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第2章 アスタナに続く光の道 その4(舞台:地球)

考え事をしているうちに日付が変わっていた。

家の中は静まり返り両親が寝ているのは明らかだった。

ジュニアはノートを取り出すと、持ち物リストを書き始めた。

身軽に動けるように荷物は最小限にしたい。


①ノートとペン・・・これは必須。大切な事を書き留める。

②水筒・・・パパのを拝借。水を入れるのを忘れない。


ほら、よくあるだろ?

拳銃を用意しろって言われた犯罪者の手下が、言われた通り拳銃だけ用意して肝心の玉が入っていないってやつ。

それと同じ事。

水を入れるのを忘れないようにしないと。


③爪切り・歯ブラシ・ピンセット等々・・・ポーチに一纏め。もちろんポーチはママから拝借する。

④小型ナイフ・・・ジョーおじさんの形見をパパから拝借する。

⑤家族写真・・・水に濡れても大丈夫な様にジップロックに入れる。

⑥食べ物・・・日持ちしそうなものをキッチンで漁る。

⑦置手紙・・・パパとママに色々拝借した事を謝る。

⑧ロープ・・・きっとあれば役に立つ。

⑨医薬品・・・リビングかダイニングの棚に入っていたハズ。

⑩小銭・・・アスタナから地球に戻ってきたら、パパとママに電話する。


持ち物リストを書き終えると、両親を起こさない様に家中から目当てのものをかき集めた。

それはまるで、泥棒になった気分だ。

まあ、あながち間違ってはいないのだが…


それから、手持ちの服の中からなるべく地味な黒いパンツとフード付きの黒いトレーナーに着替え、これまた目立たないようにと黒いリュックをクローゼットから引っ張り出した。

それから、荷物をリュックに仕舞った所で服を入れていない事に気付いた。


でも、下着はともかくこの格好で向こうで動き回ることは出来ないな。

なにしろ、アスタナの洋服といえば女性ならサリー、男性ならクルタの様な格好が主流なのだから。


さて、どうしたものか?

まさか現地で服を万引きする事も出来ないし、かといって現地のお金は1クリット(アスタナの共通通貨)とて持っていないのだ。


でも、大きめの布を身体に巻きつければ何とか現地の人たちに溶け込めるかもしれない。

確か、マリー叔母さんがインドやトルコをはじめとした諸外国の旅行のお土産に買ってきた色とりどりの布地が地下室にあったはずだ。


それらはかつて彼女の家に山のように積まれ、今は亡きジム叔父さんの『君はいつ洋服屋さんを始めるんだい?』と言うからかいの種になっていた。


でも、ある時2人は大喧嘩をして、マリー叔母さんは何を考えたのか車一杯の布地と共にマークウッド家にやってきた。

新しい家が見つかるまでお世話になると言って客間に居座った叔母さんは3日目の朝『俺にはお前が必要だ』と言って迎えに来たジム叔父さんと共に、来た時と同じくらい唐突に去っていった。


しかし、大量の布地だけは何故かマークウッド家に取り残された。

今それらはクリスマスツリーの飾りやハロウィンのコスチューム、ジョンとシンシアが溜め込んだジュニアに言わせれば、ただのガラクタたちと一緒に地下室に仕舞われている。


「そうだな、あれを現地の市場で売れば当面のお金は工面出来るかも知れないな」

ジュニアはそう独り言ちると地下室へと降りていった。


目当ての布地はすぐに見つけられた。

虫食いだったり、カビ臭かったら売り物にならないと心配したがそれも杞憂に終わった。

これなら大丈夫だ。


荷崩れしないよう紐できつく縛り、汚れないように一際大きい布で包んだ。

そして、忘れ物は無いかとリュックの中身を確認しながら、リストに書かれていないものを幾つかリュックに入れた。

そのうちの一つがシンシアのストールで、向こうで顔を隠すのに向いていると思いリュックに詰めた。


そうこうして、自転車に荷物を括り付けると公園に向かって走り出した。

雑木林の途中までは自転車で入って行けたが、洞窟が近づくにつれ足場は不安定になり、荷物を担いでいく必要があった。

しかも辺りは鬱蒼と生い茂った木々のために月明かりも星の明かりも届かず、懐中電灯の僅かな明かりを頼りに進むしかなかった。


「いっそ明日の昼に延期しようか?」とジュニアは思案した。

でも、一度家に帰ってしまえば二度とこの場所に足を踏み入れない事はジュニア自身がよく分かっていた。


だから、サンタクロースって意外と肉体労働だなとか、アスタナに着いて29歳のベナーになっていたら子供服を脱ぐのが大変そうだなとか、パパとママの喧嘩の理由って何だろう?とか、まあ喧嘩の理由はおおよそ想像が付くが、そういった事を考えて気を紛らわせながら歩き、とうとう着いてしまった。


アスタナへ続く光の道に。


深呼吸を一つ。

大丈夫。必ず戻ってこれる。

ジョンとシンシアが待ている世界に。

ジュニアはそう自分に言い聞かせると、光の中へ一歩踏み出した。


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