「乙女ゲーム小説」に関する一考察
「乙女ゲーム小説」
このテーマについては先人の方々が色々書いておられるので、今更私が何か言うことはないかとも思ったんですが。
でも思いついてしまったので(笑)。
尚、拙文は私の独断と偏見と片寄った知識による考察に満ちていますので、これが究極の結論だ、とかは思わないで下さい。
ちなみにここではパソコンやスマホでプレイするゲームを「乙女ゲーム」、なろうで隆盛を極めている乙女ゲーム世界を舞台にした小説を「乙女ゲーム小説」と呼称します。
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私も気がついたら乙女ゲーム世界を舞台にした短編を書きまくっていたわけです。
ですが私、「乙女ゲーム」なるものはやったことがありません。
私は男ですのでギャルゲーはいくつかやりましたが、好感度とかイベントとか面倒くさいのは苦手なのでそんなに多くはやってません。
なので私のそういう分野に関する知識はほぼ「なろう」だったりします。
いつの間にかテンプレというか基本設定が出来ていて、ヒロインがいて攻略対象がいて悪役令嬢がいて、という構造が当たり前みたいになってます。
これだけの材料が揃えば後は書くだけだ、ということで書きまくっていたんですが、感想を頂いているうちに気がつきました。
私の書いていたのって何なの?
少なくとも「乙女ゲーム」じゃないよね?
色々な方に教えて頂いたところ、いわゆる「乙女ゲーム」は乙女ゲーム小説と次の点で違いがあるようです。
①「乙女ゲーム」には悪役令嬢ってほとんど出てこない。
②露骨な虐めもないし血なまぐさい展開もない。
③悪役令嬢がいないんだから修道院行きもない。
④逆ハーもほとんどない。
⑤「ざまぁ」がない。
私が教えて頂いた所によれば、上記の要素がある乙女ゲームは存在するかもしれませんが少ないということでした。
そもそも恋愛ゲームなので誰かを虐めたり虐められたり、あるいは人を貶めたりするのは御法度でしょう。
RPG風のものもあるらしいのですが、その場合でも「弱い立場の者を一方的にいたぶる」的な展開はなさそう。
考えてみたらギャルゲーというか美少女ゲームにも悪役令息とか退学とかなかった気がする。
主人公がやってるのは美少女の好感度を上げてモノにすることだけで、別に誰かと争ったり陰謀を暴いたり、あるいは虐めに耐えたりすることではなかったような。
ですが、現在「なろう」でランキングを席巻している「乙女ゲーム小説」は①~⑤の要素を全部揃えています。
ていうかだからこそ乙女ゲーム小説と言えそうな。
例えばここに悪役令嬢もヒロイン虐めもざまぁもない乙女ゲーム小説があったとして、それってウケるかというとまず駄目でしょう。
気が抜けたサイダーみたいなもので、美少女ヒロインが王子様に惚れられるだけ、という青春小説ですらない、何か幼児向け絵本みたいなものになってしまう。
ところで余談ですが、私の小説に感想を書いてくれた方によれば、実際の乙女ゲームにはそもそも王子様とかあんまり出てこないそうです(笑)。
出てきたとしても、学園で生徒会長やってるようなキャラじゃなくて立派な大人でちゃんと働いているとか。
平民上がりのヒロインが色々苦労して貴顕に惚れられる、というのは、どうも乙女ゲーム仕様ではなさそう。
そもそも貧乏なヒロインとか自体、古すぎ?
というわけでここからが私の考察なんですが、「なろう」で乙女ゲーム小説群というかもうジャンルが流行った理由です。
これ、ハイブリッドなんじゃないでしょうか。
つまり、色々ウケそうな要素を詰め込んだキメラみたいなものだということです。
ひとつひとつ説明します。
①学園でヒロインや悪役令嬢が入り乱れて愛を争う。
これは物凄く古典的なテーマというか構成で、私が思いつく一番古いものとしては「源氏物語」かな。
もちろん学園じゃなくて宮廷ですが、源氏物語の舞台はまさに乙女ゲームなわけです。
天皇や公達とお妃様や女房がドロドロなアレを繰り広げるお話で、誰がヒロインとか悪役令嬢とかは別にして、中身はまさしく乙女ゲームの学園?
源氏は美少女ゲームの主人公ポジションですが、ヒロイン視点でみたら乙女ゲームになりそう。
②学園でヒロインが虐められる。
考えてみたらありました。
バーネットの「小公女」。
やさしい美少女が全寮制の学園で教師や生徒に虐められるというストーリーってもう、露骨に乙女ゲーム小説では?
悪役令嬢ポジの人(ラビニア)もいればお助けキャラ(アーメンガードやベッキー)もいる。
ラスボスはもちろんミンチン先生。
しかもこのヒロイン、最後は「ざまぁ」までします。
もうこれだけでいいくらいです。
※ただし原作ではミンチン先生は改心して無事らしい。
ただ問題はこのヒロイン、男がいない!
いや優しいおじさまは出るんだけど、ちょっと現代では倫理的にアレな気がする。
歳が離れすぎてるもんなあ。
それでなくてもセーラはロリ疑惑が高いしクリフォードは30代だもんね。
あの時代はそれでもOKだったみたいだけど。
③ヒロインが貴顕に見初められる。
これはもう、誰が何と言おうが「シンデレラ」でしょう。
ヒロインが虐められる要素付きです。
ただし学園じゃなくて実家でですが、その辺は「乙女ゲーム小説」のヒロインや悪役令嬢の設定で生きています。
乙女ゲーム小説のヒロインは孤児院とか貧しい中で育って色々と苦労するのが基本だし、悪役令嬢って公爵家の正統な令嬢なのになぜか政略結婚した父親とか後妻で入った義母とかに虐められる。
かなり無理がある設定なんだけど、シンデレラと思えば納得出来る?
ちなみにシンデレラにしろその係累にしろ、大抵のヒロイン見初められ話では逆ハーなどの要素はないようです。
王子は伴侶を選ぶ側なのでヒロインはよそ見している余裕がない。
尚、ヒロインが愛と勇気じゃなくて「庶民らしい無邪気さ」とか「高慢な貴族令嬢にはない素直さ」で王子(や攻略対象)のハートを射止めるのは、むしろ苦肉の策かもしれません。
だってシンデレラもそうですが、美少女以外の特質ってなさそうだもんね。
知識も頭脳も見識も何もないんだかしょうがない。
④婚約破棄およびざまぁ
これはもっともありふれたパターンで、最初に思いつくのは「水戸黄門」でしょうか。
弱者が悪者にとどめを刺される寸前に正義の味方? が介入して悪が滅ぶという。
ヒロインが主人公の場合は王子様が悪役令嬢に婚約破棄。
悪役令嬢が主人公の場合は隣国の王子とかが味方になってくれて水戸のご老公じゃなくて王様が断罪する。
ウケ要素だけですね。
⑤悪役令嬢が修道院に行く。もしくは処刑。
具体的な話は思いつかないんですが、昔の童話なんかは大抵悪役が滅びます。
修道院なんか優しい例で、真っ赤に焼けた靴を履かされて死ぬまで踊り続けるとか悲惨な最期がむしろデフォルトだったりして。
悪役令嬢の最後が修道院じゃなくて追放とか斬首とかなのはここから来ているのかも。
思いつくのは大体これくらいですが、ここまで来ると結論が見えてきます。
「乙女ゲーム小説」は乙女ゲームの設定を元に換骨奪胎してウケ要素だけを詰め込んだ究極のウケ小説だった!
要するにアレです。
CMやキャンペーンみたいなもので、大衆ウケを狙ったジャンルということです。
偶然出来たのか、あるいは誰かが(運営?)流行らせたのかは判りませんが、現在「なろう」のPVを底上げしている事は確かです。
私もつい、読んでしまう(泣)。
ということで結論:
「乙女ゲーム」と「乙女ゲーム小説」はまったくの別物である。
以上
あくまで私の「意見」ですので(笑)。