Opus.10 - No.1
錐波と白霧、そして犬走の三人は、淡い光を放つ裸電球の吊るされた廊下を駆けてゆく。通路の突き当たりに木製の扉があったが、白霧は足を緩めることなく突進し、勢い良く扉を蹴破った。
扉の奥は見張りの控え室だったらしく、中に居た迷彩服姿の兵士三人が、驚いたようにこちらへ振り返る。
どうやら、彼らのお楽しみ中に押しかけてしまったようだ。鉢合わせた兵士三人は、部屋の中に置かれた簡易ベッドの周りを取り囲んでおり、ベッドの上には、身包み全て剥がされ、全裸になった女の子が横たわっていた。
「おう、邪魔するぜ」
飛び込んできた白霧の一言に、兵士たちは一瞬固まったが、すぐに腰の拳銃を抜こうと動く。
しかし、不意を突かれた時点でもう遅い。白霧はさっき兵士の一人から奪った拳銃を向けると、相手が抜く前に続けて三発、彼らの眉間目掛けて撃ち込んでいた。
反撃も敵わず崩れ落ちる哀れな兵士たちの脳裏を最後に過ぎったのは、白霧の放った拳銃の弾と、どうして脳天に風穴を開けられた少女が普通に立っていられるのか? という一抹の疑問だったのではないか、と錐波は思う。
出来上がった三つの死体を前に、白霧はため息を漏らす。
「あ〜あ、アタシの元の体が! ちょっと抜けてる間にこの様だ! こりゃヒデェな。奴らも滅茶苦茶にやりやがったもんだぜ」
ベッドの上に横たわる全裸の女の子――もとい、毒嶋に乗り移る前の白霧の体は、兵士たちの手によって蹂躙し尽くされてしまっていた。全身は白濁で汚され、体のあちこちには青痣が滲んでいる。顔は散々殴られたのか、真っ赤に腫れてイビツに歪んでしまっていた。首元にも黒々とした濃い痣が浮き出ていて、遠くから見ると首輪を付けているようにも見える。
どうやら彼らは、白霧の体をレイプしながら、何度もそのようなプレイに身を興じていたらしい。もし普通の人間であれば間違いなく死んでいただろう。十六歳の少女の体は、これだけの拷問に耐えられるようには設計されていない。
「あはは、残念だったね。これはもう、元の体には戻れなさそう」
からかうように笑いながらも、白霧に同情を示してやる錐波。
しかし彼女は、「まぁ、でも気にすることはないさ」と、そっけなく答える。
「――実はさ、ここに寝かされてるこの体もアタシのじゃないんだ。本当のアタシの体は、他人から他人の体へ憑依を繰り返してるうちに、どれがどれだか分かんなくなっちまってさ。元の体だった頃の自分の顔なんて、とうの昔に忘れちまった。……この体も、元は他人様のもので、アタシのものじゃないんだ。綺麗な顔してたから、気に入ってずっと使ってたんだけどなぁ」
白霧はそう言って、兵士たちに汚された少女の抜け殻を物惜しそうに見つめていた。
白霧は、本来自分のあるべき肉体を、既に失ってしまっていた。だから、他人の体をとっかえひっかえしながら、彼女はその容姿を転々と変化させてきた。ある時は美貌を持つ少女に、ある時は屈強な兵士に、そしてある時は殺された死体に、様々な体を乗り換えることで、彼女――白霧霊廻は自己の存在を保っていたのである。
(彼女の本来の顔って、どんな顔だったのだろうか?)
そんな一抹の疑問が、錐波の脳裏を過った。その疑問の答えが出ることは、多分この先一生無いのだろうが。
控え室の奥には、もう一枚の扉があった。扉の向こうでは、兵士たちの驚く声や、銃の安全弁を外す音、そして駆け付けてくる複数の足音で騒々しい。
どうやら、銃声を聞き付けた仲間の兵士たちが集まってきているようだ。
「おうおう、大勢でお出ましみたいだぜ。何だか面白くなってきやがったなぁ! そう思わねぇか⁉︎」
一人勝手に舞い上がっている白霧を無視して、錐波は殺した三人の懐から拳銃を奪い、白霧に渡す。
「はい、じゃあ先頭は任せたね」
白霧はニッと口角を上げ、「おうよ!」と叫ぶが早いか、両手に拳銃を握ったまま、扉に向かって突進する。
突進された扉はひとたまりもなく吹き飛ばされ、支えていた蝶番が音を立てて弾け飛ぶ。
目の前には螺旋階段が上へと伸びており、既に数人の兵士が下へ降りて来ている最中だった。
白霧は二丁拳銃を構え、螺旋階段へ向けて立て続けに発砲する。
そして、発砲音が消えた時には、階段を降りて来ていた兵士たち全員、眉間に風穴を開けられた死体となって下の階に転がり落ちていった。
「オラオラッ! どんどん行くぜっ!」
白霧一行は、階段の上に積み重なった死体の山を踏み分け、地上へと駆け上がってゆく。




