Opus.10 - No.3
「おっ、出口みっけ!」
先を歩いていた白霧が、唐突に声を上げる。彼女が指差す先、建物のロビーらしき広間の向こうに、両開きの大扉が見える。鍵は閉まっていないらしく、開いた扉の隙間からは外の光がうっすらと漏れていた。
「やったぜ、一番乗りぃ!」
白霧が駆け出し、半開きの扉を一気に蹴り開けた。慌てて錐波と犬走も後を追おうとした――
刹那、外へ飛び出した白霧に、四方からスポットの照明が浴びせられた。辺りは真昼のような明るさとなり、扉前に居た三人は眩しさに目をくらませる。
ダダダダダダダダッ‼︎
そして、扉が開かれたのを合図に、鼓膜を破らんばかりの轟音が耳をつん裂き、同時に白霧の体がガクガクと痙攣した。それはまるで、照明の当たるステージの上で絶頂の快感に打ち震えている演者のような挙動に見えたのだが、次の瞬間――ビリビリと醜い音を立てて、彼女の体が頭から縦に引き裂かれた。
扉の外は、数え切れないほどの銃弾が雨あられと降り注いでいた。大量の銃弾を一身に受けた白霧の体(元は毒嶋の体なのだが)は、まるで破砕機にかけたように骨まで木っ端微塵に打ち砕かれ、倒れる頃には既に人の形を失い、ミンチと化した肉塊が、ドシャッと地面に崩れ落ちた。
「……あ、あぁ………」
それまで白霧だった肉の塊を見て、錐波の口から吐息にも似た声が漏れる。撃たれた際に飛び散った肉片を顔に付着させたまま、彼はその場に佇む。これまで自分たちを率いていたリーダー的存在が、真っ先に殺されてしまい、統率を無くした部隊のように、錐波たちはその場を動くことができなかった。
ふと、錐波は犬走の方へ目を向ける。
――彼女は、泣いていた。見開かれた両目から、玉の涙がボロボロとこぼれ落ちていた。人の骨まで貪り食うこの猟犬は、きっと、とうの昔に人としての感情なんて失くしてしまっているのだろう。そう錐波は思っていた。しかし、付き従うべき主人を失ってしまった彼女に、まだ悲しみの感情は残っていたようだ。
眩しい照明のスポットが、肉塊と化した白霧から、錐波たちへと向けられる。周りから複数の足音が聞こえ、先程建物内で相手した数など比にならない程の兵士たちが、ライフルの銃口をこちらに向けて近付いて来ていた。
そして空には、三機の武装ヘリコプターが、バラバラと騒音を立てながら滑空しており、こちらに照明を照らしつつ散開していた。機体の左右には、六本の銃身を持つM134、通称「ミニガン」と、円筒状のロケットポッドまで装備されている。おそらく白霧は、あのミニガンから放たれた7.62ミリ弾の雨をまともに食らってしまったのだろう。
「あぁああ、うぅ………」
悲しい呻きを上げて、犬走が扉の外へと歩いていき、白霧だった肉塊の前に膝を突いて、散らばった肉片をかき集め始めた。
そこへ、駆けつけた兵士たちが、犬走と錐波を捕え、うつ伏せに倒してライフルの銃口を突き付ける。犬走は主人である白霧の遺骸を拾うことも許されず、兵士たちに蹴り倒され、両脚を撃ち抜かれた。
犬走の悲痛な悲鳴がこだます中、錐波はうつ伏せにされたまま、かつて白霧だった肉塊へ目を向ける。
白霧霊廻――出会った最初、錐波は彼女のことを、ただの頭がトチ狂った変態だとしか思わなかった。
そんな白霧に、ひょんなことから目を付けられ、地下牢からの脱出に付き合わされ、ここに来るまでの約一時間、彼女と行動を共にした。たった一時間で、互いのことを良く理解するなんて無理な話だと思うかもしれない。
しかし、白霧のことを知るのに、一時間は長過ぎた。どこまでも乱暴で無鉄砲で、どうしようもないくらいに明るくて、眩しくて―― その圧倒的存在感は、まるで全ての中心にある太陽のようで、その眩しい光は、これまで影の中で過ごし、路頭に迷い続けていた一人の青年を照らし出した。
そうして、気付けばその青年は、彼女の背中を追っていた。これまで「真実の口」のせいで、ずっと心を閉ざし続け、どんなことにも興味を示さなかった彼が、生まれて初めて、他人の前で心を開いて見せた瞬間だった。




