表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約破棄っ、オムニバス

こんにゃくはき、するにゃ~。

 ここは魔界の片隅にある小さな国、”ケットシー王国”です。

 ケットシーは、“長靴をはいた猫”が有名ですね。


「ペルシャ侯爵令嬢、こんにゃくはきするにゃ~」

 トラ・ケットシー王子はひげをぴくぴくさせながらいいました。

 きれいなトラ柄の毛なみです。

 背の大きさは100センチくらい。

 小さなモーニングスーツを着ていました。


 いま、貴族学園の卒業式のパーティーが行われています。

 きれいなスーツやドレスを着た二本足で立ったネコ達が、王子様にふりかえりました。


「そして、ミケ男爵令嬢とけっこんするにゃ~」

 トラ王子はとなりにいたミケ男爵令嬢の腰を引きよせます。


「にゃあ」

 ゴロゴロゴロ

 小さな、布が少なめのドレスを着たミケがのどをならしながらトラの腕にすがりつきました。

 ミケは、つややかで、かんのうてきな、ミケ柄の毛なみをまわりに見せつけたのです。


「ニャア、そんなに、肌を出して、破廉恥はれんちですニャッ」


 ペルシャ公爵令嬢が、せんすで口元をかくします。

 ぎんいろにちかい白い毛なみ。

 顔とにくきゅうしか出ていない、きれいなドレスをきていました。


「どうしてですニャ」

 ペルシャがトラに問います。


「真実の愛にめざめたのにゃ~~」

「それに、ペルシャにゃんはミケにゃんをいじめていたのにゃあ」

 トラがいいます。


「ネコジャラシでもてあそばれたにゃ」

「ミケのお気に入りの昼寝場所をよこどりされたにゃ」

「鼻の前でレモンのかわをしぼられたにゃ」

「二階から落とされたにゃ」(←基本ネコだ。 三階から落ちても大丈夫。 ミケが窓の外を飛んでいたセミに襲いかかって落ちただけである)

「あやまったらゆるしてあげるのにゃっ」

 ミケがいいました。 


「そんなことはしてないですニャ」

「このこんにゃくは、王家と我が家の約束ですニャ」

「ネコ魔王さまは知っていますのかニャ」

 ペルシャがすましていいました。


「うにゃっ」

 ミケが、耳をふせて、口をあけ、したを少し出しました。

 ポカーンとした表情。

 ブレーメン反応です。

 ネコ(ケットシー)が、変なにおいをかいだり、うそをついたときにする反応でした。


「ミケにゃんがうそをついたというのかにゃっ」

 トラ王子が、ミケのブレーメン反応をかくすように、彼女の顔を抱きよせます。

 周りに変なにおいを出すものはありません。

 

 それを見たペルシャが悲しそうな声でいいます。

「……わかりましたですニャ、こんにゃくをはきしますニャ」


「わかってくれたか、ペルシャにゃん」


「もうこんにゃくしゃではないから、ペルシャにゃんと呼ばないのですニャ」

 ペルシャは、つんと顔をそむけ会場をあとにしようとした、そのときでした。


「話は聞かせてもらったのじゃ」

 小さな羽をばたつかせ、ネコミミ、ネコシッポの少女が飛んできたのでした。

 150センチくらいの身長、黒い髪、黒い目をしています。

 彼女は、ケットシーが種族進化して人型になれるようになった、”ケットシー・クイーン”でした。


「ネコ魔王さまっ」

「ネコ魔王さまにゃ」

「ネコ魔王さまですニャ」

 ニャ~ニャ~とネコ達が騒ぎます。


「ふむ、ミケよ、そなたのブレーメン反応はなんじゃ?」

 うそをついていることは一目でわかりますね。

 ネコ魔王さまは、空中で仁王立ちをしています。


「にゃ、にゃあ」

 ミケが耳を後にねかせました。


「ふむ」

 断罪劇もこのまま終わるところでした。



 ところがどっこい、ちょうどそのとき国をゆるがす大事件が起こったのでした。


「大変ですにゃああ」

 帽子に長靴 腰にレイピアをつけた衛士ネコが飛び込んできたのです。

「勇者の襲撃ですにゃああ」


 ケットシーはれっきとした魔物。

 しかし戦闘能力は皆無。

 逃げ足の速さとスキル“マネキネコ”でほんの少し幸運を人に分けることができるくらいです。

 勇者相手にひとたまりもありません。


 ネコ魔王様も似たようなものでした。


 トラとミケ、ペルシャがお互いを見てうなずきます。


「ネコ魔王さま、逃げてくださいですにゃ」

「ここはどうにかしますにゃ」

「勇者は魔王を見たらおそいかかる、おそろしい生き物ですニャ」


「そうですにゃあ」

「まかせてですにゃあ」

「逃げてですにゃあ」

 三人と同じように周りのネコ達もいいました。


「お、お前たち……」

 ネコ魔王さまが息をのみます。


「急ぐのですニャア」


「くっ、すまない、必ず帰ってくるからな」

 目に涙を溜めながら、ネコ魔王さまがネコ魔王城から飛び去りました。


「さあ、みんなっ、きがえるのですにゃ」

 トラ王子が大きな声でいいました。


「「「はいですにゃっっ」」」」


 オスネコは執事服へ、メスネコはクラシカルなロングスカートのメイド服へ着替えたのでした。


 ケットシー王国の基幹産業である、”ネコ魔王城、ネコ執事・ネコメイドカフェ”開店ですにゃっっ。


 フシャアアアア

 勇者が四つん這いで口から白い息をはきます。


「魔王はどこだああ」

「魔王はいねがああ」

 東北地方の某民俗色あふれるセリフを吐きながら、勇者がネコ魔王城の大広間に踊りこみました。

 ちなみにハーレム勇者です。


 そこには……


「お帰りなさいませご主人様あ、ですにゃあ」

「お帰りなさいませお嬢様あ、ですにゃあ」

 左右にずらりと並んだ、ネコ執事とネコメイド、なのでした。


「まああっ、一人持って帰ってもよろしいですか?」

 聖女です。


「か、可愛いっ、使い魔に欲しいっ」

 女魔法使いです。


「くっ、可愛いは、正義っ、なんだぜっ」

 女盗賊です。


「はっ、シロッ、シロなのかっ」

 勇者が、メイド服姿のペルシャに言います。

 スラム育ちの彼は、幼いころ唯一、白い野良猫に心を許していたのでした。


 ネコ執事とネコメイドの大群に骨抜きにされた勇者一行は、三日間ネコ魔王城に滞在し満足して帰っていったのでした。

 当然、有料ですよ。


 その後、ネコ魔王さまを失ったケットシー王国は解散し、世界中に野良ケットシーが拡散したのでした。



 ケットシーたちの可愛さと、スキル”マネキネコ”による幸運で、世界がほんの少し明るくなったのでした。

 

 めでたしめでたし。











 後日、ネコ魔王さまは異世界転移した少年と彼のSタンクと一緒に帰国するのですが、それはまた別の話でした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ