船乗り募集
うちのお店はチェーン店で、普通に『一般人』の皆様を仲間として迎える
裏事業のことは知らなくても
人手がたくさんほしい部門が数えきれないほどあるからだ
だが選び抜かれた船乗りは違う
それこそ出世街道を争い合うエリートたちが切磋琢磨し合ういばらの道なのだ
簡単に採用されるわけではない
まさか偶然そんな世界を知った俺が勝手にエントリーされてるなんて思ってもみなかったわけで、、、
ようやく慣れてきた出勤
いつものように厨房へ向かう
「 おはようございま~~す 」
昼勤だろうが夜勤だろうが当たり前に言えるようになってきたのは
大人の通の世界に慣れてきた嗜みだろうな
なんでもない顔をしながら格好をつけて厨房へ入る
うん 普通に考えてかっこいいよな
夜勤なのに「 おはようございまぁ~す 」って気だるげにゆーんだぜ?
かっこいいに決まっている
ポケットの中で健身球をごろごろ回す
「 う~~あ! おあお~! 」
そしたらこれだ 飛びかかる前の猫みたいな姿勢で挨拶を交わされる
ドラマチックな1日の始まりに、飛びかかる前の猫みたいな姿勢で返答が返ってくるんだ
、、、猫め! 怖いんだよ
このヒト、 以前にも増して呂律が退化してないか、、、
今日の出だしがこいつかよ、、、 凶だな!凶! 凪折りさんを出せよ
出勤する際、
「 その日、誰と最初に職場で1番に出会えるか占い 」を誰しもがしたと思う
今日1日のテンションが決まる大事な出来事だ
少なくとも10代の若者にとってはとても大事なことなのだ
共感できない、または若人の感覚を忘れた老人は去れ
「 安玉割さん、おはようございま~す 」
内心を表情に出さないよう、 何食わぬ顔をして挨拶を交わす
まぁ、これが働いたこともないペーペーから社会人へ至る道だよな
そして、この人と日々顔を突き合せれば突き合わすほど進化論は仮説だったことに日々確信を得る
ダーウィンの面汚しめ なんで日々言語能力を失うんだよ
『 やはり進化論は仮説だった 』
第二次 YOUダYA教に大ウケしそうなネタだ
あいつらは証拠を目の前にしても進化論をきっぱり否定する
i love ya チャンスをくれた神様に感謝
日本ビトとして新たな発見を、
俺があいつら派の学会に提示できるチャンスにほくそ笑む
最低でも全世界に数十億人だ これはバズる
だがまだだ まだ観察が足りない 確たる証拠が足りない
フィジカル的には逆らってはいけない先輩なので後輩らしく挨拶をする
いずれ、 完全に言語能力を、 意思疎通力を無くした時が勝負だ
この生き証人をネタにバズってやる
こいつを見てみろよ 進化論は仮説だ
鏡に映る自分を何度も確かめる
どうしたらかっこよく美しく自分を魅せられるかな
いずれバズる未来を想像し、映えるポーズに時間を投資する
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出勤時のいつものくだらない社交辞令を終えた後、
ロッカールームへ向かい、着替える
俺たち Golden Age からすると、3 ~ 4 日前は結構昔のことだったりする
どんよりと鈍く生きているおっさんからすると、『 俺ら 』が言う『 昔 』は数秒前の出来事のように感じるらしい
鈍爺の言う数週間前なんて『 俺ら 』からすると、
実は旧石器時代の話だった , , , なんてことはよくある時代錯誤ネタだ
『 今 』を精力的に生きる若者からしたらたった1週間前でも大昔なのだ
1個上、2個上の先輩なんてもはや おじさん おばさん なのだ
話を戻そう 1週間前よりもさらに大昔のこと
今を精力的に生きる俺が、現実を知らずに少し悪ふざけをしたことがあった
職場の雰囲気に慣れてきた頃に、ちょっとふざけておちょくりやすそうな先輩をおちょくる だって『 ら行 』が言えないんだ 普通に考えておかしいし笑える
当たり前におちょくるだろ?
「 き、 昨日までは『 ら行 』は言えましたよね? 、、えへ 」
「 フライは上がってるぅ?! 」
「 オーダー3のドリンクはLのコークねっ 」
「 ナゲット15ピースっ オーダー5!! 」
途切れることのないオーダーに激しい指示が飛び交う厨房
その厨房が その厨房が その一瞬だけ シン とした
気が付くと厨房が騒然とし、
おーーいっ!! 戻ってこい! 戻ってこい!!
とにかく謝れ! とぉにかく謝れっ!
お客様の中に お客様の中にお医者様はいませんかぁ?!
大合唱だったことをうっすら覚えている
どうやら意識を失っていたらしいし、 多分帰ってこれたらしい
その時に顔が少し変形したし、いくつか差し歯にもなった
、、、なんで厨房に大型の猫がいるんだ 、、、?
ナックルを丸め、ペロペロ舐めたかと思ったら 眉毛をゴシゴシしていた
厨房に猫がいるのは多分不衛生だろ なんで猫がいんだよ
きったねぇなぁ 毛がフワフワすんだろうがよ
を, , , ヲでぇ 生まれ変わったらぁ にちゃあ
を, , , ヲい ヲ医者さまぁにぃ ナ, , , なりリ なりたかったんだぁ
て テーザー銃ぅぅ 打ってみたかったんダぁあ!!!
!! お医者様なんですね?! お願いしますっ
バシンッ バシンッ バシンッ バシンッ バババババっ
、、、 今も記憶が曖昧だ
店舗の隅で、 日々水とポテトしか注文せず、
8時間近く居座るあいつは『 自称 』医者だったらしい
とにかく一命はとりとめた か 、、、感謝?
一応、感謝すべきなのだろう だが、
AEDのことをテーザーとかゆっちゃうやつってどうかと思う、、、
ボディカムの導入と、それをちゃんと公開する制度を切に願う
まぁ 色々あって、 そーやっておちょくった日々が続く中、
たまに安玉割さんが真顔で俺を観察してくることがある
真顔で、じっっっと、、、
なんだかよく覚えてないがそれ以来、このヒトと目が合うと体が震える
慣れてなかった頃は 『 え、なんで、、、震えるの、、、? 』
一種の働かせすぎホリックだの、五月病かと思った
っていうか飛びかかる前の猫って 見ただけで緊張感が高まんだよな
こえーからドブのねずみでも追っかけてればいいのに
お皿洗いの単調な時間、、、
ホールにヘルプで急遽注文を取る金曜日、、、
ホールに行ったり、皿洗いをしたり、
忙しすぎて頭が真っ白になるバイトの日々、、、
記憶にある限りではいつも悪ふざけで先輩を笑う
忙しすぎてハイになるのだ 皆だってそうだろ?
そういう「 空間 」を一緒に過ごすとさ、逆に楽しくなってハイが加速する
ハイな気分のせいで少しおふざけ発言をする 皆が忙しすぎて1つになる
普通はそうやって一体感が昇華されてくんだ
え? 違うの? え 、、、そうだろ?
一応、結果としてここは違った 残念ながら違ったんだ
忙しすぎて、皆の気持ちが1つになってさ
年とか関係なくさ おふざけ発言をして激末を乗り切るはずなんだ
ほんとはそうなんだよ、、、
でも、 その後になぜかここでは記憶が抜け落ちる
抜け落ちた記憶が未だに回復しないせいか、いまだにおちょくりたい気持ちが芽生えてしまう その繰り返しだ
だが、 そんなことを繰り返すうちに、
いつの間にか ただ『言葉』を発しようとするだけで身が震える
いつの間にか 前後の記憶がいつも失くなっていることに気づく、、、
そんな記憶の抜け落ちを『 恐い 』と感じるようになってから、
『 先輩の顔を立てる 』が身についてきた
ある日、安玉割さんが言う
「 おうおろおろ、えんあついえんだなぁ~、、、 えっえっえっ
う~あ、 あんあえぅよ ? 」
( もうそろそろ選抜会だなぁ ハっハっハっ ゆーが、、、頑張れよ? )
多分、えっえっえの部分は笑っていたのかな、、、ってなんとなくわかった
この人、相変わらず退化してんなぁ~
なんで前歯が1本ないんだよ
、、、ふふ
そして意識を手放した
速ぇーよ!! 今のはフライングだろっ!
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たまに意識を飛ばすことにも慣れてきた頃に
店長の夜落としさんが言う
「 ゆうがは見込みがあるからうちとしても今後も一緒に働いていきたい
一般入社でもいいけどゆうがにヤル気があるなら選抜試験を受けてみないか? 」
いつも無精髭がチョロチョロと生え、
いつも気だるげ
だがなんだかんだいったってこの人の指揮、実力はすごい
そんな夜落としさんに褒められるとその気になってしまうというものだ
「 お給料、 高いよ? 」
この一言だよね
慣れてきたとはいえ、こんな訳のわからない世界
さらにもう一歩おかしな世界に踏み込むかもしれないのにこの一言は強烈だ
「 店長、 自分 受けてみたいと思います! 」
そして今、
異世界にある本社、『バース』にいる
$$$$$$$ 前日のバイト上がり $$$$$$$$
はじめは困惑だらけだった
「 旅費はもちろん会社持ちですよね? 」
「 どの県? 」
「 自分で予約をとって現地に向かうの? 」
「 何日間の研修なの? 」
初めての外泊でいろんな質問があったけどたった一言で黙らされた
「 だまれ 」
がんぎまり 犯罪を犯すことに抵抗感のない眼力でパイセンが睨みつけてくる
こいつは『 パイセン 』
俺の脳みそのシワとして居住権を得ることはできなかった人物だ
故に名なんて覚えることはない パイセンで十分だ
『 パイセン 』として覚えてあげただけでもシワに感謝してほしい
〇ロスゾ?
〇ロスゾ ⤵ ? じゃなくて 〇ロスゾ ⤴ ? だってさ
ってか ゾ と "⤴ って似てる ツボる 日本語検定試験に出題してほしい
間違いなく間違えるだろう
Oh ~~ NOっ!!! とか叫ぶ外来種のつらは想像するだけで飯うまだ
、、、現実から逃げてた脳みそを呼び戻す しっかり仕事しろ
意識を取り戻した先にあるのはドアップな顔面だ
意識を取り戻した先にあるのはパイセンの奥二重
色彩さえも数えられそうな距離に近づくきれいなきれいなお目目
ひとぉつ ふたぁつ みぃっつ、、、 よぉ っつ、、、
ついつい数えてしまう 、、、だが急に我に返る
あぁ やだやだ こいつに必要なのは聖書だ 数えてあげることじゃない
こいつのこ汚い瞳孔のシワを数えるなんてバカらしい バカがすることだ
今や見かけなくなった猫じゃらしのように、
上下左右にふわふわ軽快に首を揺らしながら今もにらみつけている
、、、こいつ、 多分まだ首が座ってないのかもしれない
首の座ってない大人系幼児がゆらゆら殺害発言をかましてくるんだ
その手の市場では需要があるかもしれないが我が社にはその需要はない
だが、問答そのものを放棄する威圧的かつ武力的な音程に、
純粋な疑問は問答無用で封殺される
疑問から問いへ、問いから理解へ、理解から共感へ、
そこから生まれたはずの平和が、笑顔溢れる世界が、
威圧的かつ武力的な音程によってその扉を閉ざす
わかりやすさに原点を置き、
なおかつたった漢字制度3文字だけで意思疎通を可能とする音程
聞くところによると、産まれて初めての第一声がこれだったらしい
おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ じゃなかったんだって
これだから北関東生まれは嫌なんだよ
周りはのどかな風景ばかりなくせにバトル気質がやたら高い
どこが農耕民族なんだよ
「 だ、、、だまれ、、、 あえ?? 」
御社への志望動機:『 つまるところ世界平和のため 』
色々考えた結果、わかってもらえると思っていた面接は見事に落ちる
そんな感覚がフラッシュバックする
初めての外泊、
初めての飛行機、
初めての大人の世界の研修、
いろんな初めてが、 この一言であっけなく吹き飛ばされる
だって歴戦の先輩やパイセンがそういうんだもん
そうするしかない
そして凪折りさんが横から優しくフォローする
「 明日起きたらわかるからさ、 だまれ 」
、、、それだけで凪折りさんの優しさが伝わる
きっと明日目が覚めたらどうにかなっているんだろうな、、、
それだけ凪折りさんの言葉にはだまって納得させられるだけの重みがある
「 凪折りさん! 明日! 俺!! 頑張ります!!! 」
ほのかに感じてもらえただろうか この想い。。。
恥ずかしいけど精いっぱいの自分の気持ちを凪折りさんに伝わるように気勢を吐く
好きです 、、、溢れ出た想いがほほを濡らす
きっと明日の朝には迎えがきたり、
何かしらの手配が大人の世界ではすでにされているんだろうなぁ~~~、、、
そう思いながら深夜25時
高ぶる気持ちがようやく落ち着き、まどろむ意識を引き連れて眠りについた、、、




