幼馴染みが俺の家に不法侵入してたから、警察に連れてこうとしたら「彼女になる!」とか言い出したんだが
俺の名前は九路田隼人。
冴えない男子高校生だ。
俺は、勉強も中の中だしスポーツも普通。おまけに、彼女の一人もいないまさに、絵に描いたような「普通の高校生」だ。
だが、俺にも普通の高校生にはないようなことが1つだけある。
それは、とびきり可愛い幼馴染みがいることだ。
幼馴染み、それは男子の憧れの対象。
その響きだけで「米四杯は行けるぜ!」なんて言う猛者までいるざまだ。
さらには、とびきり可愛いということで中学生時代はいろんな男に目をつけられて苦労したものだ…。
だが、それも高校生になるまで。
高校入学と共に彼女とは疎遠になってしまった。
もう、2ヶ月は経つだろうか今頃どうしているだろうか。
少し悲しくもあるが、物語のように幼馴染みと同じ高校に通える確率など、たかが知れているので仕方ないと今では思っている。
結局、中学の頃に伝えたいと思った「好きです」という言葉もゴミ箱に投げ捨ててしまった。
そんなことを、考えていたら家に着いた。
俺の家族は兄弟がおらず、両親は共働きで帰ってくるのは日付が変わる前か後ぐらい。
だから、部活に入っていない俺が一番乗りに家に帰ってくる。
俺は、鍵穴に鍵を差し込み時計回りに手首をまわす。
ん?
おかしい。
いつもは、カチャリと音を鳴らすはずのそれがやけに静かだ。
反対側に手首を少しずつ回してみる。
すると、本来ならば鳴るはずのない音が鳴る。
「カチャ」
え?鍵が掛かってない?
最後に家を出ていくのは、たしか父さんだ。
父さんはすごく慎重な性格をしている。
そんな、凡ミスするはずが…
おそるおそるドアを開けて中に入る。
ないとは思うが、もしかしたら空き巣に入られているかもしれない。
俺はゆっくりとリビングのドアノブに手を掛けてバッと中に入る。
良かった、なにもいない。
引き出しが開けられていたりといったこともなく、俺が朝見たリビングと全く同じだ。
リビングが大丈夫なら問題ないだろう。
俺はそう思い、2階に上がり自分の部屋のドアを開けた。
すると、一人の可憐な女の子と目があった。
いつもは、その美しい髪をなびかせているのに、今は後ろで1つにまとめたポニーテール。
そして、ちょっとつり目で可愛らしいその目を大きく見開いてこちらを見ている。
そう、これが俺の幼馴染みである相原花だ。
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「で?君ここで何してたわけ?」
俺はあの後、「違うのこれは!」と、騒ぎ立てる花を正座させ事情聴衆を執り行っていた。
「あのね!ほんとに、違うの!私はただ…」
「はいはい、わかったから。なんで入ってきたの?」
「そ、それはその…」
「それは?」
「部屋が散らかってると思って掃除に来た?」
「なぜ、掃除に来た。そして、なぜ疑問文。」
花は昔から嘘を着くのが下手だった。
成績優秀で県内でも5本の指に入る公立高校に進学したというのに、俺の前だと嘘の1つもつけない奴なのだ。
「え、えーと。ごめんね?勝手に家に入ったのは…悪いと思ってるよ…」
力なくうなだれる花。
そんな、態度をとるのはズルい。
なんか、俺が悪いことしてるような気持ちになる。
「はぁ…どうやって入ったか知らないけど、ひとまず見逃してやる。だが、1つだけ聞かせてくれ。なにしてたんだ?」
俺は花の幼馴染みだ。
花が俺の家でなにをやらかしても、その罪を訴えたり、警察につき出すなんてことはしないだろう。
「そ、それはだから、お、お掃除とか?」
「嘘だな。」
全くわかりやすいやつめ。
「じゃ、じゃあ、夕食作りに来たとか?」
「それも、嘘だな。」
「じゃあ、プリン食べに来たよ?」
「それも、嘘…ん?」
俺の勉強机にちょこんと置かれたプリン。
しっかり「隼人」と名前が書かれているそれは、中身が空っぽだった。
「これ、食べたのか?」
「う、うん。」
「この口かぁああああ!俺のプリンを食ったのは!」
「いひゃい、いひゃいよ、やめて!」
俺は、花のほっぺを思い切りつねてやった。
俺が駅前で買ったプリンを食っているとはなんてやつだ。
「まぁ、食っちまったなら仕方ない。でも、プリンを食べに来たってのが本当の理由じゃないよな?」
「プリン食べに来たよ?」
赤くなったほっぺを手ですりすりしながら答える花。
だが、俺にはわかる。
これもまた、嘘なのだと。
「花、これ以上嘘つくなら俺にも考えがあるぞ。」
「か、考え?」
そう、花がやられてもっとも嫌がることそれは――
「花のお母さんにこの事を言う。」
「そ、それだけはだめぇぇぇえ」
半泣きで俺の胸元まで飛び付いてくる花。
そう、花のお母さんはめちゃくちゃに厳しいのだ。
花がなにかしでかすと「家にはもう帰ってこなくていいです!」とかいって、平気で追い出すのだ。
そして、そのたんびに俺の家に泊まりに来てたっけな。
もしかしたら、花のお母さんは家があるから追い出していたのかもな。
そんなことをぼんやりと思っていると花が意を決したかのような表情でこう告げた。
「はーくんと、最近会ってなかったから…恋しくて」
!?
な、なんだと。
これは、嘘か?
いや、花がこんなにも上手く嘘をつけるはずなどない。
じゃあ、今のはいったい…
俺があわあわと動揺していると花が続けてこう言った。
「わたし!はーくんの匂いがないと我慢できないの!」
「…は?」
股をスリスリ擦りながらうつむく花。
どゆこと?
「わたし、はーくんの匂いがないと生きていけないの。」
俺の直感が危険信号を告げている。
これは、あれだ。
変態だ。
よし、前言撤回しよう。
「花、警察にいくぞ。」
「!?」
俺は、この幼馴染みを世の中に野放しにできない。
だから、俺は花の母親をスキップして警察につきだす。
俺は、花の手を掴み自分の部屋から引きずり出そうとする。
「ちょ、ちょっと待って!誤解だよ!」
「誤解もなにもあるか!俺の匂いで発情するやつを社会に出すわけにはいかない!」
「は、発情!?そんなのしてないってば!」
「うそつけぇぇええええ」
俺は、抵抗を続ける花の肩を左手で掴んだ。
「さぁ、もう逃げられないぞ!」
「あぁ、もうわかったよ!」
「そうか、わかってくれ――――」
「はーくんの、彼女になるから!」
「…へ?」
彼女?
え?今、彼女になるっていった?
俺は、思わず花の手を離してしまった。
「わたし、ずっとはーくんのこと…いや、隼人くんのことが好きでした!」
俺の目の前で、顔を真っ赤にしてそう言った花。
「…嘘だろ?」
いや、俺は知ってる、これが嘘ではないことを。
花は嘘などつけないのだ。
「ほんとだよ!私、はーくんと高校が別になっちゃってずっと寂しかった…。だから、こうしてはーくんパワーを補給しに来てたの!」
はーくんパワーってなんだよ。
いや、そんなことよりも彼女は俺に思いを伝えてくれた。
だったら…
「俺も…花のことがずっと好きだったんだ。」
「…え?ほんと?」
今にも泣き出してしまうような目で見つめてくる花。
「あぁ、ほんとだよ。俺も花と別の高校になってずっと寂しかった。だから、俺と付き合ってくれないか。」
この思い。
一度はぐしゃくじゃにしてゴミ箱に捨てたはずの言葉を、俺はもう一度綺麗に広げて伝えることができた。
「…うん。よろしくお願いします。」
俺の胸に飛び付いてくる花。
俺は花の頭をポンポンと撫でながらこう告げた。
「でも、それとこれは別だからな。変態行為に関しては、さすがに警察には連れていかないけど花のお母さんには報告させてもらう。」
「なんでよおおおおおおおおおおおおおおお、なんでもするからああああああああああ」
そうして、ポコポコと俺の胸を叩く花。
「あはは、じゃあ夕飯作ってくれないか?」
ちょこんと、首をかしげる花。
だが、言葉の意味を理解したのか顔がパッと明るくなった。
「わかった!すぐ作るね!」
そういって、ドタドタと俺の部屋を出ていき家を飛び出していった花。
やっぱり可愛いな。
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1時間ほどして、花の手料理が出来上がった。
献立はハヤシライスに、野菜たっぷりスープ、そしてプリン。
「この、プリンどうしたんだ?」
「だ、だってプリン食べたらはーくん、すごく怒ったから…」
イタズラが見つかってしまった子供のようにそっぽを向いて答えた花。
どうやら、プリンを食べたことを反省しているようだ。
「確かに、怒ったけどこうして新しいプリンを持ってきてくれたからなもう怒ってないよ。」
「ほんと!?」
「ほんとだよ。それに…」
そういって、俺はハヤシライスを一口食べた。
うん、うまい。
「この、ハヤシライスもうまいしな。」
そういうと、花はニッコリと笑った。
すると、そこで花が「あ」といった。
「どうしたんだ?」
「あ、いや…」
どこか、躊躇っているような様子の花。
「ね、ねぇ…こっちはどう?」
スープを指して、チラチラと俺を見ながらそう訪ねてくる花。
「ん?スープ?」
そういって、俺はスープを一口のんだ。
やはりうまい。
「うまいよ。」
「じゃ、じゃあ…こっちはどう?」
そういって、ウインクしながら自分の唇に指を当てる花。
なんて、不器用なんだ…
顔を真っ赤にしてこちらを見ている花。
たぶん俺も今、顔が真っ赤なんだろうな…。
俺は少しずつ花の唇に自分の唇を近づけていった。
「んっ…」
これは、俺と幼馴染みとの始めてのキスだった。
最後までお読みになっていただきありがとうございます!
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カンソウモマッテルヨ