Opus.5 - No.6
――ぴちょん……ぴちょん……
錐波貫之は、爆発の衝撃と共に眠り、そして暗闇の中、水滴の落ちる音と共に目を覚ました。
彼は狭い牢の中に押し込められていた。三方は冷たいコンクリートの壁で固められ、一方には鉄格子。牢の中には錐波だけでなく、他の少年や少女たちも四、五人ほど居た。鉄格子の外、通路を隔てた向こうにも牢があり、その中にも数名の少年少女が閉じ込められている。彼らはまだ眠っていたり、意識朦朧としていたりで、地面のあちこちに、まるで塩を撒かれたナメクジのようにだらしなく伸びて倒れていた。
少し前に目が覚めて意識のある者も居たが、自分の身に何が起きたのかを悟ったのか、ある者は壁の隅で身を縮め凍えたように震え、ある者は掠れた声で泣いていた。
ひどく喉が渇いていた。体中が痺れて、手はうまく動かせず、指先は冷えきっていた。
一体どれくらいの間、ここに居たのだろう?
ボーッとする頭で錐波は体を起こすと、自分の首筋がズキズキと痛むことに気付き、悴む指先をどうにか首へと持っていく。
隣の地面に小さな水溜まりができており、天井の亀裂から染み出した雨水が、床に水滴となって落ちていた。錐波は体を横にして、水溜まりの中を覗き込む。淀んだ水面に映る自分の顔。
――首筋に、見慣れない赤い斑点が、無数に散らばっている。
それは間違いなく、注射痕だった。
「薬か……」
錐波はボソリとつぶやく。その声は、面白いくらいによく枯れていた。まるで老婆が発したような声だ。おそらく、薬が切れる度に何度も打ち直されたのだろう。喉が焼けるように熱い。錐波は水を飲みたい衝動に駆られ、思わず水溜りに顔を近付けようとした。
――と、その時、廊下の奥から複数人の足音が近付いてきて、恰幅の良い三人の男がやって来る。
軍人だろうか? 彼らは全身に迷彩柄の衣服を着込み、腰のベルトにはポーチやホルスターに入った拳銃、ナイフやこん棒などが所狭しと吊り下げられていた。
「――やれやれ、玉砕覚悟な決死の出撃だったってのに、その成果がたったこれだけとはな」
「ガンシップに輸送ヘリまで出張ってよ。いいエサ使うだけ使って糸を投げたってのに、釣れたのはこんなひ弱なガキ共ばっか。納得いかねぇぜ、畜生!」
「てか、こんなガキ共が本当に能力者だってのか? 笑わせてくれるぜ。俺のアレをブチ込ませりゃ、満足させるどころか、ヒイの音も上げられずに果てちまいそうな奴らしか居ねぇしよ」
「お前はアマにしか興味ねぇのかよ。とんだ女たらし野郎だな!」
兵士たちの会話を盗み聞きしていた錐波は、どうやら自分たちは、どこの誰かも分からない奴らに誘拐されてしまったのだと理解した。しかし、いざ盗んだ箱を開けてみて、彼らの期待に添わなかったらしく、兵士たちは皆不平不満を漏らしているようだが……
牢へやって来た兵士の男たちは、乱暴な手付きで鉄格子に掛かっていた錠を外し、中へ入って来る。そして、倒れた子一人ひとりを無理やり起こしては、品定めするようにジロジロと顔や体を見て、気に入らなければまたその場に打ち捨てた。
「おいおい、何だよ。こんな貧相なモヤシ野郎まで連れて来やがったのか」
そして、やがて男の視線は、壁の隅に座り込んだ錐波に止まる。錐波は舌打ちしたい思いを飲み込み、男から顔をそむけた。
錐波は上半身裸で、瘦せ細り色白で骨ばった体を、男は散々に貶し、天パでボサボサな彼の髪をつかんで持ち上げる。
――そして男は、彼の両手のひらを見た途端、眉をゆがめ、顔を青くして退いた。
「なっ⁉ こ、こいつ、両手に口を持ってやがるぜ!」