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Opus.10 - No.2

 一方、地上階では、地下から聞こえた発砲音に異常を感知した兵士たちが、一斉に警戒態勢に入っていた。丁度時間帯が夜だったこともあって、夜間に奇襲を受けたような形となってしまい、情報が錯綜して半ば混乱状態に陥っていた。


 そして、その混乱を生み出した張本人が、地下へと繋がる出入口から飛び出してくる。まだろくに戦闘準備も整えていない兵士たちの前に現れた殺人鬼少女は、まるで子どもが遊ぶように両手に持った拳銃を振り回し、クルクルと舞を踊りながら、所構わず撃ち放つ。


 周りから見れば、明らかに狙いも定めずでたらめに撃ちまくっているように見えるのだが―― なぜか不思議なことに、彼女が撃った数分だけ、きちんと同じ数の死体が出来上がってゆく。背後から現れた敵も、白霧は振り返ることなく脇下から銃口を覗かせ、一発で仕留めてしまった。


「あははははっ‼ スゲェ、何だこれ! 面白いほどよく当たるぜ!」


 血飛沫のクラッカーが弾け、銃弾を受けた兵士たちは、反撃する間を与えられることもなく、一人、また一人と崩れ落ちてゆく。白霧は、流れた血で染まった赤い絨毯の上で、体をコマのように回転させながら、目に付く敵影全てを寸分の違いも無い正確なエイムで撃ち抜いてゆく。


 まさに曲芸とも言える射撃技を披露する白霧を見て、錐波はふと気付く。今、彼女が乗り移っている体は、元々毒嶋ぶすじま梨花りかという能力者のものだった。「クイックルショット」こと、毒嶋の能力は「百発百中の照準能力エイミング」。毒嶋も、まさか自分が死体となってもその能力を発揮できる日が来るとは、夢にも思っていなかったことだろう。


「あ! 弾切れっ!」


 マガジンに入った弾全てを撃ち切った白霧は、ホールドオープンした拳銃二丁を放り投げる。


 すると、その期を逃さんとばかりに、AK-47を抱えた兵士たちが白霧に向かって一斉射撃を開始。銃弾の雨に晒されながらも、白霧は間一髪で近くに立っていた柱の背後に滑り込む。休み無く降り注ぐ銃弾の雨に退路を塞がれ、身動きが取れなくなってしまう白霧。


 そこへ、狂犬と化した犬走が、兵士の一人に飛び掛かり、腕に噛み付いた。噛み付かれた兵士は悲鳴を上げ、引き金に手を掛けたままライフルを振り回した。狙いを外れて撃ち出された銃弾は、近くに居た仲間の兵士数人を巻き込み、同士討ちによって蜂の巣になった死体が地面に幾つも転がった。


 犬走の襲撃により混乱が起きた隙を狙って、錐波は傍らに倒れていた兵士の死体から別の銃を奪うと、すかさず白霧に放り投げて寄こす。


「おっ、サンキュ!」


白霧は受け取った拳銃を構え、柱から横滑りで飛び出すと、目に付いた兵士全員の脳天に鉛弾を見舞う。一、ニ、三、四、五発、立て続けに発砲。あっという間に、眉間を綺麗に撃ち抜かれた兵士の死体が五人分出来上がった。


 一方の犬走は、飛び掛かった男を手足でがっちり拘束すると、相手の首筋に噛み付き、肉を剝ぐように噛み千切った。男は首から血を噴水のように撒き散らし、まるでスプリンクラーのように体を回転させて、周囲を赤一色に染めた後、失血により倒れて動かなくなった。



 敵のアジトと思しき拠点は、十分も経たぬうちに、血と硝煙の漂う、死体が転がった地獄絵図へと早変わりした。――たった三人の、脱走者たちの手によって。


「何だよ、意外とあっけなかったな、こいつら」


 白霧はつまらなさそうにそう言って、撃ち尽くした拳銃をポイと投げ捨てる。


「いや、でも結構危なかった場面もあったけど……」


「そこは、お前らがしっかりフォローしてくれるって信じてたからさ!」


 そう言って呑気に笑う白霧。一方の犬走はというと、先ほど噛み付いて仕留めた男の首だけをぎ取ってきたのか、男の頭だけをくわえて白霧の元へと走って来ると、まるで戦利品をお供えするように彼女の前に首を置き、その場に「お座り」した。


「ぐるるるっ……あうあうっ‼︎」


「おっ、何だ来禍っち? 自分も頑張ったから誉めてほしいってか? いいぞいいぞ、ほ~れよしよし」


 白霧は犬走の白髪頭の上に手を置き、わしゃわしゃと撫でまくってやる。途端に目を輝かせ、「ハッハッ」と息を荒らげながら舌を垂らして喜びを表現する犬走。この破天荒な少女は、人を食らう狂犬すらも、簡単に手懐けてしまったようだ。


(君は、本当に何でもできるんだね……やっぱり、ボクとは大違いだ)


 錐波はじゃれ合う二人を見て、ふとそんなことを思う。


 ――この時、彼女について行こうと決めたはずの錐波の決心が、少しだけ揺らいだ。


「……別に、ボク無しでも、二人だけでここを脱出できたんじゃないの? ボクなんか、居たってお荷物になるだけだし、付いて来て良かったのかな?」


 何気なくつぶやいた錐波の言葉に、白霧はぽかんとした顔をして彼の方を見ていた。……が、やがて小さな溜め息を吐くと、錐波に向かって突き付けるように言葉を返した。


「……お前さぁ、実は本当の力を隠してたりするだろ?」


「………は?」


 唐突にそう言われて、錐波は素っ頓狂な声を上げる。


「お前の力は、両手に付いてるそのお喋りな口だけか? ――いいや、違うね。それだけなら、アタシたちと同じSクラスなんかには分けられなかったはずだぜ。もっと強力でヤバい力を、お前はまだ隠してる。自分がお荷物だって思うのなら、真の力をアタシの前で見せてみろよ? あぁ?」


 白霧にそそのかされて、錐波は言葉を失う。これまで子どものようにはしゃぎ回っていた彼女が、突然真剣な顔をして詰め寄ってきて、錐波の心臓はドクンと高鳴った。


「ほ、本当の力って……」


「あん? 何だよ、アタシの前では恥ずかしくて見せられねぇってか? ……つまんねぇ野郎だな、お前も」


 そうつぶやく彼女の声は、いつもと違って張りがなく、何処か不貞腐れているような、失望の色が滲んでいた。


(自分も、牢に残っていた奴らと同じように見られたのだろうか?)


 錐波は唇を噛んだ。


 自分の真の力……毒嶋にも話せなかった()()()を、ここで使ってしまって良いのか? 錐波は迷っていた。


 彼の脳裏に、過去のトラウマが蘇る。あの「惨劇」のことが思い出される。地面に転がる無数の鳥の死骸、割れた窓ガラス、両耳を抑えて泣き叫ぶ子どもたち。


(全部、ボクのせいなんだ……)


 絶望の波が、怒涛となって錐波の胸に押し寄せてきた、その時――

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