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03 ステータスオープン

「そ、それでは偉大なるアーサー様のおっ、おステータスを測らせていたっ、いたきますっす!

 こ、こちらの水晶玉の上にその御手を、おっ、おおおっ、お置きになってくださいっす!」


 ステータス計測のための仕掛けは、『ステータスクリスタル』と呼ばれる大小ふたつの水晶玉で構成されている。

 手を置く用の小さな水晶玉と、それと台座で繋がった、ステータスの表示用の大きな水晶玉である。


 アーサーが小さいほうの水晶玉に手のひらを重ねると、周囲がごくりと固唾を飲んだ。

 そして、お約束が炸裂する。


「お、御手をお置きくださり、ありがとうございますっす!

 さっそく、アーサー様の偉大さを示す数値がぐんぐんと上がっているっすね!

 でもご安心ください、当ギルドのステータスクリスタルはAランクライダー専用にカスタマイズされているものですので、どんなに高ステータスでも計測が……」

 えっ……ええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?


 水晶玉に映り込んだ受付嬢の顔が驚愕に歪む。

 浮かび上がっている数値は、いままで見たことのない桁数にまで突入していたからだ。


「えっえっえっえっ!? なんで!? なんでなんでなんでっ!?

 なんでステータスが上がり続けてるっすか!? これじゃあまるで、人間じゃなくて、神様っ……!?」


 受付嬢がハッと顔を上げると、アーサーと目が合った。

 途端、彼女の視界が斜で覆われる。


 目の前にあったのは、薄汚れた作業服の少年であった。

 しかし彼女の目には、なによりも尊いものとして映る。


「かっ……神っす……!」


 神はこう賜れた。


「って、おい、水晶玉は大丈夫なのか? 赤く光り出したぞ?」


 アーサーにそう言われ、受付嬢は「ハウッ!?」と意識を取り戻す。


「わ、わああ!? アーサー様のステータスがあまりにも高すぎて、水晶玉が暴走しちゃってるっす!

 こ、このままだと爆発しちゃいますから、逃げて! 逃げてくださいっす!」


「えっ、爆発っ!?」


 ギルド内は一転パニックに陥る。

 兄弟たちは乗っていたカンガルードラゴンを反転させて逃げようとするも、カンガルードラゴンは振り向く動作が非常に鈍い。


 その点アーサーは素早かった。


 ……ギャリィィィィィィッ!


 片脚を軸にそのままスピンする。

 そのまま外に走りだそうとしたが、受付嬢が水晶玉との間で壁になっていることに気付いた。


「は、早くお逃げくださいっす、アーサー様!

 偉大なるアーサー様に、お怪我をさせるわけにはまいりませんっす!

 このボクが盾になっている間に、さぁ早くっ!」


「バカなことやってねぇで、お前も来いっ!」


 アーサーは手を伸ばし、受付嬢の細い腰を抱き寄せる。

 「ひゃうっ!?」と叫ぶ彼女を小脇に抱え、そのまま走り出した。


 ライダーが乗る獣のうち、スピードが出るタイプのものは基本的にふたり乗りができない。

 重さに耐えられず、ふたり乗った時点で歩くこともできなくなってしまうからだ。


 しかし自転車は最速の獣よりも速いうえに、ひとり担いだところでその速度は衰えることを知らない。

 これもひとえに、アーサーの脚力が尋常ならざるものだったからだ。


「……はっ……はやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!?!?」


 尾を引くような受付嬢の悲鳴とともに、ロケットのようにカッ飛ぶアーサー。

 ギルドの入口にあるスイングドアを破り、神殿の外に飛び出した途端、



 ……ドッ、ガァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!



 背後から爆炎が吹き上がる。


 爆風を受け、さらに高く舞い上がるエクスキャリバー。

 それはさながら、特撮ヒーロードラマのワンシーンのようであった。


 そのまま、バウンッ! と大通りに着地する。


 アーサーが神殿のほう見やると、どうやら逃げ遅れたのであろう、黒コゲになった支配人と兄弟たちが立ち尽くしていた。

 けっこうな被害のようであったが、逃げ切れた受付嬢たちは彼らをそっちのけ。


 みなアーサーの元に集まってきて、忠臣のように跪いていた。


「さ、さすがです! アーサー様!」


「ジョーちゃんがアーサー様をかばったときは、どうなることかと思いましたけど……」


「まさかジョーちゃんまで助けてくださるだなんて! ありがとうございます!」


「一流のライダー様たちは、みんな私たち受付嬢を粗末に扱うのに、アーサー様は違うのですね!」


「アーサー様! アーサー様ぁ!」


 アーサーの腕から降ろされた受付嬢、ジョーは心をここにあらずとった様子で、ぽやんとしていた。


「こ……このボクが……じ、自転車に、乗った……? う、うそ……ゆ、夢っすよね……?」


「夢じゃないさ、ジョー。初めての自転車はどうだった?」


 アーサーが声をかけると、ジョーは電流を流されたようにビクンと直立不動になった。


「はっ……! ははは、はひっ!

 びゅーんってすっごく早くて、まるで自分が矢になったみたいだったっす!

 ままっ、まるで違う世界のなかに飛び込んだみたいな気持ちになって、ほほっ、ほんとに、夢みたいで……!」


「そいつはよかった。で、俺のステータスは合格か?」


「もっ、もちろんっす! アーサー様は我がギルドでいちばんの冒険者様として、登録させていただくっす!

 もちろん、職種は『ライダー』として!」


「いや、俺はライダーじゃない」


「えっ?」


「俺は、『サイクラー』だ」


 アーサーはふと、大通りの向こうから走ってくる集団に気付く。

 それは、『聖輪の広場』から追いかけてきたユーサーたちであった。


 父が現れたことに気付くと、黒焦げになった息子たちが助けを求めてフラフラとすがりつこうとする。


 しかしユーサーは、今まで蝶よ花よと育ててきた息子たちをゾンビ扱い。

 乗っていたカンガルードラゴンで容赦なく蹴散らしていた。


「ええいっ、まとわりつくでない! 貴様らのようなできそこないに構ってるヒマなどないのだ!

 それよりも、アーサー様を、アーサー様を!

 おっ……お待ちください、アーサー様っ!

 ワシはこんなゴミよりも、アーサー様だけが本当の息子だと思っておりました!

 アーサー様こそがワシの後継者に相応しいと思っていたからこそ、幼少期にはわざと苦労を強いるような態度を取ってきたのです!

 あなた様は今日より、我がペンドラゴン一族の長となりました!

 どうか、どうかお戻りくださいっ! そして我らをお導きください!」


「アイツ、また追いかけてきやがったか……。

 じゃあジョー、俺はそろそろ行くよ。

 あそこにいるヤツには『旅に出た』って伝えといてくれ」


 アーサーは受付嬢たちにそう申し伝えて、ペダルを踏み込む。

 その場にいた多くの少女たちの髪とスカートをなびかせ、一陣の風のように去っていった。

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