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シェリダー区画を担当する魔王軍幹部であるアルシーヴの試練はシェリダー大書架で隠された図書館長室を見つけ出すという童心を思い出させるような宝探し風の内容のようだ。

 白雪との戦いに勝利した無縫はその後、領主公館で手帳にサインとスタンプを押してもらった。

 スタンプの図柄は純白のドレス姿の白雪が氷上で三回転半(トリプルアクセル)をしている姿だ。


 図柄の美しさから実際に高い人気を誇るが、それだけ人気があっても挑戦者が増えないくらいには白雪の試練の難易度は高いのである。況してや、このように序盤で挑戦することを選び、勝利して手帳の二ページ目に白雪のスタンプを押すなど前代未聞である。


「ところで、無縫様は次はどちらの魔王軍幹部に挑戦されるのですか?」


「そうですね……とりあえず、ケムダー区画に行ってみようと思います。淡空さんの試練は全体的に厳しかったですが、そんな淡空さんの試練と天秤に掛けられるくらい難易度が高いというケムダー区画は早めに攻略しておいた方がいいと思いまして。キムラヌート区画はクリフォート魔族王国を巡ってから挑戦した方がいいとお聞きしたので、もう少ししてから挑戦しようと思っています」


「ケムダー区画の試練は確かに私の試練よりも簡単ですが、幹部のベークシュタインさんは滅多に姿を見せないのでそもそも幹部戦をすること自体が難しいんですよ。試練自体は側近のカトレアさんが担当してくださいますが、試練が終わった時点で他の区画の魔王軍幹部に挑戦しつつベークシュタインさんに挑戦できるタイミングを待つという形ですね。なので、二回目以降の挑戦者だと最初の試練の場所に選ぶ方も多いのですよ。……ところで、無縫様は学生さんということで良かったでしょうか?」


「一応高校生、学生ですね。勉強は……まあ、一部分野を除けば同級生と同じくらいの学力はあります」


「なるほど……勉強したのは異世界の学校だと思いますので、心配することがあるとすればクリフォート魔族王国に纏わる分野でしょうか? 後々のキムラヌート区画への挑戦も考えると、やっぱりシェリダー区画に先に挑戦することをお勧めします。……あっ、もしかしてあんまり情報を仕入れずに挑戦したかったですか?」


「そのつもりでしたが、別に情報はあってもいいので淡空さんのお気遣いに感謝します。じゃあ、次はシェリダー区画に挑戦しようかな?」


「そうでした……ケムダー区画の試練は筆記試験なので、何らかの筆記具を持っていくことをおすすめします。一応貸し出しもしてくれるみたいですが」


「お気遣いありがとうございます」


 無縫とフィーネリアは白雪にお礼を言うと領主公館を後にし、ヴィオレットとシルフィアを食堂で回収してから時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開いた。



 白雪の試練をクリアした時点で時刻は午後三時頃だった。

 現在の時間からでもシェリダー区画とケムダー区画に足を運んで時空の門穴ウルトラ・ワープゲートでの転移を解放することができると判断した無縫はツァーカブ区画に戻った後、ケムダー区画を目指した。


 ケムダー区画についたのは午後四時半頃、街の中心にぽっかりと空いた異質な穴に驚きつつもケムダー区画での用事は既に終えていたためエーイーリー区画へと時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開いて転移した。


 その後は【666號(ザ・ビースト)】を運転してシェリダー区画を目指す。実際にシェリダー区画に到着したのは午後六時頃だった。


 到着早々領主公館へと向かったが、シェリダー区画の魔王軍幹部は留守だった。代わりに対応してくれたエルフ族の職員に挑戦を希望していることを伝えてから無縫はフィーネリアと共に領主公館を後にした。……なお、その間、ヴィオレットとシルフィアは【666號(ザ・ビースト)】の中で爆睡していた。白雪と無縫の戦いも観戦せず、ほとんどの時間を山頂の食堂と車の過ごしている二人は一体何を目的に無縫に同行したのだろうか? 永遠の謎である。


 領主公館でやることを終えた無縫達はようやく宿屋『鳩の止まり木亭』への帰路についた。


 ビアンカの用意してくれた美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、宿屋『鳩の止まり木亭』に泊まっている常連客達と談笑に耽るというのが無縫達のここ最近の恒例行事となっている。白雪との戦いに勝利したこの日も食堂で美味しい料理に舌鼓を打ちつつ、自分で用意した珈琲を楽しみながら客達との会話に花を咲かせていた。


「白雪様に勝利!? いや、メープル様相手に圧倒的な勝利を収めていたから当然といっちゃ当然だと思うが……試練全部クリアは流石にびっくりだぜ!」


 無縫から見せてもらった手帳の二ページ目に押されている白雪のスタンプに目を輝かせながらワインを口に運び、ぷはぁと下品な声を上げるワナーリ。

 「そんなんだから、アンタ、彼女ができないんだよ」と言いたげなビアンカ(女将さん)の冷たい視線が突き刺さる。


「で、次はシェリダー区画ねぇ。落差凄いなぁ、おい。……この流れだと強い順、ケムダー区画辺りに挑戦するかと思ったが」


「ケムダー区画よりも先にシェリダー区画を挑戦しておいた方がいいと淡空さんにおすすめされまして」


「まあ、だろうなぁ。特に、無縫さんみたいなクリフォート魔族王国の出身者じゃない人間にとっては下準備無しのケムダー区画への挑戦は自殺行為だと思うぜ。シェリダー区画は別名学問の街、特にシェリダー区画のランドマークと呼ぶべきシェリダー大書架! あそこできっちりと情報を集めておくことが今後の挑戦の役に立つと思うぞ!」


「そういえば、明日の挑戦の集合場所にそのシェリダー大書架が指定されていたわね。……図書館とバトルってあんまり結びつかないけど、一体どんな試練が行われるのかしら?」


「ぷっはっー! まあ、初見で挑戦したい無縫さんもいる手前直接的なことはいけないけど、シェリダー区画の魔王軍幹部の試練はなかなかワクワクするものだったぜ。なんというか、男心をくすぐるっていうか。試練に関わることだからシェリダー大書架の職員や常連客は口を噤んでいるし、挑戦経験の奴も基本的にはマナー違反ってことであんまり具体的な場所を吹聴しないというのがエチケットになっているなぁ。まあ、当日のお楽しみってことで」


「……はぁ、ワナーリさん、もし口を滑らせようとしたら危うくこのフライパンで頭をぶん殴りに行くところだったよ」


 フライパンを片手にワナーリの方を睨め付けるビアンカに隣にいたギミードだけでなく他の常連客やスノウまでガタガタ震えていた。

 どうやら、今のビアンカの言葉でワナーリの酔いは完全に覚めてしまったらしい。


「ヴィオレット、シルフィア、お前らは明日どうする?」


「アヴァランチ山は流石に寒くて食堂に逃げ込んだが、明日は普通についていくつもりじゃぞ! 久しぶりに無縫の戦闘を見てみたいからな!」


「それに、図書館で宝探し? って面白そうだし!!」


「あんまり騒ぎ立てて迷惑を掛けるなよ! 非常識の権化みたいな阿呆二人!」


「ひ、酷いぞ無縫! 我らの扱いがぞんざい過ぎるのじゃ!!」


「美少女二人に対する反応じゃ絶対ないよ!! もっと私達のことを労るべきだよ!! 私達、家族みたいな仲じゃない!」


「いや、家族っていうより金食い虫のヒモ二匹にしか見えないんだよなぁ……」


 これだけ暴言を吐きながらも、なんだかんだ見捨てず二人を養い続けるという奇妙な関係を続ける無縫達に「なんだかんだで結局仲が良いんだなぁ」と思考停止の感想を抱くビアンカ達であった。



 翌日、無縫達の姿はシェリダー区画の中心にある大図書館――シェリダー大書架にあった。

 今回の試練は挑戦者以外に希望する場合は挑戦者の同行者も参加できるルールのようで、無縫の他にヴィオレットとシルフィア、フィーネリア、それに加えて昨日の話を聞いてシェリダー大書架の謎を解いてみたくなったというスノウも同行している。


 どうやら無縫以外にも今回は挑戦者がいるようで、弓を背負った狩人風の服装のエルフ族の女性、巨大な大鎚を背負ったドワーフ族の男、黒装束に身を包んだ忍び風の純魔族の男も無縫達と共にシェリダー大書架一階のエントランスに集められていた。


「本日はシェリダー区画の魔王軍幹部アルシーヴ=ライブラリアンの試練にご参加くださりありがとうございます。上司であるアルシーヴに代わり、私、マーガレット=スキーターが本試練の内容をご説明致します」


 濃紺のスカートスーツに身を包んだ銀髪のエルフの女性は、参加者が全員集まったのを確認すると説明を始めた。

 胸元には小さな肖像画と共に「シェリダー大書架 副館長・図書館長補佐 マーガレット=スキーター」と書かれている。その肩書きからも、彼女がシェリダー大書架において高い地位にいることが窺い知れた。


「本来であれば、図書館長であるアルシーヴよりご挨拶するべき場面ではありますが、私が説明を代行しているのには理由があります。現在、アルシーヴはこの図書館内の図書館長室にあります。その図書館長室に辿り着いてアルシーヴと言葉を交わすことが試練の内容です」


「でも、図書館長の部屋って基本図書館の職員しか入ってはいけない区画にあるものじゃないかしら? それって、入っていいの?」


「いえ、本図書館の館長室は貸し出しと返却などを請け負うカウンターの先、職員の休憩室などが入っている区画にはありません。それ以外のどこかにあるということだけ分かっています。皆様にはこれから地上六階建て、地下三階建てのシェリダー大書架を探索してアルシーヴを見つけて頂きます。ちなみに、ごく一部の職員を除き、基本的に図書館長室の場所は知りません。試練に実際に挑んだ先人の方々の方が詳しいでしょう。図書館で本を読まれている他のお客様の力を借りるというのも手段の一つとして許容はしますが、試験を出す側としては是非、皆様の力だけで試練を突破して頂きたいと思っております。それでは、私はカウンターの奥で作業をしておりますので、何かありましたらカウンターの方までお声掛けください」


 そう言い残し、マーガレットは一階貸し出し・返却カウンターの奥へと姿を消した。

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