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魔王軍幹部・淡空白雪の試練! 〜ハーフパイプ、スロープスタイル、ジャイアント・スラローム篇〜

 続いて挑戦するのはスノーボードのハーフパイプ。

 緩い斜面に雪を固めて作られた長いハーフパイプを往復しながら徐々に下っていく競技だ。

 全ての基礎となる空中でボードを掴む技術「クラブ」と、横に回転する「スピン」、横回転に縦回転を加えた「コーク」や「マックツイスト」、前方宙返りの「フロントサイド」、後方宙返りの「バックサイド」などを組み合わせて技を構築して披露し合う。


 与えられた課題はダブルコークが含まれる技を一回以上成功させること。

 このダブルコークは横回転と縦回転を合わせた技コークスクリューを二回成功させるというもの。

 横回転と縦回転が両方が入っている技は「3Dエア」とも呼ばれ、迫力があるため高得点になりやすいのが特徴だ。そのため、ハーフパイプで上を目指す際には是非習得しておきたい技の一つと言えるだろう。

 当然、選手ならともかくスノーボードの経験の浅い初心者が手を出していい技ではないのだが……。


 無縫は躊躇なくスノーボードを履いて飛び出すと、スピードに乗って最初に繰り出したのはフロントサイド・ダブルコーク1260だった。

 回転の向きが前で縦回転数二回、横回転数が三回転半という技で、かなりの難易度を誇るため成功すれば世界レベルの大会でも勝利に確実に近づくと言われるほどの大技である。


 この時点で無縫はダブルコークが含まれる技を一回以上成功させるという課題をクリアしていた……が、ここでそのまま技を決めずにパイプを降りていくというつまらない選択をする無縫ではない。

 続いてフロントサイド・トリプルコーク1440、スイッチバックサイド・トリプルコーク1440というフロントサイド・ダブルコーク1260を遥かに上回る技を相次いで披露する。


 フロントサイド・トリプルコーク1440は回転の向きが前で縦回転数三回、横回転数が四回転半するという技でスイッチバックサイド・トリプルコーク1440は逆スタンスで進行方向とは逆に踏み切る形で行う回転の向きが後で縦回転数三回、横回転数が四回転半という技で、どちらも高難易度である。

 フロントサイド・トリプルコーク1440は五輪で金メダルを取れるほどの技だ。更にそこにスイッチバックサイドという要素を加えて難易度を増したこの技は例え世界大会に出場する選手でも成功させることが難しいだろう。


 初心者である筈の無縫が選手顔負けの技を成功させることができたのは、異世界で獲得した驚異的な身体能力と鬼斬の修行で培った効率的な身体の動かし方をスノーボードに活かした結果である。

 こうした稀有な経験がなければ、無縫はダブルコークすら満足に成功させられていなかっただろう。異世界に行くことによって生じるステータスという概念は、これほどの異常な身体能力を異世界転移者に与えてしまうということが分かる一例である。


 三つの高難易度技を相次いで成功させた無縫は涼しい顔でハーフパイプを滑り降り、時空の門穴ウルトラ・ワープゲートで白雪達の元へと戻ってきた。



 続いて挑戦するのはスノーボードのスロープスタイル。

 全長約七百メートルのコースに連続的に設置された人工アイテムを演技をしながら滑り降りるという競技である。


 形状の異なるレールなどが複合的に設置されるジブセクションと、サイズや形状が異なるジャンプ台が設置されるキッカーセクションに分かれ、挑戦者は自身でアイテムを選択したジブトリックと進行方向や回転方向に変化をつけたジャンプトリックを組み合わせて滑走することになる。

 コースはジブセクションとキッカーセクションが一つずつ設置された比較的短いコースで、課題は二つのセクションでそれぞれ技を決めることである。具体的にどのような技を使用しなければならないといった指定はない。


 無縫はジブセクションではキャノンレール、フラットレール、ローラーの中からキャノンレールを選択、スイッチスタンスからフロントサイド方向に百八十度回転させるハーフキャブから前足と後ろ足に均等に板に乗っている状態を維持してレールの上を滑り、板と体をバックサイドに三百六十度回転させる50-50バックサイド360アウトを披露、キッカーセクションでは巨大なジャンプ台を選択してスイッチバックサイド1980を華麗に決めた。


 既に異次元の領域に踏み込んでいる白雪の試練。

 シトラスからウィンタースポーツの概念を教えてもらってから五年、一日も休まずウィンタースポーツに向き合い続けてきた白雪であっても生涯をウィンタースポーツに捧げたところで絶対に到達し得ない領域にクラクラしながら、白雪達は最後の試練の場所――スキーのジャイアント・スラロームのコースへと向かう。


 ジャイアント・スラローム、大回転とは雪山を滑り降り、そのスピードを競う競技だ。

 挑戦者はコース中にある旗門を通過しながらゴールを目指すことになる。

 旗門とは二本一組の旗のことで、赤と青が交互に立てられているが、これを規定通り通過できないと失格となる。


 スタートラインとフィニッシュラインの標高差は三百から四百五十メートルと決まっており、スーパー大回転と回転の中間に位置する。

 また、旗門数も約三十と回転に次いで多くなっている。回転に近い小刻みのターン技術と、スーパー大回転の持つスピード感を併せ持ったダイナミックな種目で、魔族達からの人気も高いがその分、難易度も高い。


 ここでも無縫は華麗な滑りを見せた。といっても、技を決める競技ではないため、一切無駄のないコース取りという意味で美しい滑りである。

 今回の課題は二つ以上旗門の通過に失敗せずにゴールすることだったが、無縫は一切の失敗なくゴール地点を通過。


 ちなみに、記録は十九秒十六。

 勿論、アヴァランチ山頂スキー場で樹立した記録を大きく上回る形で新記録(ニューレコード)を樹立した。



 五つの試練を文句なしの成績でクリアした無縫は再び山頂のスキー場のスケートリンク付近へと戻ってきた。


「改めまして、試練お疲れ様でした。……本当に初心者なのですか?」


「えぇ、見様見真似でしたが上手くいって良かったです」


「ずっとウィンタースポーツに向き合ってきた自負がありますから、複雑な心境ですわ。……さて、無縫様はアィーアツブス区画の魔王軍幹部への挑戦権を獲得したことになります。続けて私に挑戦なさいますか? ……正直、お疲れだと思いますから明日以降でも挑戦は大丈夫です」


「いえ、俺は全然大丈夫ですよ。淡空さんがお疲れなら明日以降に時間を取って頂けると嬉しいです」


「私は何もしていませんから、特に疲れていませんよ。……少し気疲れしたような気もしますが。では、バトルコートに移動して勝負を、とその前にヴィオレット様とシルフィア様、フィーネリア様をお呼びしないといけませんね。ちょっとお待ちください」


「流石に淡空さんのお手を煩わせる訳にはいきませんよ。俺が責任を持って呼んできます。……まあ、興味がなさそうならそのまま置いてきますけどね」


「では、バトルコートにてお待ちしております。バトルコートは今いるスケートリンクから少し真っ直ぐ進んだ先にある、除雪されて灰色の地面が露出しているところです。私も立っているので見つからないということはないと思いますが、もしご不明な点があれば近くのスタッフを頼ってくださいね」


 白雪と一旦分かれた無縫は食堂へと向かう。

 食堂の中には案の定、変身を解いた姿で空の丼を積み上げてもまだ足りないのか、二人合わせて六杯目と七杯目の温かい饂飩を満面の笑みで啜るヴィオレットとシルフィアと、そんな二人を生暖かい目で見守っているフィーネリアの姿があった。殴りたい、この笑顔! という言葉がこれほど似合う光景もなかなかないだろう。


「……あれ? 無縫君? 試練はもう終わったの?」


「とっくに終わったよ。で、淡雪さんがご厚意で三人に声を掛けてきたらどうかって提案されて呼びにきた。……どうする?」


「うむ、久しぶりに無縫の戦いを観戦したいところじゃが……外は寒いからのぅ。ここで温まっているつもりじゃ」


「私も別に録画でいいかな? はい、フィーネリアさん、カメラ。いい動画期待しているよ!!」


「……お前ら何しにきたん?」


「素人だしいい動画なんて撮れるわけないわよ! 失敗しても文句は受け付けないわ!! ……っていうか、私は同行確定なのね?」


「ん? 着いていかないの?」


「いえ、ここまで無縫君の旅に同行して山登ってきたんだから、メインイベントの幹部戦は観戦するわよ! でも、なんというか、釈然としないというか……」


「俺も同意見だよ。まあ、なんとなくそういうと思っていたし、淡空さんとの幹部戦、楽しんでくるよ。ああ、ちゃんと支払いはしておけよ」


「うむ、勿論じゃ! というか、それくらい分かっておる! お金の払い方も分からぬ幼子ではないからのぅ!」


「……お金持たずに食事しにいった莫迦二人が何を言っても説得力皆無なんだけどなぁ」

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