか小一時間ほど問い詰めたいところだけどね……」


 どうやら、「無縫が図書館長室の座標を特定した」という話は仲間の人間(正しくはロードガオン人という別種族だが)にも信じ難いことであったらしく三人の挑戦者達以上に疑いの目を向けている。


「大日本皇国の鬼斬の中で代々扱い方が継承されてきた覇霊氣力、この力を応用することで見気という技術の範囲を拡張することができる。見気、見鬼、或いは妙見の技なんていうが、要するに怪異や妖怪、鬼などを見分ける力だな。……まあ実際には覇霊氣力を宿した瞳で鬼を見抜く妙見の技ではなく、目を閉じて心の目で周囲の気配を探る技術の応用なんだが……まあ、どっちも見気だし、あんまり区別する必要はないと思うよ。俺はマーガレットさんから話を聞いている間に覇霊氣力をシェリダー大書架の全体に行き渡るように薄く展開した。要するに、シェリダー大書架の全体をスキャニングしたってことだな。まあ、流石に覇霊氣力だけでは信頼度が少し低いから魔力でも同様のことをやって双方から得た情報を重ねて判断しているんだが。そして、時空の門穴ウルトラ・ワープゲートは取得した座標と現在の座標を繋ぐ門を作り出す魔法だ。基本は現地に行く必要があるが、座標を取得していれば話は別――例え実際に足を運んでいなくても希望する場所に転移することができる」


「つまり、今この瞬間に時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開けば試練合格ということじゃな。……この試練を考えたアルシーヴ殿にとっては邪道な方法じゃろうが、試練を作り上げたものの予想を上回る解き方をするというのもある意味で試練を超えたということ。咎められる要素は皆無じゃな」


「ん……まあ、そうなんだけどさぁ、スノウさんはどう思う?」


「わ、私ですか!?」


「折角ここまで来て、面白そうな謎解きがあるのにそれをぶち壊してしまうってのはなんだか申し訳ない気持ちになる。マーガレットさんの説明、目を輝かせながら聞いていたでしょう?」


「そ、それは……た、確かに面白そうだって思いましたけど、無縫さんにご迷惑をおかけするのは」


「迷惑じゃないよ。そうだね……まず、今から俺が一人でマーガレットさんに図書館長室の具体的な場所と突き止めた方法を伝えてくる。それで俺の試練は合格ってことにしてもらおう。先に伝えておけば自分の力で場所を突き止めた証拠になるからね。その後、スノウさんとフィーネリアさんの主導で図書館長室を探すっていうのはどうかな? フィーネリアさんも楽しそうだって思って聞いていたよね?」


「えっ、ええ……無縫君についていきつつ、私も少し謎解きを楽しむつもりだったけど、こんなことになるなんてね」


「じゃあ、無縫君! 私達は適当にそこら辺で本を読んでくるから!!」


「おい待てシルフィア。それと、無言でここから離れようとするヴィオレット、お前ら暇だろ? スノウさんとフィーネリアさんのサポートをしつつ、一緒に考えてあげなよ」


「……致し方ないのぉ。無縫の頼みだから、特別じゃ!」


「仕方ないわね! スノウ! フィーネリア! 私に任せなさいッ! スパッと館長室を見つけてあげるわ!!」



 その後無縫はカウンターでマーガレットを呼び出し、二人でカウンター奥の職員区画へと消えていった。

 数分後、マーガレットは無縫と共にカウンターの奥から戻ってくる。


「……正直想定外の事態ですが、無縫様の試練の達成を確認致しました。正攻法での攻略はこれからということですので、具体的な仕掛けについては他の方々と共に挑戦して頂くことになりますが現時点で攻略済みという判定をさせて頂きます」


「ありがとうございました」


「いえいえ……まさか、このような規格外な方がいらっしゃるとは驚きでした。流石は宰相閣下の推薦を受けたお方というところでしょうか? それでは失礼致しますわ」


 マーガレットは再び職員区画へと戻っていく。

 マーガレットの姿が見えなくなると無縫達の方に近づいてくる人影が三つあった。


 弓を背負った狩人風の服装のエルフ族の女性、巨大な大鎚を背負ったドワーフ族の男、黒装束に身を包んだ忍び風の純魔族の男――ほんの少しだけ無縫達から距離を取っていた他の挑戦者達である。


「まさか、この巨大なシェリダー大書架に入館して間もないのに図書館長室を見つけるとは見事な探査能力でござるな! 拙者はレイヴン=ロナウドでござる!」


 いかにも寡黙で任務に実直な忍者という出立ちからは全く想像できないフレンドリーな態度で無縫に話しかけてきたレイヴンに続き、エルフ族の女性とドワーフ族の男も話し掛けてくる。


「初めまして、レフィーナよ。……珍しいわね、人間がいるなんて。正直警戒していたけど、私達に偏見を向けないし、なんだかこの国に馴染んでいるみたいだし、不思議な雰囲気だわ。私も貴方と同じ『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の挑戦者ということになるわ。ライバルとしてこれからよろしく」


「ドワーフ族のカーリッツじゃ。……なかなかの出鱈目な力を持っているようじゃな」


「名乗るのが遅れましたが、庚澤無縫と申します。こっちは家族? ヒモ? 金食い虫? のヴィオレットとシルフィア、それと一応敵対している侵略国家の悪の女幹部のフィーネリアさん、後は……多分ご存知だと思いますが、バチカルの宿屋『鳩の止まり木亭』の看板娘のスノウさんです」


「……酷い説明ね。まあ、事実なんだけど……」


「お久しぶりです、レフィーナさん、カーリッツさん。以前は宿屋『鳩の止まり木亭』をご利用くださりありがとうございます」


「久しぶりね、スノウさん。とても快適な宿生活だったわ。また、バチカルに用事があれば泊まらせてもらうわね」


「快適な宿じゃったな。女将さんの料理も美味しくてとても良い宿じゃった」


「……では、近いうちにバチカルに行く際に泊まらせて頂くでござる!」


「あっ、ありがとうございます! 楽しみにお待ちしております!」


「それで……相談があるのだけど、良かったら図書館長室を一緒に探してもらえないかしら? 正直広過ぎて一人で全部を探すのは厳しいと思うのよね。それに、挑戦者が協力し合うことを禁止するルールもないからね」


「……儂もこの試練は思考の柔軟性や挑戦者同士で協力し合う協調性、そういったものを推し量るものではないかと推測している」


「まあ、確かに禁止する条件はありませんでしたね。……そうなると、俺は完全にシェリダー区画の魔王軍幹部殿の求めていることをまるっきり無視したってことになりますが」


「まっ、想定されてないよね! 流石は規格外」


「……それに、場所を突き止めている無縫さんにちょーっとヒントをもらいたいっていう下心もあるのよ」


「正直者は好きですよ。ブラフは賭け事(ギャンブル)の時だけでいいんです。まあ、ヒントくらいは出してもいいですよ」


 その後、無縫が提供するヒントを元にスノウ、フィーネリア、ヴィオレット、シルフィア、レフィーナ、カーリッツ、レイヴンが図書館長室の執務室を探すことになったのだが、その前に図書館の一角で簡単な情報交換をすることになった。

 三人からしてみれば、何故魔王軍が無縫をクリフォート魔族王国内に招き入れたのか、そもそも無縫は何者なのか、そういった謎めいた点を解明しておきたかったのだろう。


「まさか、無縫殿が勇者とは驚きでしたな!」


「政府機関で働いているって凄いわね。私達で言うところの魔王軍で働いているってことでしょう?」


「まあ、そんなところですね」


「無縫殿は魔王陛下と会談をする権利を手に入れるために『頂点への挑戦(サタン・カップ)』を目指しているんじゃったな? ……わざわざそのような段階を踏まずとも会談くらい許可を出せば良いのにと思うが、他の魔族達が納得できないというのも、まあ、想像できる」


「折角魔王軍幹部や魔王軍四天王と戦える機会ですからね、結果的には良かったですよ。俺も魔族の皆様の人となりを知りたかったですし。……最終的に人間と魔族、どちらの味方をするか決める材料にもなりますからね」


「それで、今のところ私達魔族に対してどう思っているのかしら?」


「良い方ばかりだと思いますよ。……まあ、とはいえ種族問わず様々な方がいますからね。物事の一片だけを見て本質を知ることはできませんが」


「ふむ……しかし、まさかメープル殿の次に白雪殿を攻略しているとは驚いた」


「二つ目に白雪殿のスタンプが押されているなんて聞いたことがないでござる。……先輩方から手帳を見せて頂いたことも幾度かあるでござるが」


「先輩……ですか?」


「拙者はこのシェリダー区画にある学園の生徒なのでござる。学園の生徒には課外学習で『頂点への挑戦(サタン・カップ)』に挑戦するという課題が課されるのでござるよ。まあ、四人の幹部に勝利できれば十分、ほとんどが本戦出場の半分も条件を満たせずに脱落していくのでござるが」


「ちなみに、私はエルフの里の出身よ。エルフの里では成人を迎えると一人前のエルフであることを証明するために試練を受けるという風習があるの。その試練というのが、今は『頂点への挑戦(サタン・カップ)』なのよ」


「儂は特にそういった条件がある訳ではないが、自分の実力を試したくなってな。『頂点への挑戦(サタン・カップ)』に出場することにしたのじゃ」


「皆さん、色々な事情があるんですね」

◆ネタ解説・百二話

見気

 見気、見鬼、或いは妙見の技。怪異や妖怪、鬼などを見分ける力のこと。

 覇霊氣力を宿した瞳で鬼を見抜く妙見の技と、目を閉じて心の目で周囲の気配を探る技術の大きく分けて二つの技術の総称でもある。


◆キャラクタープロフィール

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・レフィーナ=グリーンウッズ

性別、女。

年齢、二十七歳。

種族、エルフ(魔族)。

誕生日、六月十三日。

血液型、A型Rh+。

出生地、クリフォート魔族王国エルフの里。

一人称、私。

好きなもの、狩り、木苺、山菜。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、狩人。

主格因子、無し。


「弓を背負った狩人風の服装のエルフ族の女性。エルフの里の出身で一人前であることを証明する試練のために『頂点への挑戦(サタン・カップ)』に出場した。クールな性格だが、感情がそのまま表情に出るため隠し事はできない」

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-----------------------------------------------

・レイヴン=ロナウド

性別、男。

年齢、十五歳。

種族、純魔族。

誕生日、二月二十七日。

血液型、AB型Rh+。

出生地、クリフォート魔族王国シェリダー区画。

一人称、拙者。

好きなもの、忍者。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、忍び耐える。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、ルキフグス=ロフォカレ学園生徒、忍者見習い。

主格因子、無し。


「黒装束に身を包んだ忍び風の純魔族の少年。クリフォート魔族王国シェリダー区画にある魔族学園に通う男子生徒。課外学習の一環として幹部巡りに参加している」

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-----------------------------------------------

・カーリッツ=フレイズマル

性別、男。

年齢、四十歳。

種族、ドワーフ(魔族)。

誕生日、五月二十三日。

血液型、AB型Rh+。

出生地、クリフォート魔族王国キムラヌート区画。

一人称、儂。

好きなもの、『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の観戦、お酒。

嫌いなもの、特に無し。

座右の銘、特に無し。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、フレイズマル酒造二代目社長。

主格因子、無し。


「巨大な大鎚を背負ったドワーフ族の男。『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の観戦が好きで、毎年欠かさず『頂点への挑戦(サタン・カップ)』を会場で観戦していたが、今年は自らが選手として参加するべく幹部巡りにエントリーした。実はクリフォート魔族王国でその名を知らない者がいないくらい有名なフレイズマル酒造の二代目社長である」

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