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過去

1年ぶりの執筆なんで勘弁してください。

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欠伸をしながら僕はふと窓の外を見る。夕暮れ時、あかねに染った空に、その黒い身体が映える。


鳥は良い。

自由に雄大な空を何処までも飛んでいけるその身体が、僕は羨ましく思う。


まあ、地に足をつけて歩く事すら不可能な僕は、脚が動くように祈る方が優先なのかもしれないけども。

こう言うのをブラックジョークと言うのだろうか。

どうしようもないほどにつまらなくて、ふっ、と笑みがこぼれた。


何時ぶりだろうか、笑ったのは。


自分でも幼い頃はよく笑う子供だったと思う。

両親と妹と僕の四人暮らしだった僕達は、平凡ながらも幸せな暮らしをしていた。

でも僕の家は少し変わっていて、あまり外に出る事を許してくれなかったのだ。

ある日それに耐えられなくなった僕は妹と二人でこっそり家を抜け出し、散歩をしていた。

散歩と言っても、たまに連れて行って貰える家からすぐ近くにある公園に向かうだけのものだ。

幼い子供二人にとっては、その散歩ですら冒険のようなものだった。

目に見えるもの全てがきらきらと輝いて見えたのだ。

そんな輝いた世界で、僕は視界の隅に黒く動くものを捉えた。

妹も見えたらしく、「それ」は僕たちの好奇心を刺激するのに十分だった。


にゃお、と小さな声で鳴いてみせたその生き物が、気になって気になって堪らなくなってしまった。


「お兄ちゃん。なあに? あれ」


「わかんない。けど、面白そうだよ!」


公園まであとすこしというところで、僕達はふらふらと「それ」について森の中に入ってしまったのだ。


黒い滑らかな毛と、呑み込まれてしまいそうな黄色の瞳を持った四足歩行の生き物の「それ」を追いかけ始めてしばらく経ち、とうとう見失ってしまった。


「あれ、どこに行っちゃったんだろう……」

華奢な身体中に何かも分からない草と枝をつけた妹がそう言いながら辺りを見回す。


僕もそれまで夢中で、その時ようやく身体に傷や泥がついているのに気がついたのだ。


「あれ、お兄ちゃん。ここ、どこ……?」


そして、僕と妹が同じ景色が続く森の中で迷ってしまったということに気づいたのも、その時だった。


「わかんない……けど、そんなに遠くには行ってないと思うから、早く出よう」

流石に好奇心よりも不安の方が強くなり、森を出ようとした。ちょうどタイミングの悪いことに、ぽつぽつと雨が降り始めた。





「お兄ちゃん、もう歩けないよ……」

しばらく歩いた後、雨で土がぬかるんだ事もあって疲労が限界を迎えそうな妹がそう言ったが、僕も自分の事で必死だったので、

「大丈夫、だから、頑張ろう」と、言う事しかできなかった。


もはや会話をする事すらままならない僕達は、目印になる一際おおきな木を見つけたのでその下で少し休憩を取ることにした。


「ねえお兄ちゃん。私たち、このまま死ぬのかな……」

三角座りで座り込んだ妹が暗い顔をこちらに向けてそう言った。

「大丈夫。きっと、なんとかなるさ」と、何ともなさそうに言った僕だったが、心の内では妹と同じ事を思っていた。


動けなくなった僕たちの目の前に、にゃお、と可愛らしい声を上げて向かってきたものがあった。


先程まで追いかけていた「それ」だった。


「それ」は、僕と妹を見て、警戒するでもなく、むしろ嬉しそうにこちらにやってきた。


「ほら、おいで」

妹がそう言うと、「それ」は嬉々として妹に向かって飛んだ。


いや、飛びかかったのだ。


妹は、反射的にきゃ、と言った。

次の瞬間、ぬるりとした赤黒いものが僕にかかった。


「──は?」


妹が「それ」に齧られている。

がしがしめきめきと音を立てながら、妹だったもの(・・・・・)を、食べている。物言わぬ骸となってしまった妹は、口を開けたまま「それ」に腸をかじられている。



「──あぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあ……」口から意味も無い言葉が漏れる。僕はせめて自分だけでも逃げようとしたのだが、腰が抜けてしまって、立ち上がる事ができない。


ほふく前進のように腕の力だけでぬかるんだ土を進む。

べちゃべちゃと音を立てて進んでいくが、やはり逃げる事はできなかった。


「があ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ」右脚に今までに感じたことの無い痛みが襲う。それでも何とか逃げようと、進むのはやめなかった。生きようと必死だった僕は、「それ」には酷く醜く映った事だろう。


左脚にも痛みが襲う。がじがじと齧られているのがはっきりと感じられ、死への恐怖がより鮮明なものになった。


「い゛た゛い゛! い゛た゛い゛よ゛!!」鼻水や涎を垂らしながらそんな事を泣き叫んだ僕は、本当に生きようと必死だった。


「──た゛れ゛か゛た゛す゛け゛て゛!!」



僕がそう叫んだ瞬間、轟音が耳を劈いた。


「ガァァァァァァ!!」と叫び苦しむ「それ」に、雷が落ちたのだと理解するのに時間はかからなかった。

やがて「それ」はピクリとも動かなくなり、灰のようになった。

「あり、がと、う……」遠のく意識の中、僕は誰に対してかそんな事を言った。




──改めて嫌に鮮明に思い出してしまった。

10年近く前の話にもかかわらず、16歳になった今でも忘れ去ることができないのだ。

僕は胃液が込み上げるのを理解し、すぐさまナースコールを押した。

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