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04 王女すらもひれ伏す

 アーサーは喧噪を離れ、クレインの王都を一望できる高台の上に来ていた。

 ここは彼にとっては秘密の場所で、幼い頃から嫌なことがあるとここに来て気分転換をしていた。


 王都からこの高台までは結構な坂道なのだが、らくらくと頂上まで昇ることができた。

 アーサーは今さらながら、自転車の登攀性能に舌を巻く。


「いつもは汗だくになって登る道が、まるで下り坂みたいにラクチンだった……

 これが、自転車の力、か……」


 そして彼は改めて、聖輪エクスキャリバーを眺める。


 エクスキャリバーはいわゆる『ロードタイプ』の自転車でった。

 X字型の独特なフレームに、猛牛のツノのようなドロップハンドル。


 ハンドルの中央には、長方形で薄い石板が設えられている。

 この石板はなんだろうと思っていると、表面がいきなりパッと明るくなった。


 そこには、こんな文字が浮かび上がっている。



『走行距離が10キロを越えたので、レベルが1アップしました!』



 走行距離というのはおそらく、このエクスキャリバーで走った距離のことだろう。

 しかしもうひとつの単語が意味不明だった。


「レベルアップ? なんだそりゃ?」


 アーサーが石板の表面に触れてみると、表示が切り替わる。

 そこには、ギルドのステータスクリスタルにありそうなものが映っていた。


-------------------


アーサー レベル2 (残スキルポイント2)


 サイクルアーツ

  0 ブレイドダンス

  0 ロードキル


-------------------


「スキル? もしかしてエクスキャリバーも人間みたいにスキルの概念があるのか?」


 独り言を続けながら『ブレイドダンス』の項目に触れてみると、『残スキルポイント』が1減る。

 かわりに『ブレイドダンス』の横にあった『0』の数値が『1』になった。


 その途端、スキルの説明らしきウインドウが立ち上がってくる。



 『ブレイドダンス』

 騎乗戦闘においての技術を得る。



「もしかしてこのスキルポイントを割り振ることにより、スキルのが使えるようになるのか?」


 アーサーは半信半疑のまま、『ブレイドダンス』の下にあった『ロードキル』の項目に触れる。

 すると、やはり説明が。



 『ロードキル』

 自転車による体当たりの威力を増加する。



 さらに触れてみたが、スキルポイントを使い切ってしまったのでもうなにも出なかった。

 アーサーはなんとなくではあるが、この仕組みを理解する。


「そうか、走った距離に応じてレベルアップして、レベルアップするとスキルポイントが増えて、スキルを習得できるようになるってことか」


「おーいっ!」


 ふと甲高い呼び声が割り込んできて、アーサーは石板から顔をあげた。

 すると大型犬タイプの獣に乗り、えっちらおっちらと坂を登ってきている少女が目に入る。


 彼女はアーサーの幼なじみで、このクレイン王国の第13王女の『ポメラ』だった。

 金髪ツインテールをリボンで結った、性格、顔立ちともに強気な美少女である。


 そしてアーサーだけの秘密のこの場所を知っている、数少ない人物でもあった。


「やっぱりここにいたのね! アンタ、旅に出るって本当!?」


「耳が早いな。ということはもう自転車(コイツ)のことも知ってるのか」


「っていうかアンタが自転車で街中を走ってるとこ見たわよ! もうビックリしちゃった!

 っていうかなんでタメ口なのよ!? アンタ使用人でしょ!?」


「俺はもうペンドラゴン家の使用人じゃない。

 もう自由の身だ。だからお姫様だからって遠慮はしないことに決めたんだ」


「自転車に乗れるようになったからって、偉そうにすんじゃないわよ!

 アンタはアタシの下僕だって言ってるでしょう!?

 なんで自転車に乗れるようになったことを、真っ先にアタシに言わないのよ!?」


「下僕じゃない。俺のスキルをなんでお前に報告しなきゃいけないんだよ。

 それにお前は今日、ペンドラゴン家のヤツと結婚するんじゃなかったのかよ」


「そりゃアンタがセットだっていうから、仕方なく……!

 いや、アンタを死ぬほど羨ましがらせたかったからよ!」


「なんにしても、俺は旅に出ることに決めたんだ。

 もう会うこともないだろうさ」


「なに言ってんの、アンタみたいなひとりじゃなにもできないヤツが、旅なんて無理に決まってるでしょ!

 せめて、アタシみたいな有能な主人が……」


「お前と主従関係を結ぶつもりはない。今までも、そしてこれからもだ」


 アーサーからキッパリと言い切られ、ポメラは「ぐっ……!」と歯噛みをする。

 やがて眉間にシワを寄せながら髪をかきあげると、


「ふん、その強がりがいつまで続くか見物ね! せいぜいそうやってイキがってなさいよ!

 後になって土下座してついてきてくれって言っても知らないんだから!」


 ポメラは手綱を操り、乗っていた犬を反転させる。

 登ってきた坂を下っていったが、いちいち振り返っていた。


「本当に帰るわよ? そしたらアンタとは永遠にオシマイよ!?」


「そろそろ反省した? 土下座したら許してあげなくもないわよ!?」


「あーあ、もう謝るタイミングを完全に見失っちゃったのね!

 でもそろそろ意地を張るのはやめないと、一生後悔するわよ!」


「こ……これが本当の本当の本当の、本当の最後のチャンスなのよ!?

 アンタはアタシなしじゃ生きていけないのがまだわからないの!?」


 高台の麓あたりまで降りたポメラは、声を枯らしながら絶叫していた。


「も、もう本当に……! けほっ、けほっ! も、もういいわ! アンタなんか知らない!

 自転車から落ちて死んじゃいえばいいんだわ! バーカバーカ!」


 最後は子供のような捨て台詞を吐き、ポメラは去っていった。

 かに見えたが、しばらくしてまた戻ってくる。


「よ、よかった、まだいた!」


 さっきまでの強気な態度は一転、親を見失った迷子のような半泣きの表情で。

 二度の全力での登攀に、彼女の愛獣はハァハァとすっかりと息切れ。


 坂の中腹でへばってしまったので、ポメラは愛獣から飛び降りると、親を見つけた迷子のように走った。

 すでに枯れてしまった声を、懸命に振り絞りながら。


「アーサー! アタシを置いていかないで!

 アンタがいなくなるだなんて絶対に、絶対に絶対にイヤぁぁぁぁっ!」


 『ライダー』というのは獣に乗ったまま日常生活を送るのが普通。

 降りるときは食事とトイレと寝る時くらいなので、足腰がだいぶ衰えている。


 彼女も例外ではなく、わずかな坂道を登っただけでフラフラになっていた。

 それでも、暴虐の王に親友を人質を取られたかのように、命懸けの形相で走りきると、


 ……ずざぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!


 アーサーの足元に滑り込み、そのまま土下座のポーズを取った。


「お願い! お願いします!

 お願いだから、アタシもつれてってぇぇぇぇーーーーーっ!」

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