第2章 アスタナに続く光の道 その2(舞台:地球)
朝食を食べ終わるとジョンは『もうひと眠りするよ』と言って寝室に戻っていった。
一方、ジュニアはレモネード作りに取り掛かった。
これはジュニアが6歳の頃から始めた事で、自宅前にレモネードスタンドを出して、近所の人たちにレモネードを売っていた。
今では夏休みの恒例行事になっていて、売り上げはマリー叔母さんが運営する猫の保護団体に寄付していた。
この日は朝からとても暑く、レモネードは思いの外早く完売する事が出来た。
ジュニアは手早く片付けると、売り上げをリュックに詰めて出かけようとした。
「ママ、行ってきます」
「ちょっと待って、お昼ご飯は食べないの?」
「うん、マリー叔母さんの家で食べるよ」
「何か持って行ったら?」
テーブルの上にはシンシアが作ったサンドウィッチが置かれている。
「うん、分かった」
そう言うと、リュックにポテトチップスとチョコチップクッキーを詰め、チョコレートにも手を伸ばした所で、「これを持って行きなさい」と言って、ハムとチーズを挟んだサンドイッチと丸ごと一本の人参をシンシアが持たそうとした。
「ママ、僕は馬じゃないよ」
「ええ、知ってるわよ。貴方は可愛いウサギさんよ。お菓子を食べる前に人参を食べなさい」
そう言うとジュニアが手にしていたチョコレートを取り上げた。
「夕食までには戻って来てね」
「分かった、行ってきます」
「気をつけてね」
ジュニアは自転車に乗ると、マリー叔母さんの家とは反対方向に自転車を走らせ、教会が運営するフードバンクに行き、ポテトチップスとチョコチップクッキーを寄付箱に入れた。
別にお菓子を食べたかったわけではない。
ただ、夜遅くに帰ってきて、お菓子を食べながらダラダラとテレビを見ているジョンの健康を心配しているだけだ。
それから少し遠回りして公園にやってきた。
その公園は小さな小川や雑木林があり、広い芝生には思い思いに日光浴を楽しむ人々の姿があった。
そこは家族3人でよくピクニックに来た場所だったが、ジョンが失業してからは訪れる事がなくなっていた。
無人のベンチを見つけたジュニアはそこに座った。
手にした携帯には叔母さんからのメールが届いていた。
なんでも猫の体調が優れないらしく、急遽動物病院に行くと書かれていた。
帰りが何時になるのか分からないらしく、レモネードの売り上げは明日持って行く事になった。
ジュニアとしては最近デートをしていないジョンとシンシアの為に、2人だけで過ごす時間を作ろうとしたのだが、当てが外れてしまった。
日向にあるベンチは座っているだけで汗がでてくる。
それでも行く当てがないので、シンシアがリュックに詰めたサンドイッチを食べ始めた。
しかし、僅かふた切れのサンドイッチは育ち盛りのジュニアには少なすぎた。
こんな事ならもう少しサンドイッチを持って来ればよかった。
或いはフードバンクにお菓子を寄付しなければ、お腹を満たす事が出来たはずだ。
そう思いながら仕方なく人参を齧った。
ジュニアがボーっと考え事をしながら人参を齧っていると、身体の奥がぞわりとする奇妙な気配を感じた。
雑木林の奥から発せられるその気配の正体を確かめようと、ジュニアは自転車に跨った。
雑木林をグングンと進み、途中で邪魔になった自転車を木に立てかけ、ジュニアはなおも奥へ奥へと進み洞窟を見つけた。
そして、奇妙な気配に導かれるように洞窟へ入り、その奥でジュニアは見つけた。
アスタナへと続く光の道を。
ヨロヨロとした足取りで洞窟から出たジュニアは自転車を立てかけた場所まで何とか戻ると、その木の根元に先ほど食べたランチを嘔吐した。