第2章 アスタナに続く光の道 その3(舞台:地球)
「ただいま…」
ジュニアは重い足取りで自宅に帰り着いた。
今すぐにでも毛布に包まり目を閉じたかった。
ひと眠りして、もう一度目が覚めれば、さっき見たものはただの夢だと思えるはずだ。
恐ろしかった。
さっき見た光の道が。
かつて見た恐ろしい光景が。
いったい何度悪夢を見た事だろうか?
あの時の恐ろしい光景がまざまざとよみがえってきた。
思い出すだけで、心臓がバクバクと脈打ち体中の血管が一気に広がり、血液が勢いよく全身を駆け巡る。
身体を動かす事すら儘ならず、空気を求めて口を開いても肺は空気を取り入れる事すら出来ない。
なぜ下手な好奇心などだして雑木林の奥深くに入ってしまったのだろうか?
あんな事をしなければ、少なくとも表面的には普通の10歳の男の子で居る事が出来たのに。
例え前の世界での記憶があったとしても。
考え事をしながら水を飲もうとキッチンのドアを開けた。
そして、シンシアがジョンに向かって投げたクッションを顔面で受け止め、自分の意識がフェードアウトしていくのを感じた。
再び目が覚めても今日見たものは現実だった。
夕食を食べ終わるとあれやこれやと説明しようとするジョンとシンシアを残して、ジュニアはそそくさと自室に戻った。
考えたい事が色々あった。
昼に見た光の道は、自分の考えが正しければ、アスタナへと続いている。
そして覚えている限り、アスタナと異世界が繋がったのは過去2回だけ。
1度目は魔物がアスタナへ降り立ち、アスタナに甚大な被害をもたらした。
2度目はベナーを地球へと送り出した。
そして、今回が3度目だ。
その道が開いたということは、何かがあるいは誰かが自分をアスタナへと導いている。
このまま、光の道は見なかった事にしようか?
光の道は開かれたが、自分を強制的に向こう側へ連れて行こうとはしていない。
もし、自分がこのまま地球に留まったとしてアスタナで起きている事が地球にまで影響を与えるとは思わない。
少なくとも今はまだ。
それに、復活した魔物を再び封印する為ベナーは犠牲を払い、それによって異世界・アスタナは救われた。
ハズだ…
しかし、ベナー自身は魔物が再び封印される所をみていない。
それでも、自分にとってはもう終わった事なのだ。
アスタナの未来はアスタナに住む人々の手に委ねられた。
だから今ある幸せを手放したくは無い。
何も知らない10歳の男の子で居たい。
それでも、アスタナとそこに住む人々への情を、僕は捨て切ることが出来るのだろか?
いや、それは無理だ。
僕はアスタナを、そしてそこに住む人々を心から愛している。
「よし、行こう。アスタナへ」
ジュニアはそう言うや否や、物音を立てないようにベッドから起き上がった。