溺死揚げ
じゅわっ
じゅわ~~~~~~っ
揚げたての凄まじい香りが厨房を包む
オエッ
おぞましい、、、
ナゲットといえばBBQだのマスタードだのをつけてお口に放り込めば
大絶賛間違いなしだった一品なのに、、、
煮えたぎる油がじゅわじゅわ音を立てる
細身だが喧嘩を売られたら尻込みしてしまうであろうガタイのいい人間っぽい鳥が首根っこをつかまれ油の中でゆでられている
ぷりんとしたお尻にホイップクリームをさりげなく乗せた感じの尾が憎い
高温の油の中に頭からぶち込まれぴくりとも動かない人間っぽい鳥
揚げ物担当者は自身の腕さえも煮えたぎる油に手をぶちこみ、
意も介さずじっくり揚げている
瞬きぐらいしろよ!!!
油の中に手を突っ込み、おいしく揚げる頃合いを熟練のプロの目がとらえる
「熱いよ。
熱いけどな。
でもじっくり揚げることがコツなんだ。」
字面だけ見ればさも歴戦の料理人のようなことをいう溺死揚げさんだが絵面が怖い
その熱い眼差しはまさに揚げ職人
温度、首根っこのつかみ具合、肉質、
たくさんの経験をもとに昇華されてきた技術が感じ取れる真剣な眼差しで
高温の油に腕ごと鳥頭をぶち込む
怖ぇ~~~よ!!!
溺死揚げさんは肘から下の毛はほとんどない
あんな高温の油に腕を突っ込めばそうなるのは当たり前だ
もちろん長年高温の油にさらされたであろう肘から下の腕はいつも真っ赤だ
なんでそれだけで済むんだよ!!!
なんなら少しずつ、だけどうっすらうぶ毛が生えてきている
この人の毛根を砂漠に埋めてみたい
なんか砂漠化の進行を止めれそうだもん
なんだかんだまだまだ学生気分の抜けない成り立て社会人だ
大人を極めるとこーゆー人もいるのかもしれない
YouTuberとかでいそうだし、、、
そう割り切ってしまうことに慣れたのもここ最近だ
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溺死揚げさんとの出会いは初めて異世界の存在を知った初日からだ
異世界野生動物の衝撃がすごかったせいか、初めて見た時はとても頼りなく見えたのを覚えている
気が付いたら目の前に見えたのは青い空だった
風が心地よく流れ、見渡す限りの草原
ちょっと読むのをやめて想像してみてほしい
気が付いたら草原なんだ
「えっ、、、」
ってなるでしょ
課外授業??、、、
いやいやいや、
最近学校行ってないし、、、
、
、
、
ニートの俺に対するドッキリ?、、、
いやいやいや こんな草原、家の近くにないし、、、
考えても考えても今自分がここにいる理由がまったく思い出せない
そして畳みかけるように初めての邂逅
ー ー ー ー ナゲットだ
はじめはコスプレなのかともった
細身で170前後
黄色い嘴に要所要所が羽で覆われている
だが、「あぁ~、これがいわゆる細マッチョだな」って思っちゃう仕上がり
でも人生経験不足な俺でもわかる
「あ、危ない大人だ、、、」
あんなかっこを恥ずかし気もなくやってのける度胸
しかも一人(一匹)
後に思えば運が良かったのかもしれない
そいつは「みゃお~~~!!!」と叫びながらとんでもない速度でこちら目掛けて走ってくる
「鳥じゃないんですか!?」
と思った時にはゆうに2mは吹き飛ばされた
頭がグワングワンして、
立つのもきつくて、
吐きそうだったのを今でも覚えている
「大人がこんなことしていいんですか!
警察呼びますよ!
録画しますよ!」
初めて怖いと思った
世の中こんな人がいるんだな
精いっぱい法治国家の特権を叫ぶ
「にゃあ~~~~~お! おっ! おっ!」
この変態は意にも介さず体当たりからの馬乗りついばみをしてくる
つねられる
そんなもんじゃない
まさに食べるためについばんでくる
あまりの痛さ、自分が食べられるという初めてのことに頭が真っ白になる
震えて体に力さえも入らない
「にゃ~おっ! にゃおっ! にゃおっ!」
まるで当たり前のように二の腕や太ももなど柔らかい部分をついばんでくる変態
つねられて肉が千切られる
つねられるだけでも痛いのに引きちぎられるわけだ
死ぬ
そう思った時に現れたのが溺死揚げさんだった
「ん? 今日は新人が入る予定だったか? 今Dポイントだが誰かいるぞ?
えっ、、、 そうなのか、、、 そうかぁ、、、 迷い人か」
やわこい部分を引きちぎられる中、そんな会話が聞こえた
「た、助けてください! この人おかしいです! へんなんです!!」
俺はそれはもう必死だった
「笑 もう大丈夫だから」
そこからの風景はいつも通りだ
、、、はぁ 気だるげに腕のシャツをまくり上げる
トッ トッ トッ 、、、ダン!!
そんな速度で走り寄られたら誰だって怖いわ!って走度で溺死揚げさんが鳥頭の首根っこをつかみ、引きちぎられる俺の二の腕を気にもせずに強引に引き上げ
『地面にたたき伏せる』
ずどぉぉーーーーーーん
引きちぎられるお肉の痛みも吹き飛ぶような衝撃で地面を二転三転転がる
あぐぐ、、、
よろよろと起き上がりながら周りに目を凝らす
さっきまで散々いたぶってくれた鳥頭の首部分だけが地面に埋まっている
掴んだ部分が首だったからなんだろうな
首骨だけは地面にめり込み、頭は青い空を見上げ、
ホイップクリームをのっけただけのキモい体は痙攣ダンスを踊るだけのオブジェとなっていた
え、、、首ってあんなに伸びるんだ、、、
首部分が力いっぱい地面に埋め込まれたらこんな感じに仕上がるんだろうな、、、
急速展開なストーリーに痛みを忘れしばし唖然とする
「こいつらはな、じっくり揚げることがコツなんだ」
がっちり首根っこを抑えながら料理のコツを喋るかのように先輩は優しく微笑んだ
稀にいるらしい
理由もなくマケドの世界に迷い込んでしまう人
本来なら適正な試験を受け、
優秀な結果を残せるであろう逸材にしか公開されない世界
改めて言おう
マケドの夜にこんにちはと、、、