プロローグ(舞台:地球)
プロローグ
20xx年・某国
マークウッド夫妻が長いフライトから解放されてようやく降り立った空港は、飛行機の調整された空調とは打って変わって、纏わり付くような熱気で満たされていた。
飛行機に乗っている間は早くこの空間から抜け出したいと思っていたが、今となってはあのコントロールされた温度が懐かしかった。
「今すぐホテルに行ってプールでひと泳ぎしたいなあ。こんなに暑いと頭の中がショートしちゃうよ」とジョン・マークウッドが妻のシンシアに茶目っ気たっぷりに言うと、
「あら、私たちは休暇を過ごす為に来たわけじゃないでしょ?」とシンシアは応じたが、直ぐに「確かに暑いわね」と夫に同意した。
結婚して十数年になる2人には子どもが居ない。しかし、それも後少しの事だった。
彼らは休暇を過ごす為にこの国に来た訳では無かった。2人は長年の夢を叶える為にこの国に来たのだ。
ジョンとシンシアに最初の試練がやって来たのは結婚3年目の頃だった。
子どもの笑い声が絶えない楽しい家庭を作るのが2人の望みだったから、自然妊娠しないため不妊治療専門の病院に行くのは自然な事だった。
しかし、治療が彼らにもたらしたものは多大な出費と絶望だけだった。
医者からはどちらにも不妊の原因となりうる問題は見当たらず、何故妊娠しないのか分からないと匙を投げられた。
悲しみに暮れるシンシアに養子を迎えるのはどうかと提案したのはジョンだった。
彼自身里子として暮らした経験があり、養子を迎える事に抵抗はなかった。
その為、治療が5年目に入った辺りから、彼らはまだ見ぬ我が子に沢山の事を費やすのをやめた。
その代わり、既にこの世に生まれている子と暮らす事について真剣に話し合う様になっていた。
彼らがこの国にやって来た理由はただ一つ。遠い地で生まれた我が子を迎えに行くためだ。
ジョンは凝り固まった身体を解きほぐす様にウーンと両手を挙げて伸びをしてから、シンシアの肩を引き寄せて
「さあ、僕たちの息子を迎えに行こう!」と言った。